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3章 違える二人に女神は近づく。
5話 狙われた彰
しおりを挟む「うーん・・・主上は一体どこにおられるのか・・・」
人々が行き交う雑踏なビル街を男ノアはキョロキョロと周囲を見回すと途方もなく溜息をついた。
ガリガリにこけた頬と一重の細い目に他者から近寄り難い不気味さを感じさせる顔つきだが、色素の薄い金色の腰まである髪は艶やかだ。四月も半ばに入ったとはいえこの地域は未だ夜間は冷たい風が吹き、一桁台の気温になることも珍しくはない。今も気温は一桁台でノア以外の人々は防寒のためにコートを羽織っている。薄く赤のチェック柄のシャツとデニムだけの彼の姿に寒くないのかと気になって振り返る人もいる。
だがノアは髪をさらさらと揺らしながら、行き交う人々の視線を気にすることなくすいすいと進めていく。お目当ての人物に未だ会えないノアは歩を止めてぶつぶつと独り言を言い出した。
「主上は確かに日本にいる。私の鼻があの方の気配を間違えるはずがない。ではなぜお会いできないのか?まさか!あの方と私の間にある赤い糸が切れてしまったのか!?」
考えたり慌てふためいたりと一人で表情を変えながらぶつぶつと独り言を呟いていると、自分の鼻がピクッと動いたことに気づいたノアは鼻に意識を集中させる。匂いの正体が何か気づいた彼は、口端を三日月の弧を描き笑みを浮かべると言った。
「おや?おやおやおや?この血の量はなかなか危機迫っているカモシカ」
何度も嗅ぎ慣れた臭いに主であるデーヴィットに会えず沈んだ心が浮き足立っている。
これは、血臭だ。
自分の鼻が濃い血の匂いを嗅ぎつけ、どこかで誰かが大怪我をしているはずだと予想したノアは浮き足立っているのが分かるように鼻歌を交じりながら歩き出した。血の匂いと混じってもう一つのモノも察知したからだ。
それは、殺気だ。
かつて自分も所属していた暗殺組織特有の。血の匂いと殺気。だが殺気は刺々しいものではないし、自分よりはるかに弱い。
この先で何が起こっているのか想定できた彼はふふふ・・・と笑いが溢れる。
「彷徨う子羊達を虐める理性のない狼を、懲らしめてあげますか。イヒッ」
鼻歌を混じえノアは感じ取った方向へ進み始めた。行き交う人々は彼の不気味な笑みを見て恐怖で引きつり、関わりたくないと皆一様にささっと遠のく。それが彼に道を譲る形となり、ノアは悠々と向かった。
「くっ・・・ぐう、クソッ、タレ・・・」
「村山君っ・・・腕が」
「大丈夫だ。まだ、俺は動ける。このまま奴を巻くぞ、彰・・・」
ポタ、ポタと切断された右腕を庇いながら彰に背を向けた村山は目の前の鎌を持つ男を睨む。
緩やかな坂道の先にある流川組事務所へ向かっていた彰と村山は二人が話している背後から何者かに奇襲され、村山は右腕を切断。切断面から血が流れ続けていた。不意の奇襲に虚を突かれた村山は彰と、彼が止血のために巻いてくれたスカジャンの右腕を気にしながら左手で襲撃者のケビンへ銃口を向ける。
「自己紹介も無しに襲撃して来るたぁ、マナーがなってねぇじゃねぇか。行儀を知らん奴はデコに鉛玉食らっとけ!」
「・・・おっと」
ーーバァン!!
しかし力が入らない左手は照準がブレて村山の弾丸をケビンは難なく交わす。彼は交わしつつ二人の距離を縮めていく。
「それは失礼しました。俺は淫魔だが暗殺者のケビンっていう者です。君、俺の鎌で腕を吹っ飛ばして酷い出血してるよ?その子は俺に任せて早く医者に行っていいからさ。自分の命、惜しいでしょ」
「冗談じゃねぇよ・・・!コイツをここで捨てたら田川の兄貴にぶっ殺されるだろうがっ」
ケビンの右手には弧を描いた鎌が握られていた。刃先からポタポタと血が滴り落ち、ケビンは余裕のある表情でこちらに近いて来る。危機を感じた村山は緩い坂道ではなく道脇にそれた路地裏に行くよう彰を誘導する。
「彰、そのまま進めっ・・・」
「でも右腕がっ・・・!」
「いいからっ!まずはアイツから逃げるぞ」
村山は彰の腕を掴み路地裏へと入っていく。左右を古い建物に挟まれる形になりながら二人は狭い通路を進む。それにケビンも倣い路地裏に入り大股で愉快そうに鼻歌を歌う。
「どんなに上手に隠れても~ぽったぽたと(血が)垂れてるよ~」
道に点々と残る村山の血を見ながらケビンは二人に迫っていく。その彼の愉快そうな表情を見た彰と村山は戦慄する。
「クソ!あのキチ野郎、俺らをわざと逃してじわじわ嬲り殺しにする気だ」
「狂ってる・・・それに、なんで俺が?」
あんな頭が狂っている男に狙われる理由が彰は思い当たらなかった。
中心にだけ黄色の髪を残して左右を刈り込んだモヒカンヘアに何か武器を隠し持っているだろうと分かる膨らんだ黒のベスト、デニムと底の厚いブーツで甲高い足音を鳴らしながら自分達の後をゆっくりと歩いて来るケビンという男に戦慄した彰は一瞬でもアルカシスの姿が脳裏を過ぎり、ホテルを出て行ってしまったことを後悔した。
(アルカシス様っ・・・、ごめんなさい・・・!)
喧嘩したことをこんな状況になってしまったことで悔やんでしまう。村山の怪我もまずい。急いで病院に連れて行かないとこのままでは命が危ない・・・!
村山は先頭を走らせる彰を追い立て路地の角を目指すもケビンとの距離が縮まっていることに焦りを見せる。
「いっ、急げ彰!奴に追いつかれるぞ」
「でも村山君、腕がっ」
「うるせぇ、早くしろ・・、ーーがあっ!?」
路地裏を進む村山の膝裏に衝撃が走る。
彰が狭い通路の角に入り村山も差し掛かったところで彼は膝裏に激しい痛みを覚えその場で倒れる。彰は倒れた村山に驚き彼のもとに急いで引き返す。
「村山君っ!!」
「馬鹿野郎!そのまま逃げろ!戻って来んじゃねぇ!」
自分のところに戻って来た彰を見た村山は膝裏の痛みに耐えながら彼に檄を飛ばす。しかし彰も負傷した彼を抱えようと肩を貸す。彰は身体を震わせながら必死に言葉を出す。
「田川の舎弟の君を、ここで死なせるかっ!俺だって九州男児だ」
「ばっ・・・馬鹿野郎・・・っ」
村山は彰の肩を借りよう腕を伸ばすが全身から血の気が引いた感覚と強い目眩を覚え頭からガクンと崩れ落ちる。
「村山君っ!」
村山の顔色を見た彰は言葉が出せず絶句する。
鎌が深々と刺さった膝裏からは止まることなく血が流れ続けている。右腕の切断と合わせてかなりの血を失った村山の顔は青白く、体温も下がっているのか唇が紫色に変色していた。
村山のこの様子を見た彰はゾクッと背筋が凍った。
(マズイ!!)
彼に死が間近に迫っているのを感じた彰は、急いで彼の頚動脈を触る。
弱々しいが、まだ脈は打っている。
だが時間がない。このままケビンとの追いかけっこが続けば彼の命が危ない。だが二人の背後には獲物を追い詰めるのが楽しいのか嬉々とした表情でこちらに迫っている。
(俺しか、今彼を助けられない・・・!)
震える手を内心で叱咤させながら彰は自分の着ているコートを脱ぐとアルカシスにボロボロにされた服をそのままに鎌が深々と刺さる膝に袖口、背広部分ときつく巻きつけた。しかしコート越しからもシミを作ってポタポタと滴る村山の血に彰は死の予感を感じながら彼の腕を自身の肩に回して歩を進める。
「しっかり・・・しっかりして・・・」
呼びかけても何も返してこない村山に彰は恐怖を払拭しようと、下唇を強く噛んだ。
今、自分が諦めたら、彼は死ぬ。
何としても彼を病院に連れて行かなければと彰は逸り、村山を抱えたまま路地の角を曲がる。しかし普段から鍛えている筋肉質な体格の村山を、アルカシスによってこの十年籠の鳥として囲われた生活を送ってきた彰にとって彼を肩で支えながら追手から逃げるのは過酷だった。
村山の身体が重くてゆっくりでしか進められない彰に、余裕を見せるケビンはわざとらしく言った。
「そんなにせかせかしないで~。あなたはいつでもトロいの~」
「ぐっ・・・ぐぅ・・・」
村山を抱えながら進む彰を嘲笑うようケビンは彰が一歩進むごとに一歩進め、彰が止まればケビンも止まるといったやり方でじわじわと二人を追い込んでいく。
「ショウく~ん、待って~。そんなに早く行かないでぇ~」
「・・・っ、あい、つ・・・!」
わざとらしく煽るケビンに彰は怒りを覚えた。だがすぐに思考を切り替え村山を抱えたまま進む。
「もういい加減にせんかーい」
痺れを切らしたケビンの鎌が彰の眼前に襲いかかる。
「うわっ!!」
鎌を交わそうと体制を崩した彰は意識を失った村山ごと地面に倒れた。そこへ、追いついてきたケビンに見下ろされる形で目が合う。
「ーーっ!!」
「ああ、良かったぁ。やっとお近づきになったぁ」
するとケビンはわざとらしく鎌が刺さった村山の膝を強く踏み付けた。
「ぐあああっ!!」
「村山君!やめろっ!やめろっ!!」
ニヤリとした顔で何度も何度も村山の膝を踏み付けるケビンを阻止しようと彰は体当たりする。するとわざとらしくケビンが言った。
「痛ーい!ショウくん強ーい!僕怖ーい」
「ふざけんな!今軽く交わしただろ!!」
だが彰が体当たりしてきたのをケビンは軽く交わし、背後からひょいっと彰を拘束する。腕を簡単に掴まれた彰は、身体を揺らして激しくもがく。
「どけっ!離せよっ!!」
途端にケビンの足を蹴るが、足も彼に難なく押さえつけられる。そのまま彰は顎をケビンに強く掴まれた。嬉々と歪んだ悦を浮かべて自分を見下ろすケビンに彰は身を竦めてしまう。
「・・・くっ」
「ほほぉ・・・あの北国の淫魔王のお人形だと聞いてどんな可愛い子かと思ったら以外にお転婆だねぇ、君。なるほど。あの澄ましたムカつく王様は大人しい奴よりこんなのがお好みなのかぁ」
そのねっとりとした笑みに彰は嫌悪感を覚えた。ケビンはキッと睨みつける彰の顎をグイッと自分に引き寄せる。
「失礼な子だなぁ君は。自分以外の男はそうやって追い払えとあの王様に教わったわけ?そんな仕草見ちゃうと厭らしいこと想像しちゃうじゃなーい」
「ふ、ふざけんな・・・!キモいんだよお前・・・!」
彰のその言葉に突然ケビンは豪快に笑い出す。
「アーハハハハハッ!!キモくても結構!俺はなぁ、あの王様に魔力を奪われたんだよ!あの時のあの屈辱、一度たりとも忘れたことなかったぜ。この百年ずーっと復讐したくてなぁ!!!」
「くっ・・・!」
その歪んだ笑い声に彰は怖くなって声が出なくなった。竦んだままの彰の顎をギチギチと指で締め付けながら、ボロボロになった彰の衣服を剥ぎ取った。傷一つなく白い肌の上半身を晒した格好になった彰にケビンは感嘆な声をあげた。
「ーーっ!!」
「おぉー、綺麗な肌ぁ。これは淫魔も誘惑されて当然だわぁ。これが俗に言う玉のような白い肌というのかぁ」
ケビンの指がさらに彰の顎を締め付けながら言った。骨が折れそうになるほどの痛みに呻きながら彰はなんとか逃れようと身を捩る。その抵抗を見たケビンはそのまま倒れて微動だにしない村山に目を向けた。
奇襲をかけた時より顔色もだいぶ悪い。死が近いことはケビンにも分かった。
しかし生きているならこの生意気な人間を揺さぶる道具としては十分役に立つ。
彰に視線を戻したケビンは鎌を彼の目の前でちらつかせながら言った。
「なぁ、ショウ君。ここはせっかくだ。北の淫魔王を夢中にさせるその綺麗な身体、俺にも味見させてくれよ。こっそりヤッてしまえばさすがのあの王様もそう気づきはしないだろう。それにタダでとは言わん。俺に味見させてくれたらそこで死にかけてる君のお友達は助けてあげるさ。ここは交換条件で君と俺で取引しようぜ。ぐだぐだしてたら、彼マジで死んじゃうしさぁ」
当然だよなと言わんばかりのケビンの物言いに彰は心が怒りで満たされていくのが分かった。勢いよく頭を振ってケビンの手を退いた彰は彼に向かって怒鳴った。
「ふざけんな!!ここまで追い込んでおいて何が取引だっ!!彼を助ける保証もないだろうがっ!!」
怒りに頂点が達した彰はケビンに拳を振り上げる。しかしそれを当然のようにケビンは交わすと見下したように言った。
「君ぃ、アルカシスに飼われたせいで頭がボケたの?最近の医学部生って国語が分かんないのかよ。俺はせっかく助けてあげるって提示してんの。君日本人でしょ?イッテルコト、ワカリマスカー?」
「な、何で、俺のこと知ってんだよ・・・!」
どうしてコイツが俺が学生だと知っているのか。
彰が学生として通学している事はアルカシス始め、彼の側近達しか知らないことだ。でもなぜコイツが知っているんだ。
驚く彰を見てケビンはまたも笑いながら言った。
「そりゃ知っているさ。なぜならな・・・お前が在籍しているクラスに俺らの主もいるんだよ。お前はなぁ、ずっとヘラ様に監視されてたんだよ」
「ーーっ!?そんな・・・」
彰は衝撃を受けて全身を震え上がらせる。
つまり自分の行動が全て敵に筒抜けになっていたということだ。
信じられないと、彰はケビンの発言が受け止めきれず、身体が硬直してしまう。それをいいことにケビンはそのまま彰を地面に押し倒し彰の首筋に舌を這わせた。
「ーーうっ!」
無理矢理這わされる舌の感覚に彰は嫌悪感を露わにさせて目を強く瞑った。その様子にケビンは勝ち誇ったように悠然と言った。
「ヒヒヒッ、この時を待ってたんだ。俺の魔力を奪いやがったあのクソ野郎のモノをめちゃくちゃにできる機会をよぉ・・・!」
「は・・・離せっ・・・」
上擦った声で彰は懇願する。
力の差がありすぎる。このままでは、この卑劣な男なんかに・・・!
ケビンは彰のズボンを掴むと力任せにずり下ろす。ケビンの無骨の手が彰の下半身に触れようとしたと同時に銃声が聞こえ瞬時に彼の頬を一つの弾丸が掠めた。
「アレー?今の、誰が打った?」
頬に流れる血を見てケビンは行為を中断して顔を上げた。彰も銃声から一体誰だと顔を上げる。街角から一歩一歩革靴の足音が聞こえて来る。次に発したドスのきいた、だが知っている低い声音に彰は振り絞るように声を出した。
「何だテメェ。俺のダチと舎弟に何してやがんだ」
「あっ・・・、あき、ら・・・」
銃口から小さな煙を燻らせながら近づいて来る人物に、ケビンは厳しい表情を浮かべ彰をそのままにして立ち上がる。三人の前に現れたのは白い上下のスーツに紺のシャツ、ストライプの入ったネクタイを着用し殺気を最大限に放つ男。
「この一帯は流川組のシマだ。テメェみたいな下衆野郎は俺がここで、ぶち殺す」
かけているフレーム入りの眼鏡が剣呑に光る。
銃を構え彰達に近づくのはかつて彰の友人であり、現在は武闘派組織流川組の中堅ヤクザ・田川 陽だった。
自分に冷徹な視線を向けながら銃を向ける無謀な人間が現れたことに、ケビンは喉を鳴らしてククク・・・と笑った。
「おやぁ?また俺に殺されに来たショウ君の自称護衛さんですかー?」
「ウチのシマで銃声が聞こえたからな。調べないわけにはいかねぇじゃねぇか」
ドスのきいた低い声音を発する田川にケビンは彰の髪を荒々しく掴んで立ち上がらせ笑いながら田川を詰る。上半身裸にされ髪を荒々しく掴まれて苦痛に歪む彰が目の前のふざけた奴に何をされたのか一目ですぐに分かり、田川は怒りがマグマのように沸々と沸いてくる感覚を覚えた。
「銃声?あぁ、銃声ならあれ。あの死に損ない君がぶっ放したやつかなぁ?君、彼と知り合い?」
上半身裸にされた彰を盾にしたまま、ケビンは顎で倒れている村山を差した。田川が村山に視線を移すと右腕を切断され、さらに膝裏に鎌を深々と刺され大量出血して事切れる寸前の舎弟・村山の姿が目に入った。
「ーーっ!?」
ボロボロに微動だにせず酷い状態で地面に倒れる舎弟の姿に田川は戦慄し、最悪の事態が脳裏を過った。すぐに田川は彰を盾にするふざけた男に視線を戻すと殺気をぶつけながらも静かに問う。
「ウチの舎弟をこんなひでぇ姿にしたのは、テメェか?」
田川のその静かな問いに、ケビンはふざけてベーっと舌を出して答えた。
「正解ー」
そのふざけた態度に田川の中でブチリと何か切れた音がした。そのまま田川は言った。
「兄ちゃん、随分と好き放題やってくれたじゃないの?死ぬ覚悟は、もちろんできてんだよなぁ」
ブチ切れた田川を見てケビンは愉快そうに笑うと弧を描いた鎌を田川に向けたまま言った。
「なかなか骨がありそうじゃないの君ぃ。そこの死に損ない君の隣に並べてやるから、大人しく君も腕と足出しな?」
「おいおい、簡単に殺してあげるなんて顔してねえだろアンタ」
田川はスーツの懐から鞘の付いた短刀を取り出すと鞘を抜きながら勢いよく突っ込む。
「彰と村山嬲り殺そうとしてよぉ!!!」
「おっと!!」
「うわっ!!」
突進する田川を迎え撃とうとケビンは掴んでいた彰を放り投げると鎌で田川と打ち合いになる。
ーーシャリ!チャリ!シャリ!チャリ!
「テメェどこの組の奴だゴラァ!!今この場でぶち殺したるわぁ!!」
「人間でこんな殺気バリバリにぶつけて来る奴好きだわぁ!遠慮なく君は四肢切り落としてダルマにしてやるわぁ!!」
激しい金切り音を立てながら鎌と短刀のぶつかり合いに火花が散る。初めはケビンが優勢で田川の短刀を鎌の刃で軌道を曲げていた。数合の打ち合いに痺れを切らした田川は短刀の柄を逆手に持つと一気にケビンの懐に入り込む。
「うおっ!?」
「いつまでも調子こいてんじゃねぇぞこのボケがっ!!」
「田川っ!?」
一気にケビンとの距離を縮めた田川は隙を狙い懐から銃を取り出し発砲。ケビンの鎌を弾き飛ばした。
「彰!掴まれっ!」
「田川っ!」
弾き飛ばしてケビンの体制が崩れる時を狙い、田川は彰に手を伸ばし彼を抱き抱えてケビンから離れた。倒れた村山を背に田川は彰を降ろす。
「田川、村山君があいつにっ・・・」
「村山っ」
田川は地面に膝を付き、重体となった村山の身体を抱き上げる。彼の顔が近くに来て、まだ微かに呼吸をしているのを確認した田川は村山を背に抱えると彰に言った。
「彰、この路地を出れば俺たちが懇意にしている闇医師がいる。この角を曲がって少しあるがそこまで走るぞ」
「分かった。急ごう」
彰と田川は鎌を弾かれ地面に膝をつくケビンをそのままに路地の角を曲がろうとする。それに気づいたケビンは腕を押さえながら怒号を飛ばした。
「待てやこのクソガキ共っ!!調子に乗んなはテメェだっ!!」
瞬時に、ケビンは鎌を新たに取り出し空中を激しく旋回して田川と村山の下肢を切り裂いた。
「ぐっ・・・」
「田川っ!」
足の激痛から田川は村山を抱えたまま地面に膝をつく。村山同様田川の膝裏にも鎌が深々と刺さっていた。田川は村山を背に抱えたまま激しい痛みから地面に膝をつく。
「俺に傷入れる人間がいるとは知らなかったな。俺これでもめっちゃ用心深いんでね。お前ここで殺すわ、人間」
「ぐっ・・・クソッ」
ゆっくりと立ち上がったケビンは、村山同様膝に鎌が突き刺さった田川の膝を激しく踏みつけた。
「ぐっ、うわああっ!!」
「やめろ!この野郎っ!」
田川の足を激しく踏みつけるケビンに彰は突進する。だがすぐにケビンに顔を殴られ彰は地面に倒れた。
それを冷たい視線でケビンは見下ろす。
「アホくさ。ヘラ様の命令だから生かさず連れて来い言われたがちょろちょろ動き回って面倒くさくなったわ。君も膝壊してやるよ」
「彰っ!!逃げろ!!」
「っ・・・」
新たに鎌を取り出したケビンが無表情で彰に近づく。その凍りついた表情に彰は恐怖心を抑えながら立ち上がりケビンを睨む。恐怖心を抑えていても顔は怯えている彰にケビンは「だっせ」と鼻で嗤い彰相手に鎌を高く上げる。
「ちょっと静かにしといて」
「くっ」
「彰っ!!!」
ケビンが鎌を大振りしようとしたのを見て彰は反射的に身を屈ませるが鎌が彰に届くことはなかった。
「あら~、ケビンあなたでしたか。まだ弱い者いじめをして優越感に浸っていたとは。だから私に負けちゃうんですよ」
「ちっ・・・ノアか」
彰とケビンの間にガリガリに痩せた見知らぬ男が乱入する。男はケビンの鎌を素手で抑えると視線を変えずそのまま彰に言った。
「あらあら、あなた北国のアルカシス王の匂いがしますね。あなたが、アルカシス王の伴侶、ですか?イヒッ」
ガリガリに痩せた顔と対照的に艶やかなくすんだ金色の髪を揺らした男。こんな男を自分は知らない。彰は尋ねる。
「あなた・・・一体?」
彰の問いに男にニヤリと笑うとそのまま答えた。
「私は東国淫魔王デーヴィットに仕える部下、ノア。血の匂いと殺気に誘われ颯爽と現れたしがない元アサシンでございます。イヒッ」
唐突に乱入したデーヴィットの部下ノアに彰や田川は唖然となるのだった。
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