薬の錬金術師。公爵令嬢は二度目の国外追放で最愛を見つける。

第一章 二度目の国外追放

3 お世話される

　

「じゃあ、綺麗になりましょうね！」

　私は軽々とそのガッシリとした腕でお姫様抱っこされて、文句の一つ言う暇もなく浴室まで連行された。

　満面の笑顔でイケメンにそう言われて、不覚にも一瞬ドキッ……とはしたが。

　ちょっと……？

　この男が今何を宣ったのかが、私のこの賢い頭では理解が出来ないし、理解したくない。

「え、えっと？　……ちょっ、え？」

　今日初めて会った男に、湯船に放り込まれて。

　頭からサバァーーっと、適温のお湯をぶっかけられた私は、現実を理解出来ずに呆けてしまう。

　少々自分が置かれてる今のこの状況を、天才だと羨ましがられる脳は理解することを拒否して。

　お湯を頭からざぶざぶとかけて。

　鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌に流しているこの男を、私はただ呆然と見上げることしかできない。

　そしてあろうことか石鹸をふわふわに泡立て始め。

　人の頭を許可なく洗い始めたよ、この人？！

　……なかなかのシャンプーテクじゃないか？

　え、いやでも。

　ちょっと待って？　

　私、まだ服着てる？　

　初めて会った男に服を脱がされるのも、それはそれでとても困るのだけれども。

　なんだこの状況は？！

　出会って？　

　二時間も経ってないし？

　時間とかそこには関係ない気もするけど、勝手に人の家に入ってきて？

　はじめまして、こんにちは？　

　とかも……してない気がする、あれ、したっけ？

　あれれ……？　

　隣国アルスではこれが普通……？

　んなわけがないな！

　と、ちょっと冷静になってきた。

「いや、ちょっとまって……？　どうして私は、いきなり貴方に洗われているの？」

　軽く指摘してみれば。

「だって貴女、床でゴロゴロ寝るからすごく汚いし、髪もつれてるし？　そんなんじゃ外に出れないじゃない？　もう洗うしかないじゃない？」

　と、さもありなんという風に言ってくる。

「え、いや……でも……私、服着てるし？　服、着たまま風呂？　え？　あれ？」

　とりあえず抗議してみるが。

　抗議内容が結構ずれているのは今日色々ありすぎて混乱している為である。

「なに？　貴女、もしかして私に服、脱がされたいの？　もう！　……えっち」

　ニタニタと笑いながら言ってくるこのイケメン。

　どうしてくれよう？

　めちゃくちゃうざい……！

　さっきつい不覚にもドキッ……と、胸が高鳴った自分を張り倒したい気分だ。

「いや！　……じゃなくてっ！」

　……パシャン！　

　っと湯船に手を掛けて身をのりだし抗議するが。

「ん……大丈夫？　あ、身体は自分で洗ってもらうから、でも髪はこれ……もう色々すごいから！　うわ、汚なっドロドロ……モップかしらね？　コレ」

　そして平然とお湯を人の頭にザパーっと掛けて。

　次は甘くいい香りのとろみのある液体を、私の髪に丁寧に塗りこみ始めた……。

　え、それどこから取り出した？　

　そんなの家にはないぞ？

　うわ、やっべぇこの男……。

　人の話全然全く聞いてないよ？　

　抗議するだけ体力を消耗して無駄じゃなかろうか？

　そして、私は……考えるのを止めた。

　もうどうにでもなれ！

　今日は本当に、疲れたんだ。

　あー、お風呂温かくて気持ちいい！

　私の天パの髪はイケメンオネェに艶々に洗い上げられて、タオルでまた丁寧に拭かれた。

「じゃあ……あとは……。自分でそこの石鹸使って身体を綺麗に洗うのよ？　あ、タオルはそこね！　それで……これ着たら呼びなさい！」

　と、捨て台詞を吐き。

　スタスタとイケメンはバスルームから出ていった。

　そして上手く回らない頭で私は。

　言われた通り服を脱ぎ捨てて。

　石鹸で適当に身体を洗い、タオルでガシガシ拭き置いてあったバスローブを着て、イケメンを呼んだ。

　ちゃんと言われたことはやる真面目な私は、とってもいい子だ。

　……さあ褒めろ。

 　きっと普段の混乱してない冷静で普通の状態の私ならば………その行動は違っていたはずである！

　たぶん、うん……きっと。

　ーーこれが私達の出会いだった。