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第三章 毒であり薬

144 執着

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 腹が立った、俺には何も言わない癖に他の男には本当の事を話しているというその事実に。

「あの錬金術師には言えて俺には言えないのか?」

「え、なに怒ってんの……? 怖いんだけど」

「……怒ってないけど、お前に本当に俺は信用されてないんだと思い知らされて悔しいだけ」

 信用されていなかった事実に怒っていたけどそんな事で怒る小さい男だとカレンに思われたくなくて言い訳をして、苛立って黙っていたら。

「……エディ、そんなに私の事知りたい?」

「好きな相手の事を知りたくないと思うのか?」

「っ……帰ったら、話す! でも全部は絶対に話せない、それでもいい? だからそんなに怒らないでよ? 楽しくお買い物したい」

 そんな可愛い事を言われて苛立ちが消えていく。

「……ごめん、ちょっと嫉妬してた」

「嫉妬って、あのルーカスに?」

「幼馴染みなんだろ? 仲良さそうだし、俺の知らないお前を知ってるし」

「家が近所なだけで何もないし、知ってるって言っても私の幼少期だよ? 私は10歳で家を出てるし」

 ただの幼馴染みだとカレンは言うがカレンに対するあの錬金術師の態度にただの幼馴染みだと言われても納得は出来なかったが、カレンは何とも思ってない事がわかって少しだけ安心して。

「それでも俺よりはお前の事を知っているから。でも空気悪くした、ごめんな?」

 カレンと再び市場を楽しもうと歩きだしたら。

「お兄さん私と遊ばない? あんなちんちくりんより、私の方が可愛いし、楽しませてあげるよ?」

「えー! 私のほうが絶対楽しいから、私に付き合ってよ? お兄さんなら直ぐ閨でもいいよ? ふふ!」

 まるで娼婦のような露出の激しい格好をした女達に囲まれて一瞬驚いたが、カレンが以前イクスでは皆も肌を露出させると言っていた事を思い出して。

 だが道の真ん中で男を自ら誘うなんて行為は、娼婦達がする事ではしたなく不快で、それにカレンから引き離されて苛立つし、愛しい人を侮辱されて殺意が沸いた。

 争うのも時間を取られて面倒で適当にあしらいカレンの元に戻る。

「お前がイクスでモテないって本当の事だったんだな、こんなに可愛いのに」

 こんなに可愛らしい存在にイクスの男達が気付かないでいてくれて本当に良かったと思う、じゃなければ今カレンは他の男のものだったかも知れないから。
 
「エディはどこに行ってもモテモテだね? さっきのお姉様方に付いて行かなくてよかったの?」

「俺が可愛いと、一緒にいて楽しいと思うのは、抱きたいと思うのはカレンだけだから、他の女は必要ない」

「っ恥ずかしい事さらっと言うな……馬鹿」

 買い物も終わりカレンの自宅のある首都に戻る為に、門の所にある警備窓口で手続きをするらしく付いていくと。

「カレン・ブラックバーン、錬金術師、最高位、首都居住権有り、手続きよろしく!」

「かしこまりました、そちらはお連れ様ですか?」

「そう私の客。これが許可証で、国籍はアルス、名はエディ・オースティン、彼が滞在中の責任は全て私が負います」

「……確認致しました、どうぞお入り下さい」

「責任って?」

「ああ、エディがこの首都に滞在中なにか法律違反したら私に懲罰が全て来るんだよ、首都は基本的に外国人立ち入り禁止なんだ、前にエディが私を迎えに来たときは緊急的措置かな」

「そうなのか、なんか……ごめん」

「ん、どうせ私に罰は下さないもの、一応そういう体裁なだけ」

「え、なんで?」

「……私が最高位だから」

「……階級制度だっけ?」

「うん、エディこの国の階級制度、……知りたい?」

「教えてくれるのか?」

「んー……。本当はね教えたくはない。でも勝手に探しまわられても面倒だし帰ったら制度の本渡すから勝手に読んで? その間に私は仕事するから!」

「面倒って……」

 カレンの自宅に帰れば本棚から分厚い本をだして来て本当に丸投げしてきて仕事を始めた。

 早速その本を読めば……。

「……カレンお前アルスに永住する気なんて最初からなかったんだな、成人したら帰るつもりで来たのか」

「あはは、ばれたか。でも永住する気がないっていうよりかは……できない、が正解かな?」

「……この国もお前を手放す気なんて最初から無くて、封印具つけれるようになるまでの間だけのつもりだったと」

「うん、正解! 最高位に上がった時点で私は国の所有財産! 貢献度ってね、いかにお金を生み出したかって事で、私はこの国にとって金のなる木なんだよ! 錬金術師の稼ぎ頭の私を一時期的でも国外に出すのは苦渋の決断でね、その私を他国に永住なんてさせてくれるわけがない、私はこの国の金づるだから、だから優遇されて、好き勝手できる」

「っくそ!! 絶対にこの国から奪ってやる……!」

「えー、戦争でもするつもり? っかエディ言葉遣い悪っ! オネェ言葉で話してた時が懐かしい、久しぶりに喋ってみてよ? エディがうちに来たのが遥か昔の事みたいだ。そんなに経ってないのにね」

「……誰が喋るか、馬鹿。それにしてはカレンお前……全く成長してないな?」

「うん、私ねもう成長しないんだよ、老化もしないの、不老不死だから」

「そんな作り話で煙に巻けると思うなよ? そんなに話すのが嫌か?」

「……話してるじゃん、成長しないんだよ永遠に。変わらずに私は停滞し続けるの、死ぬことも許されなくなったこの姿のままで、全ての時を止めて生きるんだよ一人で」

「カレン……?」

「私はね不老不死っていう化け物に成り果てたの、何をしても死なないし死ねない。時が止まったこの身体では食事の必要も寝る必要もないし、子供も産めなくなってね? これじゃもう私って生物って言えないかもね」

 カレンはこちらなど一切見ようとせずに捲し立てるように必死に話す、その様子が痛々しくて。

「え、本当に? なんで、そんな……」

「……魔力暴走した時に飲んだ霊薬のせい」

「霊薬……?」

「そう、霊薬。賢者の石と呼ばれる錬金術師だけが作成できると言い伝えられる特別な霊薬、この髪の色も目の色も……今日の事もそれを飲んだからこうなった。エディ、どう? 私の話せる方の秘密知ってどんな気分になった?」

「っ……」

「……話せる方でねコレなんだよ? 話せない方知ったらね、エディは私を憎むだろうね? いっそ殺しに来るかなって私は思っているんだ」

「どうして話した?」

「私はこれ以上傷つきたくないし、傷つけたくない、だから……私から離れるなら早くして欲しいなって」

 その程度の事で離れられる訳がない。

「カレン? そんな事で手離して貰えると思うなよ、俺はお前から何があっても離れない、どんなに傷つけられたとしても、絶対に」

「物事に絶対なんてないよ?」

「……あの日から信用も信頼もされてないってわかってる、きっと護衛に俺が戻ったのも、お前にとっては迷惑だったんだろ? でも俺は諦められないから、また信用して貰えるように頑張るから、時間をくれないか? また信用して貰えるよう頑張るから」

「……エディの事は好き、だけどそれは無理だと思う、私はもう誰も信用なんてするつもりないもの、それに私にそんな価値はないよ? 全部無駄だったっていつかきっと思う日が来る」

 わかっていた、もうカレンには見捨てられてるという事が、異性として好きと言ってはくれるが、それだけで本当の信頼はあの日消え去った。

 あの日の誤った自分の誤解と選択がカレンに癒えぬキズとしてずっと残りその心を苦しめている。

 本当はもう手離さなければいけなかった、でも、それでもこの愛しい人を諦められなくて。

「酷く傷つけた事はわかってる。それでも諦められない、ここからまた始めさせてほしい」

「……じゃあ私にえっちな事するの禁止、怒るのも禁止、またオネェ言葉で話してみようか!」

「っえ? それは……」

「初めからでしょう? 前は腹が立ったけど、今は聞きたいなって思うんだ!」

「あーもー! 面倒なやつだな、本当」

「それに惚れたエディが悪い!」

「……仕方ない子ね? でもキスくらいは、してもいいでしょう?」

「あはは! そう、それ! なんかその口調がなんか落ち着くんだよね! あっキスも駄目!」

「……っ昨日抱き潰しておくんだった!」

「不穏な言葉吐くな馬鹿!」
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