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第ニ章 英雄の少女

93 険悪

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 翌日。

 まだ雨はぽつぽつとは降ってはいるが、魔獣狩りには問題ない程度で。

 カレンは朝の身支度をリゼッタに手伝って貰いながら、ゆったりと狩りの準備を整えた。

 今日は白いオーバーサイズのシャツに黒の革の長ズボン、黒の革のロングブーツに焦げ茶色の厚手のマント。

 髪は昨日と同じく頭のてっぺんで結い上げたポニーテールだ。

 ポニーテールには色とりどりの宝石で出来た髪飾りをつける。

「ありがとうリゼッタ。うん、いい感じ!」

「カレンお嬢様、エディ坊っちゃんが天幕に昨夜いらっしゃっいましたが、その……なにも、ありませんでしたか?」

「……それ、オスカーに聞けって頼まれた?」

「お嬢様、それは……!」

「ほんと、年頃の女の子に干渉するなんて、鬱陶しいおっさんだな?」

「オスカー様もお嬢様の事が心配なんです。エディ坊っちゃんが無理強いしてお嬢様になにかするとは思いませんが……、お嬢様は大変に魅力的でいらっしゃいますので、なにかするつもりがなくても、男性は……」

「大丈夫だよ、なにもなかったよ? 昨日のお礼をわざわざ律儀に言いに来てただけ! それに私はエディに嫌われちゃってるからね? そんな心配するだけ無駄だよ?」

 そう。
 どんなに優しくしてくれても私はエディに愛される事なんて一生ない。

 それでも未だに好きで、嫉妬までする私って残念なヤツ過ぎる……!
 

「エディ坊っちゃんはお嬢様の事が大好きだと思いますがねリゼッタは。あと、お嬢様? 男性というものは欲だけで女性に手を出しますので本当にお気をつけくださいね?」

「エディに限って絶対ないと思うけどな? まぁ気をつけるよ! じゃあ狩りに行ってくる! 今日こそ素材大量確保!」

「ふふ、お気をつけていってらっしゃいませ、お嬢様」

 さて、今日こそ華麗なる私の魔獣狩りを御覧にいれましょう! 

 ……と、意気揚々と外に出たら。

 なんで居るのこの人達?

 そして何故今にも喧嘩が始まりそうなの?

 王女の護衛達よ……?

 それにエディまでいるよ?

 あれ? でも馬鹿王女いないね?

「エルザ? え、これなに」
 
「おはようございますカレン様。王女が国王陛下に怒られまして、城に強制的に戻されてました。そして国王陛下がお詫びにと、手が空いた王女の護衛達を狩猟大会の間だけでも。……そのカレン様にお使い下さいと。どうせ暇してるから荷物持ちでもなんでもやらせて? と」

「え、なにその丸投げ? それお詫びじゃなくて暇そうにしてるから遊んであげて的な? よし今度、国王しばきにいこう!」

「え……暴力はやめましょ? 国王陛下の護衛が可哀想……」

「国王の心配をしないエルザが好きだ」

「あら、私もカレン様が大好きです!」

「で、アレなんで喧嘩しそうになってるの?」

「ああ……それは」



 ……つまり。

 うちの護衛のオスカーとイーサンは王女の護衛四人が私と一緒に行動を共にして一緒に魔獣狩りに行くのが嫌。

 理由的には私の護衛って誉れが高く、折角勝ちとった栄誉あるなんたら。

 そして王女の護衛達は昨日のお礼もあるし国王の命令もあるしで引き下がれない、だから朝も早くからこの険悪すぎる雰囲気醸し出してると……?

「エルザはあそこ入らなくていいの?」

「え、私はどちらでもいいですし?」

「そっか、エルザもういっそ二人で狩りにいく? 絶対その方が楽しいとおもう! 男なんていらね」

「あ、それいいですね! 馬に乗りながら恋バナでもします?」

「カレンお嬢様! 聞こえてますよ?」

「カレン様……酷い!」

 聞こえてたならさっさと狩りに行く用意しろと言いたい、昨日雨に濡れて体調悪いのに苛つかせんな?

 ……でも明日って、この事だったのか。

 てっきり討伐に出る前に挨拶程度が出来るだけとおもってたんですけど? 一緒に狩りにいくって事とかならそれ昨日言えよ?

「行くならもう、さっさとして? どうせ、ついて来るんでしょ? あ、でも付いてくるなら私に絶対服従ね? イーサン、オスカーめんどくさいから揉めるな。置いてくよー?」

「ですが! カレンお嬢様!!」
 
「はいはい行くよー! エルザ行こ?」

 
 そして王女の護衛達を混ぜた大所帯が出来上がった。

 
「ねぇ、昨日の怪我大丈夫ー?」

「はい、神官に治癒魔法かけて頂きました。昨日は本当にありがとうございます、……貴女に失礼な態度をとっていたのに」

「んー? 大丈夫大丈夫、昔のエルザとイーサンのが酷かったから! 甘やかされた馬鹿犬躾るのって大変だよね?」

「ちょ! カレン様それは言わない約束!」

「そーですよー!」
 
「あはは! そんな約束はしてませーん! 文句ばっかり言ってるとまた躾すんぞ? あ?」

「カレンお嬢様、そんな言葉使いなりませんと言っておりますでしょう! もうすぐ成人されるのです、ご自覚下さい」

「……あー、オスカー五月蝿いです、黙れ」

 出発してかれこれ一時間経つのに魔獣がいない。

 今日も魔獣がいない。

 今日こそ魔獣絶滅したかな?

 それに雨も止まない。

 お尻も馬に乗ってるから痛いし、なんか熱出てきたし護衛達は険悪だし。

 エディが近くにいるのに喋れないし?

 雨に濡れたエディがなんか、色っぽくて胸が苦しいし。

「ねえ、この森魔獣いないよね……? 実は絶滅した? 昨日もいなかったじゃん? 私はここに乗馬に来たのかな? 雨の中」

「いえ、昨日も魔獣は沢山出たと報告がありますしおかしいですね? さすがにこれは。魔獣の忌避するものでも何か……お持ちですか?」

「そんなもん持ってくる訳ないでしょう? ……仕方ないイーサン撒き餌持ってその辺適当にさ走ってきて? そんで魔獣を誘いだしてこようか? 大丈夫、イーサンならいい餌にみえる! 私が保証する!」

「え、絶対に嫌ですよ?」
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