鬼精王

希彗まゆ

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架鞍の過去と雨の密事

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川原近くの夏祭り。

夜店がたくさん出ていて、既に人々で溢れ返っている。


「たくさん回ろう! りんご飴もかき氷もとうもろこしも食べたい!」


わたしははしゃいだけど、


「じゃ、それを夕食にする?」


尋ねてくる架鞍くんのことを考えて、ふと心配になった。


「あ……で、でも架鞍くん、あちこち回るのイヤ、だよね。人混みもキライそうだし……」


すると架鞍くんは、わたしをじっと見つめ返してくる。


「人混みは別にキライでもないよ。それより別の心配をしたほうがいいんじゃない?」

「へ?」

「今現在の所持金、いくら?」


所持金……ヤバい、お財布にお金入れてくるの忘れちゃったかも!

慌てて巾着の中のお財布の中身を確かめて、げんなりした。


「ひゃ……ひゃくよんじゅうごえん……」


架鞍くんは見越していたようにうなずく。


「仕方ないから今日は俺が払うよ。出がけに霞と禾牙魅にもそう言われてきたし」

「架鞍くんが払ってくれるの!?」

「なにか不満?」


そう言う架鞍くんのほうが不満そうで、恐い。


「う、ううん別に……。それよりこっちの世界のお金持ってるの?」

「何かの役に立つかと思って少しは持ってきてるよ」


そうなんだ、と納得しかけて……あれ?と思った。


「じゃあなんで、わざわざバイトまでしてわたしに浴衣、」

「ついてこないとはぐれても知らないよ」


わたしの言葉を遮るようにして、早足で歩き出した架鞍くんを、


「あ、ま、待って!」


わたしは慌てて追いかけた。





1時間以上経ってやっとわたしは満足し、わたしたちは、夜店から離れた川原のところで涼むことにした。

遠くから人々のはしゃぎ声、笑い声が聞こえてくる。


「今日は楽しかった、美味しいものいっぱい食べられたし」

「まだ楽しみはあるんじゃない?」

「あ、そうだね、花火! いつ始まるのかな」


うきうきと言ったわたしだけど、架鞍くんは黙っていた。そのまま、何十分も沈黙している。

時々、風がわたしのみつあみを揺らしていく。


なんとなく気まずくなって、わたしはそろそろと架鞍くんを見上げると、架鞍くんもわたしを見つめていた。

そのことに驚いて、わたしはすぐに視線をそらす。


「あんた、身長157センチだよな。チビだな」


突然、架鞍くんはそんなことを言い出す。


「そうやってみつあみしてると見た目中学生とかわんないし」

「なっ……なにが言いたいの!?」


怒りを覚えて視線を戻すと、架鞍くんは変わらずの表情で言った。


「ムカつく」

「……え……」

「あんた見てるとムカつく。チビなとこも一緒だしみつあみしてると花奈を思い出す」

「かな……? 誰?」

「俺の恋人だった女の名前」


わたしは黙り込む。珍しく、架鞍くんは雄弁だった。


「出逢ったのは5年前。人間界に用事で来た時だった。俺が13歳で、花奈は17歳。俺は花奈を愛して、花奈も俺を愛してくれた。俺は花奈が大事すぎて、抱くことも出来なかった。キスだって、したら花奈が穢れそうで恐かったけど、花奈は大丈夫よ、って何度もキスを求めてきてくれた。でも」


人々のはしゃぎ声も、わたしの耳にはますます遠くに聞こえた。


「偶然にも花奈は【鬼精鬼】の餌食になった。精力をすべて吸い取られて死んで行った。それで終わり」

「終わり、なの?」


わたしの胸に、ズキリとした痛みが走る。


「花奈とはそれで終わり。でも。だから、俺は自分の手で【鬼精鬼】を封印したいんだよ」

「そ、か……。あの時、」


わたしは震えていた。

架鞍くんの過去が痛すぎて、そして、自分の憶測に震えていた。


「だからあの時、わたしを無理にでも抱いた、んだ……。俺が欲しいって言えよって、あの時架鞍くん言ってた、あれ、花奈さん、に言ってたんだね……わたしを花奈さんだと思って抱いたんだね……」


そう考えれば、つじつまがあう。

涙が溢れてくる。


知らなかった。わたしはいつのまにか、こんなにも架鞍くんに惹かれてたんだ……。

架鞍くんの、静かな声が落ちてくる。


「……俺がそんなことすると思う? あれは俺の意志で【あんたを】抱いたんだよ。言葉も全部、【あんたに】かけたんだよ」

「じゃあどうして、抱いたりなんかしたの!? 無理にでも抱く必要なんてどこにあったの!?」

「性欲コントロールが出来るはずの【鬼精王】の例外が起きたから」

「れいがい……?」

「本気で好きな相手が出来ると、普通の男と変わりなくなるってこと」


それは、……もしかして、それは──。
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