【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

葬列

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 晴天の王都クイーンズガーデン、その路面にはこの数日降り続いた雨の名残である水溜りが各所に浮かび、眩しい日差しを照らし返している。
 その中心に通る大通りは、小高い丘の上に立つ王城まで続き、そこには今日も多くに人通りで賑わっている。
 しかしその人通りはいつもと様子が違い、どこか沈痛な粛々とした雰囲気が漂っていた。

「鐘の音が・・・」
「陛下だ、ウィリアム陛下が帰ってこられたぞ!」

 王都に、鎮魂の鐘の音が響く。
 それと共に、大通りへと続く巨大な城門の扉が開き、そこから黒い装束を身に纏った王の葬列が現れていた。
 彼らの登場と鐘の音に、大通りに溢れていた人々は次々に王の到着を口にし、その葬列が通るための道を開けていく。
 その人々は当然、そこに配置された兵士によって統制されていたが、ほとんどの人々は自然と通りの左右へと分かれ、じっと葬列の行方を見守っていた。

「おい、あれ見ろよ」
「あぁ・・・間違いない、あれが陛下の棺だ。本当に、亡くなられたんだな」

 黒い葬列が、黒い王城に向かって進んでいく。
 その様子をじっと見守っている人々の前に、一際立派な四頭立ての馬車の姿が映っていた。
 その馬車の形は独特で人を乗せるのには適しておらず、四頭立ての立派な車体にしては華美な装飾がほとんど施されてはいなかった。
 それが王の棺を乗せた特注の馬車なのだと、人々は自然と悟っていた。

「あぁ!!ウィリアム王よ!!」
「お労しや、お労しやぁぁぁ!!!」

 王の棺を乗せた馬車が人々の前を通り掛ると、急にその場に泣き崩れ、大声を上げて泣き喚き始める女達の姿があった。
 それも一人や二人ではなく、通りの至る所でその姿は見受けられた。

「へー・・・ウィリアム王って人気があったんですね」

 そんな女達の姿を大通りに面する宿の二階から眺める、ある男の姿があった。
 彼はぼんやりとしたその黒い瞳を葬列へと向け、ぼんやりとした感想を漏らす。

「違いますよユーリさん。あれは『泣き女』という、それを生業にしている方達です。ほら、王の死を誰も悲しまないのでは面目が立たないでしょう?」
「あぁ、そういう・・・へー、そんな職業があったんだ。知らなかったな」

 その男、ユーリが漏らした感想に、彼女達はそうした生業の人々なのだとヘイニーが解説する。
 見れば確かに、通りで泣き崩れている女性達は皆、大袈裟なほどに地面へと倒れ伏し、わざとらしい大声で泣き喚いていた。

「それじゃあウィリアム王って、実際は人気なかったんですか?」
「うーん、私の口からは何とも・・・ただ、特に目立った実績のある王ではなかったので。お会いした事もあるんですが・・・余り印象には残っていませんね」
「ふーん、そうなんですか」

 ユークレール家ほどの名門貴族ともなれば当然、実際に王と面会した事もあるだろう。
 そのユークレール家の現当主であるヘイニーに亡くなった王の印象を尋ねるユーリに、ヘイニーは頭を掻くと気まずそうに言葉を濁していた。

「そうなんですか、じゃ・・・なーーーい!!!」

 王の葬列は長く、それは遅々として進まない。
 それをぼんやりと眺めているユーリとヘイニーの二人に、部屋の奥からキンキンとした甲高い声が響く。

「うわぁ!?びっくりしたぁ・・・どうしたんだネロ、急に大声何か出して?」

 突如響いた大声に振り返ればそこには、ユーリの娘であるネロとプティの姿があった。
 彼女達は一様に何か不満があるらしく、その血色の良い頬をぷっくりと膨らませてはユーリの事を睨み付けていた。

「もー!どうしたんだ、じゃないでしょおとーさん!!それにおじさんも!!オリビアとリリィが攫われたんだよ!?それを放っておいて、こんな所にまで遊びに来るなんて・・・ボクは、どうかと思うな!!」
「そ、そーだよおとーさん!!二人を探さないと!!」

 二人は攫われたオリビアとリリィの二人を放っておいて、こんな所にまでやって来たユーリ達が不満なようだった。
 それぞれに不満を口にしてはそのままユーリに食って掛かっていきそうな二人の事を、ユーリのもう一人の娘であるエクスがその服の襟を掴んで引き留めていた。

「そうは言ってもなぁ、王様が死んだんだぞ?その国葬に、貴族であるヘイニーさんが出ない訳にもいかないし・・・大体、二人の事は向こうで散々探したろ?俺の力でも見つからなかったし、もうあの街の近くにはいないんじゃないかな?」

 ユーリのユニークスキルである「書記」、その力の一つである「自動筆記」の能力は、遠くの事柄であればあるほど必要とされる筆記用具のレベルが高くなるという代物であった。
 そしてエクスを「命名」した際の騒動によって、今この国では質の良い筆記用具を手に入れるのは困難な状況となっていた。
 そんな状況下では、ユーリの力「自動筆記」を使ったオリビア達の捜索も限界があり、その範囲は彼が滞在する街とその周辺が精々といったレベルになってしまっていたのだった。

「うー・・・だったら、今すぐここでも探すべきじゃん!!ね、プティもそう思うでしょ!?」
「うん!ね、おとーさん。今からオリビア達を探しに行こ?」

 ユーリの言葉に一瞬納得しかけたネロはしかし、逆にその言葉によって今すぐオリビア達を探しに行くべきだと勢いづく。

「いや、流石にそういう訳には・・・」

 勢いづく二人に、ユーリは困ったなと頭を掻く。
 彼らが王都まで出向いたのは、王の国葬に参加するためだ。
 それが今まさに始まろうとしている最中に、そんな事をしている暇などないのだ。
 しかし目の前の二人が彼に向けてくる期待の眼差しは、そんな事を口にしても聞きそうにない強烈な輝きが瞬いていた。

「・・・ありがとうございます二人とも、娘の事を心配してくれて。しかし今は、貴族としての義務を果たさなければなりません・・・ここは、堪えてくれませんか?」

 そんなユーリに助け舟を出したのは、娘を攫われた張本人ヘイニーだった。
 彼は優しい口調で、諭すようにネロとプティの二人に語り掛ける。
 しかしその表情には、口調とは裏腹の強い決意が滲んでいた。
 ヘイニーがユーリが自らの能力について口にするのを聞いても驚かないのは、彼からそれをある程度明かされたからであった。

「うっ!?うぅ・・・分かったよぉ」
「えっと、その・・・ごめんなさい、ヘイニーおじさん」

 娘を攫われ、一番心配している筈のヘイニーにそう諭され、ネロとプティの二人は言葉を失う。
 そうして俯いた二人は、気まずそうに納得を口にしていた。

「あぁ、葬列がもうあんな所まで・・・そろそろ向かいましょうか、皆さん?」
「はい、ヘイニー様」

 頷く二人の姿を目にして再び窓の外へと視線を向けたヘイニーは、王の葬列が王城へと続く緩やかな上り坂へと差し掛かっている姿を目にする。
 それにそろそろ城へと向かおうと声を掛けたヘイニーに、これまで一言も口にしていなかったエクスが応える。
 その恰好はいつもの簡素で動きやすいものではなく、どこか着飾った貴族の子女と見間違えんばかりのものであった。
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