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第ニ章 英雄の少女
87 邪魔者
しおりを挟む狩猟大会に憂さ晴らしに来たのに、魔獣を狩らないでどうする?
魔獣素材が私を呼んでいる!!
錬金術師の本気を見せてあげようと、私に用意された軍馬にヨロシクねと、声をかけて馬の背を撫でる。
軍馬だけあってガッシリとしていてそれでいて毛づやが艶々でなかなかのイケメンだとわかる。
「乗せてね?」
と、軽く声をかけるとヒヒンと鳴いて答えてくれた。
なかなかに頭も良いこらしい。
ゆっくりと手綱と馬の鬣を持たせてもらい鐙に足を乗せて、地面を蹴りあげて静かに鞍にまたがったら。
「さあ、いこうか」
と言ったらまたヒヒンと答えてくれた。
馬の背はとても高くて、少しだけ怖くてエディに初めてイクスで乗せてもらった日を思い出す。
そしてエディに出会ったあの日、世界の不条理を噛み締めながらみた真っ赤な空が思い浮かんだ。
少し前までは、馬になんて乗った事なかったのに、自分一人で馬に騎乗して魔獣を狩りに行く日がくるなんて思ってなんていなかった。
今じゃ最低限乗れるように練習したけどまだ全然乗りこなしてあげられないし、長時間騎乗すると小鹿のようになってしまい立てなくなるけど……!
「カレンお嬢様、本気で魔獣討伐される気ですか?」
と、オスカーがお前正気か?! みたいな雰囲気で聞いてくる。
「錬金術師とは自分でその錬成の材料を調達するものなのです! 私を素材が呼んでいる……!」
まあ……さすがに魔獣までは討伐になんて行かなかったけど。
イクスに魔獣なんて殆ど生息していないから。
それにそんな時間あったら研究してる。
でも素材を自分で調達したり薬草くらいなら育てたりするのは本当だから嘘ではない。
「イーサン、エルザ何としてでもカレンお嬢様を守るんだ!」
「「はい! 命に代えても!」」
と、二人に命令を出すオスカーは今日は残念な事にお留守番で、理由はさっき荷物を持ち上げようとしてぎっくり腰に襲われてしまった為である。
騎士でも年には勝てないらしい、帰ったらポーション作ってあげよう。
……それにしても騎士って命に代えるの好きだね?
遠くから狩猟大会の開始を高らかに宣言をするアルスの新国王の声がして、その声に反応し沢山の人々の歓声があがる。
……雨がポツポツとふりだして冷たい風が流れる。
イクスは年間を通して温暖な気候なのにアルスは北に位置しているからかとても寒かった。
少しずつ私はなんでも一人で出来るようになっていってしまう、そのことがすこしだけ寂しいと思ってしまった。
走り出した馬の手綱をしっかりと握り、馬に鐙でトントン指示をだして走り出させた。
さあ楽しい楽しい狩りの始まりである。
「さて! いこうか」
「カレン様あまり無茶はなさらないでくださいね!」
「無理だと思ったらすぐ逃げるんですよ!!」
と、馬を走らせていたら二人が心配してきた。
「大丈夫! 私は騎士二人より強いから!」
「う! カレン様! それは言わない約束です!!」
「もう! だからって調子に乗ると怪我しますからね?!」
護衛達と雨の森を楽しく会話しながら馬で魔獣を探していたら。
「待ちなさい! 悲運の英雄!!」
と、王女御一行が、私たちの後に付いてくるんだけど、お前、馬に乗らないんじゃなかったのか?
それに。
エディと一緒に騎乗してるし?
ほお、精神攻撃とはなかなかやりよる。
苛ついた私は紙に巻いた薬草に火をつけて、それに口を当てて、ゆっくりと吸いこむ。
薬草の煙が肺に満ちる感覚がする、煙たい。
そして煙をふぅーっと吐き出す、うん、完璧。
「あの、カレン様? さきぼどからお煙草を嗜まれてますが、お身体にあまりよろしくありませんので……その」
と、エルザが私が吸っている薬草について指摘してくる。
「そうですわ! まだ貴女未成年でしょう? 淑女が煙草なんてはしたない! それになんか変な薬草の臭い……?」
と、近くを並走してくる王女が文句言ってくるけど、嫌ならどっか行けばいいのに。
「カレン様! ホントにお身体に障ります、お止め下さいませ!」
イーサンも心配してくるけど、これ煙草ではなくて。
「大丈夫だよ? これ煙草じゃなくて……撒き餌だから」
「「え?」」
「ま・き・え。これの臭いで魔獣が集まって来てくれる!」
「撒き餌とは……?」
「なっ!? お前たち今すぐその煙草を消させろ! スタンビートを起こさせる気か!」
王女の護衛の老紳士が大きな声で叫ぶ。
「ガスパル? どうしたんだ? 突然……」
エディが驚いて何事かと質問した。
「あれは、特級指定禁止薬物だ! あれはイクスの兵器だぞ!!」
「兵器?」
「アルスとイクスが戦争をして魔法が人数有利があったのにも関わらずアルスが負けた理由だ、それは。イクスがアルスにソレを撒いて魔獣達に襲わせたんだ……!」
「おー、おじいちゃん博識だね?」
と、カレンが小馬鹿にしたように老紳士の発言に反応する。
「それは所持してるだけでも極刑だ! それにそんな魔獣を寄せるようなものを体内に取り込むなんて正気じゃない! 食い散らかされたいのか? 今すぐ消させろ! はやく!」
「大丈夫だよ? これは私、特製処方だからね、成分もあれとは違うし? 効能は同じだけど、 ……っか正気で錬金術師なんてやれるわけないじゃん? あはは! ほんと、嫌ならどっかいけば? いつまでついてくるんだよ、死んでも知らないからね?」
王女を睨み付けながら。
カレンはそう警告した。
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