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第二章 王国動乱
国葬
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王城黒百合城、その大広間に運び込まれた王の棺の前には、葬儀に参加した多くの貴族達がひしめき合っている。
彼らは王の葬儀の場とあってか一様に沈痛な表情を浮かべていたが、一部の貴族、特に若い貴族を中心にどこか浮足立ったようなそわそわとした雰囲気が漂っていた。
それは四大貴族の一員として、貴族側の参列者が作る二つの列の一つで先頭に立っているヘイニー、彼の後方に控える従者の存在によるものであった。
その従者とは、葬儀の場とあって黒を基調とした衣装ながら普段よりも明らかに着飾り、その神秘的な美しさをさらに際立たせているエクスの事である。
「おい、誰だよあれ?あんな美人、見た事ないぞ」
「ユークレール公爵と一緒にいるんだから、彼の縁者じゃないのか?」
「ヘイニー様の?だがオリビア様はもう少しお若かったと思うが・・・そ、それにしてもお美しい」
エクスの美しさにやられた若い貴族達は、ひそひそと話し合ってはその正体は誰かと噂している。
彼らの視線がエクスに集まっている事は、ユーリにとっては幸運だろう。
彼はヘイニーのもう一人の従者としてこの場に参列していたが、辺境であるキッパゲルラと違い、この王都では彼の正体を知る者がいてもおかしくはなかったのだから。
「マスター、私の格好はどこかおかしいのでしょうか?何やら噂になっているようなのですが・・・マスター?」
ひそひそと囁く貴族達の声は小さく、彼らもそれをエクスに聞かせようとはしていないだろう。
しかしエクスの驚異的な身体能力は聴力にも及び、彼女は貴族達の噂話を耳にしては、その着慣れない恰好がどこかおかしいのではないかと不安そうな表情を見せる。
彼女は助けを求めるように自らの主人であるユーリへと声を掛けるが、彼は返事どころか反応すら返すことはなかった。
「リリィ・・・さん?」
この大広間に催される葬儀では参列した貴族達と対面するように、王の親族である王族達が並んでいる。
その中に見覚えのある二人の姿を見つけて、ユーリは固まってしまっていたのだ。
「イストリア公爵ヘイニー・ユークレール、前へ!」
葬儀の進行を司る司会の声が響き、ヘイニーに献花を促している。
しかしその声が響いても、ヘイニーが手にした白百合の花が揺れるばかりで彼は一向に動こうとはしない。
彼の目はユーリと同じように王族側の席に座るリリーナ、そしてその背後に控える自らの娘、オリビアの姿に釘付けになってしまっていた。
「イ、イストリア公爵ヘイニー・ユークレール、前へ!!」
呼びかけに応えないヘイニーに、司会の悲痛な声が響く。
周囲の貴族達も、そんな彼の様子にざわざわと騒ぎ始めていた。
ただ一人、ヘイニーの横に並ぶもう一つの列の先頭に立つ男、ジーク・オブライエンだけが表情一つ変えずに佇んでいた。
「ヘイニー様、呼ばれているようですが・・・行かなくてよろしいのですか?」
「あ、あぁ!そ、そうだったね。すぐ行くよ」
返事のないユーリと、呼ばれているにも拘らず動こうとしないヘイニー。
彼らのすぐ傍で控えるエクスはそんな二人に首を捻ると、ヘイニーへと控えめに声を掛ける。
その声に正気を取り戻したヘイニーは、慌てて前へと進み出ていた。
「・・・やっぱり間違いない」
王の棺へと近寄り、手にした白百合の花をその中へと投げ入れたヘイニーは、棺に近寄った事で距離が近くなった王族達、その中の一人へと視線を向ける。
その近さで見ても、やはりそれはあのリリィとその背後に控えるオリビアで間違いないようであった。
「ユトレイア公爵トム・エマスン、前へ」
「ほぉぉい」
ヘイニーが席に戻るのと前後して、次の献花を促す司会の声が響く。
その声に間の抜けた返事を返し、ドスドスと大きな足音を響かせながら前へと進み出てきたのは、ヘイニーの倍は横幅がありそうな巨漢な男だった。
「・・・オリビア達でした?」
「はい、間違いありません。でも・・・」
でも、と口にしようとしてヘイニーはそこで言葉を止める。
彼はその先を口にすることは出来なかったのだ、献花のために近くまで寄り目にしたリリーナは、以前までの彼女とはまるで別人のようだったとは。
「リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジ殿下、前へ」
「はい」
その声が響くと共に、大広間にはざわざわとした動揺が広がっていた。
貴族達の献花も終わり次は王族達の番となると、最初の献花を行ったのは王の孫息子であるジョンであった。
彼の献花を見守った貴族達が彼の次に名前を呼ばれると考えていたのは、亡くなった王の弟の息子達、その二人の内でも兄であるフェルデナンド・フレイル・ジェニングスである。
しかしその場に響いたのは、全く聞き覚えのない名前であったのだ。
「誰だあれは!?あんな王族の女性がいたなど、聞いた事も・・・」
「しかしエルドリッジを名乗っているのだ、それはつまり王の娘か孫娘という事に・・・」
「そんな国家の大事に関わる人間が、いきなり現れるものか!」
いきなり現れた王族、しかもエルドリッジを名乗る直系の王族。
その存在に、貴族達は混乱し動揺する。
「しかし、あの姿は・・・」
自らの存在に混乱する貴族の前に、リリーナは一人進み出て王への献花を行う。
その姿、振る舞いは美しく、王族としての気品に満ちていた。
その姿に彼らは納得したのだ、その娘リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジは間違いなく王家の娘であるという事を。
彼らは王の葬儀の場とあってか一様に沈痛な表情を浮かべていたが、一部の貴族、特に若い貴族を中心にどこか浮足立ったようなそわそわとした雰囲気が漂っていた。
それは四大貴族の一員として、貴族側の参列者が作る二つの列の一つで先頭に立っているヘイニー、彼の後方に控える従者の存在によるものであった。
その従者とは、葬儀の場とあって黒を基調とした衣装ながら普段よりも明らかに着飾り、その神秘的な美しさをさらに際立たせているエクスの事である。
「おい、誰だよあれ?あんな美人、見た事ないぞ」
「ユークレール公爵と一緒にいるんだから、彼の縁者じゃないのか?」
「ヘイニー様の?だがオリビア様はもう少しお若かったと思うが・・・そ、それにしてもお美しい」
エクスの美しさにやられた若い貴族達は、ひそひそと話し合ってはその正体は誰かと噂している。
彼らの視線がエクスに集まっている事は、ユーリにとっては幸運だろう。
彼はヘイニーのもう一人の従者としてこの場に参列していたが、辺境であるキッパゲルラと違い、この王都では彼の正体を知る者がいてもおかしくはなかったのだから。
「マスター、私の格好はどこかおかしいのでしょうか?何やら噂になっているようなのですが・・・マスター?」
ひそひそと囁く貴族達の声は小さく、彼らもそれをエクスに聞かせようとはしていないだろう。
しかしエクスの驚異的な身体能力は聴力にも及び、彼女は貴族達の噂話を耳にしては、その着慣れない恰好がどこかおかしいのではないかと不安そうな表情を見せる。
彼女は助けを求めるように自らの主人であるユーリへと声を掛けるが、彼は返事どころか反応すら返すことはなかった。
「リリィ・・・さん?」
この大広間に催される葬儀では参列した貴族達と対面するように、王の親族である王族達が並んでいる。
その中に見覚えのある二人の姿を見つけて、ユーリは固まってしまっていたのだ。
「イストリア公爵ヘイニー・ユークレール、前へ!」
葬儀の進行を司る司会の声が響き、ヘイニーに献花を促している。
しかしその声が響いても、ヘイニーが手にした白百合の花が揺れるばかりで彼は一向に動こうとはしない。
彼の目はユーリと同じように王族側の席に座るリリーナ、そしてその背後に控える自らの娘、オリビアの姿に釘付けになってしまっていた。
「イ、イストリア公爵ヘイニー・ユークレール、前へ!!」
呼びかけに応えないヘイニーに、司会の悲痛な声が響く。
周囲の貴族達も、そんな彼の様子にざわざわと騒ぎ始めていた。
ただ一人、ヘイニーの横に並ぶもう一つの列の先頭に立つ男、ジーク・オブライエンだけが表情一つ変えずに佇んでいた。
「ヘイニー様、呼ばれているようですが・・・行かなくてよろしいのですか?」
「あ、あぁ!そ、そうだったね。すぐ行くよ」
返事のないユーリと、呼ばれているにも拘らず動こうとしないヘイニー。
彼らのすぐ傍で控えるエクスはそんな二人に首を捻ると、ヘイニーへと控えめに声を掛ける。
その声に正気を取り戻したヘイニーは、慌てて前へと進み出ていた。
「・・・やっぱり間違いない」
王の棺へと近寄り、手にした白百合の花をその中へと投げ入れたヘイニーは、棺に近寄った事で距離が近くなった王族達、その中の一人へと視線を向ける。
その近さで見ても、やはりそれはあのリリィとその背後に控えるオリビアで間違いないようであった。
「ユトレイア公爵トム・エマスン、前へ」
「ほぉぉい」
ヘイニーが席に戻るのと前後して、次の献花を促す司会の声が響く。
その声に間の抜けた返事を返し、ドスドスと大きな足音を響かせながら前へと進み出てきたのは、ヘイニーの倍は横幅がありそうな巨漢な男だった。
「・・・オリビア達でした?」
「はい、間違いありません。でも・・・」
でも、と口にしようとしてヘイニーはそこで言葉を止める。
彼はその先を口にすることは出来なかったのだ、献花のために近くまで寄り目にしたリリーナは、以前までの彼女とはまるで別人のようだったとは。
「リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジ殿下、前へ」
「はい」
その声が響くと共に、大広間にはざわざわとした動揺が広がっていた。
貴族達の献花も終わり次は王族達の番となると、最初の献花を行ったのは王の孫息子であるジョンであった。
彼の献花を見守った貴族達が彼の次に名前を呼ばれると考えていたのは、亡くなった王の弟の息子達、その二人の内でも兄であるフェルデナンド・フレイル・ジェニングスである。
しかしその場に響いたのは、全く聞き覚えのない名前であったのだ。
「誰だあれは!?あんな王族の女性がいたなど、聞いた事も・・・」
「しかしエルドリッジを名乗っているのだ、それはつまり王の娘か孫娘という事に・・・」
「そんな国家の大事に関わる人間が、いきなり現れるものか!」
いきなり現れた王族、しかもエルドリッジを名乗る直系の王族。
その存在に、貴族達は混乱し動揺する。
「しかし、あの姿は・・・」
自らの存在に混乱する貴族の前に、リリーナは一人進み出て王への献花を行う。
その姿、振る舞いは美しく、王族としての気品に満ちていた。
その姿に彼らは納得したのだ、その娘リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジは間違いなく王家の娘であるという事を。
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