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第三章 毒であり薬

110 薬か毒か

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 カレンはたった8歳で錬金術師の古代の書を読み解き錬金術師となった。

 養父母はカレンに錬金術師になど成らせるつもりはなかったが、年の離れた幼馴染みのルーカスが錬金術師になりたくて読んでいた古代書の写本をカレンは気になって養父母に頼み込み手に入れてもらい読み始めた。

 まさか養父母も15歳のルーカスが最初の1ページ目で数十日かかるものを、それを8歳のカレンが数日で全て読み解き理解し、試験に一発で合格するなんて思ってもいなかった。

 そして史上最年少の錬金術師が誕生した。

 それまでカレンは近所の子ども達のガキ大将的存在で、同年代よりも一回り小さい女の子なのに養母の訓練のおかげで喧嘩は負けしらず、そして明るく元気な性格で野山を駆け回り、花や草木が大好きな少女だった。

 それが一転して錬金術師というイクスでは、金の卵を産む皆が羨ましがる職業に就いた。

 それがカレンにとっての残酷な運命の始まりだった。

 錬金術師となったカレンは毎日の様に、いろいろな古代書を読み漁った。

 知らない事が知れる、色々な事が試せる、一つの工程の違いで全く別のモノが出来上がる面白さ。

 カレンは錬金術が楽しかった、本を読むのも好きだったし、みんなにカレンちゃんはすごいねって褒めて貰えるのも嬉しかったし、古代書を読めないルーカスをおちょくって遊ぶのも楽しかった。

 錬金術師になって最初の数年はカレンにとって楽しいことだらけだった。

 だけど、運命の歯車はまわる。

 イクスにある薬の依頼がやってきたことだ。

 その依頼とは 世界樹の治療薬 世界樹は、世界に根をのばし、大地を支えマナを届ける特別な大木。

 世界の中心にあり、より世界樹に近い国には魔法が使える者が多いとされていた。

 イクスは世界樹から一番遠い場所にある。

 そしてその依頼に応えて錬金術師達が研究を我先にと始めた。

 その依頼はイクスだけでなく世界の錬金術師達や、薬師達にも依頼されてた。

 世界樹が枯れかかっている。

 青々としていた葉が突然に一つひとつ枯れ落ち始めた、それは世界にとっての凶報。

 世界樹が枯れればマナが送られなくなり世界は大地は崩れるとされている。

 何としてでも、何を犠牲にしても、何と引き替えにしても、世界樹を枯らすわけにはいかない。

 数多くの国々は治療薬の研究開発の為に惜しみ無く金を時間を人材を使い開発を試みるが、世界樹には何の効果も得られなかった。

 だが、その誰も開発出来なかった治療薬を年端もいかない史上最年少で錬金術師になった少女が開発する、カレンだ。

 最初は半信半疑だったその薬はみるみるうちに葉が枯れ落ち枯れかかっていた瀕死の世界樹に命を吹き帰らせた。

 そして、カレンはイクスで錬金術師の最高位に格付けされた。

 それならば世界中が死病カトレアの特効薬開発前にカレンを英雄として称賛してもおかしくはなかった、だがカレンが世界樹の治療薬を開発した事実は隠匿された。

 カレンを守る為に。

 カレンが作った薬は治療薬ではなく延命薬で根本的な解決には至らなかった。

 それもそのはずで世界樹が枯れるのは病などではなくただの寿命、世界は滅びようとしていただけだった。

 世界は大地は、カレンが定期的に錬成し送り続けるその薬によって支えられている。

 その薬は長期保存が出来なかった。

 だからカレンは作り続けるしかない。

 そして、その薬はカレンしか作成することができない、材料が カレン自身の血液 だったから。

 滅びの時をカレンの血液から作られた薬によって引き延ばしには出来たがそれによって延命された世界樹は暴走を始めた。
 
 世界樹は世界に根をのばしマナを届ける。

 マナは人に生物に取り込まれれば魔力となるが、暴走した世界樹は大量にマナを送り始めた。

 世界樹の暴走により大量に送られ始めたマナは人に生物に多量に取り込まれ、魔力となるがそれは許容量を遥かに越える量だった。

 そして世界各地で許容量を越える魔力に身体が耐えきれず、魔力暴走を起こし人々が亡くなり始めた。

 それは死病カトレアとして世界に知れ渡る。

 カトレアの花言葉は魔力だからと、幼いカレンは、自分が引き起こした世界樹の暴走により死に逝くもの達を見てそう名付けた。

 そしてその現実に自分が引き起こしてしまった悲劇に耐えきれなくなった幼いカレンは自殺を図るが世界はそれを許さない。

 そして

 国際連合から最重要保護対象とされた。

 特例特権、国連特例特別保護特権を渡されて、カレンは監視される日々が始まった。

 カレンの死は世界の終焉。

 何度もカレンは後悔した、錬金術師になった事を、薬を作ってしまった事を。

 カレンの犯してしまった罪を知る者は、カレンの死の自由を奪ったもの達は。

 世界の秩序を守る世界樹の麓にあるという機関と、神の木の枝と呼ばれる国家元首達。

 もう逃げられないその残酷な運命から、誰もカレンを救う事なんて出来やしない。

 そしてカレンが開発したカトレアの治療薬はそれもまたカレン自身の血液から作られた。

 大量に薬を作る為に賢者の石から作ったエリクサーを飲みながら、幼いカレンは懺悔するように、自身の身体を切り刻み血を流し続けた、カレンの血は特別だったから。


 犯した罪の対価はまだ支払われてはいない。
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