【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

最後の関門

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「はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、あとどれくらいあるんですか?」

 息を切らせながら走るユーリの周りは薄暗く、剥き出しの地面が申し訳程度に補強されているといった具合の狭い通路であった。
 彼が仲間と走る王獄バスバレイ、それはこれまで進んできた距離にそろそろ脱出できてもいいのではないかという所まで来ていた。
 背後に迫る追っ手の声を聞きながら、ユーリは隣のシャロンへとそれを尋ねる。

「うーん、そうねぇ・・・もうそろそろではあるんだけど。その前に少し問題が・・・っ!危ない、ユーリちゃん!!」

 ユーリに尋ねられたシャロンは、若干言葉を濁すと悩むように顎へと手をやっていた。
 それに足を緩めた彼と違い、ユーリはそのまま前へと進み続けている。
 そんなユーリの足元から、突然先端を鋭く尖らせた槍が飛び出てきていた。

「え?うわっ!?」

 その上へとまさに身を躍らせようとしていたユーリの身体を、シャロンが鋭い声と共に引き戻す。
 それは間一髪間に合い、ユーリの足元から飛び出した槍は彼の鼻先を掠めると、再び元の出てきた穴へと戻っていく。

「大丈夫ですかい、兄さん!?あぁ、良かった・・・しかしこりゃ、ついに来ちまったみたいですな」
「えぇ、そのようね」

 その様子を、ユーリは尻もちをつき顎先へと冷や汗を垂らしながら眺めていた。
 突然の事態に呆気に取られ、腰を抜かしてしまっているユーリはその場に固まったまま動けずにいる。
 しかしそんな彼を尻目に、心配し駆け寄ってきたエディは何やら訳知り顔でそれに対し呟き、シャロンもまたそれを理解しているような口ぶりで何か意味深な事を口にしていた。

「な、何なんですかこれ!?一体、何だっていうんですか!?」
「あぁ、ユーリちゃんは知らないのね。これはね、この王獄バスバレイが脱出不可能と言われる由縁、誰が作ったかもいつ作られたかも分かっていないからただ『大迷宮』とだけ呼ばれる、とーっても怖い迷宮なの」
「だ、大迷宮?そんなのがあったなんて・・・」

 ユーリの足元から突然飛び出した槍の罠、それは彼らが「大迷宮」と呼ばれる迷宮に差し掛かった事を意味していた。
 見れば確かに、今まで申し訳程度の補強をされただけの地面が剥き出しになっていた牢獄が、丈夫そうな石で出来た建物へと変わっている。
 その光景は、彼らの言葉が決して偽り出ない事を示していた。

「ユーリちゃんもここに入れられる時、目隠しして連れられた所があったでしょ?あれはこの『大迷宮』を通っていたの。そこを案内する役目の人達はね代々その役目を受け継いでいて、皆口が利けなくて文字も書けないの。だから買収しようにも難しくて・・・結局出来なかったのよねー」
「それこそ、この牢獄の名前の由来になったバスバレイが脱獄した頃には、ここの仕掛けも動いてなくて簡単に通れたって話ですけど・・・今その仕掛けを動かせる人っていったら、この国でも限られた相当のお偉いさんしかいないでしょうなぁ」

 「大迷宮」の入口に立ち、シャロンとエディはそれについて知っていることを話している。
 そんな二人の様子を、デズモンドは腕を組んだままむっつりと聞いていた。

「ま、でも!地図がないって事は、看守ちゃん達も同じなんだし!罠にかからないように慎重にいけば大丈夫よね!さぁ、急いで急いで!のんびりしてたら、追いつかれちゃうわよ!!」
「まぁ、そうするしかないんですが・・・やれやれ、どうなる事やら」

 暗い話題しかないその目の前の光景にシャロンは無理やり明るい声を作ると、手を叩いては皆を急かしている。
 確かに彼の言う通り、地図が存在しないというその条件はどちらにとっても同じだし、ここに居続ければいずれ追手に捕まる事は明らかだった。
 そんな状況にエディは渋々歩みを進め、デズモンドはむっつりと進む。
 しかしユーリだけは、その場を動かなかった。

「あの・・・もしかしたらその地図、手に入れられるかもしれないです」

 そして彼は告げる、この世で誰も地図の持っていない「大迷宮」、その場所の地図を手に入れられるかもしれないと。

「まぁ!?本当なの、ユーリちゃん!?」
「嘘はいけませんぜ、兄さん!?『大迷宮』の地図なんざ、ちょろっと作ろうとしただけでも首が飛ぶってもっぱらの噂な代物ですぜ!そんなもの持ってる訳がないでがしょ!!」

 ユーリが口にした言葉に、仲間達が振り返る。
 しかしその表情は喜びよりも、驚きと疑いが強いものであった。

「いえ、持ってるんじゃないんです。ここで一から作るんです、俺の『書記』のスキルなら紙とペン、それにインクさえあればそれが出来るです」

 そう出来るのだ、彼のスキル「書記」ならば、その能力の一つである「自動筆記」ならば。
 普段どちらかと言えば大人しく、物事をはっきりと主張しないユーリのその自信に溢れる言葉に、仲間達はそれが嘘ではないのだと信じ始めているようだった。

「そう、ユーリちゃん。貴方、そんなスキルが・・・」
「・・・やるな」

 口元に手を当てて驚くシャロンと、むっつりと頷くデズモンド。
 その二人からの感心の視線を感じ、ユーリは自信を深めていく。

「よし!それじゃ早速―――」
「で、その紙やペンってのはどこにあるんで?」

 二人からの感心に、ユーリは早速それに取り掛かろう腕を捲る。
 そんな彼の横から、エディがポツリとそう呟いていた。

「・・・え?」

 そう確かに、ユーリのスキル「書記」であれば、その「大迷宮」の地図も間違いなく書き上げることが出来るだろう。
 ただしそこに、必要な筆記用具が一揃い揃っていれば。

「っ!いたぞ、いたぞー!!」

 こんな牢獄の奥深くに、そんな道具が都合よく揃っている訳がない。
 ポカンとした表情で立ち尽くしているユーリの背後では、彼らの姿を看守達が見つけ、物凄い勢いで迫ってきていた。

「あーーーーーー!!?」

 エディの指摘にようやくそれに気付き、頭を抱えるユーリ。
 次の瞬間には、彼らは皆看守達に取り押さえられてしまっていた。
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