創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第1章 光の導き手

第45話 悪魔の光

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 それは、一瞬だった。

 先程まで笑い合いながら話をしていたラクト、サイガ、ナグス。

 姉妹の悲報を聞いて尚、シエラを救おうと奮闘する小さな希望を信じて、前に進もうとしていたアレン、光拠点シエラの隊員達。


 全てを一瞬で無へと変えたそれは、一分と経たぬ内に〝人の気配〟と共に過ぎ去って行った。

「…………消えたか」

 ユウトは気配の消失を感じ取り、瞬時に自身とレンの周囲に円状の障壁を創造した後、薄く纏っていた血に塗れた障壁を解除した。

「……これが、災禍領域カタストロ・フィード

 障壁が無くなり視界が良好になった二人は、目に入った景色から過ぎ去った天災の凄まじさを目の当たりにした。

 数分前まで白壁だった筈の拠点は全面赤黒く染まり、大勢いた人々の影は一つも無かった。

 残された物は、血に染まった廃墟と静寂、そして何故か二人の周囲に落ちていた数百枚の〝オセロの石〟だった。

「これは……赤壁の街にもあった。あの事件も、災禍領域によるものだったのか?」

 レンは以前起きた赤壁の街の事件を思い出し周囲を見回していると、ある違和感に気付いた。

「……おかしい。以前と同じ現象なのに〝臭い〟が残っている」

「……臭い?」

 ユウトは茫然としたまま周囲を見回し、生存者を探しながらレンの言葉に耳を傾けた。

 現象は同じだが、赤壁の街とは違い、鼻が曲がる程の血生臭さと鉄の匂いが辺り一面に充満していた。

「本来ならこれだけの匂いが残る筈……なら、何であの時は」

「…………」

 レンが思考している間、ユウトは逆側を向いたまま立ち尽くしていた。

 周囲の静寂に解け込むように、頬を伝う涙を流して。

 (俺がもっと早く気付いて……周囲に障壁を創造していたなら……こんな事には)

「何が、最強だ」

 俯いて涙を流していたユウトは、目の前に広がる赤い拠点を見つめ、自身の無力を嘆いた。

「……ユウト、どうかしたのかい?」

 レンが心配して近付こうとした直後、周囲から複数の気配を感じ始めた。

「誰か来る……だけど、さっきまでは人の気配なんて」

「……ああ。それに……数が多過ぎる」

 ユウトの感じ取った気配は、丁度〝シエラに来た時に感じた気配〟と同等の人数だった。

 そして、気配の正体を視認した二人は目を疑った。

 二人の周辺から姿を現したのは、先程災禍領域に呑まれ消失した光拠点シエラの隊員達だった。

「ば、馬鹿な……殺された住人が」

「……本当にシエラの住人が転生して現れたのなら一人か二人程度の筈だよ……亡くなった人全員が、〝同時に同じ場所〟で転生するなんてありえない……これも災禍領域の影響なのか?」

 二人は周囲を見回し、現状を必死に理解しようと努力したが、得られた答えは〝災禍領域の影響かもしれない〟という曖昧なものだった。

 そして、人混みの中から見覚えのある四人組が現れ、先頭に立っていた赤髪の青年が聞き覚えのある声で二人に語り掛けた。

「どうやら俺達は、死んじまったみたいだな……ユウト、レン」

「「……ラクト」」

 二人は四人に視線を向け、心の奥底で予想していた最悪の結末に直面した。

「この身体変なんだよ……転生って言ったら身体は普通全快の筈だろ?なのに俺達全員、身体はボロボロ……まるで、〝死ぬ直前の姿で転生〟させられた気分だぜ」

 ラクトは冗談交じりに言葉を並べていたが、その表情は一切笑っておらず、向けられた瞳は怒りに満ちていた。

 ラクトはユウトを睨み付けており、その瞳からはユウトが障壁を創造していれば、こんな事にはならなかったんだと言わんばかりだった。

「レン……少し下がっていてくれるか?」

「ユウト?」

 ユウトは、レンの前に左手を出して後退させた。

「ここから先は、〝悪魔〟の仕事だ」

 レンに顔を向け、微笑みながら告げたユウトの瞳は、周囲の血液と同様に赤黒く染まっていた。

「ユウト……何を」

 レンの言葉を聞き終えるよりも先に、ユウトはラクト達に視線を戻し、右手に双頭刃式槍、左手に薙刀を創造した。

 (あの武器は……僕達が戦った姉妹が使っていた)

 見覚えのあるその武器は、以前戦った姉妹の使用していた緑色を基調とした双頭刃式槍と桜色を基調とした薙刀であった。

「お、おい……嘘だろ?さっきまで一緒にいた仲間だろ?俺達は」

「……」

 動揺するラクトの言葉を意にも返さず、ユウトは目を瞑り両手に持つ武器を回していた。

 (……転生したお前達を救うには、もうこれしか無いんだ。せめて最後は、一瞬で終わらせよう。イタリアの人々が信じ続けた二人の想い……全てをぶつけて!)

 ユウトは回していた両手を止め、双頭刃式槍を薙刀に重ね合わせると、氷と炎によって赤雷を表現し始めた。

 二本の氷雷は槍先で絡み合い、炎によって赤い閃光を放ち始める。

「……すまない」

 二つの槍先が交差された状態で維持したまま、前方へと突き出しながらラクト達との距離を詰めた。

真実の絆イリガ・ミ・ディバリタ

 ラクトに直撃した瞬間、周囲に放たれた赤雷は、周囲の人々に絡み合うように伝染し、二人を囲うように現れた人々全員に結晶が広がると、氷に纏われていた炎属性によって紅の光を放ち大爆発した。

「ぐっ!」

 強烈な爆風に身構えたレンだったが、事前にユウトが創造していた障壁によって守られた。

 (ユウト……君は悪魔なんかじゃない。こんなにも人を想える君が、これ以上苦しむ必要は無い)

 レンは強い意志を胸に、爆発による黒煙によって姿の見えないユウトの元へと駆け出した。

―*―*―*―*―

「……」

 黒煙の中、目を瞑り立ち尽くしたユウトの元へ一人の男性が歩み寄って来た。

「……アレン」

「これでもシエラの代表ですから……と言っても、私の属性が水のマイナス属性で無ければ今の攻撃で死んでいたと思いますが」

 身体を属性によって治癒し続けていたアレンだったが、焼き爛れた身体からは止まる事のない血が流れ、出していた属性も衰えと重傷によって途切れ途切れになっており、身体の浅い傷ですら治癒出来ていなかった。

「私は、死ねないんですよ。あの子が、リエルが帰って来るまでは……私達の為に、必死で頑張っているあの子を……笑顔で迎える為に」

「……」

 ユウトは両手の武器を砕くと、結晶刀クリスタリアを右手に創造し、アレンに向けて歩みを進めた。

「…………やはり、噂は本当だったんですね」

 回復を続けていたアレンだったが、遂に属性が途絶え地面に膝をついた。

「……貴方は、光の希望なんかじゃない」

 アレンはゆっくりと顔を上げ、ユウトに向けて怒りを込めた瞳を向けた。

「ただの化物……光でも、人ですらない…………悪魔だ」

 アレンに歩み寄ったユウトは、無言のまま属性を纏わせていない結晶刀を振りかぶると、アレンに冷たい眼差しを向けた。

 (……ごめん)

 目を瞑ったユウトは、アレンに向けて刃を振り下ろした。

 しかし、その刃がアレンに届く事は無かった。

 目を開けたユウトの視界に映った者は、結晶刀を炎の属性を帯びた手で受け止め、血を滴らせながらも決して離さない様に、刃を強く握り締めたレンの姿だった。

「君は……君はこれ以上……苦しみを背負うなっ!!」

 ユウトに視線を合わせたレンは、激痛に顔を歪ませながらも、ユウトに向けてたった一つの願いを叫んだ。

「レン」

 血を滴らせながら、刃を受け止めたレンを見て我に帰ったユウトは、結晶刀を握り締めていた手の力を抜いた。

「…………なんでそこまでして……俺なんか」

 手から滑り落ちた結晶刀は地面に落ちると同時に、甲高い音を立て消滅した。

「アレンなら……もう、眠ってしまったよ。だからもう君が、これ以上血に染まる必要は無い」

 その言葉を聞いたユウトは周囲に意識を向けたが、レンの背後にいた筈のアレンの気配も、周囲にいた筈の人の気配も全て消失していた。

「ユウト。一つ、約束して欲しい」

 レンから発せられた声は今までと同じ優しい声だったが、その声には今まで以上に強い意志が込められていた。

「……」

 ユウトは向けられた曇りの無い瞳を見つめ、周囲に向けていた意識をレンだけに向けた。

「これから先……もう、一人で全てを背負わないで欲しい。君が背負う罪も罰も責任も、共に背負うと誓う……だから君は——」

「これは、俺だけの責任なんだよ!……創造が間に合っていれば死なずに済んだシエラの人達を死なせ、転生した後の人達も殺した。レン……俺一人が犯した罪を、お前に背負わせる訳にはいかない」

 レンの言葉を遮り、紅の瞳も血走らせながら自身の想いを叫んだユウトは、レンから視線を逸らす様に背を向けた。

「……君なら、そう言うと思っていたよ」

 そう口にしたレンは、俯いていたユウトを背後から優しく抱きしめた。

「……」

 抱きしめられたユウトは、身体を少しだけ強張らせたが、レンを振り払う事は無かった。

「〝優希〟……誰にも罪を背負わせない、この世界で一番優しく、僕の……いや、光の人々の希望となって光の神と共に世界を平和へと導いていく……僕が考えたユウトとは別の、君自身の名前だ」

 ユウキは俯いたままだったが、身体を震わせ瞳から溢れた滴が地面を濡らしていた。

「そんな君と、僕はいつまでも共に歩むと誓う。君の味方がいなくなっても、君が闇に染まってしまっても、僕の命尽きる……その時まで」

 ユウキは言葉を発する事なく、抱きしめていたレンの腕をそっと掴み、レンの誓いを受け入れた。

 (……死なせない。悪魔の俺にとっての光は、ユウと…………お前だけだから)
 
 紅色に染まっていた瞳は、一人の少年の誓いによって滴った涙によって流れ、少女の瞳は雲一つない晴天の空色へと変わっていた。
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