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架鞍の過去と雨の密事
しおりを挟む川原近くの夏祭り。
夜店がたくさん出ていて、既に人々で溢れ返っている。
「たくさん回ろう! りんご飴もかき氷もとうもろこしも食べたい!」
わたしははしゃいだけど、
「じゃ、それを夕食にする?」
尋ねてくる架鞍くんのことを考えて、ふと心配になった。
「あ……で、でも架鞍くん、あちこち回るのイヤ、だよね。人混みもキライそうだし……」
すると架鞍くんは、わたしをじっと見つめ返してくる。
「人混みは別にキライでもないよ。それより別の心配をしたほうがいいんじゃない?」
「へ?」
「今現在の所持金、いくら?」
所持金……ヤバい、お財布にお金入れてくるの忘れちゃったかも!
慌てて巾着の中のお財布の中身を確かめて、げんなりした。
「ひゃ……ひゃくよんじゅうごえん……」
架鞍くんは見越していたようにうなずく。
「仕方ないから今日は俺が払うよ。出がけに霞と禾牙魅にもそう言われてきたし」
「架鞍くんが払ってくれるの!?」
「なにか不満?」
そう言う架鞍くんのほうが不満そうで、恐い。
「う、ううん別に……。それよりこっちの世界のお金持ってるの?」
「何かの役に立つかと思って少しは持ってきてるよ」
そうなんだ、と納得しかけて……あれ?と思った。
「じゃあなんで、わざわざバイトまでしてわたしに浴衣、」
「ついてこないとはぐれても知らないよ」
わたしの言葉を遮るようにして、早足で歩き出した架鞍くんを、
「あ、ま、待って!」
わたしは慌てて追いかけた。
◇
1時間以上経ってやっとわたしは満足し、わたしたちは、夜店から離れた川原のところで涼むことにした。
遠くから人々のはしゃぎ声、笑い声が聞こえてくる。
「今日は楽しかった、美味しいものいっぱい食べられたし」
「まだ楽しみはあるんじゃない?」
「あ、そうだね、花火! いつ始まるのかな」
うきうきと言ったわたしだけど、架鞍くんは黙っていた。そのまま、何十分も沈黙している。
時々、風がわたしのみつあみを揺らしていく。
なんとなく気まずくなって、わたしはそろそろと架鞍くんを見上げると、架鞍くんもわたしを見つめていた。
そのことに驚いて、わたしはすぐに視線をそらす。
「あんた、身長157センチだよな。チビだな」
突然、架鞍くんはそんなことを言い出す。
「そうやってみつあみしてると見た目中学生とかわんないし」
「なっ……なにが言いたいの!?」
怒りを覚えて視線を戻すと、架鞍くんは変わらずの表情で言った。
「ムカつく」
「……え……」
「あんた見てるとムカつく。チビなとこも一緒だしみつあみしてると花奈を思い出す」
「かな……? 誰?」
「俺の恋人だった女の名前」
わたしは黙り込む。珍しく、架鞍くんは雄弁だった。
「出逢ったのは5年前。人間界に用事で来た時だった。俺が13歳で、花奈は17歳。俺は花奈を愛して、花奈も俺を愛してくれた。俺は花奈が大事すぎて、抱くことも出来なかった。キスだって、したら花奈が穢れそうで恐かったけど、花奈は大丈夫よ、って何度もキスを求めてきてくれた。でも」
人々のはしゃぎ声も、わたしの耳にはますます遠くに聞こえた。
「偶然にも花奈は【鬼精鬼】の餌食になった。精力をすべて吸い取られて死んで行った。それで終わり」
「終わり、なの?」
わたしの胸に、ズキリとした痛みが走る。
「花奈とはそれで終わり。でも。だから、俺は自分の手で【鬼精鬼】を封印したいんだよ」
「そ、か……。あの時、」
わたしは震えていた。
架鞍くんの過去が痛すぎて、そして、自分の憶測に震えていた。
「だからあの時、わたしを無理にでも抱いた、んだ……。俺が欲しいって言えよって、あの時架鞍くん言ってた、あれ、花奈さん、に言ってたんだね……わたしを花奈さんだと思って抱いたんだね……」
そう考えれば、つじつまがあう。
涙が溢れてくる。
知らなかった。わたしはいつのまにか、こんなにも架鞍くんに惹かれてたんだ……。
架鞍くんの、静かな声が落ちてくる。
「……俺がそんなことすると思う? あれは俺の意志で【あんたを】抱いたんだよ。言葉も全部、【あんたに】かけたんだよ」
「じゃあどうして、抱いたりなんかしたの!? 無理にでも抱く必要なんてどこにあったの!?」
「性欲コントロールが出来るはずの【鬼精王】の例外が起きたから」
「れいがい……?」
「本気で好きな相手が出来ると、普通の男と変わりなくなるってこと」
それは、……もしかして、それは──。
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