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奈落の住人
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「何でもお申し付けくださいリーファさま!」
「やる気だねぇ、バトラー。かなりタイミングが難しいんだけど、あいつが瞬間移動する瞬間に私の死角をモンスターで埋め尽くせないかなぁ?」
「私が放ったワーウルフは全て倒されましたので、新たにモンスターを投入することは可能ですが・・・」
「ですが?」
あれ?モンスター投入に何か不都合があるんだろうか。まぁ実際にわからないことは多いっちゃ多いんだけどさぁ。ダンジョンコアを回収したのは良いけどパントリーから取り出せなくなってしまったのは誤算だったね。
でもね、もっと大きな誤算はダンジョンコアがモンスターを生み出したことなんだよ。バトラーによればどうやらダンジョンコアがパントリーの一部を無理くりダンジョン化しようとしているらしい。パントリーにスライムを保管しているという報告を受けた時は意味不明すぎて正直卒倒しそうになったよ。まったく、次から次へと参っちゃうよー。
ほんでもって、このモンスターは見事にバトラーの言うことも聞かないんだ。ん~、しょっぱすぎる!
ただ命令どおりには動かないんだけど、ヘイトコントロールによって襲撃対象だけはぼんやり方向づけることができるらしいんだって。ヒャッホーイ!
さっきも見たように「このような人間を襲え」ってな感じに念じると、モンスターは西方審問騎士団を最優先で襲撃するみたいな感じ?もちろん手近に攻撃しやすい人間がいたらそっちを襲撃する曖昧な範囲指定なんだけどね。周囲に被害を出さないようにコントロールするのはかなり難しいんだ。
そんなわけで、いついかなる時も便利使いできるような代物じゃあない。ん~堂々巡りの末、やっぱりしょっぱい!
「瞬間的に大量のモンスターを投入するとなると雑魚モンスターばかりになりますがよろしいでしょうか?」
「うん、ゴブリンで十分なんだけどイケる?」
「もちろんです!おまかせください。」
「祈りは済んだようだな。」
「ふん、私のためじゃなくてあんたが詠唱を終えるために必要な時間じゃんか。恩着せがましい。」
「では・・・心置きなく死ね」
さてと、どうなるかな?
<ゴキッ!>
「ウギャー!」
リーファの死角に出現したバルトロメオだったが、そこには一瞬前には姿形も無かったゴブリンの群れが存在した。次の瞬間、バルトロメオの悲鳴とともに血しぶきと肉片が辺りに飛び散る。
「うわっ!こうなったか・・・。」
「ギギッ!」
生体の爆砕が収まると、生き残ったゴブリンは邪悪な笑みを浮かべる。腰から下をそっくり失ったバルトロメオにゴブリンたちが襲いかかった。
「このっ、ゴブリンごときが!」
「グッギー!」
バルトロメオは即座に闇雲な速攻魔術を放って周囲のゴブリンを血祭りに上げる。とはいえさすがに魔術制御に失敗したのか、無事だったはずの右腕までズタズタになっていた。
それでもバルトロメオが意識を失わないのは加護の霊薬の効果なのだろうか?あの状態でもまだ戦えるなんて、さすがに目を疑うレベルの出来事だ。これがあれば死ぬ瞬間まで全力で戦えるのではないか?
「ちっ!やっぱりこいつも攻防一体の魔術を使うのか。こんな状態なのに・・・だけどいつまで続くかな?」
「このままではやられる。しかしいま使わずにいつ使うと言うのか!うぐっ!うあぁぁああぁっ!」
「何だアレ?吹っ飛んだ両脚が生えた!」
道具入れから何かを取り出したと思ったら何かを飲み干したよな?ほんと何なんだお前?不死身かよ!
「あぁ・・・ハァ・・・ハァ・・・なに、驚くことはあるまい。お前も見せた奇跡に近いものだ・・・純然たる奇跡ではないがなぁ。」
「何だって?」
「ふふふ、特化部隊の長である私には聖下よりこの世で最も貴重なエリクサーが下賜されている。一度重症を負わせたくらいでは死なんぞ。さすがに二度は無いがね。」
エリクサー?伝説上の代物じゃなかったのか。今のでバルトロメオを仕留められなかったなんて・・・・さすがに心折れそうになって来る。
「なんて厄介なんだ。」
「それはこちらのセリフだ。やはりお前はモンスターまで召喚するのか?」
「さぁな。もうこの際、お前こそ降伏したらどうなんだ?」
どうやらあんたも私と同じく心折れそうらしいな?もうさぁ・・・諦めてよ。ね、お願い!
「あぁ、何たることか。やはりそうなのだな!これは歴史上類例が無いぞ。それだけにとどまらず、このエリア・ディストーションの本質を見抜いて対策まで打ってくるとは・・・底無しの脅威だ。」
エリア・ディストーションは古の賢者が用いた転移魔術などではない。それはあくまで空間をゆがめて距離を限りなくゼロに近づけるものだ。だからこそ歪めた先の座標軸に異物が存在した場合には破局的衝突を生じる。
他方、転移先の空間を確保してからジャンプする転移では衝突など原理的に生じ得ない。魔術理論的に確立されているとおり、そこには天と地ほどの差があるのだ。しかしそれは飽くまで理論上の話。エリア・ディストーションですら実際に使える魔術師などいない。
こんな馬鹿げたことに思い至り実現させるのもクロヴィウスくらいのものだ。常人ならば理解も及ばないはず・・・なのに、たった数回だぞ?たった数回見ただけでこれを看破するというのか!リーファ=クルーン・・・お前は一体?
「ま・・・まぁな。もうエリクサーも無いんだろ?諦めちまえよ。な、命あってのなんとやらだぞ?」
「ふっ・・・ふはは・・・あはははは」
「お、おい?どうしたんだ?気は・・・確かなのか?」
追い込まれすぎて気でも触れたか?相手にもある程度正気でいてもらわないと話ができないじゃないか。
「はっはっは、スマンな。ふと思い出したのだ。」
「怖えな・・・何を思い出したんだ?」
「聖書の一節だ。悪魔というものは今のお前のように弱き心に甘い言葉をささやくのだ。なるほどな・・・聖書というものはこの世で最も正しいものだということを改めて確信させてくれる。ふふふ、この私こそ勝ち目が無いということを悟ったよ。」
やったー!その言葉を聞きたかったんだよー。また延々とワケのわからん攻撃されたんじゃかなわんよねー。こっちの攻撃も通らないしさー。あぁよかったよかったー。
「じゃあ投降するんだな?」
「否、断じて投降などあり得ん。」
「は?どゆこと?」
びっくり仰天したリーファが思わず叫ぶ。てか今の流れでどうしてそんな結論になるの?ねぇ、おかしくない?おかしいよね?
「この身は信仰に殉じる。聖レクスティウスは絶望の内に滅びるにあらず、朽ちぬべき肉塊より永遠の祝福へと飛び立つものなり・・・参る!」
「うわっ、アブねっ!こんにゃろ!」
「ふんっ、短剣さばきがまるでなってないな!こんなもの」
バルトロメオがガントレットでリーファの短剣をはね上げる。さすがに対人戦闘のエキスパートである軍人相手に私の剣筋なんて通じるはずはないってことか。でも私の勝ち筋は必ずしも剣技じゃないんだよぅ!
「ははっ、エリア・ディストーション無しで私に攻撃を当てようなんて甘いんじゃないの?」
「くっ!言ってくれる。精霊、蜂、モンスター、もしやまだ隠しておるまいな?」
「さすがにこれ以上はねーよ。こんなのもう腹いっぱいだ。」
「よし、これにて私の人生は完成された。地上に現れた脅威をあの世で訴えねばならん。聖下への最期のご奉公だ!」
バルトロメオは何か企んでるなぁ・・・覚悟も決めたらしい。いっちょ揺さぶって見ますか?
「こんな狼藉ばかりを命じるヤツに疑問を覚えないのか!」
「お前は世界を背負ってないからそんな気楽なことを言っていられるのだ。お前には聖下の苦しみ、悲しみの数万分の一だけでも刻みつけてくれるわ!喰らえっ」
バルトロメオはウィンドブレードを放った。先程はエリア・ディストーションによる回避潰しコンボの端緒だ。さすがに二度同じ手は食わないよ!
「見えてるっての!」
「終わりだ」
え?違うの!ヤバ・・・
「そんなのお見通しですよ。」
バトラーの声と同時に私はシルフィード・ボルテックスによって一瞬で後方へと連れ去られた。先程まで私のいた場所にはゴブリンのバリケードスクラムが・・・
<グチャッ!>
「た・・・助かった。」
「ご無事で何よりです、リーファさまぁ!」
リーファは青ざめた顔でへたり込む。まさかバルトロメオがさっき用いたエリア・ディストーション対策を逆用して来るなんて思いもしなかった。バトラーが気づいて対処してくれなかったら今ごろ命は無かっただろう。
「ありがとうバトラー、今のはさすがに死ぬかと思ったよ。まさか最期に私もろともエリア・ディストーションで爆砕しに来るなんて・・・」
「やる気だねぇ、バトラー。かなりタイミングが難しいんだけど、あいつが瞬間移動する瞬間に私の死角をモンスターで埋め尽くせないかなぁ?」
「私が放ったワーウルフは全て倒されましたので、新たにモンスターを投入することは可能ですが・・・」
「ですが?」
あれ?モンスター投入に何か不都合があるんだろうか。まぁ実際にわからないことは多いっちゃ多いんだけどさぁ。ダンジョンコアを回収したのは良いけどパントリーから取り出せなくなってしまったのは誤算だったね。
でもね、もっと大きな誤算はダンジョンコアがモンスターを生み出したことなんだよ。バトラーによればどうやらダンジョンコアがパントリーの一部を無理くりダンジョン化しようとしているらしい。パントリーにスライムを保管しているという報告を受けた時は意味不明すぎて正直卒倒しそうになったよ。まったく、次から次へと参っちゃうよー。
ほんでもって、このモンスターは見事にバトラーの言うことも聞かないんだ。ん~、しょっぱすぎる!
ただ命令どおりには動かないんだけど、ヘイトコントロールによって襲撃対象だけはぼんやり方向づけることができるらしいんだって。ヒャッホーイ!
さっきも見たように「このような人間を襲え」ってな感じに念じると、モンスターは西方審問騎士団を最優先で襲撃するみたいな感じ?もちろん手近に攻撃しやすい人間がいたらそっちを襲撃する曖昧な範囲指定なんだけどね。周囲に被害を出さないようにコントロールするのはかなり難しいんだ。
そんなわけで、いついかなる時も便利使いできるような代物じゃあない。ん~堂々巡りの末、やっぱりしょっぱい!
「瞬間的に大量のモンスターを投入するとなると雑魚モンスターばかりになりますがよろしいでしょうか?」
「うん、ゴブリンで十分なんだけどイケる?」
「もちろんです!おまかせください。」
「祈りは済んだようだな。」
「ふん、私のためじゃなくてあんたが詠唱を終えるために必要な時間じゃんか。恩着せがましい。」
「では・・・心置きなく死ね」
さてと、どうなるかな?
<ゴキッ!>
「ウギャー!」
リーファの死角に出現したバルトロメオだったが、そこには一瞬前には姿形も無かったゴブリンの群れが存在した。次の瞬間、バルトロメオの悲鳴とともに血しぶきと肉片が辺りに飛び散る。
「うわっ!こうなったか・・・。」
「ギギッ!」
生体の爆砕が収まると、生き残ったゴブリンは邪悪な笑みを浮かべる。腰から下をそっくり失ったバルトロメオにゴブリンたちが襲いかかった。
「このっ、ゴブリンごときが!」
「グッギー!」
バルトロメオは即座に闇雲な速攻魔術を放って周囲のゴブリンを血祭りに上げる。とはいえさすがに魔術制御に失敗したのか、無事だったはずの右腕までズタズタになっていた。
それでもバルトロメオが意識を失わないのは加護の霊薬の効果なのだろうか?あの状態でもまだ戦えるなんて、さすがに目を疑うレベルの出来事だ。これがあれば死ぬ瞬間まで全力で戦えるのではないか?
「ちっ!やっぱりこいつも攻防一体の魔術を使うのか。こんな状態なのに・・・だけどいつまで続くかな?」
「このままではやられる。しかしいま使わずにいつ使うと言うのか!うぐっ!うあぁぁああぁっ!」
「何だアレ?吹っ飛んだ両脚が生えた!」
道具入れから何かを取り出したと思ったら何かを飲み干したよな?ほんと何なんだお前?不死身かよ!
「あぁ・・・ハァ・・・ハァ・・・なに、驚くことはあるまい。お前も見せた奇跡に近いものだ・・・純然たる奇跡ではないがなぁ。」
「何だって?」
「ふふふ、特化部隊の長である私には聖下よりこの世で最も貴重なエリクサーが下賜されている。一度重症を負わせたくらいでは死なんぞ。さすがに二度は無いがね。」
エリクサー?伝説上の代物じゃなかったのか。今のでバルトロメオを仕留められなかったなんて・・・・さすがに心折れそうになって来る。
「なんて厄介なんだ。」
「それはこちらのセリフだ。やはりお前はモンスターまで召喚するのか?」
「さぁな。もうこの際、お前こそ降伏したらどうなんだ?」
どうやらあんたも私と同じく心折れそうらしいな?もうさぁ・・・諦めてよ。ね、お願い!
「あぁ、何たることか。やはりそうなのだな!これは歴史上類例が無いぞ。それだけにとどまらず、このエリア・ディストーションの本質を見抜いて対策まで打ってくるとは・・・底無しの脅威だ。」
エリア・ディストーションは古の賢者が用いた転移魔術などではない。それはあくまで空間をゆがめて距離を限りなくゼロに近づけるものだ。だからこそ歪めた先の座標軸に異物が存在した場合には破局的衝突を生じる。
他方、転移先の空間を確保してからジャンプする転移では衝突など原理的に生じ得ない。魔術理論的に確立されているとおり、そこには天と地ほどの差があるのだ。しかしそれは飽くまで理論上の話。エリア・ディストーションですら実際に使える魔術師などいない。
こんな馬鹿げたことに思い至り実現させるのもクロヴィウスくらいのものだ。常人ならば理解も及ばないはず・・・なのに、たった数回だぞ?たった数回見ただけでこれを看破するというのか!リーファ=クルーン・・・お前は一体?
「ま・・・まぁな。もうエリクサーも無いんだろ?諦めちまえよ。な、命あってのなんとやらだぞ?」
「ふっ・・・ふはは・・・あはははは」
「お、おい?どうしたんだ?気は・・・確かなのか?」
追い込まれすぎて気でも触れたか?相手にもある程度正気でいてもらわないと話ができないじゃないか。
「はっはっは、スマンな。ふと思い出したのだ。」
「怖えな・・・何を思い出したんだ?」
「聖書の一節だ。悪魔というものは今のお前のように弱き心に甘い言葉をささやくのだ。なるほどな・・・聖書というものはこの世で最も正しいものだということを改めて確信させてくれる。ふふふ、この私こそ勝ち目が無いということを悟ったよ。」
やったー!その言葉を聞きたかったんだよー。また延々とワケのわからん攻撃されたんじゃかなわんよねー。こっちの攻撃も通らないしさー。あぁよかったよかったー。
「じゃあ投降するんだな?」
「否、断じて投降などあり得ん。」
「は?どゆこと?」
びっくり仰天したリーファが思わず叫ぶ。てか今の流れでどうしてそんな結論になるの?ねぇ、おかしくない?おかしいよね?
「この身は信仰に殉じる。聖レクスティウスは絶望の内に滅びるにあらず、朽ちぬべき肉塊より永遠の祝福へと飛び立つものなり・・・参る!」
「うわっ、アブねっ!こんにゃろ!」
「ふんっ、短剣さばきがまるでなってないな!こんなもの」
バルトロメオがガントレットでリーファの短剣をはね上げる。さすがに対人戦闘のエキスパートである軍人相手に私の剣筋なんて通じるはずはないってことか。でも私の勝ち筋は必ずしも剣技じゃないんだよぅ!
「ははっ、エリア・ディストーション無しで私に攻撃を当てようなんて甘いんじゃないの?」
「くっ!言ってくれる。精霊、蜂、モンスター、もしやまだ隠しておるまいな?」
「さすがにこれ以上はねーよ。こんなのもう腹いっぱいだ。」
「よし、これにて私の人生は完成された。地上に現れた脅威をあの世で訴えねばならん。聖下への最期のご奉公だ!」
バルトロメオは何か企んでるなぁ・・・覚悟も決めたらしい。いっちょ揺さぶって見ますか?
「こんな狼藉ばかりを命じるヤツに疑問を覚えないのか!」
「お前は世界を背負ってないからそんな気楽なことを言っていられるのだ。お前には聖下の苦しみ、悲しみの数万分の一だけでも刻みつけてくれるわ!喰らえっ」
バルトロメオはウィンドブレードを放った。先程はエリア・ディストーションによる回避潰しコンボの端緒だ。さすがに二度同じ手は食わないよ!
「見えてるっての!」
「終わりだ」
え?違うの!ヤバ・・・
「そんなのお見通しですよ。」
バトラーの声と同時に私はシルフィード・ボルテックスによって一瞬で後方へと連れ去られた。先程まで私のいた場所にはゴブリンのバリケードスクラムが・・・
<グチャッ!>
「た・・・助かった。」
「ご無事で何よりです、リーファさまぁ!」
リーファは青ざめた顔でへたり込む。まさかバルトロメオがさっき用いたエリア・ディストーション対策を逆用して来るなんて思いもしなかった。バトラーが気づいて対処してくれなかったら今ごろ命は無かっただろう。
「ありがとうバトラー、今のはさすがに死ぬかと思ったよ。まさか最期に私もろともエリア・ディストーションで爆砕しに来るなんて・・・」
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