桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

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五◆京の都

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◇◇◇

 今よりほんの少し前――四条河原まで戻った沖田は千早の姿を探していた。

「――居ないか」
 沖田は人込みを搔き分けて走る。いつものように隊列を成しているわけではないからか、新選組の沖田を避ける者はいなかった。それどころか普段は彼らを避けている町民らが、今は沖田に奇異の目を向けている。恐らく単独行動をしている沖田を不信に思っているのだろう。

 沖田はその視線をわずらわしく思いながらも、決して羽織を脱いだりはしなかった。槍は平隊士の一人に預けてきたとは言え、あくまで今は巡察中。それに、これを脱げば千早が自分を見つけられなくなってしまうと考えたからだ。

 けれど、いくら探しても千早を見つけることは出来なかった。

 ――やはり、一人で帰ったか? 
 沖田は通りを走りぬけながら考える。

 軒下や狭い路地裏など人がとどまれそうな場所はあらかた探したが、千早の姿はどこにもない。そもそもここを最初に離れてから半刻以上が経過しているのだ。既に屯所に戻っていると考えるのが妥当だろう。自分ならそうするし、他の誰もがきっとそう考える。それに彼女とて子供ではないのだ。いくら町歩きが初めてとは言え、自分の面倒ぐらい自分で見られる筈。
 それに冷静に考えれば、自分がここまでしてやる必要も、その責任もないのだから。――しかし。

 自分は今朝、彼女に言ってしまった。「決して自分の傍を離れるな」と。もしも彼女が今でもその言葉を守ろうとしていたら、どうだろう。今も自分を探し続けているかもしれない。その果てに、道に迷ってしまっているかもしれない。あるいは、先程のような揉め事に巻き込まれている可能性もある。彼女の場合、正義感と無鉄砲さから自ら危険に飛び込んでいくことも有り得る。
 もしも万が一、本当にそのような状況に陥っていたとしたら……。
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