鬼精王

希彗まゆ

文字の大きさ
57 / 59

風邪と鬼精鬼

しおりを挟む


その夜、架鞍くんにしこたま怒られた。さんざん説教をされた。

けれど、どこでなにをしていたかについて、わたしはほんとうのことを言わなかった。これ以上みんなに心配をかけてはいけないと思ったし、なんとなく、鬼精鬼とのことは秘密にしておきたかった。──こんなことを考えるのは、ばかげたことだとわかってはいるのだけれど。


みんなはそれぞれわたしに気遣ってくれたらしく(それか、架鞍くんがなにか話したのかもしれない)、その夜は庭で花火をやった。

霞がスイカを切ってくれて、禾牙魅さんと一緒に線香花火をして。架鞍くんは、大きな打ち上げ花火を夜空に打ち上げてくれた。


このまま架鞍くんと一緒になれたら幸せなんだろう、と思う。そうしたら鬼精鬼にこれ以上振り回されることもない、と。けれどそう思うと心のどこかが、きゅんと切なく疼くのだった。





翌朝起きた時から、身体がだるかった。気のせいか、意識も朦朧としている。

なんだろう、やっぱり風邪でも引いたのかな。


それでも朝食をとろうとリビングへ行ったとたん、ぐらりと視界が傾いて──キッチンにいた霞が何か叫んだけれど、わたしの意識は闇の中に沈んでいった。





わたしはそのあと、どうやら自分の部屋に連れてきてもらったらしくて。

気がつくと、ベッドの上で荒く息を吐いていた。

ちょっと苦しい……いつもの風邪よりも、ひどいみたい。

いい香りが漂ってきてゆっくり目を開けると、お盆を持った架鞍くんがいた。


「夏風邪は馬鹿が引くってホントだよね」


抗議したいのに、息苦しくてうまく声が出ない。


「……いつもの反論が返ってこないとけっこうつまらないな。力使えば一発で治るけど、人間界に来ると力の使用にも制限つけられてそれ破るとまずいからできないし」


架鞍くんはベッドの脇に座り、持ってきたお粥と何か薄いピンク色の飲み物をベッドの脇の台に置く。


「おかゆ……架鞍くん、作ってくれたの……?」


どうにか声を出すと、架鞍くんはちょっと視線をさまよわせた。


「あんたが風邪引いたのって一昨日のアレのせいだろ。霞に勘付かれてお前が看病しろって禾牙魅にも言われたから」


言われて、わたしも思い出す。雨の中での、あの密事──とたんに、恥ずかしくなる。


「ありがと……、でもわたし、今なにも食べたく……、」

「だと思ったからもうひとつ作ってきた。食欲が出る薬の入ったカクテル」

「カクテル……? 食欲……?」

「鬼精界での調合法を取り入れてるから、カクテルみたいなもんだけどってこと。あんた身体起こせないでしょ?」


架鞍くんはそう言って、薄いピンク色の飲み物を口に含み、わたしの頭を片手で少し起こして口移しでその液体をわたしの喉に流し込んだ。


「んっ……けほっ」


驚いたのと急に流れ込んできたのとで飲み下しきれず、わたしの口から顎、首へとカクテルが滴り落ちる。


「味はどう?」

「おいし……いよ」


架鞍くんは微笑んだ。昨日から、架鞍くんの笑顔をよく見る気がする。


「飲むのヘタだね」


そして、わたしの顎や首にこぼれたカクテルを舐め取ると、改めてタオルで拭い、


「お粥は冷めないようにしておくから。ああそれと、なんか霞がプール券買ってくるとか言ってたよ。あんたが元気になったら行けるようにって」

「うん……早く元気になるように頑張る……」

「そうしなよ。とりあえず、今は寝るんだね」


そう架鞍くんに額に手を当てられた瞬間、魔法にかけられたようにわたしは眠りに落ちていった。


【鬼精王Side】


真夜中にリビングで、三人は集まっていた。禾牙魅が、慎重に口を開く。


「苺の中の【鬼精虫】が急激に成長している」

「【鬼精鬼】に会えば会うほど【鬼精虫】は成長するからな」


霞も気づいていたらしく、驚くこともない。架鞍は、鼻の上にしわを寄せた。


「で、なんで本人は【鬼精鬼】に会ってないなんてしらばっくれてるの?」


苺はあの晩、帰ってきても何も言わなかった。ちょっと散歩したくなって、と見え透いた嘘をつき、風呂にも入らずそのまま自室に行ってしまった。花火のときは素直に出てきたし、さっきだって架鞍の前ではふつうだった。けれど、どこか様子がおかしい。


「そんなことより気になるのは」


禾牙魅が霞と架鞍を順番に見る。


「【鬼精鬼】が力をつけている、ということだ」


霞が一瞬、息を呑んだ。


「はあっ!? どういうことだよそれ!?」


架鞍が、ふと思いついたように打診する。


「もしかして―――【鬼精鬼】が他の処女達を餌食にして精力を吸い取り始めてるってこと?」

「恐らく」

「それが本当なら、そのうちまた苺ちゃん狙われかねねーぞ……」


事態は刻一刻と、三人が決して望んでいない方向へと進んでいるようだった。





【苺Side】


(……苺)

(………苺………)


ん……また……。

おもだるい眠りの中、誰かがわたしの名前を呼んでいる。これは……この声は……。

また、だ。

また、【鬼精鬼】の声が聞こえる。

夢の中にすら、入ってくる。

わたしが目を開けると、そこは闇の空間だった。少し距離が開いたところで、男が椅子に座り、裸体の、まだ高校生ほどの少女がその男の下半身に顔を埋めていた。


「!」


目を逸らして逃げようとするが、足が動かない。目も逸らせられない。

男──【鬼精鬼】が言った。また、意地悪い笑みを浮かべ、手を差し伸べて。


「苺……お前も来い」


わたしはふるふるとかぶりを振るが、身体が勝手に吸い寄せられていく。


「どう、して」


行きたくないのに。


「お前の中に【鬼精虫】がいるからさ。だから俺と会っている間、お前は俺に逆らえない。処女ではないからか、処女に仕込んだ時のようにはいかないようだがな」


わたしの戸惑いを見透かしたように、鬼精鬼は近くに来たわたしの手を取る。


「キスをしろ」

「……! だ、誰があんたなんかに、」


わたしは言ったが、身体が勝手に動く。鬼精鬼の半裸の身体に手を置いてしまう。

わたしは震える唇で鬼精鬼の唇に一瞬だけ触れた。離れようとしたところへ、後頭部を捕まえられる。至近距離に、野性的な美しい、男の顔。


「足りないな。本当のキスとはこういうものだ」

「、んっ……!」


更に後頭部を抑え込まれ、無理矢理鬼精鬼の唇に再び唇が重ねられる。冷たい唇が、わたしの唇と舌を吸ってくる。

どくん、と何かが頭をよぎる。

なに……?

嫌な感じではない。何か――何かを思い出しそうな、そんな感覚。

だがそれは、冷たい手の感触で遮られた。パジャマの隙間から鬼精鬼が、わたしの胸を弄っている。形を確かめるように揉みしだき、頂きを指と指のあいだできゅっとつまむ。


「やっ……!」


微かに気持ち良さを感じてしまったわたしは、それをも振り切るように鬼精鬼の手を振り解く。


「中原苺。お前は……いずれ、俺の手に落ちる」


ぼんやりと、わたしの意識がまた「本当の夢」の中に入っていく――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...