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第三章 毒であり薬

147 姉妹喧嘩

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「久しぶりに薪割りなんてしましたよ」

「最近は訓練でやらないの? いい訓練になるのに」

「今の若い騎士達に薪割りなんてやらせたら文句しか来ませんよ? あいつら口だけは一人前なので」

「なに貴方おっさんみたいな事言ってるの、カレンちゃんに嫌われるわよ?」

「……さっき嫌いって言われました」

「あらあら、振り回されてるわね?」


 そしてやってきた解体小屋で、それはもう面倒そうに欠伸しつつ明らかに片手間で適当に解体しているカレンを発見する。

 この時初めてカレンが解体作業をしている姿をエディは目撃するが、その腕前は自分が解体するよりも遥かに上の手捌きで驚かされる。

 カレンは適当にやっているように見えてそれは的確に素早く作業し一切の無駄がない。
 
「すごいですね……。あれもカトリーナ様がカレンに教えられたんですか?」

「一応昔に教えたけど、あれは私の解体方法とは違うから、錬金術師としての知識じゃない? ほら材料に魔物とか色々と使うでしょ? 錬金術って」

「ああ、そういえば使っていましたね」

 アルスで何度か素材の下準備を手伝った事はあるが薬草などの簡単な加工しか手伝ってはいなかった。

 カレンは研究室に入るのを極端に嫌がるし錬成する姿を殆ど人には見せない、気が散ると言って。

 だから完成品を見ることは多々あっても作成風景などは見る機会が今までに数度しかなくて、カレンが錬金術師という職業だとはわかっていても全く実感がなかった。

 だがイクスで見るカレンはアルスでの自堕落で怠惰な生活がまるで嘘の様に生き生きと働く。

 これが本来のカレンの姿なのだろう。

 アルスでは危ないからと街にすら出るのを禁止して殆ど屋敷で過ごさせていたがイクスでのカレンは皆に頼られて自由に生きる、その今の姿を見てしまえば今までのそれは間違っていたと知る。

 今まで立派に一人の大人として自立し自由に生きていたのに、何も出来ないお姫様として籠中の鳥の様に囚われる生活など苦痛でしかなかっただろう。

 これではアルスになど戻りたくないだろうし、そんな自分の自由を奪うアルスに永住など考える余地もなく拒絶するのは当たり前で。

「……のんびり優雅に人の事を眺める暇があるなら手伝ってくれてもいいと思うんだけど?」

「だってカレンちゃんの解体上手いんだもの! 見てて楽しいわぁ、さすがね?」

「このくらい普通、これ出来なきゃ仕事が出来ないし、でも疲れるからやりたくない、よし終わり!」


 イクスは日が暮れても気温の低下がほとんど無くジャケット一枚羽織る程度で丁度いい温暖な気候でアルス国民にとっては少し暑い。

 そんなイクスの夕暮れに庭に並べられた料理は全て久しぶりに実家に帰ってきた可愛い愛娘の為に養母カトリーナが腕によりをかけて作ったもの。

 だが愛情たっぷりの食卓には大変不釣り合いな険悪で殺伐とした嫌な空気がその場には立ち込めていた。

 その険悪な雰囲気を作り出しているのは、久しぶりに顔を付き合わせてしまったあまり仲のよろしくない血の繋がらない姉妹。

 その間にエディが挟まれ困惑している。

「それにしても残念ね、パパ早くお家に帰って来られたらよかったのに、お仕事忙しいみたいで今日帰るのは深夜だって……、カレンちゃんに会えないのとても残念がっていたわ」

「お仕事じゃ仕方ないよ」

「そうそう、急に連絡もせず相手の都合なんて考えないで、これ見よがしに男連れて帰ってくる自己中のカレンが悪いんだしお父さんは悪くないよ、どうしてカレンにイケメンの彼氏が出来てんの? ありえない!」

「ほんとミアはカレンが嫌いだよな? 苛ついた所で何の意味もないんだからやめろよな? 俺なんてこいつに最年少で錬金術師合格という野望を打ち砕かれたのに、広い心で許している!」

「……ルーカスうるさい」

 この険悪な雰囲気にちょっかいを出すのは呼ばれてもいないのにカレンが帰ってきてると聞いてなんとなく来てみただけの隣に住むルーカスの空気を読まない発言だ。

 カレンはこれ以上姉と揉めるのは面倒だと思いルーカスのその発言を止めさせにかかるが。

「それに! せっかく彼氏いない歴年齢の妹にやっと彼氏が出来たんだから、妬んでないで祝ってやれよ? 俺なんて見てほら、彼氏出来たお祝いのケーキ買ってきたんだぞ! カレン、エディおめでとう!」

「あ、ありがとう?」

「ルーカス本当に黙れ? エディも礼なんて要らん」

 カレンの命令なんて聞く耳を一切持たないルーカスは、更に続けようとしたがミアの発言に邪魔される事になる。

「なんでカレンはイクスに帰ってきてんの? 国外追放されたんでしょ? やっぱり錬金術師様って法律違反しても許されちゃうんだ?」

「え? 俺、錬金術師だけどちょっと職務規定違反しただけで罰金凄かったぞ? 俺の老後資金が!」

「ミア止めなさい、久しぶりに妹が帰ってきたんだから仲良くしなさい。それとルーカスは空気を読む事を覚えなさい」

「っでも……カレンにイケメン彼氏なんて腹が立つし、成人もまだの癖に彼氏を家に連れてくるなんて、私より先に結婚する気でしょ?!」

「いや成人してるし、あと結婚はしない」

「え、カレンあんた成人してもそんな小さいなんて……。カワイソ」

「お姉ちゃん私に勝てるのが身長くらいしかないからといってそればっかり! 貧乳め!」

「なっ! 言ったわね?! モテないからってイケメンを地位利用して彼氏にしている癖に! あんたなんてルーカスと婚約してたんだから大人しく結婚してればいいのよ!」

「地位は利用してないけど、実際私は最高位だね? それにお金持ちだし! あと婚約してないし、ルーカスなんか絶対嫌だ!」

「絶対嫌とか断言するなんて酷い! 俺の心を何だと思ってんの? 俺も嫌だけど!」

「え……、二人はただの幼馴染みって」

 エディはカレンの姉ミアが発した驚きの内容に驚愕しカレンをまじまじと凝視する。

「ああ、大丈夫よエディちゃん! 二人の婚姻の打診はカレンちゃんが最高位になった時点で立ち消えたからね、打診されたのもルーカスが合格してすぐの一回だけだったしね」

「……え?」

「……錬金術師の婚姻はね国が決めたりするらしいの。錬金術師となれる可能性の高い遺伝子を増やしたいとかで。でも階級が同じじゃないと結婚できないのよこの国、だからルーカスじゃいくら頑張っても最高位なんて絶対に無理だから安心していいわ! でも知らなかったの?」

「……カレン? ルーカス? どういう事だ?」

 エディは二人を問い詰めるように詰問するが。

「え、大丈夫だよ? 俺もカレン嫌だし」

「制度はあるけど実行された事はないよ、どうせルーカスが選ばれたのって私と年が一番近いからだろうし? それにそんな打診私は知らない」
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