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第二章 王国動乱

頼もしい仲間達

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「せーの!!」

 その小さな掛け声の後には、大きな打撃音が響き、やがて何かがゆっくりと倒れ伏せていくような湿った物音が響いていた。
 ここは王獄バスバレイ、その数得きれないほどにある関門の一つ。
 ユーリ達一行は、そこを守っていた門番を近くで拾った手ごろな瓦礫で殴り倒すと、彼が持っているであろう門の鍵を探っていた。

「えーっと、えーっと・・・どこだどこだ?」
「兄さん早く!追っ手がすぐそこまで来てますぜ!」
「分かってます!ん、これは・・・あった!ありましたよ、エディさん・・・って、えぇ!?この中から合う奴を探すの!?」

 通路の角へと陣取り、そこから向こう側へと顔を覗かせているエディは追っ手が迫っているとユーリを急かす。
 それにさらに慌てて門番の身体を弄ったユーリはようやく目当てのものを見つけるが、その鍵束には数得るのが嫌になるほどの鍵がぶら下がっていたのだった。

「・・・開いたぞ」
「えーっと、えーっと、どれだどれだ・・・って、えぇ!?もう開いたのぉ!?」

 ユーリがその鍵束から合いそうな鍵を探して激しく焦っていると、その目の前で門が開く錆びついた金属音が響き、その傍らに立っていたデズモンドが声を掛けてくる。
 その声に顔を上げ、開いた門を目にしたユーリは驚き、思わずその手にしていた鍵束を放り投げてしまっていた。

「ははっ、流石は『怪盗デズモンド』だ!腕は鈍っちゃいないようですね、旦那!!」
「・・・その名はもう捨てた」

 門が開いたのを耳にしたエディは素早く駆け寄ってくると、デズモンドのその太い二の腕を肘で突いては茶化している。
 デズモンドはそんなエディに迷惑そうに目を細めると、そうぼそりと呟いていた。

「ははっ、こりゃ失礼。とにかく門も開いたんだ、先を急ぎやしょう!ほら、兄さんも急いで!」

 エディはデズモンドに笑いながら謝ると、先を急ぐ。
 彼に促されたデズモンドも開錠に使ったヘアピンを元に戻すとその後を追い、シャロンもそれに加わる。

「え?驚いてるのって、俺だけなの?」

 そんな彼らの姿を、ユーリは一人納得がいっていない表情で見詰めていたのだった。



「困ったわね・・・」

 そう口にするシャロンの視線の先には、看守達の一団が屯して警戒している姿があった。
 指折り数得ている間にもはやそれでは足りなくなった看守達、そんな数相手に戦うのは現実的ではなく、さらに増援を呼ばせる前に片づけなければならないことを考えると、もはや夢想の類だろう。

「ま、確かにあの数じゃ腕っぷしでどうこうとは参りませんわな・・・そんな時こそ、あっしの出番てなもんで。ま、任せといてくださいな」
「エディさん・・・」

 そんな絶望的な状況に、エディがひょっこりと顔を覗かせると気軽な様子で前へと進み出ていく。
 彼のその気軽な様子に、ユーリは心配そうな表情を見せていた。

「心配しなくても大丈夫よユーリちゃん。何てったって、エディちゃんはあの悪名高い―――」

 そんなユーリの肩へとシャロンは手を掛けると、彼を安心させるような笑顔を見せる。
 シャロンは彼にエディのかつての悪行を聞かせることで安心させようとしていたが、それは途中で遮られてしまっていた。

「あ、あ、あ、あれは何ですか、シャロンさん!?」

 ユーリは何かに驚くように目を見開き、それを示すように指を指している。

「あぁ、あれ?あれはエディちゃんの『仕込み足』よ。何でも特別な仕掛けがあって、身長をある程度自由に操れるんですって。仕組みを一度説明された事はあったと思うのだけど・・・ごめんなさい、私には何が何だかさっぱりで、良く憶えてないの」

 ユーリの視線の先には、いつの間にかっぱらっていたのか看守の制服を着込んだエディの姿が。
 その身長は明らかに先ほどまでの小柄な彼から一変しており、今ではユーリよりも高いぐらいになっていた。

「そ、そんな事が可能なんですか!?」
「さぁ?でも実際にやってるんだから出来るんでしょう?それよりもほら、エディちゃんが看守をどこかにやったわよ。今の内に急ぎましょ」

 ユーリの目の前で起きた信じられない事態、しかしシャロンはそれを何でもない事のように口にする。
 見れば、デズモンドもそれを特に不思議には思っていないようで、いつものむっつりとした視線をユーリへと向けていた。
 そしてユーリが一人そんな事に戸惑っている内に、どうやらエディが仕事終えたようで、彼はこちらへと早く来いと頻りに手招きしていたのだった。

「えぇ・・・俺がおかしいのかな?」

 その姿は既にいつもの小柄なエディの姿へと戻っており、それに戸惑うユーリを置き去りにシャロンとデズモンドの二人は駆けていく。
 そんな二人の姿を見詰めながら頭を掻いていたユーリも、しつこく手を振るエディに促されやがて駆け出し始めていた。



「うわぁ!?」

 王獄バスバレイ、その悪名高い監獄からの脱獄は一筋縄ではいかない。
 それは今まさに、ユーリ達一行がボロボロに錆びついた鉄の手すりにぶら下がりながら、何とか進もうとしている姿からも垣間見えた。
 そしてさらにそれを象徴するのは、それが経年の劣化のため折れ、それを掴んだまま下へと落ちてしまったユーリの姿にあった。

「ユーリちゃん!?待ってて、今行くわ!!」

 二階分には足らないほどの高さからだろうか、そこから落ちてしまったユーリにシャロンが慌てて自分もそこから飛び降りる。
 すぐさま飛び降りた彼を追ってデズモンドも続き、エディは若干躊躇いながらも覚悟を決めると、目を瞑っては飛び降りていた。

「大丈夫、ユーリちゃん?」
「はい、何とか・・・」
「そう、良かった」

 シャロンによって優しく助け起こされたユーリには、どうやら目立った怪我はなさそうだった。
 それに安堵し、胸を押さえるシャロン。

「姉さん!安心してる場合じゃないみたいですぜ!!」
「・・・追っ手だ」

 そんなシャロンとユーリを取り囲むように立ったエディとデズモンドは、通路の先へと顔を向けると警戒の声を上げる。
 耳を澄ませば、確かにこちらへと近づいてくる看守達のバシャバシャと水を跳ねさせている音が響いていた。

「1・・・2・・・うぅん、対した数じゃないみたいね。ユーリちゃん、何か武器に出来そうなもの持ってない?」

 エディ達の声に耳を澄ませたシャロンは、こちらに近づいてくる看守の数がそう多くないと看破するとスッと立ち上がる。
 そして彼はユーリへと手を伸ばすと、何か武器はないかと尋ねていた。

「えっ、ぶ、武器ですか?こ、こんなもので良ければ・・・」

 シャロンの要求にユーリは辺りをキョロキョロと見まわすが、そこに武器になりそうなものはない。
 そのため彼はそれを差し出すしかなかった、ここへと落ちる際に一緒に落ちてきたボロボロの細い鉄製の手すりの残骸を。

「あら、十分よ。それじゃ、ちょっと待っててね。ふんふんふふーん」

 ユーリからそれを受け取りニッコリと微笑んだシャロンは、それをステッキのように振り回しながら、ちょっとそこいらにでも散歩に行くような足取りで近づいてくる看守達の下へと向かっていた。

「シャ、シャロンさん?一体何を・・・駄目ですよ、そっちは!」
「兄さん、心配いりやせん。というか、姉さん相手にそんな心配するだけ損ってもんでさぁ」

 看守が近づいてくる方へとそんな頼りない武器を手に向かっていくシャロンに、ユーリは驚き止めようと手を伸ばす。
 そんな彼にエディはポンと手を掛けると、心配の必要はないとゆっくりと首を横に振っていた。

「ちょっとエディちゃん!ユーリちゃんに変なこと吹き込まないでもらえる!?」
「おっと!こいつはいけねぇ、俺としたことが姉さんの機嫌を損ねちまうとは・・・さっきのは忘れてくだせぇ兄さん。いやなに、すぐに分かりやすから」

 ユーリへと何やら吹き込んでいるエディの声を聞き咎めたシャロンから鋭い声が飛び、エディはその声に頭をパシンと叩いては気まずそうに笑みを浮かべている。
 そうして肩を竦めたエディはユーリの脇腹を肘で突くと、シャロンの方を見ているように促していた。

「あら、お仕事ご苦労様」
「な、何だお前は?ま、まさかこいつが例の脱獄犯なのか?おい、いたぞ―――」

 何の気負いもなく真っ直ぐ歩くシャロンはやがて、看守達へと鉢合わせとなる。
 彼らに鉢合わせしてもその余裕の態度を変えないシャロンは彼らへと頭を下げ優雅に挨拶するが、彼のそんな態度は凶悪な脱獄犯を追っていた筈の看守達を戸惑わせていた。

「そしてお休みなさい。ふふっ、まだ休憩の時間には早いかしら?」

 それでも脱獄犯を見つけたと叫ぼうとした看守達、しかし彼らがそれを口にする事はなかった。
 何故ならその前に、目にも止まらぬ早業でシャロンが彼らを打ち倒してしまったからだ。

「皆~、終わったわよー」

 一瞬の内に看守達を薙ぎ倒したシャロンは、すっかりひん曲がってしまったボロボロの手すりを放り捨てると、ヒラヒラと手を振りユーリ達を呼び寄せる。
 その合図に、エディとデズモンドがそちらへと駆けだしていた。
 その反応の速さは、まるで始めからそうなる事が分かっていたかのようだった。

「は、ははは・・・皆、何者なの?」

 そんな彼らの中で一人、目の前の事態が良く呑み込めていないユーリは顔を引きつらせている。
 彼はやがて戻って来たシャロンに無理やり腕を組まれると、そのまま引きずられていくのだった。
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