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五◆京の都
九
しおりを挟む「――千早」
沖田は後悔していた。今朝の自分の言葉を、深く悔いていた。「先に行く」――たったそれだけの言葉で、彼女を置き去りにしてしまったことを。咄嗟のことだったとは言え、日向と二人なら大丈夫だろうと思ってしまった、その時の自分自身の甘すぎる考えを。
沖田の脳裏に過るのは、先ほどの日向の青ざめた表情。――そうだ、千早だけでなく、日向もこの町は初めてなのだ。日向だって、自分らや千早とはぐれて心細かったに違いない。彼女にも本当に悪いことをしてしまった。
「――くそ」
――どこに居るんだ。
千早のことなどどうでも良い筈なのに。どうなったっていいと思っていた筈なのに。どうしてこんなにも不安になるのか。二週間――。まだ出会ってたった二週間しか経っていない。それなのに、一体どうして。
――ああ、イライラする、腹が立つ。こんなことなら最初から殺しておけばよかった。そうすればこれほど気持ちを揺さぶられることなどなかったのに。彼女と言葉を交わさなければ、共に過ごしていなければ、こんな気持ちになることなんてなかったのに。
「……大ッ嫌いだ」
こんなにも気になる。まだ出会ってほんの二週間のあの少女のことが、これほどに。
生意気で強情で、何も出来ないくせに口だけは一人前で、僕の気を煩《わずら》わせてばかりのあの少女のことが、どうしても、――どうしても気になって仕方がない。
嘘つきで、強がりで、寂しがり屋で泣き虫で――そんな自分を隠し通せている気になっている彼女が腹立たしくて仕方がない。
近藤さんや土方さんの為に、僕だけは非情でいなければいけないのに。彼女を監視しなければならないのに。そうとわかっていても、彼女と一緒にいると楽しくて心地よくて――もっと知りたいと思ってしまう。あの軽口をずっと聞いていたいと願ってしまう。
「……千早、僕は――」
僕は君を殺そうと思った。確かに――最初はそう思った。だってあの夜の君の小太刀の構えは、確かに本物だったから。恋人の為に涙を流す君を、美しいと思ってしまったから。殺しておかなければ、興味を持ってしまうと本当はわかっていたから。
――嗚呼、それなのに。
何度傷つけたって、君は僕を避けなかった。あんなに酷いことをした僕から、決して君は逃げなかった。それどころかもっと向かってきた。僕の目を真っ直ぐに見て、絶対に逸らさなくて。
――そんな君だから、僕は……。
沖田は夢中で通りを駆ける。千早の姿だけを探して走った。彼女のことだけを思ってただ無心で足を動かした。
必ず君を見つけてみせる、と――それだけを心に誓って。
そして、そんな沖田の思いが天に通じたのだろうか。遂に沖田の視線が――千早の姿を捕えた。
「――っ」
ああ、間違いない、彼女だ――。
そう思った沖田の右手が、千早に向かって伸ばされる。
「千早ッ!」
気付けば、自然にその名を呼んでいた。
「……沖田、さん?」
そうして沖田が我に返ったときには、千早が目をこれでもかと見開いて、じっと自分を見上げていた。
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