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第ニ章 英雄の少女
96 最悪の選択
しおりを挟むエディが私の身を案じて私の為にしてくれようとした行為を私は拒絶した。
その拒絶はエディを傷つけただろうけど、どうしても嫌だった。
エディの事を本気で好きになってしまったから、気持ちの伴わない行為なんて嫌だった。
……快楽は収まらない、止まらない、でも助けなんて求められないから根性でやり過ごす。
どうして急に魔力暴走を起こしたのか、回らない頭を回す、私が今取るべき方法は行動は。
まるであの日と同じ感覚とこの症状は。
頭を回すと理性が少し戻る、今の内にやれる事をやらないと。
……このままじゃエディに抱いてと懇願することになってしまうから。
それにしても、屋敷に戻っていて助かった、今の私が助かる唯一の方法はここにあるから。
ダラダラと寝台から這いずる様にして部屋の角に置いていた、カバンから真っ黒な小瓶を一つ取り出す。
小瓶の中には液状とも固体ともとれる赤黒い今は液体のそれは世間一般に賢者の石と呼ばれている錬金術師の霊薬。
これを使ってしまえば、……体内に取り込めば、人ではなくなるもの。
だけど今それが、私が取れる唯一の方法で、最悪の選択だった。
私はそれを小瓶から取り出して飲み込んだ。
それは直ぐ様に私の身体に変化を瞬く間にもたらし始めた。
だるく、熱かった、快楽に飲まれてしまいそうだった身体がまるで何事もなかったかのように一週間も薬漬けにされてたとは思えないほどに回復していった。
これで私は、文献通りならば人としての、生物としての枠から外れて不老不死というやつになったはずだ。
どうせならもっと身長のばしてから飲みたかったな……あーあ。
……正直あのまま快楽に負けて初恋で片思い中のエディと致すのも悪くはないかな? と、一瞬思ったがそこはなかなかに素直になれないお年頃で、それに私にも色々と事情も気持ちもあってその誘惑に打ち勝ってしまう。
自分の無駄に我慢強すぎる精神と肉体が生まれて初めて嫌になったし、その気になっていたであろうエディには多少悪いことをしたような気分にはなるが。
そして、カレンは完全回復し、乱れきった夜着をささっと脱ぎ捨てて、クローゼットから着替えの服を取り出して着替える。
とりあえず、部屋の外で扉の前で人が泣きついてくるのを待っていそうな、人の貞操を脅かした、まだ人の貞操を狙っていそうな、子どもには手を出さないとか言ってたヤツを蹴り飛ばしに向かう。
扉を開ければ、とても気だるげに壁に背をあずけ、煙草を吸いながらオスカーとなにかを話し込むエディがいて、私は先程の行為が急に思い出されてちょっと恥ずかしくなった。
そしてエディは突然扉が開いた事に気付き、こちらを見るが、その目がなぜか驚きに開かれる。
「え……なんでお前動けるんだ?! っか、その髪? 瞳の色なんだそれ?」
「カレンお嬢様?!」
「私を誰だと思ってるの? このくらい自分で治せる! 髪……? え、なにこれ?」
賢者の石使用の副作用によってハニーブロンドの髪は黒曜石のような黒髪になり、サファイアのような瞳は、真っ赤なルビーのようになっていた。
これ絶対に同僚の錬金術師にバレるやつ!
そしてその後、医師による診察などが行われたがどこにも異常は一切見当たらなく護衛達は胸を撫で下ろした。
が……今回の事でエディがカレンの護衛に戻ることが決定となった。
理由は簡単でカレンの護衛にはやはり大公爵家の地位と魔力量が必要ということになった為だ。
それについて、一番反対しそうなオスカーがあまりにも大人しく受け入れた事にカレンはとても驚いた。
オスカーが大人しくエディの護衛復帰を受け入れた理由は簡単だった。
カレンが魔力暴走しあの日、あと数分遅れていればカレンは確実に死んでいたし、自分では絶対的に魔力量も違い助けられなかった。
そしてオスカーは爵位も低く、高い爵位の者に逆らえなかった事だ。
それに鎮静剤を打つまでカレンは錯乱を起し泣き叫び暴れあまりに酷い状態で、その時必死に泣き叫び呼んでいたのがエディだけだった。
無意識にカレンはずっと エディ助けて と、鎮静剤で眠らされるまで泣き叫び続けていた。
それによってオスカーは他の護衛達はわかってしまう、カレンが本当に信頼し頼っていたのはエディだけだと。
カレン本人は全く覚えてはいないし、わざわざそんなこと言う気も護衛達にはなかったが。
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