118 / 183
第6章
117,勇者とドリル
しおりを挟む
ネーシャの取得したスキルはユユさんの助言もあり、一般的な鍛冶全般が可能な構成になった。
ユユさんは基本的に彫金をメインにしているので少し違う。
例えば彫金には筋力はあまりいらないが、鍛造にはそれなりに必要。鋳造にも必要ではあるが鍛造よりはいらないそうだ。
鍛冶全般に必須なのは当然ながら器用であり、これが1番伸ばされた。
魔力や俊敏やMPはほとんど必要ないということでまったく手付かず。だが回復力は持久力にも繋がるので多少伸ばされている。
HPはBaseLvが2に――オレは0スタートだったが一般人は1スタート――なったらまずあげるべきステータスだったようだ。その辺の常識ともいうべきものがなかったためネーシャのHPはずっと初期値のままだった。
初期値でも一般人程度が即死するような攻撃を受ければあまりかわらないが、そんな魔物に出会うということ自体が一般人にとっては稀なので雑魚の攻撃を3,4発受けても問題ない程度にはHPをあげるものらしい。
街でも危険がないわけじゃないからね。
ステータスはこの辺にしてその他のスキルだが、基本的にステータスの増加でポイントを使い切ってしまったので取れたのは少ない。
彫金スキルLv1を代表とした鍛冶系スキルだ。
彫金は結構やっていて鍛冶神の加護のおかげでかなり腕を上げているネーシャでもやはりLv1スタートのようだ。
でもきっとすぐ上がって素晴らしい物を作ってくれるだろう。楽しみだ。
鍛冶Lv1と鋳造Lv1もリストにあったので取得したようだ。
こちらは練習程度にトトさんが教えてくれていたようだ。
鍛冶系スキルはこの3つが基本だそうで、あとはそれぞれ個人でスキルにはない技術を習得していくそうだ。
攻撃系のスキルと違って生産系のスキルは発動させると対象への干渉力が大幅に強化されたり変化したりするものが多いらしい。
ゲームのようにパーッと光って装備完成! とかはないらしい。残念。
尚、予断だが高い装備に刻まれているサイズ調整の刻印は彫金スキルで彫られたものだそうだ。
他にも様々な効果を付与することができる彫金スキルがあるらしい。
ユユさんからお墨付きをばっちり貰うほどの成長力を見せているネーシャにはかなり期待できるだろう。いやうちのネーシャなんだから当然だけどね。
「それにしてもこんなに早くあがっちゃうなんて思わなかったなぁ……。
お父さんから聞いてた話だと丸1日頑張っても1つ上がるかどうかって話だったのに」
「まぁ結構数狩ったし、3人分の祝福の恩恵がありますから」
「そうそれ! Lvを上げやすくする祝福なんて物語に出てくるような祝福持ってるんだもん。びっくりしたよ」
「頑張りましたから、ねぇ~レーネさん」
「はぃ……」
レーネさんも大分慣れてきたのでユユさん相手だったら念話じゃなくてもなんとか話せるようになっている。
穏やかな風が気持ちいいのでまだティータイムは持続したままだ。
テーブルの上には紅茶の他にもアル特製のお菓子もあったのだがもうすでに跡形もない。
アルが出した次の瞬間には狙い済ましたかのように手が伸びてきてすぐなくなってしまった。
普段は遠慮がちなネーシャですら我先にと確保していたのがアルの料理の凄まじさを物語っている。
「それにしてもここは気持ちいいねぇ~……。
魔物がいなければこうしてピクニックに来るのにちょうどいいところだったろうに」
「とはいってもラッシュの街からも結構離れてますからね。なかなか難しいですよ」
「リリンの羽根さまさまだねぇ~……。
……どこで手に入れたの?」
「ふふ……。秘密です」
「ちぇ~」
帰還用魔道具などの凶悪な性能の魔道具に関しては出所は秘密にしている。
ユユさんは知っていたけれど、このクラスの魔道具は知名度が低い。というか便利すぎて秘匿されているというのが正しい。
どこからでもいつでも移動できるというのはまさにチートアイテム以外の何者でもないからだ。
なのでユユさんも好奇心はあるがこちらが秘密といえばそれ以上は突っ込んでこない。
でもやっぱり魔道具店で彫金をやっているユユさんだ。いつかはこのクラスの魔道具を自分の手で作ってみたいのだろう。
言葉には出さないがもっとじっくり見てみたいと目が語っている。
「仕方ないなぁ……。はい、壊したらだめですよ?」
「やったー! ワタリちゃんやさしー!」
新しい玩具を買ってもらった子供のように瞳を輝かせて帰還用魔道具を様々な角度から眺め始めるユユさん。
最初は好奇心が抑えられない瞳だったのがだんだんと職人さんの鋭いソレに変わっていく。
ネーシャもそんなユユさんのことを真剣に見つめ出し始めた。
いや正確にいうならユユさんがどんなところを見て、何を調べようとしているのかを見極めようとしているのだ。
職人の世界は技は盗むものというのがこちらの世界――ウイユベールでも共通事項なのだろうか。
真剣になり始めた2人をしばらく眺めてユユさんが満足したところでラッシュの街へと帰るのだった。
帰還用魔道具を起動させたのはもちろん是非使ってみたいというユユさんだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
屋敷に帰ってユユさんを送ったあと戻るとなぜか応接間にマッチョエルフが居た。腱鞘炎はもう治ったらしい。
「来たか、キリサキ。
おまえのおかげで貴族共を一網打尽にすることができた。今回はその報告と礼をしにきた」
「えぇと……孤児院建設にあたってもぐりこんでくるだろうネズミを一掃するっていう例のアレですか?」
「その通りだ。全てをこちらに委託してくれたおかげでスムーズに進めることができた」
「そうですかー」
「まぁ興味がないのはわかるがおまえ達にも関係あることなんだぞ?」
「はぁ、そうですかー」
「まぁいい。とりあえず報告書はこれだ。礼の方はこっちだ」
「はぁ、ありがとうございます。でもわざわざギルドマスターが来る必要はなかったのでは?」
「あぁ、実はな……。1つ依頼を引き受けてくれないか?」
「お断りしますー」
「話くらいは聞いてくれよ!」
「はぁ……どうぞ」
やっぱり何かあるとは思っていたがギルドマスターからの直接の依頼とは……嫌な予感しかしない。
ちなみに孤児院建設にあたってのアレコレとはこの屋敷は元ランクS冒険者の顎の持ち物だったので色々と探りを入れたい人は多い。
しかも最近その顎が奴隷になったという情報が出回り出したのもあってその筋ではさらに注目を集めていた。
そんな中出た孤児院建設。皆こぞって情報を集める為に様々な人員が送り込まれる事になった。
その中にはラッシュの街を牛耳っている貴族達からの間者も当然ながらいて……。それらを逆に吊るし上げて牽制と排除を実行したのだ。
結果的に冒険者ギルドなどに敵対的だった貴族のうちの大きな権力を持っていた一派が叩き潰された。
それは中級以上の冒険者を多数動員した包囲作戦としてラッシュの街で大騒ぎになるほど大きな出来事にまで発展した。
冒険者ギルドに敵対していたということは当然ながら冒険者からは完全に敵視されていて嬉々として叩き潰したそうだ。
冒険者ギルドを利用する多くの住民達からも協力を得ることが出来、逃げようとした一派も虱潰しにされた。
大騒動に発展させたのは当然ながら故意で、その目的は他の貴族達への牽制。
冒険者ギルドが本気になったらどうなるか、というものを大いに見せ付けることができたようだ。
ちなみに顎は先頭に立って敵の首領を討ち取ったそうな。どうでもいいけど。
さて孤児院建設にあたって起こった事件ではあったが話の通りにオレはノータッチだったので正直どうでもいい。
屋敷の警備も孤児院建設中の警備も全てエンタッシュに任せていたし、実際何ひとつ被害はなかった。
まぁ最初は間者を集めるために色々と審査を緩くして人を集めていたり、その後の再募集ではかなり厳しく審査をして人を集めたりなどは報告を受けていたけれど、正直なところ、あ、そうなんだー程度にしか思っていなかった。
閑話休題。
「それで依頼っていうのは?」
「あぁもう聞いているかもしれないが王都から来ていた勧誘部隊が鉱山街――トルマネトで勇者候補を引き抜いた。
それの見極めを頼みたい」
「トルマネト……? 確かドリ……アリアローゼさんの住んでる街だっけ」
「ほう、さすがに耳が早いな。そのアリアローゼ・シャル・ウィシュラウが勇者候補だ」
「アリアローゼさんが……?」
あのドリルさんが勇者候補?
というか勇者候補って何? この世界って割と平和だって創造神もいってたのに勇者って必要なの?
「……というか知り合いか?」
「えぇまぁ一応」
「ならば話が早いな。アリアローゼ・シャル・ウィシュラウが本物の勇者であるかを見極めて欲しい」
「ギルドマスター、私は勇者の目利きとか出来ませんよ?
頼む相手を間違ってると思うのですけど」
「いや、間違ってはいない。
何せおまえらはアリアローゼ・シャル・ウィシュラウと同じようにシトポーの祝福を受けたんだろう?」
「……どこから漏れたんですかねぇ?」
「冒険者ギルドの情報網を舐めてもらっては困る。だが安心しろ。これは特秘事項として緘口令が敷かれている。
王都のバカ共のように勇者候補として喧伝するようなことは絶対にしない」
ギルドマスターをちょっと睨みつけて見たが、さすがは冒険者ギルドアッシュ支部を纏めるギルドマスター、全然怯みもしない。
「……まぁいいです。
シトポーの祝福を持っているだけでどうやって勇者の見極めが出来るんですか?」
「この辺は簡単だ。アリアローゼ・シャル・ウィシュラウがある程度育ったら本人を見てみればわかるらしい。
文献にはそう書いてあった」
「……はぁ、それは物理的に見ればいいだけなんですか?」
「その通りだ」
「育ったらってことは長期的な依頼なんですよね?」
「もちろんだ。だがシトポーの祝福があるのだから通常よりはずっと早く成長するはずだ」
「まぁ、そうでしょうねぇ。
じゃあもし受けるとしてもすぐに王都にアリアローゼさんを追いかけていくとかそういうのはないわけですね」
「まぁそうなるが、出来れば早めに確認だけでもしておいて欲しいところではある。
どうだ?」
「王都かぁ……。アル、どう思う?」
「ワタリ様の為さりたい様に為さっていただくのが私の喜びにございます。ですがまずはレーネに確認を取るのがよろしいかと」
「そうだね。じゃあまずはレーネさんとも相談してみます。
断っても恨まないでくださいね」
「わかっている。こちらとしても本物かどうかの確認が取りたいだけだからな」
しかし、アリアローゼさんが勇者候補とは……世も末だなぁと思ってしまうのは仕方ないことだろう。
……二つ名はやっぱりドリル勇者だろうか。
ユユさんは基本的に彫金をメインにしているので少し違う。
例えば彫金には筋力はあまりいらないが、鍛造にはそれなりに必要。鋳造にも必要ではあるが鍛造よりはいらないそうだ。
鍛冶全般に必須なのは当然ながら器用であり、これが1番伸ばされた。
魔力や俊敏やMPはほとんど必要ないということでまったく手付かず。だが回復力は持久力にも繋がるので多少伸ばされている。
HPはBaseLvが2に――オレは0スタートだったが一般人は1スタート――なったらまずあげるべきステータスだったようだ。その辺の常識ともいうべきものがなかったためネーシャのHPはずっと初期値のままだった。
初期値でも一般人程度が即死するような攻撃を受ければあまりかわらないが、そんな魔物に出会うということ自体が一般人にとっては稀なので雑魚の攻撃を3,4発受けても問題ない程度にはHPをあげるものらしい。
街でも危険がないわけじゃないからね。
ステータスはこの辺にしてその他のスキルだが、基本的にステータスの増加でポイントを使い切ってしまったので取れたのは少ない。
彫金スキルLv1を代表とした鍛冶系スキルだ。
彫金は結構やっていて鍛冶神の加護のおかげでかなり腕を上げているネーシャでもやはりLv1スタートのようだ。
でもきっとすぐ上がって素晴らしい物を作ってくれるだろう。楽しみだ。
鍛冶Lv1と鋳造Lv1もリストにあったので取得したようだ。
こちらは練習程度にトトさんが教えてくれていたようだ。
鍛冶系スキルはこの3つが基本だそうで、あとはそれぞれ個人でスキルにはない技術を習得していくそうだ。
攻撃系のスキルと違って生産系のスキルは発動させると対象への干渉力が大幅に強化されたり変化したりするものが多いらしい。
ゲームのようにパーッと光って装備完成! とかはないらしい。残念。
尚、予断だが高い装備に刻まれているサイズ調整の刻印は彫金スキルで彫られたものだそうだ。
他にも様々な効果を付与することができる彫金スキルがあるらしい。
ユユさんからお墨付きをばっちり貰うほどの成長力を見せているネーシャにはかなり期待できるだろう。いやうちのネーシャなんだから当然だけどね。
「それにしてもこんなに早くあがっちゃうなんて思わなかったなぁ……。
お父さんから聞いてた話だと丸1日頑張っても1つ上がるかどうかって話だったのに」
「まぁ結構数狩ったし、3人分の祝福の恩恵がありますから」
「そうそれ! Lvを上げやすくする祝福なんて物語に出てくるような祝福持ってるんだもん。びっくりしたよ」
「頑張りましたから、ねぇ~レーネさん」
「はぃ……」
レーネさんも大分慣れてきたのでユユさん相手だったら念話じゃなくてもなんとか話せるようになっている。
穏やかな風が気持ちいいのでまだティータイムは持続したままだ。
テーブルの上には紅茶の他にもアル特製のお菓子もあったのだがもうすでに跡形もない。
アルが出した次の瞬間には狙い済ましたかのように手が伸びてきてすぐなくなってしまった。
普段は遠慮がちなネーシャですら我先にと確保していたのがアルの料理の凄まじさを物語っている。
「それにしてもここは気持ちいいねぇ~……。
魔物がいなければこうしてピクニックに来るのにちょうどいいところだったろうに」
「とはいってもラッシュの街からも結構離れてますからね。なかなか難しいですよ」
「リリンの羽根さまさまだねぇ~……。
……どこで手に入れたの?」
「ふふ……。秘密です」
「ちぇ~」
帰還用魔道具などの凶悪な性能の魔道具に関しては出所は秘密にしている。
ユユさんは知っていたけれど、このクラスの魔道具は知名度が低い。というか便利すぎて秘匿されているというのが正しい。
どこからでもいつでも移動できるというのはまさにチートアイテム以外の何者でもないからだ。
なのでユユさんも好奇心はあるがこちらが秘密といえばそれ以上は突っ込んでこない。
でもやっぱり魔道具店で彫金をやっているユユさんだ。いつかはこのクラスの魔道具を自分の手で作ってみたいのだろう。
言葉には出さないがもっとじっくり見てみたいと目が語っている。
「仕方ないなぁ……。はい、壊したらだめですよ?」
「やったー! ワタリちゃんやさしー!」
新しい玩具を買ってもらった子供のように瞳を輝かせて帰還用魔道具を様々な角度から眺め始めるユユさん。
最初は好奇心が抑えられない瞳だったのがだんだんと職人さんの鋭いソレに変わっていく。
ネーシャもそんなユユさんのことを真剣に見つめ出し始めた。
いや正確にいうならユユさんがどんなところを見て、何を調べようとしているのかを見極めようとしているのだ。
職人の世界は技は盗むものというのがこちらの世界――ウイユベールでも共通事項なのだろうか。
真剣になり始めた2人をしばらく眺めてユユさんが満足したところでラッシュの街へと帰るのだった。
帰還用魔道具を起動させたのはもちろん是非使ってみたいというユユさんだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
屋敷に帰ってユユさんを送ったあと戻るとなぜか応接間にマッチョエルフが居た。腱鞘炎はもう治ったらしい。
「来たか、キリサキ。
おまえのおかげで貴族共を一網打尽にすることができた。今回はその報告と礼をしにきた」
「えぇと……孤児院建設にあたってもぐりこんでくるだろうネズミを一掃するっていう例のアレですか?」
「その通りだ。全てをこちらに委託してくれたおかげでスムーズに進めることができた」
「そうですかー」
「まぁ興味がないのはわかるがおまえ達にも関係あることなんだぞ?」
「はぁ、そうですかー」
「まぁいい。とりあえず報告書はこれだ。礼の方はこっちだ」
「はぁ、ありがとうございます。でもわざわざギルドマスターが来る必要はなかったのでは?」
「あぁ、実はな……。1つ依頼を引き受けてくれないか?」
「お断りしますー」
「話くらいは聞いてくれよ!」
「はぁ……どうぞ」
やっぱり何かあるとは思っていたがギルドマスターからの直接の依頼とは……嫌な予感しかしない。
ちなみに孤児院建設にあたってのアレコレとはこの屋敷は元ランクS冒険者の顎の持ち物だったので色々と探りを入れたい人は多い。
しかも最近その顎が奴隷になったという情報が出回り出したのもあってその筋ではさらに注目を集めていた。
そんな中出た孤児院建設。皆こぞって情報を集める為に様々な人員が送り込まれる事になった。
その中にはラッシュの街を牛耳っている貴族達からの間者も当然ながらいて……。それらを逆に吊るし上げて牽制と排除を実行したのだ。
結果的に冒険者ギルドなどに敵対的だった貴族のうちの大きな権力を持っていた一派が叩き潰された。
それは中級以上の冒険者を多数動員した包囲作戦としてラッシュの街で大騒ぎになるほど大きな出来事にまで発展した。
冒険者ギルドに敵対していたということは当然ながら冒険者からは完全に敵視されていて嬉々として叩き潰したそうだ。
冒険者ギルドを利用する多くの住民達からも協力を得ることが出来、逃げようとした一派も虱潰しにされた。
大騒動に発展させたのは当然ながら故意で、その目的は他の貴族達への牽制。
冒険者ギルドが本気になったらどうなるか、というものを大いに見せ付けることができたようだ。
ちなみに顎は先頭に立って敵の首領を討ち取ったそうな。どうでもいいけど。
さて孤児院建設にあたって起こった事件ではあったが話の通りにオレはノータッチだったので正直どうでもいい。
屋敷の警備も孤児院建設中の警備も全てエンタッシュに任せていたし、実際何ひとつ被害はなかった。
まぁ最初は間者を集めるために色々と審査を緩くして人を集めていたり、その後の再募集ではかなり厳しく審査をして人を集めたりなどは報告を受けていたけれど、正直なところ、あ、そうなんだー程度にしか思っていなかった。
閑話休題。
「それで依頼っていうのは?」
「あぁもう聞いているかもしれないが王都から来ていた勧誘部隊が鉱山街――トルマネトで勇者候補を引き抜いた。
それの見極めを頼みたい」
「トルマネト……? 確かドリ……アリアローゼさんの住んでる街だっけ」
「ほう、さすがに耳が早いな。そのアリアローゼ・シャル・ウィシュラウが勇者候補だ」
「アリアローゼさんが……?」
あのドリルさんが勇者候補?
というか勇者候補って何? この世界って割と平和だって創造神もいってたのに勇者って必要なの?
「……というか知り合いか?」
「えぇまぁ一応」
「ならば話が早いな。アリアローゼ・シャル・ウィシュラウが本物の勇者であるかを見極めて欲しい」
「ギルドマスター、私は勇者の目利きとか出来ませんよ?
頼む相手を間違ってると思うのですけど」
「いや、間違ってはいない。
何せおまえらはアリアローゼ・シャル・ウィシュラウと同じようにシトポーの祝福を受けたんだろう?」
「……どこから漏れたんですかねぇ?」
「冒険者ギルドの情報網を舐めてもらっては困る。だが安心しろ。これは特秘事項として緘口令が敷かれている。
王都のバカ共のように勇者候補として喧伝するようなことは絶対にしない」
ギルドマスターをちょっと睨みつけて見たが、さすがは冒険者ギルドアッシュ支部を纏めるギルドマスター、全然怯みもしない。
「……まぁいいです。
シトポーの祝福を持っているだけでどうやって勇者の見極めが出来るんですか?」
「この辺は簡単だ。アリアローゼ・シャル・ウィシュラウがある程度育ったら本人を見てみればわかるらしい。
文献にはそう書いてあった」
「……はぁ、それは物理的に見ればいいだけなんですか?」
「その通りだ」
「育ったらってことは長期的な依頼なんですよね?」
「もちろんだ。だがシトポーの祝福があるのだから通常よりはずっと早く成長するはずだ」
「まぁ、そうでしょうねぇ。
じゃあもし受けるとしてもすぐに王都にアリアローゼさんを追いかけていくとかそういうのはないわけですね」
「まぁそうなるが、出来れば早めに確認だけでもしておいて欲しいところではある。
どうだ?」
「王都かぁ……。アル、どう思う?」
「ワタリ様の為さりたい様に為さっていただくのが私の喜びにございます。ですがまずはレーネに確認を取るのがよろしいかと」
「そうだね。じゃあまずはレーネさんとも相談してみます。
断っても恨まないでくださいね」
「わかっている。こちらとしても本物かどうかの確認が取りたいだけだからな」
しかし、アリアローゼさんが勇者候補とは……世も末だなぁと思ってしまうのは仕方ないことだろう。
……二つ名はやっぱりドリル勇者だろうか。
0
お気に入りに追加
802
あなたにおすすめの小説
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる