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奪われた家族
80話:思いもよらぬ再会
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部屋の空気が更に静まり返ったように感じた。
1人の男が誠に詰め寄ろうとするが、青年が手でそれを制する。
それを見た誠は、さらに畳み掛けるように話しかける。
「学校では生徒会長。ここではテロリストのリーダー。ずいぶん優秀なんですね」
相手が美園の先輩だと分かってもなお、城島と向き合って話すことができない。
城島からは底知れぬ闇の気配がする。誠はその殺気を敏感に感じ取り、正面から目を合わせられなかった。
城島の口元には笑みが浮かんでいるが、愉快な気分から出たものでないことは確かだ。その証拠に相変わらず瞳の奥は冷たいままだ。
「自分の置かれている立場が分かっているのかい? 俺の正体にさえ気付かなければ無事に帰してやれたものを、自分から危険に飛び込もうとするなんて、利口じゃないな」
「はなからそのつもりです」
「――何」
城島は目を細める。
「僕はトワの友達です。だからトワを助けてあげたいんです」
「助ける?」
「トワは信じてる人に裏切られています。トワはそれを知りません。あなたたちより悪い奴はもっと他にいるんです。トワに手を出さないと約束してくれれば、僕もできる限りの協力はします」
誠は今度こそ真っ直ぐに城島の目を見た。
フッ、と口の端を吊り上げ、ため息とも笑みとも知れぬ音を漏らした城島は、先ほどよりも幾分和らいだ表情で誠を見た。
「何か勘違いしているようだが、俺たちの目的はあくまで現政権の退陣、つまりトワを背後で操っているマツムラだ。トワに関してはむしろ君と同じ意見だよ。悪魔の手から救い出してやりたいんだ」
「悪魔?」
「ああ。恐らく俺たちの敵は共通らしいな。マツムラ。そうだろ?」
彼の言葉をどこまで信じていいのだろう。誠は判断しかねていた。
「その青い瞳。城島先輩は日本人じゃないんですね? ユグドリアの政治にこれだけ関心を持ってることを考えれば、半分はユグドリアの血が流れている。違いますか?」
「ご名答」
そう言って、おざなりに拍手をしてみせた。
「美園くんから聞いていた『天使のような子』というイメージとはずいぶんかけ離れているね。そんな君なら僕の正体にも気付いてるんじゃないか?」
誠は無言で城島を見た。城島は「どうぞ」と目で促した。
「……たぶん、あなたはトワ王子にとっても近しい人。彼を心配し、ユグドリアの将来を心配し、マツムラの裏の顔を知っている」
そういう人物で誠が思い当たるのは一人しかいない。
「もしかしてトワの亡くなったお兄さんですか?」
その言葉を聞いて、城島は口元を緩め「君は神童だな」と答えた。
周りで聞いている城島の仲間達は恐らく日本語が分からないのだろう、黙って事の成り行きを見守っている。
「トワはお兄さんは死んだと思ってます。生きてるならどうして会いに行かないんですか?」
「行けるものなら行ってるさ。だけど俺が生きている事が分かれば、今度はトワが危険な目にあうかもしれない」
「どういうことですか?」
城島は目を伏せた。
睫の隙間から微かに覗くのは美しい海の色。青ではない、深い深い海の底で眠る闇の深青。
そこに映るものは、不安、恐れ、憎しみ、そして後悔だろうか――。
「……マツムラは…俺の家族を殺した」
「――え?」
1人の男が誠に詰め寄ろうとするが、青年が手でそれを制する。
それを見た誠は、さらに畳み掛けるように話しかける。
「学校では生徒会長。ここではテロリストのリーダー。ずいぶん優秀なんですね」
相手が美園の先輩だと分かってもなお、城島と向き合って話すことができない。
城島からは底知れぬ闇の気配がする。誠はその殺気を敏感に感じ取り、正面から目を合わせられなかった。
城島の口元には笑みが浮かんでいるが、愉快な気分から出たものでないことは確かだ。その証拠に相変わらず瞳の奥は冷たいままだ。
「自分の置かれている立場が分かっているのかい? 俺の正体にさえ気付かなければ無事に帰してやれたものを、自分から危険に飛び込もうとするなんて、利口じゃないな」
「はなからそのつもりです」
「――何」
城島は目を細める。
「僕はトワの友達です。だからトワを助けてあげたいんです」
「助ける?」
「トワは信じてる人に裏切られています。トワはそれを知りません。あなたたちより悪い奴はもっと他にいるんです。トワに手を出さないと約束してくれれば、僕もできる限りの協力はします」
誠は今度こそ真っ直ぐに城島の目を見た。
フッ、と口の端を吊り上げ、ため息とも笑みとも知れぬ音を漏らした城島は、先ほどよりも幾分和らいだ表情で誠を見た。
「何か勘違いしているようだが、俺たちの目的はあくまで現政権の退陣、つまりトワを背後で操っているマツムラだ。トワに関してはむしろ君と同じ意見だよ。悪魔の手から救い出してやりたいんだ」
「悪魔?」
「ああ。恐らく俺たちの敵は共通らしいな。マツムラ。そうだろ?」
彼の言葉をどこまで信じていいのだろう。誠は判断しかねていた。
「その青い瞳。城島先輩は日本人じゃないんですね? ユグドリアの政治にこれだけ関心を持ってることを考えれば、半分はユグドリアの血が流れている。違いますか?」
「ご名答」
そう言って、おざなりに拍手をしてみせた。
「美園くんから聞いていた『天使のような子』というイメージとはずいぶんかけ離れているね。そんな君なら僕の正体にも気付いてるんじゃないか?」
誠は無言で城島を見た。城島は「どうぞ」と目で促した。
「……たぶん、あなたはトワ王子にとっても近しい人。彼を心配し、ユグドリアの将来を心配し、マツムラの裏の顔を知っている」
そういう人物で誠が思い当たるのは一人しかいない。
「もしかしてトワの亡くなったお兄さんですか?」
その言葉を聞いて、城島は口元を緩め「君は神童だな」と答えた。
周りで聞いている城島の仲間達は恐らく日本語が分からないのだろう、黙って事の成り行きを見守っている。
「トワはお兄さんは死んだと思ってます。生きてるならどうして会いに行かないんですか?」
「行けるものなら行ってるさ。だけど俺が生きている事が分かれば、今度はトワが危険な目にあうかもしれない」
「どういうことですか?」
城島は目を伏せた。
睫の隙間から微かに覗くのは美しい海の色。青ではない、深い深い海の底で眠る闇の深青。
そこに映るものは、不安、恐れ、憎しみ、そして後悔だろうか――。
「……マツムラは…俺の家族を殺した」
「――え?」
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