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第6章
118,転職と素材
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ギルドマスターの依頼を一応引き受けたわけだが、特に急ぐ依頼でもないので王都に行くのはまだまだ先の話だ。
まずやろうとしていたことを先に済ませてしまおう。
ネーシャのBaseLvが上がった事と、今までのランカスター家での修行の成果で鍛冶師の職を取得していたので転職させることにした。
オレはクラスチェンジの特殊技能があるからいつでもどこでも何度でも転職可能だが、普通の人はそうはいかない。
転職するにはまず教会などに行って神官などの転職のスキルを持っている人にお金を払って転職を使ってもらう必要がある。
転職にもそこそこのお金がかかるし、1度転職してしまえばなかなか変更しないことから大きな街でも2,3人しか転職のスキル持ちの神官はいなかったりする。
ラッシュの街には3人の転職のスキル持ち神官がいる。
うちから1番近い神官がいるところは大教会があるところだ。
ラッシュの街には教会が大小合わせて4つほどあり、その中でも1番大きく立派な教会が大教会だ。そのまんますぎる名称だけれど別に困らないので問題ない。
大教会はその名の通りに大きくて立派で、THE教会といった佇まいだ。
キリスト教の教会っぽく開け放たれた大きな両扉の奥にはたくさんの長いすが設置してあり、祭壇があってシンボルがあり偶像が祭られている。
中では何人かが長いすに座って祈りを捧げていたり、ボーっとしていたり、そこそこ人がいる。
他にもシスター然とした人が何人かと神官っぽい人が2人。どちらも男性だ。
【レーネさん、あの神官っぽい服装の男の人が転職のスキル持ち神官ですか?】
【右側の方がそうですね。この大教会に転職のスキル持ちの神官は1人しかいませんから。
私もホワイトナイトになった時にお世話になりました】
【なるほどー】
右側にいる神官は初老に入ったばかりの渋い感じのおっさんというよりはおじ様という表現があっていそうな感じのナイスミドルだ。
今も冒険者風の装備の女性と話をしている。きっと転職について説明とかしているのだろう。
基本的に転職は頻繁に行うものではないので詳細を知らない人が多い。なので注意点などを説明する必要があるのだろう。
説明を終えて女性が1つ頷いてお金を渡すと神官は何やら詠唱を長々とした後スキルを行使したようだ。
虚空を見つめる女性はきっとオレがクラスチェンジをするときのようにウィンドウが出ているんだろう。
虚空をタッチしてまた虚空を見つめる。
恐らく自分のステータスを出して確認しているのだろう。
すぐに視線を神官に戻してお礼を言った後冒険者風の女性は立ち去って行った。
転職はこれで終わりらしい。
まぁオレの場合も似たようなもんだし、こんなものだろう。
「さて、それじゃネーシャの転職しちゃおうか」
「はい、お嬢様!」
みんなで神官の前まで行くとナイスミドルなおじ様はこちらに笑顔で話しかけてきた。
「ようこそ、大教会へ。ストリングス様、お久しぶりでございます。
本日はどのような御用でしょうか」
「こ、こんにちは……」
ホワイトナイトという上位職に転職するほどの実力者であるレーネさんのことはやっぱり覚えていたようだ。
レーネさんも順調に人見知りを克服し始めているので尻すぼみではあるが挨拶できている。
その様子に少し目を見張っている神官さんが面白い。
きっと転職したときには真っ赤になったレーネさんの声を一言も聞くことはなかったのだろう。その様子がありありと想像できる。
「こんにちは、神官さん。
今日はレーネさんじゃなくてこの子の転職をしたくて来ました」
「これはこれは、こんにちは、お嬢さん方。
転職は初めてかな? 色々と説明をしなければいけないのだが大丈夫かい?」
柔和な笑みを湛えてナイスミドルなおじ様が少し中腰になって目線を下げてくれる。
転職系のスキルは神に信仰を捧げ品行方正でなければ取得できず、1度スキルを取得しても道を外れた行いをするだけでそのスキルを失ってしまうという厳しい物だ。
つまり転職スキルを持っているナイスミドルな神官さんはそれだけで人格が保証された聖人君子というわけでオレ達のような子供にも優しく柔らかく接するのがデフォルトということだ。
「はい、大丈夫です。説明をお願いします」
「わかりました、では説明を致します」
オレの言葉を聞いて子供に対して接する時の優しく柔らかい態度から業務を行う時の誰にでも丁寧に接する態度に切り替わった神官さんが説明を始める。この辺はさすがにプロだ。
説明は見ていた通りにオレのクラスチェンジと大して変わらないものだった。
一部料金の話になったときにレーネさんの方に話を振った程度で、元々お金に関しては心配などする必要性もないので問題ない。
説明を終えてレーネさんではなく、もちろんオレでもなくアルが料金を支払い、神官さんがネーシャに向かって先ほどと同様に詠唱したあと転職のスキルを行使する。
「わぁ……」
「ネーシャ、鍛冶師ちゃんとある?」
「はい! ちゃんとあります!」
ネーシャが虚空を見つめ、初めて見る転職のウィンドウに感動しているのを微笑ましく見守ってあげてから声をかけると、嬉しそうなネーシャの返事が返って来た。
ランカスター家で毎日のように楽しそうに修行しているネーシャにとって鍛冶師というのは最早憧れの職業なのだ。
そんな憧れの職業に転職できる。これが嬉しくないわけがない。
「お嬢様!」
「うん、やっちゃえ!」
「はい!」
キラキラした目でオレを見つめるネーシャに拳を天に向かって突き上げて激励を送るとより一層華やかな笑顔になったネーシャはオレ達には見えないウィンドウを元気よくタップした。
するとオレの目の前にもウィンドウが出現する。
これは事前に神官さんから説明された通りだ。
奴隷は勝手に転職することができない。
転職のスキルで転職可能な職業をタップするとそれを確認するために主に対して確認のウィンドウが出てくるのだ。
もちろんオレはYesのボタンをタップして了承する。これでネーシャの転職は完了だ。
晴れて鍛冶師になったネーシャは転職ウィンドウからステータスウィンドウに切り替わったはずのウィンドウがあるだろう虚空を満面の笑みで見つめている。
「ネーシャ、これからもワタリ様のために励みなさい」
「はい、アル先輩! お嬢様、あたしがんばります!
師匠達みたいな立派な鍛冶師になってみせます!」
虚空を見つめて感動していたネーシャに掛けられたアルの言葉に振り返ったネーシャは今までアルにたっぷりと仕込まれた綺麗な姿勢で頭を下げる。
顔を上げたネーシャの笑顔は今までにないほどに輝いていてやる気がオーラとなって迸っているような錯覚を覚えるほどだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やる気漲るネーシャはうずうずしてしまって狐耳がキョロキョロしてしまっていてなんだか見てるこっちまでうずうずしてしまう。ちなみに尻尾も無意識にぶんぶん振り回してしまうので両手で膝の上で押さえている。
ランカスター家に送っていくときのネーシャも実に楽しそうにしているけれど今日のネーシャはそれを遥かに上回っている。
まぁ憧れの職業になったのだから仕方ないのだろう。
今日は本当は修行もお休みなのだがランカスター家に連れて行ってあげたほうがよさそうだ。
「ネーシャ、ユユさんとこ行く?」
「いいんですか!?」
「ネーシャ」
「す、すみません……お嬢様、アル先輩」
馬車の中でうずうずしっぱなしのネーシャに問いかければそれはそれはキラキラした瞳と狐耳をギュルン、と擬音を盛大に背景に咲かせるくらいの勢いで向けてくる。
そんなネーシャの様子にアルが注意するがこれはまぁ仕方ないだろう。
「まぁまぁ、アル。じゃあユユさんとこ行こうか。
私もゴーシュさんに頼んだヤツの進捗状況知りたいし」
「ありがとうございます、お嬢様!」
今にも抱きついてきそうなほど喜んでいるネーシャだがそこはさすがに自重している。
オレとしては別に抱きついてきてもいいんだけど。
もうネーシャの体は当初のようなガリガリの欠食児童のソレではないのだ。
年頃の女の子の柔らかさと止まっていた時間を取り戻すかのように成長し始めたソレらが非常に気持ちいいのだ。
普段一緒に寝ているのでたっぷりその気持ちよさを堪能しているオレとしては抱きついてこようが今更だ。むしろどんとこいである。
でも寝る時ならいざ知らず、それ以外ではアルの侍女教育を受けているネーシャはしっかりとオレの侍女をしている。
アルは厳しいからね。
そんなことを思っているとランカスター家に到着していつものように店側ではなく、住居側のノッカーを叩く。
いつもはユユさんがオレ達の到着を外で待っているけど、今日は突然来たからそんなことはない。でもすぐにユユさんが出てきて嬉しそうに中に入れてくれる。
さっそくネーシャの転職の報告を受けて2人は工房の方に突撃していってしまった。
まだ鍛冶師Lv1ではあまり変わらないだろうけど、ネーシャには鍛冶神の加護があるから時間がもったいないのだろう。
残されたオレ達も工房に向かい、ゴーシュさんとトトさんに挨拶する。
「おう、よく来たな。おまえさんから預かってるコレだが……正直凄まじいな」
「本当だよ、ワタリちゃん。あんなの一体どこで手に入れたんだい?」
普段はいつでもカンカン何かを叩いている2人が今は何かゴチャゴチャたくさんの器具があるところで素材を熱心に見ながらチラっと一瞥だけして言って来る。
言葉はこっちに向けているのに視線は完全に素材の方に釘付けなのは苦笑するしかない。
2人に渡した素材はもちろん特殊進化個体の素材だ。
しかも狂狼のモノと狂豚鬼――魔結晶8つ持ちの素材両方だ。
特に今ゴーシュさんが見ている狂豚鬼の大爪は4つ持ちだった狂狼の素材を遥かに凌駕する性能を持っている。
ちなみに一緒にゲットした狂豚鬼の神肉はまだアイテムボックスの中だ。鑑定でも食材みたいな文章だったので。
狂豚鬼の大爪の鑑定結果はこんな感じだ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
狂豚鬼の大爪
魔結晶を複数取り込み、異常に強化された爪。
ありとあらゆる全てのモノを引き裂き、木っ端微塵に爆破する。
破損しても凶悪な再生能力で瞬く間に形状を復活させる。
付与効果:回復力+23 瞬間再生
固有スキル:震爆
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
8つ持ちが見せた爆破はこの固有スキルの影響だったようだ。
あの再生能力も健在のようだし、一体どうやって加工するのだろうか実に興味がある。
スキル1つ1つでは黒狼石の短剣には及ばないが他の効果やスキルを合わせれば総合的に上回っている凄まじい性能だ。
これで未加工の素材のままなのだから恐ろしい。
「それでどうでしょう? 加工できそうですか?」
問題はやはり加工だ。
実際に戦って嫌というほどあの再生能力を見せ付けられたオレとしてはそこが気になる。
「今のところ調べてはいるが……どうだろうな。
親父が生きていればなんとかなったかもしれないが、正直難しい」
「その点で言えばネーシャちゃんに期待できるんだけど、まだまだネーシャちゃんの腕では無理だからね。
今すぐどうこうっていうのは無理かなぁ」
やはり現実は厳しい。
超すごい素材が手に入ったから最強装備ゲットだぜ! とはいかないのだ。
素材の加工の段階で躓いているんだから先は遠い。
「じゃあ狂狼の方はどうですか?」
「あぁ、あっちはなんとかなりそうだ。狂豚鬼の素材に比べればまだまだ普通だからな。
……とはいってもなかなかお目にかかれない凄まじい逸品ではあるがな」
「ワタリちゃんの要望通りの物が作れるよ。
料金も前払いで貰っちゃったしね。まさか白金貨なんて出てくるとは思わなかったよ」
「まったくだ。
破滅の牙のリオネットの噂は聞いていたがおまえだったとはな……」
「内緒ですよー?」
「あはは。大丈夫だよ。ほらこないだあった貴族達のアレコレでこっちにも話は来てるから」
ギルドマスターの敷いた緘口令はどうやらランカスター家にも届いているらしい。
まぁかなり隠れているとはいえ、ラッシュの街でもトップクラスの魔道具店だし、ギルドマスターが知らないわけがないからね。
「じゃあ一先ず狂狼の素材の方で注文通りのモノをお願いします」
「任せておけ。狂豚鬼の素材の加工法も見つかり次第連絡を入れよう」
「そっちの方はあんまり期待しないでねぇ~。正直ネーシャちゃん頼りだからさぁ~」
「でもあんまりネーシャに無理させないでくださいね?
あの子は頑張り屋さんだから……」
「もちろんだよ。まだまだユユに任せているからそうそう無理はさせないはずだよ。
まぁそういうわけだから気長に待っててね」
「はい、よろしくお願いします」
特殊進化個体の素材の話もひと段落ついたので世間話や何か面白い魔道具でもないか話してからいつも通りに勝手知ったるランカスター家のリビングでユユさんとネーシャを待つ間ティータイムと洒落込むのだった。
まずやろうとしていたことを先に済ませてしまおう。
ネーシャのBaseLvが上がった事と、今までのランカスター家での修行の成果で鍛冶師の職を取得していたので転職させることにした。
オレはクラスチェンジの特殊技能があるからいつでもどこでも何度でも転職可能だが、普通の人はそうはいかない。
転職するにはまず教会などに行って神官などの転職のスキルを持っている人にお金を払って転職を使ってもらう必要がある。
転職にもそこそこのお金がかかるし、1度転職してしまえばなかなか変更しないことから大きな街でも2,3人しか転職のスキル持ちの神官はいなかったりする。
ラッシュの街には3人の転職のスキル持ち神官がいる。
うちから1番近い神官がいるところは大教会があるところだ。
ラッシュの街には教会が大小合わせて4つほどあり、その中でも1番大きく立派な教会が大教会だ。そのまんますぎる名称だけれど別に困らないので問題ない。
大教会はその名の通りに大きくて立派で、THE教会といった佇まいだ。
キリスト教の教会っぽく開け放たれた大きな両扉の奥にはたくさんの長いすが設置してあり、祭壇があってシンボルがあり偶像が祭られている。
中では何人かが長いすに座って祈りを捧げていたり、ボーっとしていたり、そこそこ人がいる。
他にもシスター然とした人が何人かと神官っぽい人が2人。どちらも男性だ。
【レーネさん、あの神官っぽい服装の男の人が転職のスキル持ち神官ですか?】
【右側の方がそうですね。この大教会に転職のスキル持ちの神官は1人しかいませんから。
私もホワイトナイトになった時にお世話になりました】
【なるほどー】
右側にいる神官は初老に入ったばかりの渋い感じのおっさんというよりはおじ様という表現があっていそうな感じのナイスミドルだ。
今も冒険者風の装備の女性と話をしている。きっと転職について説明とかしているのだろう。
基本的に転職は頻繁に行うものではないので詳細を知らない人が多い。なので注意点などを説明する必要があるのだろう。
説明を終えて女性が1つ頷いてお金を渡すと神官は何やら詠唱を長々とした後スキルを行使したようだ。
虚空を見つめる女性はきっとオレがクラスチェンジをするときのようにウィンドウが出ているんだろう。
虚空をタッチしてまた虚空を見つめる。
恐らく自分のステータスを出して確認しているのだろう。
すぐに視線を神官に戻してお礼を言った後冒険者風の女性は立ち去って行った。
転職はこれで終わりらしい。
まぁオレの場合も似たようなもんだし、こんなものだろう。
「さて、それじゃネーシャの転職しちゃおうか」
「はい、お嬢様!」
みんなで神官の前まで行くとナイスミドルなおじ様はこちらに笑顔で話しかけてきた。
「ようこそ、大教会へ。ストリングス様、お久しぶりでございます。
本日はどのような御用でしょうか」
「こ、こんにちは……」
ホワイトナイトという上位職に転職するほどの実力者であるレーネさんのことはやっぱり覚えていたようだ。
レーネさんも順調に人見知りを克服し始めているので尻すぼみではあるが挨拶できている。
その様子に少し目を見張っている神官さんが面白い。
きっと転職したときには真っ赤になったレーネさんの声を一言も聞くことはなかったのだろう。その様子がありありと想像できる。
「こんにちは、神官さん。
今日はレーネさんじゃなくてこの子の転職をしたくて来ました」
「これはこれは、こんにちは、お嬢さん方。
転職は初めてかな? 色々と説明をしなければいけないのだが大丈夫かい?」
柔和な笑みを湛えてナイスミドルなおじ様が少し中腰になって目線を下げてくれる。
転職系のスキルは神に信仰を捧げ品行方正でなければ取得できず、1度スキルを取得しても道を外れた行いをするだけでそのスキルを失ってしまうという厳しい物だ。
つまり転職スキルを持っているナイスミドルな神官さんはそれだけで人格が保証された聖人君子というわけでオレ達のような子供にも優しく柔らかく接するのがデフォルトということだ。
「はい、大丈夫です。説明をお願いします」
「わかりました、では説明を致します」
オレの言葉を聞いて子供に対して接する時の優しく柔らかい態度から業務を行う時の誰にでも丁寧に接する態度に切り替わった神官さんが説明を始める。この辺はさすがにプロだ。
説明は見ていた通りにオレのクラスチェンジと大して変わらないものだった。
一部料金の話になったときにレーネさんの方に話を振った程度で、元々お金に関しては心配などする必要性もないので問題ない。
説明を終えてレーネさんではなく、もちろんオレでもなくアルが料金を支払い、神官さんがネーシャに向かって先ほどと同様に詠唱したあと転職のスキルを行使する。
「わぁ……」
「ネーシャ、鍛冶師ちゃんとある?」
「はい! ちゃんとあります!」
ネーシャが虚空を見つめ、初めて見る転職のウィンドウに感動しているのを微笑ましく見守ってあげてから声をかけると、嬉しそうなネーシャの返事が返って来た。
ランカスター家で毎日のように楽しそうに修行しているネーシャにとって鍛冶師というのは最早憧れの職業なのだ。
そんな憧れの職業に転職できる。これが嬉しくないわけがない。
「お嬢様!」
「うん、やっちゃえ!」
「はい!」
キラキラした目でオレを見つめるネーシャに拳を天に向かって突き上げて激励を送るとより一層華やかな笑顔になったネーシャはオレ達には見えないウィンドウを元気よくタップした。
するとオレの目の前にもウィンドウが出現する。
これは事前に神官さんから説明された通りだ。
奴隷は勝手に転職することができない。
転職のスキルで転職可能な職業をタップするとそれを確認するために主に対して確認のウィンドウが出てくるのだ。
もちろんオレはYesのボタンをタップして了承する。これでネーシャの転職は完了だ。
晴れて鍛冶師になったネーシャは転職ウィンドウからステータスウィンドウに切り替わったはずのウィンドウがあるだろう虚空を満面の笑みで見つめている。
「ネーシャ、これからもワタリ様のために励みなさい」
「はい、アル先輩! お嬢様、あたしがんばります!
師匠達みたいな立派な鍛冶師になってみせます!」
虚空を見つめて感動していたネーシャに掛けられたアルの言葉に振り返ったネーシャは今までアルにたっぷりと仕込まれた綺麗な姿勢で頭を下げる。
顔を上げたネーシャの笑顔は今までにないほどに輝いていてやる気がオーラとなって迸っているような錯覚を覚えるほどだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やる気漲るネーシャはうずうずしてしまって狐耳がキョロキョロしてしまっていてなんだか見てるこっちまでうずうずしてしまう。ちなみに尻尾も無意識にぶんぶん振り回してしまうので両手で膝の上で押さえている。
ランカスター家に送っていくときのネーシャも実に楽しそうにしているけれど今日のネーシャはそれを遥かに上回っている。
まぁ憧れの職業になったのだから仕方ないのだろう。
今日は本当は修行もお休みなのだがランカスター家に連れて行ってあげたほうがよさそうだ。
「ネーシャ、ユユさんとこ行く?」
「いいんですか!?」
「ネーシャ」
「す、すみません……お嬢様、アル先輩」
馬車の中でうずうずしっぱなしのネーシャに問いかければそれはそれはキラキラした瞳と狐耳をギュルン、と擬音を盛大に背景に咲かせるくらいの勢いで向けてくる。
そんなネーシャの様子にアルが注意するがこれはまぁ仕方ないだろう。
「まぁまぁ、アル。じゃあユユさんとこ行こうか。
私もゴーシュさんに頼んだヤツの進捗状況知りたいし」
「ありがとうございます、お嬢様!」
今にも抱きついてきそうなほど喜んでいるネーシャだがそこはさすがに自重している。
オレとしては別に抱きついてきてもいいんだけど。
もうネーシャの体は当初のようなガリガリの欠食児童のソレではないのだ。
年頃の女の子の柔らかさと止まっていた時間を取り戻すかのように成長し始めたソレらが非常に気持ちいいのだ。
普段一緒に寝ているのでたっぷりその気持ちよさを堪能しているオレとしては抱きついてこようが今更だ。むしろどんとこいである。
でも寝る時ならいざ知らず、それ以外ではアルの侍女教育を受けているネーシャはしっかりとオレの侍女をしている。
アルは厳しいからね。
そんなことを思っているとランカスター家に到着していつものように店側ではなく、住居側のノッカーを叩く。
いつもはユユさんがオレ達の到着を外で待っているけど、今日は突然来たからそんなことはない。でもすぐにユユさんが出てきて嬉しそうに中に入れてくれる。
さっそくネーシャの転職の報告を受けて2人は工房の方に突撃していってしまった。
まだ鍛冶師Lv1ではあまり変わらないだろうけど、ネーシャには鍛冶神の加護があるから時間がもったいないのだろう。
残されたオレ達も工房に向かい、ゴーシュさんとトトさんに挨拶する。
「おう、よく来たな。おまえさんから預かってるコレだが……正直凄まじいな」
「本当だよ、ワタリちゃん。あんなの一体どこで手に入れたんだい?」
普段はいつでもカンカン何かを叩いている2人が今は何かゴチャゴチャたくさんの器具があるところで素材を熱心に見ながらチラっと一瞥だけして言って来る。
言葉はこっちに向けているのに視線は完全に素材の方に釘付けなのは苦笑するしかない。
2人に渡した素材はもちろん特殊進化個体の素材だ。
しかも狂狼のモノと狂豚鬼――魔結晶8つ持ちの素材両方だ。
特に今ゴーシュさんが見ている狂豚鬼の大爪は4つ持ちだった狂狼の素材を遥かに凌駕する性能を持っている。
ちなみに一緒にゲットした狂豚鬼の神肉はまだアイテムボックスの中だ。鑑定でも食材みたいな文章だったので。
狂豚鬼の大爪の鑑定結果はこんな感じだ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
狂豚鬼の大爪
魔結晶を複数取り込み、異常に強化された爪。
ありとあらゆる全てのモノを引き裂き、木っ端微塵に爆破する。
破損しても凶悪な再生能力で瞬く間に形状を復活させる。
付与効果:回復力+23 瞬間再生
固有スキル:震爆
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
8つ持ちが見せた爆破はこの固有スキルの影響だったようだ。
あの再生能力も健在のようだし、一体どうやって加工するのだろうか実に興味がある。
スキル1つ1つでは黒狼石の短剣には及ばないが他の効果やスキルを合わせれば総合的に上回っている凄まじい性能だ。
これで未加工の素材のままなのだから恐ろしい。
「それでどうでしょう? 加工できそうですか?」
問題はやはり加工だ。
実際に戦って嫌というほどあの再生能力を見せ付けられたオレとしてはそこが気になる。
「今のところ調べてはいるが……どうだろうな。
親父が生きていればなんとかなったかもしれないが、正直難しい」
「その点で言えばネーシャちゃんに期待できるんだけど、まだまだネーシャちゃんの腕では無理だからね。
今すぐどうこうっていうのは無理かなぁ」
やはり現実は厳しい。
超すごい素材が手に入ったから最強装備ゲットだぜ! とはいかないのだ。
素材の加工の段階で躓いているんだから先は遠い。
「じゃあ狂狼の方はどうですか?」
「あぁ、あっちはなんとかなりそうだ。狂豚鬼の素材に比べればまだまだ普通だからな。
……とはいってもなかなかお目にかかれない凄まじい逸品ではあるがな」
「ワタリちゃんの要望通りの物が作れるよ。
料金も前払いで貰っちゃったしね。まさか白金貨なんて出てくるとは思わなかったよ」
「まったくだ。
破滅の牙のリオネットの噂は聞いていたがおまえだったとはな……」
「内緒ですよー?」
「あはは。大丈夫だよ。ほらこないだあった貴族達のアレコレでこっちにも話は来てるから」
ギルドマスターの敷いた緘口令はどうやらランカスター家にも届いているらしい。
まぁかなり隠れているとはいえ、ラッシュの街でもトップクラスの魔道具店だし、ギルドマスターが知らないわけがないからね。
「じゃあ一先ず狂狼の素材の方で注文通りのモノをお願いします」
「任せておけ。狂豚鬼の素材の加工法も見つかり次第連絡を入れよう」
「そっちの方はあんまり期待しないでねぇ~。正直ネーシャちゃん頼りだからさぁ~」
「でもあんまりネーシャに無理させないでくださいね?
あの子は頑張り屋さんだから……」
「もちろんだよ。まだまだユユに任せているからそうそう無理はさせないはずだよ。
まぁそういうわけだから気長に待っててね」
「はい、よろしくお願いします」
特殊進化個体の素材の話もひと段落ついたので世間話や何か面白い魔道具でもないか話してからいつも通りに勝手知ったるランカスター家のリビングでユユさんとネーシャを待つ間ティータイムと洒落込むのだった。
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