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第一章 二度目の国外追放

4 アルスで待つ現実

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 どうして私は出会って間もないイケメンに、髪に甘ったるい香油を塗りたくられてるのか? 

 そんなん塗っても、私の癖っ毛は手強いぜ……?

 その前は徹底的にスキンケアをされながら。

「貴女ホントに女の子? お肌も髪も荒れ放題じゃない! もう……、クマもすごいし、ちゃんと夜寝てないでしょ? 夜更かしは美容の敵よ?!」

 と、なんか貶された。
 
 だけど私たち出会ってまだ二時間くらいだよね?

 なのにその女の子の頭を綺麗に洗い上げて。

 スキンケアしちゃうんだ……? 

 それをもうどうにでもしてって、流されてしまっている私もどうかと思うけど。

 いやでもさ……? 

 私は自信を失くしたよ?

 だって私、水に濡れてさ?

 下着とか多少は透けてたよ? 

 めっちゃ私……エロかったはずだよ?!

 十七歳の女の子の濡れ場だよ!

 なんかさ、ないの? 

 ……まあ、あっても困るんですけどね?

 もうホントに女としての自信を失くすよ?

 元々なかったけどさ、マイナスだよこれマイナス。

 ああ、でもオネェだから女は対象外かな? 

 なら仕方ない?

 そして、私はまた国外追放なの? 

 産まれた国に強制送還的なやつ?

 錬金術師の仕事はどうするの? 

 アルスって錬金術していいのかな? 

 そして私から溢れだしたこの魔力。

 今は魔力封じされているらしいし、よくわからないんだけど。

 これは一体どういう事なんだろ?

 だって昨日までは魔力なんて0だったのに。

 急に0だった魔力が溢れだすなんて事。

 聞いたことがない。

 さっきは色々イケメンにやられて衝撃的すぎて、そっちに夢中なっちゃってたけどさ。

 あっちの国行って実家……? 

 公爵家とかで住まなきゃ行けないのかな?

 ほんと行きたくないんだけど? 

 顔も会わせたくないよ? 

 だってある意味さ、私って捨て子じゃん?

 私は思春期の微妙なナイーブなお年頃なんだ。

 だから。

 急に人の家に上がりこんで来て、人の頭をを綺麗サッパリ艶々に洗い上げた挙げ句、スキンケアヘアケアまでテキパキと行いやがった、残念系イケメンオネェ口調のお世話係様に。

「私、公爵家とか、行きたくない。それに関わり合いたくないんだけど」

 と、言ってみた。

「そう? なら公爵家には行かなくても大丈夫、今こちらで調整していてね? 貴女の住む家とかも探してるの、でも多少は関わる事になると思うわよ残念だけれど」

 てっきり国外追放されてアルスに行ったら公爵家に行かなきゃいけないと思っていたのに行かなくてもいいらしい。

 それは少し気が楽になったけど……。

「そうなんだ! ありがと、でも多少は、関わっちゃうんだ……ね?」

「そうね、貴女はもうアルスに国籍もないから、公爵令嬢では無くなっているし、養子かな? この国に来たから親子関係は法的にはないし、貴族でもないけれど、今からアルスにはイクスからの国賓という形で滞在というか住む事になると思うの」

「ん? ……国賓?」

「そう、国賓、貴女は世界の英雄だもの」

「英雄ってなにそれ 、大袈裟だね?」

 私は……錬金術で薬作って一儲けした、成金億万長者って位置で生きてきたんだけど。

 他国だとそんな風に思われてた……か。

 ふーん?

「全然大袈裟じゃないよ、貴女に……貴女の作り出した薬に、命を家族を友人を救われた人はね何万何十万人何百万人いる」

 アレは誰かを救いたくて作った薬ではないのに。

 ……英雄か。

 面倒だな。

「国賓として、アルスに入国する事になるから歓迎のパーティーとか開かれたり、貴女とお近づきになりたい人間も大勢いるし、そこにはやっぱり、公爵家とか貴女の双子の妹さん、皇太子の婚約者だし出席するの。ね?」

 そしてやっぱり面倒だった。

 軽くなった気分が、即座に重くなった。

「なんか知りたくなかった情報をいきなりぶちまけられたよ? そういや私には、双子の妹が居たらしいね。二卵性だからあんま似てないらしいけど、へぇ……? そっかぁ、婚約者とかいるんだ。私なんて年齢イコール彼氏居ない歴なのに、くそが」

「モテない女は辛いわね……。ああ、でもほら! 貴女まだ若いんだしこれからよ! きっと! 大丈夫よ! きっと! いい人が現れるわ! 元気出して! まぁアルスじゃ17歳で婚約者すらいない令嬢は一人もいないけど……?」

 可哀想な子を見る優しげで哀れみ満載な目で、イケメンだがオネェ口調のヤツに励まされた。

 辛い!

 隣国アルスじゃ私……、行き遅れ? 

 イクスじゃ結婚なんてするやつのほうが少ないのに、やっぱり行きたくないーー!

「まぁ、貴女が産まれてすぐこっち来てなかったら、王太子殿下は貴女の婚約者だったはずだものね。それは複雑ね? うん」

 なんだろう初めて聞く、全然知りたくなかった情報がまた追加された。

「え?  どういうこと?  私がその皇太子とかの婚約者……だった?」

「そうよ? 貴女の産まれた公爵家の順番だったもの王家に嫁ぐのは。そこの娘が王太子妃、その後の王妃になるのが貴女達が産まれる前から決まってたからね、あれ知らなかった? 五大公爵家持ち回りで順番に王家に嫁ぐのよ、権力を分散しつつも王家の魔力を保つ為に魔力の強い五大公爵家からね、その為の五大公爵家ね」

「え……、嘘、まじ?」

「まじもなにも、貴女に魔力がないって鑑定されて当時は大騒ぎだったのよ、運が良かったのか悪かったのか貴女達は双子の女の子だった。妹さんのほうが莫大な魔力持ちで珍しい魔法の適正があったからよかったものの、そうじゃなかったら、どうなっていたことか……」

「私の妹そんなすごいヤツだったのか! やるじゃん! さすがこの私の妹!」

「貴女……、ほんと似てないわね、本当に姉妹?」

「あ、そんなに似てないんだ?」

「そうね、妹さんは淑女の鏡だもの。深窓のご令嬢よ、容姿、仕草、お言葉使いすべてに置いて美しく優雅で繊細で嫋やかな、まるで女神みたいな方ね」

「淑女のとかなんかすげーー! ヒューやるぅ!」

「……ホントに姉妹?」

「いやそんなの知らんけど? 会ったことも、産まれた時とかママンのお腹の中とかしかないだろうし? 興味ねぇしな! はは!」

「……この子に社交界とか絶対無理、まだアルスの平民のがマシね」

 あ、頭抱えだした、なんか大変そう。

 まぁ一番大変なのは私……か。

 名前すらも知らない私の片割れと。

 声すら聞いたこともない、手紙一つ寄越したことのない血縁上の両親の居る、国。

 婚約者になる予定だったという男の居る、魔力がないというだけで私を捨てて追放した国。

 そんな気が滅入るような所に。

 私は行かなきゃいけないなんて、……最悪だ。
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