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第二章
27
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「都合のいい事を言っているのは分かっているんだ。…俺のせいでマシロちゃんを危険な目に合わせてしまって」
「本当にな」
「それでも君は俺を許してくれた。さっき俺の事も好きだって、触られても嫌じゃないって聞いて…嬉しかった」
「気のせいだ」
「もう気持ちを隠していたくない」
「我慢しろ」
「…レイヴァン殿下、さすがに空気を読んで下さい」
アレク王子の言葉に横槍を入れるレイヴァン様をカール様が呆れたように嗜めた。
「お気持ちは分かりますが、折角双子の兄上が頑張って告白しているのです。邪魔をしては野暮ですよ」
「これ以上マシロを取られたくない」
「私だってそうですよ」
2人をガン無視してアレク王子が俺の手を握って見つめてくる。
「俺もマシロちゃんの特別にして欲しい」
「ごめん、全然話が入ってこない」
混乱に混乱が重なって脳みそが追いつかない。
情報量が多すぎる。おれの特別にしてってつまり、おれとえっちしたいって事?アレク王子が?なんで。
「アレク王子モテるでしょ?普通にいい奴だし、相談にも乗ってくれて頼りになるし、格好良いし王子だし。可愛い女の子選びたい放題じゃん?」
「そうだね」
自分で言った事だけど、そう返されるとなんかムカつくな。
「じゃあ…」
「でもマシロちゃんがいいんだ。マシロちゃんの特別になりたい」
真剣に言ってくれてるのが伝わる。でも、…これって絶対イケメンフェロモンの影響もろにくらってるだけだよね?
だって一回やっちゃったけど酔っ払ってたし、その後は特に普通な態度でそんな素振り全然無かったじゃん。
レイヴァン様と喧嘩してた時も一緒に寝たけど何もされなかったし。
ハメられたとはいえ、告白大会みたいな空気に乗せられちゃったのかな?
正直もう3人から告白されてるだけでも勘弁してくれって感じなのに、アレク王子までなんてどうしたらいいんだ。
そうだ。今ならまだ目覚めさせれるかもしれない。それは勘違いです、フェロモンのせいで思い込んでるだけです、て。
グランツ様は助けられなかったけど、アレク王子はまだ引き返せる。
これ以上フェロモンの被害者を増やしてたまるか。おれがもたない。
「ちょっと落ち着いて、よく考えてみてよ。今おれが良く見えるのはフェロモンのせいで、実際は冴えない田舎者。魔力も無いし頭も良くない、金も無い。男に抱かれないとすぐ死ぬし、しかも既に3股確定。えっちの時もやり過ぎて死なないか気を付けながらしなきゃだし、とにかく超面倒臭いよ。悪事言わないから止めときなって、な?」
言葉にすると酷いなおれ。もう新手の詐欺じゃん。
折角魔力量多くてもこんな男に搾取されるなんて可哀想。
…フェロモン無かったらすぐ死んでたな。
おれの必死の説得に俯くアレク王子。
後ろで既にフェロモン被害者の会に入っているメンバーが的外れにおれを慰めてくるが、今はスルーだ。
とにかくアレク王子を真っ当な道に戻さないと。
おい、誰だエロの化身って言った奴。訂正しろ。
「アレク王子にはもっと可愛くていい子がいるよ。だからさ」
握られていた手をそっと外す。
「おれの事なんて忘れなよ」
言った瞬間、アレク王子がビクッと揺れた気がしたけど、おれは気にせず続ける。
「今なら平凡男に告白した黒歴史だけで済むんだから。いい嫁さん見つけろよ!」
いやーいいこと言ったなー、グランツ様の時は取り返しのつかない状況だったけど、アレク王子はもう大丈夫だろう。
暫く会わなかったらフェロモン効果も消えるだろうし、めでたしめでたし。
…あれ、なんかみんな静かじゃない?どうしたの?
周りを見渡すと四方から責める様な視線が注がれていた。
え、なに?おれ変なこと言った?
冷ややかな空気の中、アイリーン様がため息を吐く。
「無い、無いですわマシロ様。どうしてそんな酷いことをおっしゃるの?信じられません」
「ひ、酷い…?どこが?」
「全部ですわ」
「全部!?」
え、マジでどこが?本当の事しか言ってないじゃん。
本気で分かりません。って顔でオドオドしているおれにみんなが一斉にため息を吐いた。
なんでだよ。
「恋敵ではありますが同情します」
「…僕なら立ち直れない」
「マシロ」
グランツ様が悲しそうな表情でおれを見る。
そのまま近づいてきて、おれの側に膝をついた。目線を合わせられる。
「そんなに自分を卑下にしないで欲しい。マシロはとても魅力的だ」
「だからそれはフェロモンが…」
グランツ様はゆっくりと首を横に振って、言い聞かせるように語りかけてきた。
「確かに切っ掛けはそうだったかもしれない。でも、今は違う。自分が怖い目に遭っても私を気遣える優しさ、危害を加えられても相手を許せる心の深さ、何より元気で素直な姿を見ているとこちらまで明るくなる。…たまに想像を超えたことをするが、それも面白い」
空いている手をそっとグランツ様の手に乗せられた。
大人と子供くらい大きさが違う。ゴツゴツとした、かっこいい、騎士の手だ。
「…まだ成人したてで生死を彷徨い、他人に命を左右される生き方を強いられても受け入れ、前を向いてここにいる。訓練を受けた騎士ですらきっと、その境遇を受け入れるのには時間と精神を削ることだろう。マシロは十分強い」
…不思議だな。同じ様なことを前にレイヴァン様に言われた時はただただ腹が立ったのに、グランツ様の言葉はすっと入ってくる。
もう片方の手を上に乗せて挟まれる。温かい。
「もう一度言おう。マシロはとても魅力的だ。皆真剣に君に惹かれている。心の底から大事にしたいと思っている。もちろん私もだ」
「・・・・・」
「私達のマシロを想う気持ちを無かった事にしないでくれ。それはとても悲しい事だ。拒否される事よりも、ずっと」
「…あ」
そうか、おれはアレク王子の気持ちを無かった事にしたんだ。
不安そうに、でもちゃんと真剣に言ってくれたのに…。
「…ごめんなさい」
「分かってくれたならいい。ほら、マシロは素直で優しい良い子だ。もっと自信を持ってくれ」
「…うん」
おれどこか誤魔化そうとしてた。
ちゃんと考えるって言ったのに、きっとおれが思ってる以上にみんなおれの事見てくれてるのかな。
…アレク王子も。
ずっと俯いたままのアレク王子。
包まれていた手を動かすと、グランツ様の手が離れていった。
ちらっとしか見えなかったけど、とっても優しい表情をしていた気がする。
レイヴァン様に掴まれていた手もいつの間にか解放されていて、両手でアレク王子の顔を掬ってそっと上げた。
泣いてはいなかったけど、凄く傷付いた目をしていた。
こんな表情するほど嫌だったんだ。
…おれが何気なく言った言葉が、この人を傷つけたんだ。
「アレク王子」
「…マシロちゃん」
アレク王子がおれの名前を呼んだ振動で、目尻に溜まっていた涙が一粒溢れた。
その様子がとても申し訳なくて、気がついたらもう片方の目尻に口付けていた。
ビクッと揺れたけど、構わずそのままおでこや鼻、頬にちゅっちゅと軽くキスをする。
ごめんね、泣かないで。
数回繰り返したところで涙が引いた橙色の瞳にほっとして顔を離す。
「…傷付けてごめんなさい」
「あ…、はわぁ…」
真っ赤になって震えるアレク王子にしゅんとする。
…やっぱりそう簡単に許せないよね。
あわあわと戦慄いてるアレク王子の唇に思いきってキスをした。
ちゅって触れるだけの軽いやつ。
それでも自分からしたキスにおれの顔は一瞬で熱くなる。
凄く恥ずかしかったけど、真剣な気持ちには真剣に向き合わなくちゃと思ってバッチリ目を見て言った。
「…4股でもいいなら、よろしくお願いします」
「…っ」
蚊の鳴くような声で言ったにも関わらずちゃんと聞こえたらしい。
…まあちゅー出来るくらい近いんだから当たり前だけど。
はわはわと真っ赤になって目を見開いたまま震えるアレク王子に不安になる。
「…やっぱり嫌?」
「好きぃ…っ、いっそ抱いて…っ」
いや、抱くのはちょっと…。
「マシロ…!僕も不安なんだ慰めてくれ…っ」
「マシロ君、私も4股で構いませんよ。なのでキスして下さい」
「あ、じゃあ僕も入れて下さい。もう1人くらい変わらないでしょ?」
「坊主…お前…っ、マジか…」
押し寄せてくるレイヴァン様とカール様、と何故か変人にむぎゅむぎゅと潰されて苦しい…っ。
これまた何故か顔を赤くして口元を押さえている兄貴の横で、音速の域に達したペン捌きでメモを取っているアイリーン様がいた。
あっちは当てにならない。
アレク王子共々押し潰されてしんどい。
そうだ!近くにグランツ様が…っ!
「グランツ様…ったすけ…っ」
「神よ、感謝致します…」
何故か泣きながら祈っていた。
いや、助けてよ。
「本当にな」
「それでも君は俺を許してくれた。さっき俺の事も好きだって、触られても嫌じゃないって聞いて…嬉しかった」
「気のせいだ」
「もう気持ちを隠していたくない」
「我慢しろ」
「…レイヴァン殿下、さすがに空気を読んで下さい」
アレク王子の言葉に横槍を入れるレイヴァン様をカール様が呆れたように嗜めた。
「お気持ちは分かりますが、折角双子の兄上が頑張って告白しているのです。邪魔をしては野暮ですよ」
「これ以上マシロを取られたくない」
「私だってそうですよ」
2人をガン無視してアレク王子が俺の手を握って見つめてくる。
「俺もマシロちゃんの特別にして欲しい」
「ごめん、全然話が入ってこない」
混乱に混乱が重なって脳みそが追いつかない。
情報量が多すぎる。おれの特別にしてってつまり、おれとえっちしたいって事?アレク王子が?なんで。
「アレク王子モテるでしょ?普通にいい奴だし、相談にも乗ってくれて頼りになるし、格好良いし王子だし。可愛い女の子選びたい放題じゃん?」
「そうだね」
自分で言った事だけど、そう返されるとなんかムカつくな。
「じゃあ…」
「でもマシロちゃんがいいんだ。マシロちゃんの特別になりたい」
真剣に言ってくれてるのが伝わる。でも、…これって絶対イケメンフェロモンの影響もろにくらってるだけだよね?
だって一回やっちゃったけど酔っ払ってたし、その後は特に普通な態度でそんな素振り全然無かったじゃん。
レイヴァン様と喧嘩してた時も一緒に寝たけど何もされなかったし。
ハメられたとはいえ、告白大会みたいな空気に乗せられちゃったのかな?
正直もう3人から告白されてるだけでも勘弁してくれって感じなのに、アレク王子までなんてどうしたらいいんだ。
そうだ。今ならまだ目覚めさせれるかもしれない。それは勘違いです、フェロモンのせいで思い込んでるだけです、て。
グランツ様は助けられなかったけど、アレク王子はまだ引き返せる。
これ以上フェロモンの被害者を増やしてたまるか。おれがもたない。
「ちょっと落ち着いて、よく考えてみてよ。今おれが良く見えるのはフェロモンのせいで、実際は冴えない田舎者。魔力も無いし頭も良くない、金も無い。男に抱かれないとすぐ死ぬし、しかも既に3股確定。えっちの時もやり過ぎて死なないか気を付けながらしなきゃだし、とにかく超面倒臭いよ。悪事言わないから止めときなって、な?」
言葉にすると酷いなおれ。もう新手の詐欺じゃん。
折角魔力量多くてもこんな男に搾取されるなんて可哀想。
…フェロモン無かったらすぐ死んでたな。
おれの必死の説得に俯くアレク王子。
後ろで既にフェロモン被害者の会に入っているメンバーが的外れにおれを慰めてくるが、今はスルーだ。
とにかくアレク王子を真っ当な道に戻さないと。
おい、誰だエロの化身って言った奴。訂正しろ。
「アレク王子にはもっと可愛くていい子がいるよ。だからさ」
握られていた手をそっと外す。
「おれの事なんて忘れなよ」
言った瞬間、アレク王子がビクッと揺れた気がしたけど、おれは気にせず続ける。
「今なら平凡男に告白した黒歴史だけで済むんだから。いい嫁さん見つけろよ!」
いやーいいこと言ったなー、グランツ様の時は取り返しのつかない状況だったけど、アレク王子はもう大丈夫だろう。
暫く会わなかったらフェロモン効果も消えるだろうし、めでたしめでたし。
…あれ、なんかみんな静かじゃない?どうしたの?
周りを見渡すと四方から責める様な視線が注がれていた。
え、なに?おれ変なこと言った?
冷ややかな空気の中、アイリーン様がため息を吐く。
「無い、無いですわマシロ様。どうしてそんな酷いことをおっしゃるの?信じられません」
「ひ、酷い…?どこが?」
「全部ですわ」
「全部!?」
え、マジでどこが?本当の事しか言ってないじゃん。
本気で分かりません。って顔でオドオドしているおれにみんなが一斉にため息を吐いた。
なんでだよ。
「恋敵ではありますが同情します」
「…僕なら立ち直れない」
「マシロ」
グランツ様が悲しそうな表情でおれを見る。
そのまま近づいてきて、おれの側に膝をついた。目線を合わせられる。
「そんなに自分を卑下にしないで欲しい。マシロはとても魅力的だ」
「だからそれはフェロモンが…」
グランツ様はゆっくりと首を横に振って、言い聞かせるように語りかけてきた。
「確かに切っ掛けはそうだったかもしれない。でも、今は違う。自分が怖い目に遭っても私を気遣える優しさ、危害を加えられても相手を許せる心の深さ、何より元気で素直な姿を見ているとこちらまで明るくなる。…たまに想像を超えたことをするが、それも面白い」
空いている手をそっとグランツ様の手に乗せられた。
大人と子供くらい大きさが違う。ゴツゴツとした、かっこいい、騎士の手だ。
「…まだ成人したてで生死を彷徨い、他人に命を左右される生き方を強いられても受け入れ、前を向いてここにいる。訓練を受けた騎士ですらきっと、その境遇を受け入れるのには時間と精神を削ることだろう。マシロは十分強い」
…不思議だな。同じ様なことを前にレイヴァン様に言われた時はただただ腹が立ったのに、グランツ様の言葉はすっと入ってくる。
もう片方の手を上に乗せて挟まれる。温かい。
「もう一度言おう。マシロはとても魅力的だ。皆真剣に君に惹かれている。心の底から大事にしたいと思っている。もちろん私もだ」
「・・・・・」
「私達のマシロを想う気持ちを無かった事にしないでくれ。それはとても悲しい事だ。拒否される事よりも、ずっと」
「…あ」
そうか、おれはアレク王子の気持ちを無かった事にしたんだ。
不安そうに、でもちゃんと真剣に言ってくれたのに…。
「…ごめんなさい」
「分かってくれたならいい。ほら、マシロは素直で優しい良い子だ。もっと自信を持ってくれ」
「…うん」
おれどこか誤魔化そうとしてた。
ちゃんと考えるって言ったのに、きっとおれが思ってる以上にみんなおれの事見てくれてるのかな。
…アレク王子も。
ずっと俯いたままのアレク王子。
包まれていた手を動かすと、グランツ様の手が離れていった。
ちらっとしか見えなかったけど、とっても優しい表情をしていた気がする。
レイヴァン様に掴まれていた手もいつの間にか解放されていて、両手でアレク王子の顔を掬ってそっと上げた。
泣いてはいなかったけど、凄く傷付いた目をしていた。
こんな表情するほど嫌だったんだ。
…おれが何気なく言った言葉が、この人を傷つけたんだ。
「アレク王子」
「…マシロちゃん」
アレク王子がおれの名前を呼んだ振動で、目尻に溜まっていた涙が一粒溢れた。
その様子がとても申し訳なくて、気がついたらもう片方の目尻に口付けていた。
ビクッと揺れたけど、構わずそのままおでこや鼻、頬にちゅっちゅと軽くキスをする。
ごめんね、泣かないで。
数回繰り返したところで涙が引いた橙色の瞳にほっとして顔を離す。
「…傷付けてごめんなさい」
「あ…、はわぁ…」
真っ赤になって震えるアレク王子にしゅんとする。
…やっぱりそう簡単に許せないよね。
あわあわと戦慄いてるアレク王子の唇に思いきってキスをした。
ちゅって触れるだけの軽いやつ。
それでも自分からしたキスにおれの顔は一瞬で熱くなる。
凄く恥ずかしかったけど、真剣な気持ちには真剣に向き合わなくちゃと思ってバッチリ目を見て言った。
「…4股でもいいなら、よろしくお願いします」
「…っ」
蚊の鳴くような声で言ったにも関わらずちゃんと聞こえたらしい。
…まあちゅー出来るくらい近いんだから当たり前だけど。
はわはわと真っ赤になって目を見開いたまま震えるアレク王子に不安になる。
「…やっぱり嫌?」
「好きぃ…っ、いっそ抱いて…っ」
いや、抱くのはちょっと…。
「マシロ…!僕も不安なんだ慰めてくれ…っ」
「マシロ君、私も4股で構いませんよ。なのでキスして下さい」
「あ、じゃあ僕も入れて下さい。もう1人くらい変わらないでしょ?」
「坊主…お前…っ、マジか…」
押し寄せてくるレイヴァン様とカール様、と何故か変人にむぎゅむぎゅと潰されて苦しい…っ。
これまた何故か顔を赤くして口元を押さえている兄貴の横で、音速の域に達したペン捌きでメモを取っているアイリーン様がいた。
あっちは当てにならない。
アレク王子共々押し潰されてしんどい。
そうだ!近くにグランツ様が…っ!
「グランツ様…ったすけ…っ」
「神よ、感謝致します…」
何故か泣きながら祈っていた。
いや、助けてよ。
応援ありがとうございます!
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