42 / 59
白い花びらの降る中で
しおりを挟む【鬼精王Side】
とある昼下がり、苺と禾牙魅はデートに街へ出ていた。目の前にはケーキショップがあり、美味しそうなケーキが苺の食欲をそそる。
「禾牙魅さん、見てみて。このケーキすっごく美味しそう!」
「そうだな。買うか?」
「禾牙魅さんも食べるなら、買う」
「俺は……」
禾牙魅は困ったように、口ごもる。苺は、ふふっと笑った。
「なんて、ウソ。さ、次は映画館とか行ってみよう!」
「映画館……また看板めぐりか?」
「うん!」
禾牙魅は結局、ただ一人の【鬼精王】になり、霞と架鞍は【補佐】という形になった。禾牙魅は【鬼精界】から、時々こうして人間界に降りてきては苺とデートをしてくれている。
「それより苺、どこか静かな所に行きたいんだが」
「この時間で静かなところ? んー……あ、近くに高台ならあるよ、けっこう穴場で、見晴らしいいのに人いないんだ」
「案内してくれ」
ふたりは場所を高台へと移動した。心地良い風が吹き、苺の髪を優雅に揺らしていく。
「んー、気持ちいー!」
「…………」
なんの疑いもなくのびをする苺と、黙り込んでしまう禾牙魅。
「じれったいね」
「行け、押し倒せ禾牙魅!」
「あんまり大声出すとバレるよ、霞」
苺と禾牙魅は、空から【補佐】二人が自分達の様子を見ていることを知らない。
苺が街並みに見惚れていると、ふ、と背後から包み込むように禾牙魅が立った。
「禾牙魅さん……?」
苺が戸惑って振り向くと、禾牙魅が口付けて来た。相変わらず、外見とは裏腹の、内に秘めた禾牙魅の性質の一つを表す情熱的なキスだ。
「ん……」
ややして禾牙魅が離れると、苺は熱っぽくため息をついた。
「どうしたの? 禾牙魅さん」
デートはしても、【鬼精鬼】の一件以来、軽く抱き合うことはあってもそれ以上はキスすらしていなかったのに。
「苺。俺と結婚してくれないか」
「……え……?」
「俺は【鬼精鬼】を封印した責任があるから【鬼精王】をやめるつもりはないが、苺と結婚したら大抵のことは霞と架鞍に任せて殆どの時間を人間界で過ごすことにする。だからお前を淋しがらせたり泣かせたりはしない。……返事を、聞かせてくれないか」
禾牙魅の言っていることが信じられなくて、嬉しくて、苺は涙を必死に堪え、真っ赤になって頷くのがやっとだった。
禾牙魅は微笑む。
「苺、左手をこっちに」
言われた通りに左手を出すと、禾牙魅は肩膝をつき、その薬指に口付けた。やがてそこに、純白の小さな花の形の指輪が現れる。禾牙魅は再び立ち上がる。
「【鬼精界】での婚約の証だ。幸せにする……俺の全身全霊に懸けて誓う」
「ふ、ぅ……っ……」
たまらずに苺は泣き出した。そんな苺を禾牙魅が愛しそうに微笑みながら強く抱き締める。
「禾牙魅さん、禾牙魅さん大好き……」
その時、どこからか指を鳴らす音が聞こえた……気がした。
と思うと、はらはらと白い小さな花びらが風に乗って大量に降って来る。見上げた二人は、遥か空の向こうに浮いてピースサインを出して片目を瞑っている霞と腕組みをして僅かに微笑している架鞍にようやく気付いた。
「あいつら……見ていたな」
「ふ、ふふ、あはは……」
楽しすぎて嬉しすぎて泣き笑いの苺である。
「こら、【補佐】二人! 職務はどうした!」
「苺ちゃん、早くガキたくさん作れよ~、禾牙魅こう見えても超絶倫だから、俺と同じくらい」
「禾牙魅、あんまり眉間にシワ寄せると婚約者に振られるよ」
「お前達は何を……っ」
「二人ともありがとう!」
二人に手を振り、そして苺は禾牙魅の顔に手を置いてこちらを向かせる。
「禾牙魅さん、顔真っ赤だよ」
「……苺もな」
そして禾牙魅は、白い花弁の降る中、もう一度苺に深く深くキスをした。
*************************************
※以下作者より
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。禾牙魅編はここで終了です。このあとは霞編に続きます。
その際、プロローグと最初の一部が一緒のため、その部分はとばして違う部分から書かせて頂きます。
禾牙魅編・鬼精鬼編と、ところどころ同じエピソードがありますので、その部分は架鞍編・禾牙魅編と文章も同じです。その場合は、面倒でしたらとばしてお読みください。
また、プロローグの最初の三行の意味等は鬼精鬼編で明らかになる予定です。
霞編は次の頁からです。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる