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第五章 残酷な世界

227 譲れない

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 柔らかい唇の感触に、ふと眼を開ける。

 微睡み、揺蕩っていた意識は目の前にいた、そこに決していてはいけない人物への驚きに、一気に浮上して。

 その人物をエディは咄嗟に驚いて払いのける。

「っきゃ……」

 払いのけられて艶やかなプラチナブロンドの髪が、下着しか纏っていないその白く細やかな肌に張り付いて。

 その姿はとても厭らしく艶かしくて、男を誘うだろうがエディは眉を寄せるだけで、不快そうな表情を向ける。

 カーテンが閉められた薄暗い室内でもわかるほどに火照り甘く見つめてくるアイスブルーの瞳は、とても切なそうにこちらを見上げていた。

「どうして……こんな馬鹿な事を……クリスティーナ、様?」

「……ずっと貴方の事が好きでした」

「っだからといって……こんな! 馬鹿な事をっ……早く服を着て下さい、貴女はこんな事をしてはいけない、誰かに見られたらどうするおつもり、ですか……?」

 なんて、馬鹿な真似をしてるんだとエディはクリスティーナを強く叱責するが。

「見られても……そんな事どうでもいいのです、私がお慕いしているのはオースティン様、貴方だけ。ずっと好きでした」

「……はあ、クリスティーナ様、とりあえず服を」

「嫌です、オースティン様、私を抱いて下さい」

「な……そんな事出来るわけないでしょう?!」

 縋るように寝台に乗って抱きついてくるクリスティーナの身体は小さく震えていて、決死の覚悟だとわかったが。

「私が……愛しいと思うのは欲しいと思うのはクリスティーナ様ではありません、なので貴女の事は抱けません」
 
「そんなに……お姉様がいいのですか? 私じゃいけませんか? こんなに……お慕いしているのに……私の方が先に貴方の事を好きになったのに! どうして……お姉様ばっかり……!」

 縋り抱きついてくるクリスティーナをエディは可哀想だが誰かにこの状況を見られれば傷付くのは彼女だと引き剥がそうとしていると。

 ……カチャリと、ゆっくりとその扉が開く。

 あ、これは不味いとエディが扉を見ればそこにいたのは。

 今、絶対に見られたくない相手で。

「え……」

 美しく着飾った愛しい人。

「っ……か、カレン! あ……これ……違うんだ!」

 必死にエディはそうカレンにいい募る。

 その必死さに、カレンは本当に違うんだろうなと可哀想な目で二人を眺めて。

「……まあ、とりあえず服……着せよ? クリスティーナが、風邪ひきそうだし……色々コレ不味そう?」

 怒る事もなくカレンはとても冷静に状況を判断するから、ちょっとくらい勘違いして仲違いすればいいのにとクリスティーナがカレンを睨む。

「どうして……お姉様は……! この状況でオースティン様を、信じられるのですか……?!」

「え……あー、エディってさ……背が低くて胸が大きい子が好みなんだよね? もしクリスティーナが胸が大きかったら私も勘違いしてたと思うんだけど、ほら……クリスティーナ慎ましやかだから……! なんか……ごめん?」
 
 存外にカレンはクリスティーナお前の胸が小さいからその男は欲情しないと思うと断言して。

 自分の性癖を暴露されたエディはそっと顔を反らし。

 お前の慎ましやかな胸じゃその男は欲望しないし勃たないと、とても豊かな胸元のカレンに言われたクリスティーナは。

「お姉様……ひ……酷い!」

 恥ずかしくなって赤面し逃げたして。

「え、あ……クリスティーナ、服……ちゃんと着なよー?」

 残されたカレンは思う、酷いのはどちらかといえば姉の婚約者を寝取ろうとするクリスティーナお前ではないのかと。

 なんとなくだがクリスティーナがエディに想いを抱いているのをカレンも気づいては、いた。

 だが、どうする事も出来なかった。

 というか、どうしてやる事も出来なかった。

 恋愛経験なんてエディに出会うまで皆無だったし、誰かにエディを譲ってやるつもりもやっぱりなくて。
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