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第三章 毒であり薬
143 市場
しおりを挟むそういえばイクスにやってきてから何も食べてないなとエディはふと思い出して。
「そういや腹へったな、なんか食いに行くか?」
「え……私はまだ足腰がガクガクしてて一歩たりとも動けないんだけど!?」
「えー、あの程度で? 優しくしてやっただろ?」
「あれのどこがだよ! 人の身体好き勝手に弄びやがって! この変態!」
「いや一回しかしてないし、好き勝手していいならするけど、そんな事したらお前の身体だと冗談じゃなく……潰れるぞ?」
「なっ!? していいなんて言ってない!」
話し合いの結果可愛らしい文句ばかり言ってくるカレンに、市場に連れていって貰う事になった。
前回此方にやって来たときは、街をゆっくりと見て回る余裕なんて全然無かったから。
アルスと全く違う街並みに感心しながら、カレンと二人並んで街を歩く。
だが美しく舗装された道には人の気配が一切なく。
すれ違う者もいない首都と呼ばれるこの美しい街に、何か嫌な感じがした。
二人歩いていると大きな白い門の前に差し掛かり。
「ああそういえば、これ渡す」
そう言ってカレンが変わった板を渡してきた。
「ん、なんだこれ。真っ黒な板? いや水晶か?」
「それは私の客だと示す許可証、それつけてれば私と同程度の法律と待遇が一時的だけど保証されるから持ってて」
「これ、つけないと何か困る事あるのか?」
「つけないとエディは私と話す事が許されない、首都で私といる分には私の来客だとみんなわかるけど。郊外地域だとそれないとややこしい」
「え……? 喋る事が許されないって?」
「……エディが知りたがってた階級制度、私はそれの一番上。アルスでいう国王とかその辺? いやでも首相一応体裁としては別にいるし……? 不敬とかはないし、また違うのかな。最高位あと二人いるし? あ、喋れないのはね機密の漏洩とかその辺の防止策」
「っは? え、お前って何者なの?」
「史上最年少で錬金術師となった天才? あとは成金? 美少女、いや美女かな! ねぇねぇ私すごい? 褒めてもいいんだよー?」
「うん、お前に聞いた俺が馬鹿だった。自分で調べるわ」
「えー? 調べた所で隠匿されててなにも出てこないと思うけどね、私については。でも階級制度の概要位はでてくるかな? とりあえずそれつけててね!」
きっとこれもカレンが隠している秘密の一部で、本当にややこしい女に惚れてしまったなと思う。
けど絶対に手離せない。
そしてカレンに腕をぐいぐいと引っぱられて白い門をくぐり抜ける、その先には。
「え? なんだこれ……」
「ふふふ、首都とは全然違うでしょう?」
川沿いに数多くの屋台が立ち並び。
屋台からは湯気がもくもくと立ち上がり、色々な料理や食材の匂いが混ざり合って食欲を誘う。
そして露店が所狭しと商われ、早朝なのに数多くの人々でイクスの市場は賑わいを見せていた。
「でもなんか……、アルスの市場と似てる?」
「そりゃ元々同じ国だもの、でもあちらと違って夜も昼もここはずっと開いてるけどね?」
「だけど、露店の数が桁違いだな?」
「そうだね、ここに来たら何でも一通り揃うよ? どうせ私がアルス帰るまで居座るつもりでしょう? 必要なモノもついでに買っちゃえば? エディ荷物なんて持ってきてないでしょ?」
「ああ、イクスに入国出来るってなって直ぐに来たからな、着替えも何も持ってきてない」
「エディって、どれだけ私に会いたかったの?」
「……お前に死ぬほど会いたかった」
「っ……ふーん、そっかぁ?」
照れるカレンは普通の可愛らしい女の子に見えるけど、普通じゃない事をもう散々骨身に染みてわかっている。
なのでそこのところは勘違いしてはいけない。
そしてカレンのおすすめだという屋台で注文し、外に置いてあるテーブルで食べる。
「ん、うまい」
「でしょでしょー? イクスの朝と言えばこのスープなんだよ、家によって具材は違うけどね基本となる味はコレなんだ、うちはお肉入ってる!」
「へえ、一回それも食べてみたいな」
「じゃあ今度作ってあげよう」
「……お前料理なんて出来ないだろ? そんなことしたら絶対怪我するから止めとけよ、レシピはカトリーナ様に聞くから、無茶すんな」
「いや普通に料理出来るけど! 人をなんだと思ってるの? 庶民を舐めんな」
料理くらい出来るとカレンは胸を張る。
だがその生活態度からして料理なんて出来なさそうだなと思ってしまったが、カレンはこの国では平民なのだから出来ても不思議ではないのかと考え直す。
でも本当に出来るのだろうか……?
「まあそれは置いといて、カレン? 全然食べてないけど体調でも悪いのか」
「え、あー……今あまりお腹空いてなくて!」
「……ふーん?」
少し前までは驚かされるほど大量に食べていたのに、今の食の細さは異常。
でも肌艶は以前と変わらず良くてやつれたり痩せたりといった風にも見えない。
というか何も変化がない。
昨夜はあんなに泣いていたのに目すら腫れていなくて、身体中に跡をつけたはずなのに朝起きると何一つ残っていなかった。
まるで何も無かったかのようで疑問が生まれる。
でも何がおかしいかと聞かれたら答えられないが、何かが確実におかしいのだ。
「じゃあお腹もいっぱいになった事だしお買い物いこうか? あ、ついでに素材も買っちゃおう!」
楽しそうに歩く姿は以前と何も変わらなくて、ただの気のせいだと思いたい。
なのに何かが引っ掛かる。
「素材が買いたいだけな気がするんだけど?」
「そんな事ないって! 衣料品はこっちだよー、エディもうちょい楽な服着れば? こっちじゃ浮くよ?」
「そんな格好してる奴に言われたくないんだが……またそれ着てるのか?」
「そんなって、錬金術師の服はこっちでは正装なの! っかコレ以外の着用は基本的に禁止されてるんだよ錬金術師は」
「え、なんで?」
「錬成事故から守る為! 本当に危ないからね、私は天才だからそんな間違いは絶対に起こさないけど!」
自信満々にそう言いきるカレンは、出会ったあの日から何一つとして変わらなくて。
市場で買い物をする姿は普通の女の子のようで。
黒曜石のような漆黒の髪は艶やかで美しく、真っ赤なルビーの様な瞳は愛らしくて。
その容姿は傾国の美姫といっても過言ではない、この場に不釣り合いな美貌の少女。
成人したはずなのにまだ幼さを残していて、成長が変化が時の流れが一切見受けられなかった。
それはまるで時が止まったままのようだった。
「カレン、そんなに急がなくても大丈夫だからゆっくり歩け転けるぞ?」
「え? 転けるわけないじゃん! っあ、」
とか言いながら。
すぐ転ぶから言っているのに、頭はどんなに良くても馬鹿で可愛い子だなと苦笑して。
転んだカレンを見にいけば。
足の出る短いズボンなんて履いてるから膝を擦りむいてしまっていて、赤い血が滴っていた。
「お前本当に、よそ見し過ぎなんだって。足元見なさい今は魔法使えないのに……大丈夫か?」
「あーこれくらい大丈夫大丈夫! 直ぐ治るし」
「いやでも、血が……っえ?」
「ん……?」
血が滴る程の傷が、魔法もカレンのポーションも何も使うこと無く。
自然に治癒していく。
「カレン……なんだこれ?」
「え? ほら治った! ははは、さすが私」
「何が……『ほら治った!』 だよ! これどう考えてもおかしいだろ!? お前……何やった?」
「……っえ、なにも? 普通だよ?」
明らかにカレンは何かを隠している。
「それ、なんだ?」
「……エディ、取り引きしたよね?」
「心配することもお前は許さないつもりか?」
「それは、まあ……悪いとは思うけどね。怒られたくないし、というかエディ絶対怒るし。これについては言っても機密でも何でもないし問題ないけど、怒られたくないから言いたくない!」
「怒られるような事なんだな? それ」
「……まあ、うん、ルーカスには爆笑されたけど、エディとかママは怒ると私は予想している」
「あの錬金術師には言えて俺には言えないのか?」
「え、なに怒ってんの? 怖いんだけど」
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