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五◆京の都
四
しおりを挟む――大丈夫。沖田は京の町が危険だと言っていたが、四条通は人も多く、見た感じでは安全そうだった。それに自分は子供では無いし、男の格好をしている。だからきっと大丈夫。
後で沖田や土方には怒られるだろうが、はぐれてしまったものはどうしようもないのだから。潔く怒られるしかない。
彼女はその場から踵を返し、もと来た道を戻ろうとした。
――が、そんなときである。
突然、「ねえちゃん」という幼い声が聞こえ、袴が引っ張られるような感覚を覚えた。ねえちゃんとは自分のことだろうかと驚いて千早が足元を見下ろせば、そこには幼稚園児くらいの少女が、泣きながら自分を見上げているではないか。
「にいちゃんがおらへんの」
その子は涙をぼろぼろ流しながら言った。白地に赤の麻の葉模様の着物に、黄色い帯をしめた、まだほんの幼い少女。どうやらこれは迷子の様である。
千早は内心、タイミングが悪すぎる、と思った。まず、どうして私なのか、他にも大人はまわりに沢山いるのに。そもそも泣きたいのはこちらの方である。今の自分は迷子と呼んでも過言ではない状況にいる。つまり、迷子の世話をしてやれるほど余裕のある状況ではないのだ。
それに今の自分は断じて姉ちゃんではない。男の姿をしているのだから兄ちゃんと呼んでもらいたい。そうでなければ周りに誤解を与えてしまうではないか。
――千早は数秒の間にいろいろなことを考えた。けれど結局、こんな幼い少女を無視するわけにもいくまいと、彼女は自分の心を落ち着けてから、その場に膝をつく。
「あなたの名前は?」
「……たえ」
「そう。妙ちゃんって言うんだね。お母さんは一緒じゃないの?」
「おっかさんはおらん。にいちゃんときたん」
「そっか」
どうやら子供だけで来たようである。兄ちゃんとやらがいったいいくつか知らないが、こんな小さな子供から目を離しちゃだめだろう。
「わかった。一緒に探してあげるね。おにいちゃんの名前はわかるかな?」
「……きへい」
「喜平君ね、よし。大丈夫だよ、ちゃんと見つかるからね」
「……うん」
千早は少女を安心させようと微笑みかけて、立ち上がる。そうして少女の手を取ると、その兄を探す為に歩き出した。
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