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温もりを君に
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あの時バルトロメオは私の死角ではなく、私そのものを狙ってエリア・ディストーションを発動させたようだ。私を倒すことができないとわかった時点で、何の躊躇もなく自らの生命と引き換えに私を粉砕しようとしたんだよ。
間抜けなことに私はバルトロメオの狙いに気づかず、またもや私の死角にゴブリンを投入しようとしてた。そんなことしたって役に立つわけがない。私はきっとバルトロメオもろともミンチになっていただろう。
二度同じ手は通じないとか思ってたくせに、敵に対しては二度同じ手を使おうとしたなんて愚かにも程がある。それにしても何で・・・何でそんなに簡単に自分の生命を捨てられるんだ?
「怖かった・・・本当に、本当に怖かった」
「ご安心くださいリーファさま。どんな小細工を弄そうと私どもが必ずリーファさまをお守りいたします。」
「怖かったよぉバトラー」
「バトラーめは決してお側より離れることはございません」
「うぅ・・・頼もしい。そうだ、こんなところで泣いてる場合じゃなかった。早く行かなくちゃ。」
生き残ったゴブリンがグラムス市民を襲わないようにホーネットに全て始末させると、まずはヌイユ・エトランゼへ駆けつけた。広場で全滅した兵士は80数名なのだが、残りの10数名はこちらにいたはずなんだ。
「無事か、みんな?」
「リーファじゃないか!」
「あっ!」
ん?何か私に驚くようなことが・・・
「ひゃあっ!」
「あ~・・・捕まったなリーファ。」
「フィ・・・フィニオラ、私へのスキンシップが過ぎる・・・」
いきなり死角から飛びつかれた私は床に転がった。狼娘のフィニオラは今もずっと私を抱きしめての頬ずり攻めを続けている。頬ずりとかはいつものことと言えばいつものことなんだけど・・・それにしても今日のはいつにも増して熱烈だなぁ。
「リーファ成分足りない。やむなし、フィニオラ悪くない。」
「ほらリーファが困ってるだろ、フィニオラ?ちょ、おまっ・・・いま私の手ぇ払っただろ!」
見かねたシエナがフィニオラに手を伸ばすと、面倒臭そうにフィニオラがシエナの手を払いのける。フィニオラからぞんざいにあしらわれたイタチ娘のシエナが激昂した。
「シエナ順番守る。後でフィニオラ相手してやる。待て。」
「誰もオメーのクソ暑苦しいスキンシップなんざ求めてねーわ!」
「ぷ~くすくす、性格ブサイクはフィニオラに抱きしめてもらいなよ。シエナを抱きしめるなんてフィニオラしかいないっしょ。」
「よーし、決めた!そのウサ耳に鶏肉ふん縛ってハイエナの群れん中に放り込んでやる。こっち来いやー、イーリス!」
「うぇーい」
挑発なのか両手の人差し指を上に掲げてイーリスがシエナを挑発している。やおらイーリスとシエナはお互い威嚇しながら接近し、まるでレスラーのごとく手四つで組み合った。
怒りの形相のシエナがイーリスを力でギリギリねじ伏せていくと、イーリスはみるみると弓なりに反り返って大ピンチに陥って行く。
「シエナ、ギブギブ・・・うお~ぅ・・・たしゅけて」
半泣きイーリスの絶体絶命大ピンチを見事にスルーしたエルマがリーファに助け舟を出した。
「ほら、もう十分だろフィニオラ。リーファもまだ忙しいんだ。」
「リーファ血のにおいいっぱい。きっと辛いいっぱい。エルマわかってる・・・おかしい。何で?」
犬の亜人であるエルマもリーファのまとう血のにおいに気づいていないはずはない。そのことに気づいておきながら何故リーファを送り出そうとするのかフィニオラは納得できなかった。群れのメンバーをこよなく愛するフィニオラは拙い言葉ながら精一杯エルマを非難する。
「ありがとフィニオラ、でもこれは私が選んだ道なんだ。そもそもエルマは私を止めてくれたんだよ、だから責めないであげて。辛くても自業自得なんだ。」
「辛い、悲しい良くない。フィニオラいる。いつでも抱きしめる。」
「嬉しいよフィニオラ。」
私も負けじとフィニオラを抱きしめて頬ずりを倍返ししてやった。芯から心が寒くなっていた私にとって、いま何より嬉しい温もりを惜しみなく分けてもらったような気がする。うん、大事な家族を守るためなら私はまだまだ戦えるぞ!
「リーファさま、クーリアにございます。」
「ご苦労さま、クーリア。バトラーから聞いてるよ。みんなを守ってくれてありがとう。」
「ありがたき幸せにございます。ティナさまの部隊とうまく連携できました。」
クーリアがティナの名前を出したところ、まるで思い出すかのようにあちこちから驚きの声が上がり始めた。
「あいつ冒険者だって聞いて秘蔵の鉄板ネタかと今までずっと思ってたけど、ティナって強いんだな。正直、見直したよ。」
それ・・・私も思ってたやつだ。じゃあ何で奴隷商にさらわれて売り飛ばされてるんだろうかって疑ってたんだよね。私、冒険者なんだよアピールがすごくて一緒に冒険者としてパーティーを組んだんだ。初めて本気の動きを見せられた時は私もびっくりしたなぁ。
「それな。ティナが相手を翻弄して的を絞らせなかったんだよ。軍人相手にあんなことできるなんて大した度胸だ。」
「やたらめったら強い槍使いもいたなぁ。敵の魔術を槍に吸収してぶつけ返してたんだ。」
「それってトーラスだよ。すげぇな、そんなことできるのか!」
クーリアだけでもおそらく西方審問騎士団の残党狩りはできたろうけど、蜂たちも一定の被害は免れない恐れはあった。自らの周囲に魔術を展開して臨戦態勢でここを包囲していたらしいし。あいつら下手に仕留め損ねたら、エグい奥の手を出して来るだろうから厄介なんだよ。
ティナたちがかき回して目を引き付けてくれたおかげでこちらの被害は皆無のまま、あっという間に全滅させることができたようだ。
「リーファ知り合いなの?トーラスさまかぁ・・・カッコよかったぁ。」
「パメイラはほんとチョロい女だなぁ。腕っぷし頼みの冒険者なんてみんな女を殴るクソ野郎に決まってるよ。そうでしょ、リーファ?」
「えっ・・・いやぁ、そういうヤツもいるかもだけど・・・」
「まぁそれは措くとして、シンディーはまだ戦ってるんだろ?見てのとおり、ウチはもう大丈夫だから行ってやってくれ。」
「あぁ、行ってくるよエルマ。じゃあ引き続き頼んだよ、クーリア!」
「おまかせあれ。」
「さて行くか。」
「あなたがリーファ=クルーンか?」
私が城門に急行すべく店を出ると、そこには馬に騎乗した男がいた。整った制服からも明らかだが、どうやら中心街にいる衛兵のようだ。それが私に何の用だろう・・・何で私の名前を知っているんだ?
「え?誰?」
「戦時執行部の命で参りました。こちらの馬にて城門までお連れします。」
「あぁ、ニコが手回してくれたの?じゃあお願いしよっかな。」
私は衛兵の手助けで馬にまたがったところ、バトラーが何やら切羽詰まった声を上げているのに気づいた。
「それは本当なのですか、カーネル?」
「どうしたのバトラー?」
カーネルってロミア専属のホーネットだよなぁ。ホーネットはハニービーみたいなコミュニケーション能力は無いのに何故かロミアだけはカーネルと意思疎通できるんだ。
その昔カーネルにロミア護衛の任務終了を申し渡したら、まさかの命令拒絶。バトラーが激怒してカーネル処刑を進言して来たんだけど、そこまでロミアのことが好きならそのままロミア専属で良いよってなったんだ。
その時は私もびっくりしたけど、後にも先にも私の命令を拒絶した蜂はカーネルただ一匹だけ。でもロミアの言うことなら何でも聞くはずだし、カーネルには数百匹の蜂を任せているから危険は無いはずだけど?
「リーファさま!セバルが陥落した模様です!」
「な・・・何だって!」
間抜けなことに私はバルトロメオの狙いに気づかず、またもや私の死角にゴブリンを投入しようとしてた。そんなことしたって役に立つわけがない。私はきっとバルトロメオもろともミンチになっていただろう。
二度同じ手は通じないとか思ってたくせに、敵に対しては二度同じ手を使おうとしたなんて愚かにも程がある。それにしても何で・・・何でそんなに簡単に自分の生命を捨てられるんだ?
「怖かった・・・本当に、本当に怖かった」
「ご安心くださいリーファさま。どんな小細工を弄そうと私どもが必ずリーファさまをお守りいたします。」
「怖かったよぉバトラー」
「バトラーめは決してお側より離れることはございません」
「うぅ・・・頼もしい。そうだ、こんなところで泣いてる場合じゃなかった。早く行かなくちゃ。」
生き残ったゴブリンがグラムス市民を襲わないようにホーネットに全て始末させると、まずはヌイユ・エトランゼへ駆けつけた。広場で全滅した兵士は80数名なのだが、残りの10数名はこちらにいたはずなんだ。
「無事か、みんな?」
「リーファじゃないか!」
「あっ!」
ん?何か私に驚くようなことが・・・
「ひゃあっ!」
「あ~・・・捕まったなリーファ。」
「フィ・・・フィニオラ、私へのスキンシップが過ぎる・・・」
いきなり死角から飛びつかれた私は床に転がった。狼娘のフィニオラは今もずっと私を抱きしめての頬ずり攻めを続けている。頬ずりとかはいつものことと言えばいつものことなんだけど・・・それにしても今日のはいつにも増して熱烈だなぁ。
「リーファ成分足りない。やむなし、フィニオラ悪くない。」
「ほらリーファが困ってるだろ、フィニオラ?ちょ、おまっ・・・いま私の手ぇ払っただろ!」
見かねたシエナがフィニオラに手を伸ばすと、面倒臭そうにフィニオラがシエナの手を払いのける。フィニオラからぞんざいにあしらわれたイタチ娘のシエナが激昂した。
「シエナ順番守る。後でフィニオラ相手してやる。待て。」
「誰もオメーのクソ暑苦しいスキンシップなんざ求めてねーわ!」
「ぷ~くすくす、性格ブサイクはフィニオラに抱きしめてもらいなよ。シエナを抱きしめるなんてフィニオラしかいないっしょ。」
「よーし、決めた!そのウサ耳に鶏肉ふん縛ってハイエナの群れん中に放り込んでやる。こっち来いやー、イーリス!」
「うぇーい」
挑発なのか両手の人差し指を上に掲げてイーリスがシエナを挑発している。やおらイーリスとシエナはお互い威嚇しながら接近し、まるでレスラーのごとく手四つで組み合った。
怒りの形相のシエナがイーリスを力でギリギリねじ伏せていくと、イーリスはみるみると弓なりに反り返って大ピンチに陥って行く。
「シエナ、ギブギブ・・・うお~ぅ・・・たしゅけて」
半泣きイーリスの絶体絶命大ピンチを見事にスルーしたエルマがリーファに助け舟を出した。
「ほら、もう十分だろフィニオラ。リーファもまだ忙しいんだ。」
「リーファ血のにおいいっぱい。きっと辛いいっぱい。エルマわかってる・・・おかしい。何で?」
犬の亜人であるエルマもリーファのまとう血のにおいに気づいていないはずはない。そのことに気づいておきながら何故リーファを送り出そうとするのかフィニオラは納得できなかった。群れのメンバーをこよなく愛するフィニオラは拙い言葉ながら精一杯エルマを非難する。
「ありがとフィニオラ、でもこれは私が選んだ道なんだ。そもそもエルマは私を止めてくれたんだよ、だから責めないであげて。辛くても自業自得なんだ。」
「辛い、悲しい良くない。フィニオラいる。いつでも抱きしめる。」
「嬉しいよフィニオラ。」
私も負けじとフィニオラを抱きしめて頬ずりを倍返ししてやった。芯から心が寒くなっていた私にとって、いま何より嬉しい温もりを惜しみなく分けてもらったような気がする。うん、大事な家族を守るためなら私はまだまだ戦えるぞ!
「リーファさま、クーリアにございます。」
「ご苦労さま、クーリア。バトラーから聞いてるよ。みんなを守ってくれてありがとう。」
「ありがたき幸せにございます。ティナさまの部隊とうまく連携できました。」
クーリアがティナの名前を出したところ、まるで思い出すかのようにあちこちから驚きの声が上がり始めた。
「あいつ冒険者だって聞いて秘蔵の鉄板ネタかと今までずっと思ってたけど、ティナって強いんだな。正直、見直したよ。」
それ・・・私も思ってたやつだ。じゃあ何で奴隷商にさらわれて売り飛ばされてるんだろうかって疑ってたんだよね。私、冒険者なんだよアピールがすごくて一緒に冒険者としてパーティーを組んだんだ。初めて本気の動きを見せられた時は私もびっくりしたなぁ。
「それな。ティナが相手を翻弄して的を絞らせなかったんだよ。軍人相手にあんなことできるなんて大した度胸だ。」
「やたらめったら強い槍使いもいたなぁ。敵の魔術を槍に吸収してぶつけ返してたんだ。」
「それってトーラスだよ。すげぇな、そんなことできるのか!」
クーリアだけでもおそらく西方審問騎士団の残党狩りはできたろうけど、蜂たちも一定の被害は免れない恐れはあった。自らの周囲に魔術を展開して臨戦態勢でここを包囲していたらしいし。あいつら下手に仕留め損ねたら、エグい奥の手を出して来るだろうから厄介なんだよ。
ティナたちがかき回して目を引き付けてくれたおかげでこちらの被害は皆無のまま、あっという間に全滅させることができたようだ。
「リーファ知り合いなの?トーラスさまかぁ・・・カッコよかったぁ。」
「パメイラはほんとチョロい女だなぁ。腕っぷし頼みの冒険者なんてみんな女を殴るクソ野郎に決まってるよ。そうでしょ、リーファ?」
「えっ・・・いやぁ、そういうヤツもいるかもだけど・・・」
「まぁそれは措くとして、シンディーはまだ戦ってるんだろ?見てのとおり、ウチはもう大丈夫だから行ってやってくれ。」
「あぁ、行ってくるよエルマ。じゃあ引き続き頼んだよ、クーリア!」
「おまかせあれ。」
「さて行くか。」
「あなたがリーファ=クルーンか?」
私が城門に急行すべく店を出ると、そこには馬に騎乗した男がいた。整った制服からも明らかだが、どうやら中心街にいる衛兵のようだ。それが私に何の用だろう・・・何で私の名前を知っているんだ?
「え?誰?」
「戦時執行部の命で参りました。こちらの馬にて城門までお連れします。」
「あぁ、ニコが手回してくれたの?じゃあお願いしよっかな。」
私は衛兵の手助けで馬にまたがったところ、バトラーが何やら切羽詰まった声を上げているのに気づいた。
「それは本当なのですか、カーネル?」
「どうしたのバトラー?」
カーネルってロミア専属のホーネットだよなぁ。ホーネットはハニービーみたいなコミュニケーション能力は無いのに何故かロミアだけはカーネルと意思疎通できるんだ。
その昔カーネルにロミア護衛の任務終了を申し渡したら、まさかの命令拒絶。バトラーが激怒してカーネル処刑を進言して来たんだけど、そこまでロミアのことが好きならそのままロミア専属で良いよってなったんだ。
その時は私もびっくりしたけど、後にも先にも私の命令を拒絶した蜂はカーネルただ一匹だけ。でもロミアの言うことなら何でも聞くはずだし、カーネルには数百匹の蜂を任せているから危険は無いはずだけど?
「リーファさま!セバルが陥落した模様です!」
「な・・・何だって!」
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