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五◆京の都
三
しおりを挟む「ねぇ日向、あのチラシなんだけど……」
千早はその衝撃的なチラシに目を釘付けにして、隣にいる筈の日向の袖を引っ張ろうとした。――が、その手は虚しく空を描く。
「……あれ、日向?」
おかしいな。そう思った千早が隣を見れば、なんと日向の姿が消えているではないか。
「ひ、日向!? ちょ……沖田さん! 日向が、日向がいません!」
もしやはぐれてしまったのだろうか。千早は慌てて沖田を呼び止めようとした。――が、それは叶わない。なんと、振り向いた先には沖田どころか、隊士の姿は一人も無かったのである。
瞬間、千早は悟った。つまり、はぐれたのは日向ではなく、自分の方だということに。
「嘘……」
瞬間、千早は青ざめた。
――やばい、やばいやばいやばい。だって、はぐれるなって言われてたのに!
千早は必死に辺りを見回す。すると、――居た。数十メートル先に、見慣れた浅葱色の集団が。槍が人ごみから頭一つ突き出ていて見つけやすい。
ああ、それにしてもよかった。彼女はほっと胸を撫でおろす。まさかこんなに一瞬ではぐれるとは思わなかったけれど、今ならまだ直ぐに追いつける、と。
が、その想いはいとも簡単に打ち砕かれた。隊を追いかけ始めてしばらくしても、どういうわけか全く追いつけないのである。それどころか、差はどんどん開いていくばかり。
だがそれは当然のことだった。皆に恐れられる新選組は、道を譲られる――正しくは避けられる――のに、自分は人を掻き分けながら進まなければならないのだから。
「ちょ……日向! 沖田さん!」
往生際悪く叫んでみても、その声が届く筈もなく、周りの騒音にあっという間にかき消されてしまう。
「……どうしよう」
千早はとうとうその場に立ち止り、途方にくれた。今は巡察の最中だ。自分がいないことに気付いても、きっと戻って探してくれはしないだろう。とするなら残った道は、自分で屯所に戻るか、もしくは道をショートカット、つまり先回りして隊と合流するかしかない。
「よし、帰ろう」
千早は考えた末、屯所に戻ることにした。来た道なら戻れる自信があるが、先回りする自信はいまいちなかったからである。
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