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六◆偽りの過去

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「そー……じ?」

 子供たちは驚きのあまり声を出すのも忘れ、沖田から後ずさった。その場で尻もちをつく子供もいた。沖田のその見たこともないような表情に――千早の消えた先を鋭く見つめ、その顔を引きつらせる沖田の姿に――子供たちは恐怖した。

「……ふっ、うぇ」
 そしてとうとう、一人の子供が嗚咽を漏らした。「そーじ」と震える声で呟き、そのまま泣き出す子供。その泣き声に、沖田は――。

「……あ?」
 ハッとした様子で視線を左右に揺らし、声のする方を見下ろせば、一人の子供が自分を見上げ泣いていた。その姿に沖田は我に返る。僕は一体、今何を考えていたんだ――と。

「おこってるん……?」
 呟かれたその言葉に周りを見回せば、そこには蒼い顔で自分を見上げる子供たちがいた。怯えた様子で自分を見つめる、可愛い子供たちがいた。


 ――何やってるんだ、僕。
 沖田は自分自身に怒りすら感じながら、乱れた心を押し鎮める。帝が目覚めたという事実と、自分に一言も告げずにこの場を去った千早に感じた強い焦燥感を、心の奥底に抑え込もうとした。

 沖田は「ふっ」と短く息をはいて、子供たちに近づく。「怒ってないよ」と笑顔を浮かべ、優しく手を差し伸べた。子供たちの頭を撫で――彼らを強く抱きしめる。

「ごめんね、皆。怖がらせちゃったよね。僕、ちょっと驚いちゃって」
「そうじ、こわいん……?」
「怖くないよ。びっくりしただけ」
「……ほんまか?」
「うん、本当だよ」
 答えながら、沖田は思う。

 遂にこの時が来てしまった、と。秋月が目覚めたということは、つまり、これで二人の正体がはっきりすると言うことだ。今まで有耶無耶になっていた彼らの処遇が決まるということだ。――なぜなら土方さんは、男である秋月帝には絶対に容赦などしないから。
 秋月の語る内容によっては、今日が千早との別れの日になる可能性だってあるのだ。

 沖田は子供たちを抱きしめながら、両目を固く閉じる。
 覚悟を決めなければ、自分はしっかりしなければ。例え土方さんが、どんな選択を下そうとも。

 沖田は立ち上がる。子供たちに別れを告げて、屯所の方角をかえりみた。

「――行こうか、日向ちゃん」
 そう呟いて、沖田は歩き出す。

 その横顔は怖いほどに真剣で、――日向は理由のないざわめきを胸に覚えながら、急いで沖田の背中を追いかけた。
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