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第五章 残酷な世界

231 繋ぎ止める

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 全身に駆け巡ったその激痛に、身体は痙攣を起こしガクガクと激しく震え、溺れたように息がうまく出来なくなっていく。

 世界は揺らぎ、視界が赤く赤く染まる。

 そこにいない貴方に手をのばし、助けて、助けて、と声にならない声で名を呼ぶけれどその声は届かない。

 引き裂かれるようなその痛みに自己が失われいく。
 
 沈む、沈んでいく。

 私が私では無くなっていく。

 まるで罰ゲームのような、この運命に翻弄されて生きるより、このまま死ねれば楽になれると私は知っているけれど。

 『共に生きよう』

 貴方が星降る夜に言ってくれたその言葉が。

 沈んでいく私をこの世界に繋ぎ止めて。

 そして私は救い上げられた。



 ふたたび浮かび上がった朧気な意識は。

 全身に走る激痛にだんだんと正気を、取り戻していく。

 そして私は自分の馬鹿さ加減に気づく。

 封印具がついてるとわかってるのにアルフレッドに与えられた不快感と恐怖で状況判断がろくに出来ず、馬鹿みたいに魔法を何度も行使しようとして私は暴走し死にかけた。

 覚えたての魔法を過信するなんて。

 ……ほんと私は何をやっているのか?

「カレン、どうしよう……死んでしまう……! ごめん、ごめん……こんな事になるなんて……、私は……どうしたら、カレンごめん!」

「っぐ……え? ……あっ……血……?」

 口から滴り落ちる赤い血がドレスを汚した。

 皮膚も所々だが暴走によって溢れだした膨大なによって裂けて出血しているようで、シフォンのドレスが真っ赤に染まっていた。

 ……せっかくお姉ちゃんに可愛くしてもらったのに、今の私は見るも無残な酷い姿なんだろうなと、とても悲しい気持ちになったが。

 今は悠長に感傷に浸っている場合じゃないし。
 
 そんな暇も私には残されてはいなかった。

 必死にアルフレッドが何度も何度も治癒の魔法を私に向けて行使するけれど、治癒魔法程度じゃ焼け石に水だと止まらない出血が物語っていた。

 今まで経験したことのない激しい痛みと出血で、意識が朦朧とし判断力が低下している私がやれる事なんて限られているしここには霊薬もなければポーションすらない。

 でも私が何とかしないとまた人間が死ぬ。

 偽善者と罵られても、馬鹿だと嘲笑われても。

 理由がどうあれ、もう人間が目の前で死ぬのなんて私が見たくないし、絶対に今度は私が殺させない。

 この馬鹿男には私自身が制裁を下す。

 キツーイお灸を据えてやる!

「カレン! 死なないで……君が死んだら私は……本当に好きなんだ……どうすれば……どうしようっ……出血が……止まらない……!」

 私の事が本気で好きなら襲うな、せめて口説けと文句が言いたいし、あんなことしてくる男を好きになる女なんていないだろと説き伏せたい。

 だがそんな事してる時間も余裕も私にはない。

「アル、フレッド、封印具……外して……殺されたくないなら……早く……」

「え……? あ……、わかった……!」

 ガチャ……ン……。

 私の首につけられていた封印具がアルフレッドの手で外されて私の中で暴れ狂っていたが解放される。

 瞬間、部屋の中に突風が吹いた。

 でも、……どうすればいい?

 この傷ついた姿を執行官達に見られたら不味けど、もう転移装置特有の警報音が鳴り響いていた。

 ……アルフレッドは私を連れ去って、その歪んだ感情をぶつけて無理矢理乱暴しようとしてきたけど、私を殺そうとしたわけじゃない。

 暴走のキッカケを作ったのはアルフレッドだけど、暴走を起こしたのは無知な自分自身の責任で。

 こんな状態の私を見られたら凄惨な現場が出来上がってしまう、これは……とても不味いと私の経験が警鐘を鳴らす。


  そしてけたたましい転移装置特有の警報音を盛大に鳴り響かせながら、厄介な奴らがこの場に転移してやってきた。

「カレン! 大丈夫か!」

 エディは転移早々に私の所にきて、有無を言わさず口にエリクサーを流し込んできた。

 ……なんという的確な判断だろう。

 流石、私のお世話係である。

「アルス国王! 貴様っ! ぶっ殺してやる!」

 そして既にぶちギレ状態の執行官が、アルフレッドに即死の攻撃魔法を放つから。

 私は覚えたての防御魔法で防ぐ。

「……っだ、め! 殺し、ちゃ……駄目!」

「え……かっ……カレン様……?!」

「駄目だよ? ……もう誰も殺させない」

 攻撃魔法を私に防がれて一瞬呆然とした執行官の表情は一気に青ざめていく。

 賢者の石を薄めたエリクサーを飲んだとしても、ここまで状態が酷いと薄めたものでは完全には治りきらないらしい。

「あ、どうしてこんな……! 血が! 今すぐ賢者の石を!」

 執行官はいったん攻撃をやめて、慌てて私の所に駆け寄ってきた、その行動に安堵したのも束の間。

「……アルフレッド! ……お前っ、カレンに何を……した?!」

 次はエディがアルフレッドに攻撃しようとするから。

「エディ? アルフレッドを、殺しちゃ……駄目、だからね? あっ……ねえ、聞いてるー?」

「はあ? なに言ってんだこの馬鹿! アイツはお前を! ……カレン? お前、いったい……アルフレッドに……それ、何をされて……?」

 私のドレスはアルフレッドによって乱され破られているし、暴走による出血で赤く染まり、とても酷い状態だった。

 だからか、エディはとても怒っていた。
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