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CCⅩⅩⅩⅩⅣ 星々の膨張と爆縮編 後編(2)

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第1章。エリースは思う


 わたしたちは、ギリウス学院の応接室に通され、まずライド学長や教授たちとの
会見と挨拶の交換が行われ、
そのあと、学院の学生会長ルティアさんと、副会長のレイト、同フラッド、
会計長のエスルを紹介されることになったわ。

暗黒の妖精のラティスの意思とは違い、ギリウス学院の人々の側は、
レリウス公の想いも受け、これが、両学院の今後の長きにわたる懇親こんしんのための
初回の交流と判断したようだった。

だけど、わたしは、ギリウス学院のおえらいさんが、真摯しんしに語る話を、
左から右に聞き流しながら、
きのうの夜、アマト義兄アニィから、言われたことを思い出していた。

『エリース。セグルト義父とうさんの事を誰か知っているかもしれないと
傭兵ようへいギルドに、行ってみたけど、なにも判らなかったよ・・・。』と。

その話を聞いて、わたしは、悲しい顔をしていたと思う。
だが、本当は違う。ユウイ義姉あねェしか知らないことだが、
わたしは、超上級妖精のリーエと妖精契約がなされた以降、
それ以前の記憶が、廃墟と化した家の壁にかけてあるボロボロの絵画のように、
ち果て続けている。

最初は、その時の感情、とかとかとかとかが、
ぽろぽろと抜け落ちていっていた。そして、記憶そのものも・・・。
反対に、妖精契約後の記憶は、いつでもハッキリと思い出すことができる。

矛の英雄ギウス伯も、超上級妖精と契約して、
なにかの代償を払っていたのかな・・・。
残された文献にそれを示唆しさする一文はないけど・・・。

だったら、風のエレメントの超上級妖精のリーエとの契約を、
憎むなり、かなしむなりしてるかと問われると、それは違う。

人々に、家を囲まれて、松明たいまつを投げられた
もし、リーエが多面体立体障壁を張れる超上級妖精ではなく、
水晶型障壁までしか張れない最上級妖精だったら、どうだったろう。
わたしは、助かっただろうが、ユウイ義姉ェは、複数の上級妖精契約者が放つ
炎の中で、焼き死んでいただろう。

そうであれば、間違いなくわたしは、暗黒の妖精ラティスの力を借りてでも、
宗教に狂ったやつらの一人一人を懺悔ざんげさせ、
いかづちの魔力で、あの場にいた、いやそれを止めなかった全員をも、
なるべく苦しむ形で死ぬように、同じように焼き払っていったに違いない。

わたしには、そのが、から与えられたはずだ。

しかし、今、わたしは、本当の意味で友と呼べる人たち、義兄あにと一緒に、
新たな国造りの手伝いをしている。

これもすべて、超上級妖精リーエとの契約との結果で、いやリーエがわたしを
契約相手として、選んでくれたからだろう。

そう、義兄ィも、頭を下げているんだから、リーエには、今日の夜から、
よるの警戒行動おさんぽを許してあげよう・・・。

ふう~。いけない、いけない。せっかく、ギリウス学院の方たちが、
まじめに話をして下さっているのに、考えをあさっての方向に飛ばしてしまった。

昔、義兄ィが、
『黙っていれば、エリースは、お人形さんみたいに、かわいいのに。』と、
言っていたことがある。

今日一日、お人形さんみたいに、大人しくしているか・・・。


第2章。親・貴族主義者たち


 「あとは、学院生同士で、職員がいると話しにくいことも
あるだろうから・・・。」

というライド学長の気遣きづかいで、他のギリウス学院の教授たち、
アバウト学院の方からは、ヨクス教授が、この後の模範もはん試合もあるので、
席をはずしたわ。

ヨクスは、レリウス公に、交流戦の開始と定例化の奏上した時に、
ディウ・インクリナ長い坂の吊り橋の上で、単騎で、数千騎のクリルの兵を、
ひとにらみで停止させた話の実際を、その耳で聞き、
ヒストリアファーブラーリスと呼ばれるヨクス自身に、レリウス公は関心をもち
学院の見込みのある学生のみならず、公都にいる騎士たちにも範囲を広げ、
『希望者に、一手おねがいしたい。』と頼み込み、
その場で自身もその一人になろうとし、さすがにトリハ宰相にいさめられたらしい。

そうこうしている内に、大人たちが、この部屋から出て行き、

「では、アバウト学院のみなさま、今日このあとのことや今後のことを、
お話しさせていただきたいと思います。」

と、皇都ではほとんど見かけることのない白銀の髪を優雅にながす、
学生会長ルティアさんが、わたしたちに声をかける。

「ルティアさま並びにギリウス学院のみなさま。
アバウト学院の学生と代表として、まず、このような場をご用意いただき
感謝を述べさせて下さい。」

即座に、ミサールが反応してくれた。
学生代表としてだけではなく、子爵令嬢として、礼儀作法をきたえられている
彼女は、このような場合、まったくまったくそつがない。

「そうですか。それはわれわれの方も、ご一緒ですわ。
お会いできることを楽しみにしておりました。」

「ルティアさま並びにギリウス学院のみなさまにご提案なのですが、
今、新帝国では貴族階級というものが存在いたしません。
それで、・・・ですから、敬語でのやりとりは、これで終わりにしませんか?」

「そうですね。親密さを高めるためには、その方がいいかもしれませんね。」

微笑み合うふたりの才媛さいえん
どうやら、ルティアという女子学生も、
単に、きれいなお人形さんではないらしい。
数十年後には、ミカルの能吏のうりとして、歴史に登場するのかもしれない。

なごやかな空気が流れようとした時に、副会長のレイトから話しが振られる。

「失礼だが、テクトさんも、フレルさんも、エリースさんも、
世が世なら、貴族のご令息であり、ご令嬢なのですか?」

「いいえ、平民ですよ、レイト副会長。」

テクトが即応する。
フレルさんの兄としての姿しか見ていなかったら、温和な人物と思っていたが、
結構 熱い人物らしい。

「レイト副会長!」

ルティア生徒会長から、叫びに似た声がれる。
彼女のほうは、親・貴族至上主義者ではないらしい。

「ルティア生徒会長。今、ミカルの政治不安は、
譜代ふだいの貴族・騎士ではない・・・、
先代、先々代の大公陛下が創設された、新貴族の連中が、王国連合の離反の策に、
易々やすやすと乗せられたことが原因の第一と言えるでしょう。」

「そして、先代公爵さまの、女性たちとのに、
多くの譜代ふだいの貴族・騎士たちが、屈辱・怒り・怨みを内包させていたことは、
確かではありますが、新貴族のほとんどが、寝返っていなければ、
今日のような状況は、むかえていなかったでしょう。」

「レイト、何を言いたいの!いい加減にして!」

再び、ルティア生徒会長の声が、今度は叫びとして聞こえたわ。

「会長。レリウス大公陛下の義弟ジギードさまも叛乱軍に内通されたことは、
今や、知る人ぞ知る事実。」

もうひとりの、フラッドという副会長が、声をあげる。

「不敬よ、フラッド副会長!」

「あなたが、親・貴族主義に傾倒していることは存じていますが、
ここは、そういう意見を述べる場所ではないはずよ。」

「それに、ミカルの柱石ちゅうせきたるトリハ宰相も、騎士階級というより
平民階級の出と言われても、間違いではないはず。
そのような人材の方々を、レリウス大公陛下が、出自に係わらず、
人物・能力で、官吏かんりを選ばれたからの、今のミカルでしょう・・・。」

「ここは、懇親こんしんの話をする場所と、お聞きしましたけど。」

ミサールが、場を収めるべく、助け舟を出した・・・。

「ミサール殿。覚悟ですよ、覚悟・・・。王国連合諸国でもそうでしょう。
われわれ貴族は、物心つく頃から、
国家のために死ぬ教育を、覚悟を植え付けられています。
そして、そのためには、兄弟姉妹であっても排除する人生を、強いられています。」

「そう、のほほ~んと、子供時代を送って来た、そこらにいる平民どもに、
国のためなら、兄弟姉妹でも殺してきた、貴族の覚悟が、
どこにあるかということです。」

「それが、わたしたちと懇親こんしんをと。本当に不愉快だ。
いるにえない。」

エスルとかいう会計長も、親・貴族主義の一員らしい。

「われわれ譜代ふだいの貴族は、一致して、大公陛下に上奏して、親・貴族主義に、
目覚めていただかなくてはならないと、わたくしは思い、
それは神々の意思でもあるように思える。」

みにくさをまとった風が、3人の方から吹いてくる。
気分が悪くなり、わたしはこの場の空気を切りくべく、口を開く。

「・・・語る正義、見せる正義、誇る正義、すくなしかなじん・・・。」

「「「・・・・・・・。」」」

ここにいる全員が、わたしの顔をのぞき込む。

「これは、モクシ教皇猊下げいかの言葉よ!」

「色々と口で語る前に、背中でそれをみせたらどう。」

わたしは、この場を切り収めしたく、思いをまとめる。

「エリースさんの言う通りと、わたしも思います。
エリースさんは、新帝国のために、何度も命の危機を経験されています。
そして、エリースさんは、まごう事無く、平民階級の出です。」

今まで、ひと言の言葉も放たなかった、フレルさんの声が、この場に響いた。
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