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第五章 残酷な世界
233 なにも出来なかった
しおりを挟む知らない天井。
……いや、ちょっとだけ知ってる天井。
だが何故ここに私はいるのかと、痛みに悲鳴をあげる身体を気合いで叩き起こした。
「っい……た……」
そして気づく。
私は服を、下着を、なにも着ていない。
裸……というやつだ。
それに所々包帯を巻かれて治療されている。
それに血塗れだった身体は綺麗さっぱりとしていて石鹸の良い香りまでするし、髪もやっぱり艶々だった。
流石は私のお世話係である、美容には入念で隙がない。
……うん。
その突き刺さるような視線に気づいてはいた、だが私の野生の勘が言っている。
そちらを見てはいけないと。
だってこのお世話係、記憶……戻ってるよね?
エリクサーを有無を言わさずに口に突っ込んできた時の私の扱い方が、それはもう手慣れていて自然だったし。
それに何気なく見に纏っていらっしゃる、そのお貴族様らしい品のある穏やかな雰囲気と、大人の余裕を垣間見せる優雅な仕草が私に、そうだと告げていた。
……さて、このまま無視し続けていても状況は悪化の一途を辿るであろう事はとても明白であり、その後の対応が余計に苦しくなる事が安易に予想されていて。
逃げようにも裸だし身体は傷だらけでボロボロだしと観念して、ちらりと目線をそちらに向けると。
呆れてものが言えぬ。
そう語るような表情で、こちらを片時も目を離さずにじっとエメラルドの瞳が見つめていた。
呆れられるような事をした自覚はあるし、馬鹿だなと自分でも思うが、どうしても嫌だった。
「……身体、大丈夫か?」
すごく怒っているはずなのに、やっぱりこの人は優しくてそんな気遣うような言葉をかけてくれるから。
まだめちゃくちゃ痛いけれど弱音は吐きたくない。
「……大丈夫だよ」
「どこがだよ、アルフレッドのやつ絶対に許さねぇ! ……人の女に勝手に触りやがって……」
「そんな心配しなくても! 別に最後まではされてないよ? その前に魔力暴走して死にかけたし、あはは」
「……最後までしてたら今からでも殺しに行く」
手を引かれその腕の中に抱き寄せられる。
肌に直接、男の人の手が触れる。
……その感覚にゾワリと鳥肌がたち、背筋が凍るから。
「っいや! ……え? あ、ごめん」
無意識にその手を拒絶してエディを押し退けた。
「……それのどこが、大丈夫なんだ?」
「うっ……それは……その……」
エディの手を拒絶するつもりなんて全く無かったのに、身体が無意識に男性を拒絶する、そんな自分自身に驚いて言い訳の言葉がなにも見つからない。
そしてまたエディに強く抱き締められて、その大きな身体が怖いと勝手に身体がカタカタと震える。
でもその手が優しくて、エディの手がとても暖かくて、震えはゆっくりと収まって涙が溢れて落ちた。
「もう誰も、お前身体に指一本触れさせないから」
「……過保護め」
「過保護で結構、お前が傷つけられるくらいなら、俺がお前に嫌われた方がマシだ」
「……ていうか、いつ記憶戻ったの?」
「血塗れのお前を見た瞬間に戻った」
「あ……、それは、うん、ごめん」
……エディの記憶の戻り方が最悪だった。
これは謝らないといけないやつだ。
「……謝るのは俺の方だ、守ってやるって誓ったのに……何も出来なかった、必死に助けを呼ぶお前を俺は……!」
「え、……助け?」
「特権のネックレスに記録された、映像を見た」
特権のネックレスは、私の命に危機が迫るとそれを感知して自動的その前後の映像を、対になる執行官が持つネックレスに飛ばすから、それ……見ちゃったか。
「……え? あ……そっか、まじか」
……どうしよう。
それ死ぬほど恥ずかしいんだが?!
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