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第三章 毒であり薬

146 暴けるものなら

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 到着早々に姉ミアと一悶着あったような気もするけど、気を取り直してエディに実家をご案内!

 庶民の暮らしを見た所で気分転換になるのかは些か疑問だったけど貴族のエディにとっては興味をそそるものがあるようで。

 楽しそうにしていて、連れてきて正解だった。

 そして私が幼少期に使っていた部屋を見たいと言うので案内すると、そこは私がこの家を出た当時のままで錬金術の教本や古代語の翻訳に使っていた辞書が残っていた。

「やっぱり本が沢山あるわね?」

「そだね、小さい頃から沢山本を読んでいたからね」

 エディは私の部屋の本棚を興味深そうに眺めていて、とても楽しそうで。

 ……ズキリと胸が痛んだ。

 ここにエディを連れてきてはいけなかった事を私は思い出した、だってここで錬成したのだから。

「そういえば貴女どうしてあんなに嫌われてるの? お姉さんに何かしたの?」

「何もしてないよ、しいていうなら階級制度のせいかな?」

「でもあれ普通に生活してる分には何も影響なさそうよ? 首都立ち入り制限くらいよね?」

「まあそうなんだけど。私は錬金術師で最高位、姉のミアは近所のパン屋で働く第二位だから比べられたりするんだよ」

「あー……それは」

「まぁこの辺で階級二位なんて普通なんだけどね? ついでに幼馴染みのルーカスまで錬金術師になって、色々複雑なんだと思う。それに、お姉ちゃん錬金術師の試験受けて落ちちゃってるし?」

「錬金術師の試験ってそんなに難しいの?」

「合格率一割以下かな、私は一発合格!」

 どや顔でそう宣言すると私の頭を、エディがガシガシと撫でて褒めてくれる。

 ……褒められる事なんて私はしてないのに。

「だから一度も帰って無かったのか。俺の気分転換の為にごめんな?」

 ……貴方に謝るのは私の方なのにね?

「それは大丈夫だよ? エディ言葉戻ってる」

 ……だって姉の存在をついさっきまで忘れてたし?

「これ、いつまで続けなきゃ駄目なの?」

「……私が飽きるまで?」

「ほんとに貴女は。でもそんな所も可愛いと思う私も大概か。……キス、しちゃダメ?」

 ……さらっと可愛いとか言うな。

「えー、えっちな事は駄目って約束したよ?」

「キスはただの愛情表現」

 愛って直ぐに憎悪に変わるから、あまり私の事を好きにならないで欲しいのにな。

「仕方ないなぁ……? んぅ……」

 エディにぎゅっと抱きしめられて。

 唇を奪われる。

 エディのキスは甘くて幸せ。

 でもそんな気持ちに私はなってはいけないとわかっているのに、どうしてもエディを手離せない。

 だんだんと深く激しくなっていくキス。

 そして私を抱きしめていた手が、厭らしく身体を這い出した事に気づいて。

「んっ、駄目っ、キスだけって……んんっ!」

 抵抗しようにもエディは無駄に力が強くて、押し退けようとするのにビクともしなくて。 

 甘いキスは、息継ぎもさせてくれないくらいの奪われるような口づけに次第に変わっていき。

 なんだか頭がくらくらするし、エディの手が私の服の中にスルリと無断で侵入してきて。

「っいや、こんな所で、馬鹿離せっ……!」

「……こんな所じゃなければいいのか?」

「何言って? 私はキスしか許可してない!」

「好きな女が目の前にいて、我慢なんて出来る訳ないだろ?」 

「いや、我慢しよう? 約束したよ? それにエディに触られたら優しくされたら……もっと好きになりそうですごく嫌」

「お前は煽ってるの? それとも馬鹿なの?」

「天才に向かって馬鹿なんて何を言うか?」
 
「……カレン、触りたい」

「いや、絶対にダメ。ほら、もう行くよ? もう私の部屋見て満足したでしょ」

「……全然足りない、カレン?」

「エディ? アルスに追い返すよ?」

「お前ってさ、ほんとに俺の事好き?」

 ……好きだから嫌なのに。

 エディの腕をひっぱって部屋から連れ出す。

 私が使っていた部屋が見たいと言うから部屋に入れたのに、エディの目的は最初から違ったらしい。

 油断していたコイツはそういうヤツだった。

 でも私の実家を興味深く見学しているエディはとても楽しそうで、見ていて飽きない。

「連れてきた私が言うのもなんだけど、庶民の家って貴族的に見て楽しい?」 

「貴族的かはわからんが、お前の育った場所を見られるのは嬉しいかな? 俺の知らないカレンが知れる気がして、お前の事何も知らないから」

「……いや私は知られたくないけど」

「この秘密主義者め、いつまでも隠し通せると思うなよ?」 

「取り引き無かった事にしようとしてない?」

「絶対にお前の秘密暴いてやるからな?」

「……暴けるものなら暴いてみろ」

 ……それで全て終わるから。 

「その自信打ち砕いてやるからな? お前に聞かなきゃいいんだろ? 勝手に調べる」

 いけしゃあしゃあと臆する事なく約束を反故にしようとするその様子に私は驚きを禁じ得ない。

 が、そんなことを宣言したエディは大胆不敵に笑ってくる。

「やっぱりエディ嫌い」

「え、嫌いとか言う? 傷つくんだけど?」

 そしてリビングをご案内していたら。

「貴方達暇そうね? 家の事少し手伝いなさい」

「なにお客様を使おうとしてんの?」

「いいじゃない、どうせ暇でしょ?」

 そう促されて家の手伝いをやらされる。

 一応私は結構偉いはずなのに、エディも一応貴族のはずなのにママには関係がないらしい。

「ほら、カレンちゃんは解体小屋に吊るしてる猪を解体してきて、オースティンの坊っちゃんは……この薪割っといて?」

「解体めんどくさいし服が汚れるから嫌」

「その服って確か防汚の陣が入ってるでしょ? ルーカスが言ってたわよ? ほら文句言ってないでさっさとやってきなさい!」

 文句をぶつぶつと言いながら、とぼとぼカレンは解体小屋に向かう。

 それをにこにこと微笑んで慈しみの表情を浮かべカレンを見送るカトリーナは本当の母親のようで騎士団時代を知っているエディは驚く。
 
「カトリーナ様もう名前で。エディでいいです、坊っちゃんっていう年でもないので」

「あら、そう? じゃあエディちゃんね! 貴方とは少しお話がしたかったのよね、あの娘について」

「……え? はい、私も彼女についてお話が伺いたかったので助かります」

「でも、護衛復帰できてよかったわね? それにカレンちゃんとは仲良くなれたの?  あ、斧はこれね」

「その節は大変ご心配をお掛け致しまして。……あ、本当に薪割りやるんですね?」

「まあ仕方ないわよ、あの娘に付き合うのって並大抵の精神力じゃ無理だもの! それに私もねあの娘の仕事やら何やらなんて直視出来ないし。 ほら、割って割って! 晩御飯は猪の丸焼きよ! カレンちゃんの好物なの!」

「カトリーナ様、カレンは何か秘密を抱えていますよね?」

 小気味いい薪の割れる音が響き渡る。

 普段鍛えているからか息を荒げる事もなく、エディはスパスパと薪を割っていく。

「……ええ、そうね。でも私もその詳細はわからないのよ、仕事関係だと思うんだけど、家を出る少し前から様子がおかしくなったって事くらいかしら?」

「家を出たのは確か最高位となった十二歳の時ですよね? 特効薬関連……でしょうか?」

「それ違うわよ? カレンちゃんが最高位になったのは十歳の時で、家を出たのも十歳だし」

「え? 特効薬で最高位になったのでは?」

「いいえ? カレンちゃんは死病が噂されて直ぐくらいの時に家を出ていったから、それは違うわよ? どうして最高位になったのかまでは詳しく知らないけど、錬金術師になって直ぐから優秀だって色々と賞を貰っていたし、そのせいじゃない?」

「そんな早くに親元を離れるなんてイクスはやはり、アルスとは全然違いますね」

「そうね、この国は異質ね。本当は錬金術師になんてならせたくなかったのよ? いくら皆の憧れといっても危険だからね、カレンちゃんは普通にのびのびと育って欲しかったのに」
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