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奪われた家族
79話:君の名は
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どうやら船に乗せられているらしいと気付いたのは、攫われてから2時間後のことだった。
拘束されていた体が自由になり目隠しが外される。
恐る恐る目を開いてみると、そこは木箱や樽の詰まった食料庫のような場所だった。僅かに海とお酒の香りがする。
部屋はそれほど広くない。ワンルームほどだろう。そこへ荷物が積まれているので思った以上に圧迫感がある。
そんな手狭な場所で西洋人らしき男4人が樽や木製椅子に腰かけ、誠を見ていた。
年齢は20代か40代くらいだろう、全員揃いの黒い軍服を着ている。
そのうちの1人、年嵩の男が誠に向かって何かを話しかけてきた。表情は軟らかい。
「************?」
何を言っているのか理解できない。
男はもう一度同じ言葉を繰り返しているようだが、さっぱり聞き取ることができない。
英語とは違った聞き馴染みのない言語は、トワが話していたユグドリアの公用語に似ている。
さっきから微妙に地面が揺れているように感じるのは、船が動いているからだろうか。
船酔いが辛くだんだん気分が悪くなってきた誠は、相手の言葉も耳に入らない状況だった。
そんな誠の様子を訝しげに見ていた年嵩の男は、ふいに何かに気付いたように眉根を寄せて、隣の若い男に話しかける。
会話のやりとりを行いながら、年嵩の方の声音がだんだん荒くなってくる。
責められている様子の若い男は、驚いた顔をして誠を見ていたが、すぐに顔色が青ざめてくる。
ようやく気付いたようだ。
誠は体を丸めて体勢を整えた。
ここは船の上、逃げ場はない。
年嵩の男が先ほどとうって代わり、険しい表情を見せてこちらに近づきかけたとき、軍服を着た別の若い男が入ってきた。
今度はとても若い男だ。20代、いや10代でも通用する、顔立ちのとても美麗な青年だ。
背も高く、ゆるりと部屋を見回す動きだけで、彼がこの場を取り仕切る人間だというのが本能で感じ取れた。彼だけは他のメンバーと違ってアジア人に見えるが、その瞳は青い。
何故だろう、どこかで見たことがある気がするが、そんなこと有りうるだろうか。
誠がそう考えていると、青年はつかつかと誠の前まで歩み寄ってくるなり、顔を強ばらせカツラを剥ぎ取った。
それを見た周りの男たちに動揺が走る。
青年は手に持ったカツラを壁に投げつけると、振り向きざまに若い男を殴りつけ、何か怒鳴りつけている。誠にはその言葉が理解できなかったが、すぐに年嵩の男が二人の間に割って入り、仲裁をはじめた。
頬を押さえてうずくまっている若い男をしばらく見下ろしていた青年は、低い声で男に何か語りかけ、誠の方に向き直った。
その瞳を見た途端、誠はいいようのない不安にかられた。
訓練でもしたのだろうか、先ほどあれだけ怒りを露わにしていた瞳には、もう何の感情も浮かんでいない。
青年は誠の前にしゃがみ込むと、綺麗な日本語で話しかけてきた。
「君、名前は?」
「――まこ、と」
「まこと君か。怖がらせて悪かったね」
そう言って彼が口元に冷笑を浮かべた途端、誠の脳裏にある映像が浮かんできた。
それは美園の学習机の2番目の引き出しだ。そこに溜めこまれている写真の数々。
「申し訳ない、ちょっと手違いがあったようだね」
今度浮かんだのは、美園の入学式を栄子と見に行った時の生徒たちの顔。当時生徒会副会長としてお祝いの言葉を読み上げた青年。
誠の中で全ての顔が目の前の人物と重なっていく。
「今から君を――」
「……誠です。僕は世良田誠です」
「世良田……」
青年の表情にちらりと揺れるものがあった。誠にはそれだけで十分だった。
「あなたは――城島九音先輩ですよね?」
拘束されていた体が自由になり目隠しが外される。
恐る恐る目を開いてみると、そこは木箱や樽の詰まった食料庫のような場所だった。僅かに海とお酒の香りがする。
部屋はそれほど広くない。ワンルームほどだろう。そこへ荷物が積まれているので思った以上に圧迫感がある。
そんな手狭な場所で西洋人らしき男4人が樽や木製椅子に腰かけ、誠を見ていた。
年齢は20代か40代くらいだろう、全員揃いの黒い軍服を着ている。
そのうちの1人、年嵩の男が誠に向かって何かを話しかけてきた。表情は軟らかい。
「************?」
何を言っているのか理解できない。
男はもう一度同じ言葉を繰り返しているようだが、さっぱり聞き取ることができない。
英語とは違った聞き馴染みのない言語は、トワが話していたユグドリアの公用語に似ている。
さっきから微妙に地面が揺れているように感じるのは、船が動いているからだろうか。
船酔いが辛くだんだん気分が悪くなってきた誠は、相手の言葉も耳に入らない状況だった。
そんな誠の様子を訝しげに見ていた年嵩の男は、ふいに何かに気付いたように眉根を寄せて、隣の若い男に話しかける。
会話のやりとりを行いながら、年嵩の方の声音がだんだん荒くなってくる。
責められている様子の若い男は、驚いた顔をして誠を見ていたが、すぐに顔色が青ざめてくる。
ようやく気付いたようだ。
誠は体を丸めて体勢を整えた。
ここは船の上、逃げ場はない。
年嵩の男が先ほどとうって代わり、険しい表情を見せてこちらに近づきかけたとき、軍服を着た別の若い男が入ってきた。
今度はとても若い男だ。20代、いや10代でも通用する、顔立ちのとても美麗な青年だ。
背も高く、ゆるりと部屋を見回す動きだけで、彼がこの場を取り仕切る人間だというのが本能で感じ取れた。彼だけは他のメンバーと違ってアジア人に見えるが、その瞳は青い。
何故だろう、どこかで見たことがある気がするが、そんなこと有りうるだろうか。
誠がそう考えていると、青年はつかつかと誠の前まで歩み寄ってくるなり、顔を強ばらせカツラを剥ぎ取った。
それを見た周りの男たちに動揺が走る。
青年は手に持ったカツラを壁に投げつけると、振り向きざまに若い男を殴りつけ、何か怒鳴りつけている。誠にはその言葉が理解できなかったが、すぐに年嵩の男が二人の間に割って入り、仲裁をはじめた。
頬を押さえてうずくまっている若い男をしばらく見下ろしていた青年は、低い声で男に何か語りかけ、誠の方に向き直った。
その瞳を見た途端、誠はいいようのない不安にかられた。
訓練でもしたのだろうか、先ほどあれだけ怒りを露わにしていた瞳には、もう何の感情も浮かんでいない。
青年は誠の前にしゃがみ込むと、綺麗な日本語で話しかけてきた。
「君、名前は?」
「――まこ、と」
「まこと君か。怖がらせて悪かったね」
そう言って彼が口元に冷笑を浮かべた途端、誠の脳裏にある映像が浮かんできた。
それは美園の学習机の2番目の引き出しだ。そこに溜めこまれている写真の数々。
「申し訳ない、ちょっと手違いがあったようだね」
今度浮かんだのは、美園の入学式を栄子と見に行った時の生徒たちの顔。当時生徒会副会長としてお祝いの言葉を読み上げた青年。
誠の中で全ての顔が目の前の人物と重なっていく。
「今から君を――」
「……誠です。僕は世良田誠です」
「世良田……」
青年の表情にちらりと揺れるものがあった。誠にはそれだけで十分だった。
「あなたは――城島九音先輩ですよね?」
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