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第一章 二度目の国外追放
13 騎士達の誓い
しおりを挟む昨日のどしゃぶりの雨が嘘のように。
晴れ渡った青い空。
カレンは清々しい朝の爽やかでひんやりとした空気を、肺にめぇいっぱい吸い込み。
「あー、だりぃ……」
と、本日も柄がとても悪く。
それでいて気だるそうな表情で、窓を開け放ち青い空をぼんやりと見上げていた。
エディはそんな普段通りのカレン見て。
今日も今日とて態度がでかく、その愛らしい容姿に反して口も悪いなと少しげんなりしながら。
「貴女ほんと、見た目と性格違いすぎるわねぇ? もったいない」
残念ねえ?
と、後ろから小言を飛ばすしてくる彼は、私のお世話係で騎士様で。
そんな騎士様は見惚れるほど端正な容姿を持ち、優しく微笑まれたら落ちない女はいないだろう。
だがなぜかそのイケメン騎士様はオネェ言葉を巧みに操り、カレンの癖のある髪に香油を塗りたくり。
とても満足げに微笑んでいた。
でも香油を塗られている本人は。
甘ったるい花の香りが自分の頭部から漂い。
ここはお花畑かな?
と、錯覚しそうになっていた。
……そして昨夜は何もなかった!
同室なのにね?
いやまあ……?
何かあってもそれはそれで困るんだけどね?
そして香油をたっぷり頭部に塗りたくられたカレンは今日も元気に悪態をつき、艶々になったハニーブロンドをふんわりと揺らす。
くりっとしたサファイアのような濃い青い瞳が印象的な、喋らなければ美少女なのに。
「うっさい! ハゲ!」
とても口が悪く。
「ちょっと、誰がハゲよ!」
出会ってまだ三日目足らずなのに、二人は元気に今日も軽口を叩きあう。
……本音を隠しながら。
「ではでは! 待ちに待った! アルスの中心、王都に転移しに行きましょうか!」
「えー? 行きたくないー! もういいよ、ここで、めんどいからここ住もう! よし名案!!」
「えっ、ちょっ? なに言ってるの?! 王都に行かないでどうするのよ!?」
「いやだってさー、ここもアルスじゃん? 私アルスに国外追放されただけだし? アルスならどこだっていいじゃん! それにここ長閑で空気もいいし住み心地とっても良さそうだよ?」
「それは! まあそうだけど! 貴女をこんな辺鄙な所で住ますわけに行かないでしょー? 英雄を虐げてるって他国にボロクソ言われるじゃない!」
「いや、私ね田舎暮らしに、ちょっと憧れてたんだよね? スローライフいえーい!」
「イヤイヤイヤイヤ! それ、ほんと困るから! 絶対にやめて?」
「私は特に困らないよ? ほら、あそこら辺の丘とかにさ家とか建てたらちょうど良さそうじゃない?」
「ちょっとまって! それはダメだって! 貴女には王都で住んで貰わないと! それに王家主催の貴女の為の歓迎の宴も明後日には開かれる予定だし……!」
「そんなめんどくさそうな宴、私は出席を拒否する! ほーれ、特例特権!」
ーージャラリ。
「こっの、クソガキっ……」
「あはは、エディ? 男がでてるよー? 大丈夫そ? ん?」
そして上目遣いで可愛くニッコリ見上げて。
ちょいと身体を、くねらせる!
……これでイラっとしない奴はいないのだ。
「っあぁ! もう! ほんと、この子は何様なのよ!」
エディは、頭を抱えだした。
「史上最年少で錬金術師になり、世界の英雄と誉れ高い天才美少女錬金術師様? かな?」
「……思ってたんと違いすぎる」
「よく言われるー! てへっ?」
そんなやり取りなんて。
まるで無かったかのように。
カレンはエディに引きずられるようにして、転移装置の前までぶつぶつ文句を言いつつやってきた。
そして、装置の起動を待つ。
「ねー? やっぱり、王都なんて行きたくないねーんだけど?! 悪い予感しかしない……」
「貴女ね? 何回も話したでしょう! 国際問題になるのよ! 貴女がこんな辺鄙な田舎で暮らすのは!」
「えー、田舎暮らしがどんなに素晴らしいか、自給自足生活とか始めて野山を駆け回りながら世界に向けて発信してあげるから大丈夫だよー?」
「それ……、全然大丈夫じゃないからね!?」
と、二人が押し問答をしている間に。
転移装置が起動を始める。
アルスの転移装置はイクスとは違い街中にある。
ここアルスで転移装置は、ただの長距離の移動手段でしかないらしい。
隣同士の元々一つだった国。
今や考え方がまるで違う。
だけど起動する転移装置の術式は同じ。
赤い魔方陣が幾重にも浮かび上がり停止し、私達がその中央に移動すると。
魔方陣がまた折り重なり、そして目も開けていられない程の光に包まれて。
転移装置独特の浮遊感。
浮遊感が消えて目を開けばそこは。
アルス国の中心地で、首都である王都ウルプス。
王都側の転移装置が設置されているのは何の変哲もないだだっ広い真っ白な石畳の屋外。
「えっ? うわ、外!?」
今まで見たこともない光景に、カレンはお上りさんを決め込んでいたら。
エディを始め、騎士達が一斉に地面に膝をついて。
私に傅いた。
「英雄カレン・ブラックバーン様、ようこそアルス国へ! これから全身全霊をかけこの命に代えましても貴女をお守りさせて頂きます」
そして。
にこりと、とても優しくエディが微笑む。
そんなに優しく微笑まれてしまったら。
まるで私が貴方にとってとても大事な存在だと。
錯覚しそうになった。
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