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セバル買い出し組

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「そんな・・・冗談にも程があるのです!」

ニコが突如として椅子から立ち上がるや叫ぶ。いきなりのことに市庁舎の会議室に居並ぶ市当局幹部に緊張が走った。市長とトマソンも驚いて目を丸くしている。

「ニコ殿、いきなりどうしたのだ?」

「もしや外壁が突破されたのか、ニコ?」

「たしかに現状で城壁も劣勢なのですが、私たちの今後にとって深刻な打撃なのです。」

めずらしくニコの歯切れが悪いな。さっきも驚かされたが、まだワシらに事前の覚悟を促して来るとは相当なことなのだろう。

「深刻な打撃・・・城壁が突破されること以外で?」

「セバルが陥落したのですよ。」

「何ぃ~っ!」

「何と!セバルを・・・やはり別働隊がいたということですなぁ。しかしそうなると西方審問騎士団の狙いは一体何なのでしょう?戦力を分けてまで同時にセバルを落とさねばならない理由など・・・」

全く想像だにしていなかったトマソンがそのまま絶句して固まっている。だが市長のケストンは思考停止に陥っている場合ではないとばかりに善後策を思案する。

するとニコがまた驚いた声を上げた。どういう仕組みなのかケストンにはサッパリだが、先ほどからニコ=ボーシャという少女は全体の戦況を地図上に展開しながらしきりに指示を飛ばしている。当局スタッフは次から次へと支援やロジスティクスに走り回っていた。
全体を見通しているニコにとってもセバルのことは想定外のことのようだが・・・

「大船団であっという間に上陸したのですか?」

「海からだと?待て待て、何かの間違いではないのか?陸上からの侵攻ならまだしも海からなど不可能だ!」

「拠点防衛兵器スキュラが攻略されたということでしょうか?西方審問騎士団がそんな強力な海軍力を持っているなど聞いたことありませんぞ。」

「ニコよ、こと海からの侵入に対するセバルの防備は並の軍港などはるかに凌ぐのだぞ?こないだユグルト伯が差し向けた偽海賊だって港湾を突っつくことすらできなかったくらいだ。今まで一度たりとスキュラが突破された例など無いのに。」

「そんなの私が知ったこっちゃないのです。海か陸かに関わらず、とにかく占領されてしまったのですぅっ!」

「むぅ・・・たしかに今はそんなのどうでも良い。どうしたものか」

驚いてばかりでまったく頭が働かん。ワシもいい加減ここで役に立たんと。

「西方審問騎士団の旗とは違うみたいなのです。双頭の・・・蛇?竜みたいなのです?」

「アンフィスバエナか!」

「アンフィスバエナ?一体それは何なのです、市長?」

「双頭の蛇はアンダシルヴァ王家であるブラド家とセンダルタ家の融合を表しているのだよ。なるほどそういうことか。しかし今このタイミングとは・・・」

***

その頃、件のセバルではタヌキ娘が頭を抱えて叫んでいた。宿屋3階の部屋の窓から外を覗くと信じられない光景が広がっているではないか。

「アカン、めっちゃマズいでロミア!何や知らんけどウチらの泊まっとる宿屋を包囲しよんでアイツら。」

「う~ん・・・何だろうね、マリン?」

「何でそんなポヤ~ンとしてられんねんな?も~ヤ~バ~イ~」

どうにもならなすぎて騒いでも仕方ない。ロミアはとりあえずハニカムパントリーからお茶セットを取り出すと、優雅にお茶を飲み始めた。

「斥候の報告では数千人はいるようだ。だが安心しろ、全滅しようともロミアだけは守り抜く。」

「ありがとうカーネル。でもみんなで助かる道だってまだいくらでもあるはずだよ。私とマリンだけ助かったってリーファに会わせる顔が無いんだぁ。」

「私はエンプレス=メリッサリーファさまよりロミアを守れと厳命されている。いざその時となれば手段は選ばない。」

「カーネルがいなくなったら悲しいなぁ。だから~、まずは何より話し合いだよ。」

カーネルとはココまで二人三脚でやってきた。私がいろんな事任されるのもカーネルがいてくれてこそなんだ。カーネルの能力は十分なほどわかっているけど、戦わせるだけが全てじゃないよね。大切な友達カーネルのためにも上手く乗り切らないと。

「はわわわわ・・・わ、わかった。こ、今回だけなんだからね。う、嬉しいとか・・・べべ別にそんなんじゃないんだからね。」

「うん。」

「厳重な包囲や・・・何の変哲もない宿屋やん?こんなとこ誰ぞVIPでもおるんか?去ね、よそ行け~あほんだら!」

<コンコン>

周囲はネズミ一匹通さない包囲網が敷かれている。一体何のためかサッパリわからない。

だが無情にも叩かれたのはロミアが宿泊する部屋の扉だった。部屋を間違っているんじゃないのか?疑問を感じるロミアの横ではノックの音にマリンが取り乱していた。

「うわぁ、来たぁ~!・・・せや、葉っぱ。ウチの葉っぱどこや?」

「ハイ、マリン」

「そうそうコレコレ。コレをウチの頭に乗せまして~小粋に変身マジカルマリンちゃん・・・って、変身でけるかぁっ!サッパやコレ!美味しい美味しいお魚さんやんけ!」

わかっとってもついやってまう・・・こんな時までほんま悲しいサガやで。
サッパを勢いで投げてしまうのを思いとどまったマリンの後ろをスルリと小走りでロミアが駆けて行った。

「ハ~イ」

「ドアホ、居留守使わんかい!も~何でそない簡単にドア開けてまうんや~ロミア~」

「ロミアさまでございますね?」

「え?・・・あっ、ハイ。」

どういうわけかロミアの眼の前には執事が立っている。鎧を着込んだ兵士ばかりの中でひときわ異様な存在だった。

「ロミア・・・さま?そら・・・どーゆーこっちゃ?」

「主命によりお迎えに上がりました。ご同行いただけますか?」

とりあえず話はできそうやし、ここでガツンと言うといてウチらに主導権渡してもらわんとなぁ。よっしゃ、ここはマリンさんにまかしとき!

「なぁ、おっちゃん。ウチらみたいな可憐なレディーに対してこない剣呑なエスコート、なんぼ何でもあんまりやで?」

「このような手荒な訪問になりましたこと、心よりお詫び申し上げます。ただ言い訳をさせていただくならば、我々もロミアさまを見守る伏兵を恐れているのです。今もどこかに潜ませておられるのでは?」

相手の反応をうかがうように執事はロミアの顔色を見る。ロミアはきょとんとしているが、ホーネット=ファントムで隠蔽しているカーネルは敏感に反応した。

「ロミアを守る私たちの存在に気づいている?・・・いや、あの口ぶりから察するに正体をつかんではいないようだ。」

「せや、ウチらを怒らせたら後が恐いで~。」

「肝に銘じておきます。どうかご同行を。」

「じゃあ行こう、マリン?」

「いや、即決かいっ!も~何でやのロミア?ここは散々と勿体つけてこのおっちゃんからエエ条件を引き出す場面やんか。そんなんアカンに。」

「う~ん、でもゴネる場面はココじゃないと思うんだぁ。この人も主命を逸脱する譲歩はできないと思うよ~?」

「さよか?・・・なるほど。ほなウチもそうしょう。」

<ゴクリ>

何だ、この違和感は?彼女の醸し出す雰囲気からは想像もできない程に穏当ならざる発言だ。この我々を前にして値踏みしているのか?実に不愉快だが、力こそあれ世間知らずの小娘に違いないと相手を軽んじていたのは私とて同じ。もう油断はするまい。
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