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白い花びらの降る中で
しおりを挟む【鬼精王Side】
とある昼下がり、苺と禾牙魅はデートに街へ出ていた。目の前にはケーキショップがあり、美味しそうなケーキが苺の食欲をそそる。
「禾牙魅さん、見てみて。このケーキすっごく美味しそう!」
「そうだな。買うか?」
「禾牙魅さんも食べるなら、買う」
「俺は……」
禾牙魅は困ったように、口ごもる。苺は、ふふっと笑った。
「なんて、ウソ。さ、次は映画館とか行ってみよう!」
「映画館……また看板めぐりか?」
「うん!」
禾牙魅は結局、ただ一人の【鬼精王】になり、霞と架鞍は【補佐】という形になった。禾牙魅は【鬼精界】から、時々こうして人間界に降りてきては苺とデートをしてくれている。
「それより苺、どこか静かな所に行きたいんだが」
「この時間で静かなところ? んー……あ、近くに高台ならあるよ、けっこう穴場で、見晴らしいいのに人いないんだ」
「案内してくれ」
ふたりは場所を高台へと移動した。心地良い風が吹き、苺の髪を優雅に揺らしていく。
「んー、気持ちいー!」
「…………」
なんの疑いもなくのびをする苺と、黙り込んでしまう禾牙魅。
「じれったいね」
「行け、押し倒せ禾牙魅!」
「あんまり大声出すとバレるよ、霞」
苺と禾牙魅は、空から【補佐】二人が自分達の様子を見ていることを知らない。
苺が街並みに見惚れていると、ふ、と背後から包み込むように禾牙魅が立った。
「禾牙魅さん……?」
苺が戸惑って振り向くと、禾牙魅が口付けて来た。相変わらず、外見とは裏腹の、内に秘めた禾牙魅の性質の一つを表す情熱的なキスだ。
「ん……」
ややして禾牙魅が離れると、苺は熱っぽくため息をついた。
「どうしたの? 禾牙魅さん」
デートはしても、【鬼精鬼】の一件以来、軽く抱き合うことはあってもそれ以上はキスすらしていなかったのに。
「苺。俺と結婚してくれないか」
「……え……?」
「俺は【鬼精鬼】を封印した責任があるから【鬼精王】をやめるつもりはないが、苺と結婚したら大抵のことは霞と架鞍に任せて殆どの時間を人間界で過ごすことにする。だからお前を淋しがらせたり泣かせたりはしない。……返事を、聞かせてくれないか」
禾牙魅の言っていることが信じられなくて、嬉しくて、苺は涙を必死に堪え、真っ赤になって頷くのがやっとだった。
禾牙魅は微笑む。
「苺、左手をこっちに」
言われた通りに左手を出すと、禾牙魅は肩膝をつき、その薬指に口付けた。やがてそこに、純白の小さな花の形の指輪が現れる。禾牙魅は再び立ち上がる。
「【鬼精界】での婚約の証だ。幸せにする……俺の全身全霊に懸けて誓う」
「ふ、ぅ……っ……」
たまらずに苺は泣き出した。そんな苺を禾牙魅が愛しそうに微笑みながら強く抱き締める。
「禾牙魅さん、禾牙魅さん大好き……」
その時、どこからか指を鳴らす音が聞こえた……気がした。
と思うと、はらはらと白い小さな花びらが風に乗って大量に降って来る。見上げた二人は、遥か空の向こうに浮いてピースサインを出して片目を瞑っている霞と腕組みをして僅かに微笑している架鞍にようやく気付いた。
「あいつら……見ていたな」
「ふ、ふふ、あはは……」
楽しすぎて嬉しすぎて泣き笑いの苺である。
「こら、【補佐】二人! 職務はどうした!」
「苺ちゃん、早くガキたくさん作れよ~、禾牙魅こう見えても超絶倫だから、俺と同じくらい」
「禾牙魅、あんまり眉間にシワ寄せると婚約者に振られるよ」
「お前達は何を……っ」
「二人ともありがとう!」
二人に手を振り、そして苺は禾牙魅の顔に手を置いてこちらを向かせる。
「禾牙魅さん、顔真っ赤だよ」
「……苺もな」
そして禾牙魅は、白い花弁の降る中、もう一度苺に深く深くキスをした。
*************************************
※以下作者より
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。禾牙魅編はここで終了です。このあとは霞編に続きます。
その際、プロローグと最初の一部が一緒のため、その部分はとばして違う部分から書かせて頂きます。
禾牙魅編・鬼精鬼編と、ところどころ同じエピソードがありますので、その部分は架鞍編・禾牙魅編と文章も同じです。その場合は、面倒でしたらとばしてお読みください。
また、プロローグの最初の三行の意味等は鬼精鬼編で明らかになる予定です。
霞編は次の頁からです。
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