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第一章 二度目の国外追放
8 朦朧とする意識のなかで
しおりを挟むまるでそれは引きずられるように。
強引に連れ出されて、私は家を出た。
赤く赤く染まりだした夕暮れの空。
赤く染まったイクスの空を見上げていると、軽くエディの腕に抱き上げられて馬の背に乗せられた。
そしてエディは私を抱え込むように騎乗して、暖かく肌触りのいい大きな外套で身体を包んでくれた。
私達を乗せた馬は、足早に転移装置のあるこの街の中心まで一気に駆けた。
馬車には時折乗ることもあったけれど、馬に直接乗るなんて経験は一度もなくて。
その馬の背の高さと冷たい風に、そして弾む身体に苦悶の声をあげてしまう。
それは仕方ないと頭では理解しているけれど。
つい数時間前に会ったばかりの人間に、オネェ言葉だけど男にしがみつくのは。
……いささか思春期女子には抵抗があった。
どうして街並みはいつも通りなのに。
昨日と全部同じなのに、私はなにも変わってなんていなかったのに。
なぜ急に魔力が私に発現してしまったのか。
どうして、どうして、どうして?
今日やっていた錬成も、特に珍しいものを作ったりしていたわけでもないのに。
どうして……?
私は頑張ってここまできた。
国にも認めて貰えた。
必要だって、こんな私が必要だってみんなが言って……くれていたのに。
魔力が有るからいらない?
魔力が無いからいらない?
どれだけ考えを巡らせても少し熱の出てきた頭ではうまく考えられなくて。
どうしようもない苛立ちが募った。
どうしてこの世界は私を苦しめる。
どうして平穏に暮らさせてくれない。
そして緩やかに馬がとまり、転移装置のある私の住む街の中心地にたどり着いた。
そこには数時間前に私が国外追放を言い渡されたイクス国立中央最高裁判所や、国立の専門機関が多数入る巨大な建造物があって。
その中には国境門への転移装置もある。
私は馬の背から地面に降ろされると思っていたのに、そのままお姫様抱っこにされた。
そして抱きかかえられたまま建物の中に。
……え、ちょっとまて?
これめちゃくちゃ恥ずかしいんだが?
お姫様抱っこなんて、私のキャラではない。
即刻、降ろして頂きたいのだけど?
それにしても。
エディって男なのに無駄にいい香りがするんだけど、残念系イケメンの癖に。
恥ずかしさから、その腕の中から脱出しようと軽く身動ぎしていたら。
「少し大人しくしてて」
と、焦った声で叱責されて。
叱責された声でエディがとても急いで焦っているのが、馬鹿になりつつある頭でもわかった。
抱っこされたままどんどん奥にに入っていく。
……身体の熱がどんどん上がっていくのが自分でもわかるくらいで、これじゃ今の私が歩いたらとても時間がかかるだろうなと冷静になった所で。
次は目の前がぼやけてきた。
……身体が焼けるように熱い。
そして私達は転移装置が設置してあるこの建物の地下までやって来た。
私は数度、転移装置を利用したことがあるけど。
一般人はほとんど転移装置なんて使わない。
一生に一度も転移装置を使わないのが普通である。
この転移装置動かすためには多額の金貨と、ややこしい利用申請の時間が必要で。
なのについて早々。
キィーーーーン……
魔法が禁止されているこの国イクスで唯一の魔法。
国を隔て、他国の侵入を防ぐ国境門への唯一の移動手段がこの転移装置。
赤い魔方陣が幾重にも浮かび上がり停止する。
そこへ私を抱き抱えたままエディは移動し、また再び魔方陣が折り重なる。
足元から瞬く間に目を開けてはいられないほどの光が噴出し私達を包み込んだ。
ああ、今転移装置が稼働を始めたなと転移独特の浮遊感を感じつつ、私は意識を軽く手離した。
……ゴーン、ゴウーン、ゴーン……! ……
けたたましく鳴り響く鐘の音。
これは国境門が開く警告の音。
いつの間に国境門が開いたのか。
普通は国境門を開く為に。
とても時間がかかるはずなのに。
意識を手離していた私には、知るよしもない。
けれど。
その音に意識を浮上させ、だるく重い身体に苦笑いが溢れる。
身体が焼ける錯覚をするほどに熱い。
薄目を開ければ国境門を潜り抜けた直後。
ああ、私また、国外追放されちゃった。
そう仕方ない事を考えていたら。
門を抜けてすぐ沢山の人の声。
私達を待ち受けていたらしい人達に、なにか命令するエディのオネェ言葉じゃない男性口調は。
……まるで怒声のようで、余裕がない。
「早く! 封印具解除を! 魔力暴走を起こしかけてる! 急げ!」
……なんだ普通に喋れるじゃない。
ちょっとうるさいな?
でもそっちのほうが、カッコいいのにもったいないなぁなんて。
そんなしょうもない事を考えてエディに抱かれたまま天幕内部に連れていかれて、ゆっくりと静かにふかふかの寝台に寝かされた事がわかった。
そして、何かの呪文のようなものが聞こえて首に付いていた封印具がカチリと外された事に気づいた。
……直後。
それは朝感じた、魔力が溢れだす感覚を何倍にもしたような解放感と、
……激痛。
吹き荒れる風に天幕が揺れる光景を横目で見ながら突如私の身体に襲い掛かった痛みに。
これ駄目なやつ……!
と、本日二度目の気絶をした。
「……っレン! カレン! カレン!」
「熱がさがらない! どうすればいい!?」
「解熱剤を早く!」
「カレン、頼むから、死ぬな……!」
……なんか誰か私を呼んでる、うるせぇ……!
「とりあえず解熱はしてきましたが……、あとはご本人の体力次第……、ですが」
「……わかった、すまない」
「封印具解除がどうにか間に合い、魔力暴走にはギリギリ間に合いましたが……、魔力に全く慣れておられないお身体です、負荷が、……どの様な風にお身体や魔力に影響を与えているのか……、こんなケースは初めてなので……、申し訳ございませんが」
「……あぁ、私もまさかここまで魔力が高いとは想定していなかった、もっと早く連れ帰っていればここまで衰弱させず苦しませずに済んだんだが、可哀想な事をしてしまった」
なんか周りで話してるけれど
いや別に苦しんではないけどねぇ?
なんか痛かったし? 熱いなとは思ったけど。
そんな深刻な風に話されると不安なるわ。
えっ……、私、大丈夫そ?
応援ありがとうございます!
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