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第1章 光の導き手
第44話 定められた終点
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真っ白だった視界が徐々に周囲の色を捉え始め、数秒後には周辺に広がる木々の香りと共にそよぐ風を感じていた。
転移した五人の目に真っ先に入ったのは、正面の巨大な建造物だった。
周囲を木々に囲まれた建造物は、白を基調とした聖堂風の外観をしていた。
(ここが、イタリア南部に位置する〝光拠点シエラ〟)
―*―*―*―*―
「あれ?ユウト〝も〟外出する時に障壁を出しているのかい?」
転移後、ユウトの周囲に違和感を感じたレンはユウトが身体に纏った薄い膜の様な障壁に気が付くと、人差し指で障壁を突きながら問い掛けた。
「ん?ああ……この姿になってからは、ルミナから出る時は常に纏う様にしてるんだよ」
ユウトはルミナから出る度に〝光に関係しない全てを遮断する薄い障壁〟を創造し、常に闇の人間からの襲撃に備えていた。
ユウトの纏っている障壁の特徴は、闇の人間に対してだけでなくユウトが触れた光の人間を対象に、障壁を纏わせる事が出来る。
二人の会話を他所に、周囲の様子を確認していた三人の元に、シエラから一人の男性が歩み寄って来た。
「おっ!まさか代表が自ら来るとはな」
ラクトが男性に気が付き声を上げると、歩み寄る男性に向けてサイガとナグスは、笑顔で手を振っていた。
「一日ぶりだな〝アレン〟!」
「ラクト、おはようございます。サイガもナグスもおはようございます」
「「おはよう!アレン」」
三人に歩み寄り挨拶を交わした男性は、三人の背後に立っていた二人に優しい眼差しを向けた。
「そちらのお二人とは、初めてお会いしましたね。私はこの光拠点シエラの代表を任されている、アレンと言います」
六十代前半位の、髭を生やした銀髪の男性は、優しく微笑み小さく会釈した。
「初めましてアレン。僕の名前はレン、こちらの可愛い女の子はユウトだよ」
「初めまして……それと可愛い言うな」
レンの背中を左手で小突いたユウトは、アレンに視線を向けて会釈した。
「ユウトはこう見えて、我が日本拠点の主力も主力!日本で最強と呼ばれる女の子なんだぜ?」
ラクトは自慢げに、ユウトの事を話した。
「この子が……私も隊員達から聞き及んでいましたが……貴方が光の導き手の」
そう告げたアレンは、ユウトに向けていた視線をラクトに戻した。
「……実はこのシエラにも、主力と呼ばれていた五人の隊員達がいたのですが、その内二人は既に故人となってしまいました」
少し俯いたアレンには、先程の明るさは無かった。
「……そうだったのか」
先程まで自慢げに話していたラクトは、アレンの言葉を聞いた瞬間、アレンと同じ様に表情を曇らせた。
「残った主力の中に〝仲の良い姉妹〟がいたのですが……その二人も、未だに黒いフードを被った男の調査から戻っていないのです」
アレンの言葉を聞いたレンとユウトは、互いに顔を見合わせた。
「仲の良い姉妹……その二人って……まさか」
レンの脳裏には、ルクスで対峙した二人の少女の姿が思い浮かんでいた。
「なあアレン。もしかして、その二人の名前はアイリとティーレか?」
視線をアレンに向けたユウトはユキの記憶を辿り、レンと同様に脳裏に浮かんだ二人の少女と同一人物かを確かめる為に、記憶に残った少女達の名を尋ねた。
「はい……どうして二人の名前を?」
嫌な予感が的中したユウトは、表情を曇らせるとアレンから目を逸らすように俯いた。
「僕が話すよ」
「……」
俯いているユウトの前に出たレンは、真剣な眼差しをアレンに向けた。
「…………アイリとティーレは死んでいたんだ。そして、転生してしまっていた二人を僕と……いや、僕が殺した」
(レン……お前)
この場にいないユキを気遣い、レンは一人であの二人を殺めたと嘘を吐いた。
「なっ!」
レンの言葉を聞いたアレンだけで無く、周囲で会話を聞いていた人々も驚きの表情を浮かべた。
「……そうでしたか……あの二人が」
アレンは一筋の涙を流し、雲一つない蒼天の空を見上げた。
悲報を聞いたシエラの隊員達は、二人の名前を漏らしながら涙を流していた。
「この国を笑顔にしてくれていた主力達が、次々に命を落としていると言うのに……属性の衰えた自身の非力を、これ程まで憎んだ事はありません」
アレンの行き場の無い怒りによって握られた拳からは、涙のように血が滲んでいた。
「あの子達を苦しみから解放して下さって、本当に有難うございました。光の為に……いえ、私達のような力の無い人々の為に戦ってくれたあの子達を救ってくれた事に、我々からは感謝しかありません」
アレンは深々とお辞儀をすると、ゆっくりとシエラに視線を向けた。
「……この国の主力は、もう〝リエル〟一人になってしまった」
「リエル?そいつも主力の一人なのか?」
ナグスはアレンに歩み寄りながら、アレンの呟いた名前について問い掛けた。
「はい。この国でユウトさんと同様に、最強と呼ばれている〝六歳〟の少女です」
「六歳だって!……世界に存在する主力の中じゃ最年少じゃねえか!」
「彼女は五歳という若さで属性が開花し、一年足らずで自身の持つ〝強力な属性〟と彼女の特殊な戦闘法である〝当たる事の無い弾丸〟を使用する事で、国内で最強と呼ばれる様になったんです」
「「「「え?」」」」
(アイツと同じタイプか?)
四人が声を漏らして茫然とする中、ユウトだけは心の中にいる少女の事を思い浮かべていた。
「当たらねぇなら意味ないだろ?」
ラクトは、全員が疑問に感じた事をアレンに問い掛けた。
「〝一般的〟であればの話です。彼女にとって対象に着弾する〝確率〟なんて表面上の数字に過ぎませんからね」
「……どう言う事だ?」
アレンの言葉を聞いても以前として意味が理解出来ない三人は、首を傾げたまま不思議そうな顔をしていた。
「それで、その彼女は今どこに?」
そんな三人を他所に、レンは自身の感じた疑問を投げ掛けた。
「リエルは今、〝刻の姫〟に会う為にロシアへ」
「刻の姫……まさかっ!〝刻絕の姫君〟の事かい!」
レンは予想外の回答に驚愕し、声を荒げた。
「誰だ?その刻絕の姫君って?」
レンの声に驚いたラクトは、声の主であるレンに視線を向けた。
「ラクト……君は国外であるシエラの担当なんだから、ちゃんと他国の知識も学んでいないと駄目だよ。光には、ユウトやリエルの様に国内で最強と呼ばれている人とは違う〝世界に認められた最強〟が存在するんだ」
レンの説明を聞いていたユウトは、フィリアと勉強した際に使用していた資料の事を思い出していた。
「ユカリが、何故〝光の神〟と呼ばれているか解るかい?世界には、ユカリと同等の力を持つ人が〝二人〟存在するからだよ」
「ユカリと同じ強さの奴が、二人もいたのか……ん?それだと変じゃないか?ユウトには悪いが、ユカリよりはまだ弱い筈だろ?なのに日本では最強と呼ばれてる……ユカリだって日本国内なら最強の筈だろ?」
そう言って首を傾げるラクトに向けて、レンは説明を続けた。
「国内では光の導き手で定着していたからね……隕石に対しても臆する事なく立ち向かい打ち勝ったユウトの姿が、人々からそう見えたから最強と呼ばれる様になったんだと思うよ?」
「成る程な……確かにユカリには、敬称がいろいろあるもんな」
レンからの説明を聞いたラクトは、納得する様に頷いていた。
(光の悪魔と呼ばれていた時は、辛かったけど)
レンの横で嫌な記憶を思い出したユウトは、微かに表情を曇らせていた。
「ユカリが光の神と呼ばれているのは、神様と呼ばれる程の貢献と信頼があるからだね。それから国内ではあまり呼ばれていないけど、ユカリ自身も世界最強の一人だよ」
「そうだったのか……でも、なんで〝刻絕の姫君〟って呼ばれているんだ?」
「ごめん……それは、僕にも解らない。一説には、彼女の持つ〝属性〟が関わっているらしいよ」
ラクトに対する説明を終えたレンは、周囲の隊員達に挨拶をしていたアレンに視線を向けた。
「アレン……どうしてリエルは、彼女の元へ?」
「……災禍領域の所為ですよ」
アレンは苦い表情を浮かべながら、レンの質問に応えた。
「ロシアにいる世界最強と、あの天災に何か関係があるのか?」
サイガが不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げると、それを聞いていたナグスも同様に首を傾げていた。
「災禍領域は、徐々にこのシエラに近づいて来ているんです。出現自体は不定期ですが……確実に、イタリア北部から」
「なんだって!災禍領域の接近を察知していながら、なんで避難しないんだ!!」
ラクトは天災による危機が迫っている中、依然として変わらぬ日常を送っている人々を見て怒りを露わにした。
「ラクト……私達にはもう、ここしか無いんですよ。命を落とした数多くの仲間達、そして我が国の希望として戦ったあの五人の帰る場所は。それに、リエルは災禍領域に対処する為にロシアに向かったんです。リエルの帰還を待たずに、我々だけがこの地を去る訳には行かないんですよ」
「だけど…………」
アレンの瞳から強い意志を感じたラクトは、口から出かけた言葉を飲み込み視線を逸らした。
「……さぁ、こんな暗い話をする為に来て貰った訳ではありませんから……立ち話はこれくらいにして、詳しい内容は拠点内でしましょうか」
「……そうだね」
レンの返答と共に、六人は暗い雰囲気に包まれたまま、シエラに向けて歩き始めた。
そんな時、ユウトは背後に聳えている山の向こう側から異様な雰囲気を感じ取った。
「っ!」
ユウトは咄嗟に振り向いたが、背後に見える〝景色〟に変化は見られなかった。
「どうかしたのかい?ユウト」
「いや……レン、今周囲の空気が変わった事に気付いたか?」
「え?そんな感じは無いよ。僕は君が言う事なら全て信じるけど、何をすれば良いか教えてくれるかい?」
緊張感の無い笑みを向けるレンとは裏腹に、ユウトは辺りを見渡し周囲を呑み込まんとする〝悍ましい気配〟に意識を集中させた。
「これは一体……」
ユウトが声を発した瞬間、視界の先に見えた山の頂上から赤黒く渦巻いた〝領域〟が、空間全てを呑み込むように広がり始めた。
「レンっ!!」
咄嗟に隣に立っていたレンの手を掴んだユウトは、自身の纏っていた障壁を共有し、迫り来る〝何か〟を間一髪の所で防いだ。
その瞬間、二人の視界に広がっていた美しいイタリアの景色は、シエラにいた〝全ての人々〟の鮮血によって紅く染め上げられた。
静かに佇む光拠点シエラは、一瞬にして〝赤壁の廃拠点〟へと姿を変えた。
転移した五人の目に真っ先に入ったのは、正面の巨大な建造物だった。
周囲を木々に囲まれた建造物は、白を基調とした聖堂風の外観をしていた。
(ここが、イタリア南部に位置する〝光拠点シエラ〟)
―*―*―*―*―
「あれ?ユウト〝も〟外出する時に障壁を出しているのかい?」
転移後、ユウトの周囲に違和感を感じたレンはユウトが身体に纏った薄い膜の様な障壁に気が付くと、人差し指で障壁を突きながら問い掛けた。
「ん?ああ……この姿になってからは、ルミナから出る時は常に纏う様にしてるんだよ」
ユウトはルミナから出る度に〝光に関係しない全てを遮断する薄い障壁〟を創造し、常に闇の人間からの襲撃に備えていた。
ユウトの纏っている障壁の特徴は、闇の人間に対してだけでなくユウトが触れた光の人間を対象に、障壁を纏わせる事が出来る。
二人の会話を他所に、周囲の様子を確認していた三人の元に、シエラから一人の男性が歩み寄って来た。
「おっ!まさか代表が自ら来るとはな」
ラクトが男性に気が付き声を上げると、歩み寄る男性に向けてサイガとナグスは、笑顔で手を振っていた。
「一日ぶりだな〝アレン〟!」
「ラクト、おはようございます。サイガもナグスもおはようございます」
「「おはよう!アレン」」
三人に歩み寄り挨拶を交わした男性は、三人の背後に立っていた二人に優しい眼差しを向けた。
「そちらのお二人とは、初めてお会いしましたね。私はこの光拠点シエラの代表を任されている、アレンと言います」
六十代前半位の、髭を生やした銀髪の男性は、優しく微笑み小さく会釈した。
「初めましてアレン。僕の名前はレン、こちらの可愛い女の子はユウトだよ」
「初めまして……それと可愛い言うな」
レンの背中を左手で小突いたユウトは、アレンに視線を向けて会釈した。
「ユウトはこう見えて、我が日本拠点の主力も主力!日本で最強と呼ばれる女の子なんだぜ?」
ラクトは自慢げに、ユウトの事を話した。
「この子が……私も隊員達から聞き及んでいましたが……貴方が光の導き手の」
そう告げたアレンは、ユウトに向けていた視線をラクトに戻した。
「……実はこのシエラにも、主力と呼ばれていた五人の隊員達がいたのですが、その内二人は既に故人となってしまいました」
少し俯いたアレンには、先程の明るさは無かった。
「……そうだったのか」
先程まで自慢げに話していたラクトは、アレンの言葉を聞いた瞬間、アレンと同じ様に表情を曇らせた。
「残った主力の中に〝仲の良い姉妹〟がいたのですが……その二人も、未だに黒いフードを被った男の調査から戻っていないのです」
アレンの言葉を聞いたレンとユウトは、互いに顔を見合わせた。
「仲の良い姉妹……その二人って……まさか」
レンの脳裏には、ルクスで対峙した二人の少女の姿が思い浮かんでいた。
「なあアレン。もしかして、その二人の名前はアイリとティーレか?」
視線をアレンに向けたユウトはユキの記憶を辿り、レンと同様に脳裏に浮かんだ二人の少女と同一人物かを確かめる為に、記憶に残った少女達の名を尋ねた。
「はい……どうして二人の名前を?」
嫌な予感が的中したユウトは、表情を曇らせるとアレンから目を逸らすように俯いた。
「僕が話すよ」
「……」
俯いているユウトの前に出たレンは、真剣な眼差しをアレンに向けた。
「…………アイリとティーレは死んでいたんだ。そして、転生してしまっていた二人を僕と……いや、僕が殺した」
(レン……お前)
この場にいないユキを気遣い、レンは一人であの二人を殺めたと嘘を吐いた。
「なっ!」
レンの言葉を聞いたアレンだけで無く、周囲で会話を聞いていた人々も驚きの表情を浮かべた。
「……そうでしたか……あの二人が」
アレンは一筋の涙を流し、雲一つない蒼天の空を見上げた。
悲報を聞いたシエラの隊員達は、二人の名前を漏らしながら涙を流していた。
「この国を笑顔にしてくれていた主力達が、次々に命を落としていると言うのに……属性の衰えた自身の非力を、これ程まで憎んだ事はありません」
アレンの行き場の無い怒りによって握られた拳からは、涙のように血が滲んでいた。
「あの子達を苦しみから解放して下さって、本当に有難うございました。光の為に……いえ、私達のような力の無い人々の為に戦ってくれたあの子達を救ってくれた事に、我々からは感謝しかありません」
アレンは深々とお辞儀をすると、ゆっくりとシエラに視線を向けた。
「……この国の主力は、もう〝リエル〟一人になってしまった」
「リエル?そいつも主力の一人なのか?」
ナグスはアレンに歩み寄りながら、アレンの呟いた名前について問い掛けた。
「はい。この国でユウトさんと同様に、最強と呼ばれている〝六歳〟の少女です」
「六歳だって!……世界に存在する主力の中じゃ最年少じゃねえか!」
「彼女は五歳という若さで属性が開花し、一年足らずで自身の持つ〝強力な属性〟と彼女の特殊な戦闘法である〝当たる事の無い弾丸〟を使用する事で、国内で最強と呼ばれる様になったんです」
「「「「え?」」」」
(アイツと同じタイプか?)
四人が声を漏らして茫然とする中、ユウトだけは心の中にいる少女の事を思い浮かべていた。
「当たらねぇなら意味ないだろ?」
ラクトは、全員が疑問に感じた事をアレンに問い掛けた。
「〝一般的〟であればの話です。彼女にとって対象に着弾する〝確率〟なんて表面上の数字に過ぎませんからね」
「……どう言う事だ?」
アレンの言葉を聞いても以前として意味が理解出来ない三人は、首を傾げたまま不思議そうな顔をしていた。
「それで、その彼女は今どこに?」
そんな三人を他所に、レンは自身の感じた疑問を投げ掛けた。
「リエルは今、〝刻の姫〟に会う為にロシアへ」
「刻の姫……まさかっ!〝刻絕の姫君〟の事かい!」
レンは予想外の回答に驚愕し、声を荒げた。
「誰だ?その刻絕の姫君って?」
レンの声に驚いたラクトは、声の主であるレンに視線を向けた。
「ラクト……君は国外であるシエラの担当なんだから、ちゃんと他国の知識も学んでいないと駄目だよ。光には、ユウトやリエルの様に国内で最強と呼ばれている人とは違う〝世界に認められた最強〟が存在するんだ」
レンの説明を聞いていたユウトは、フィリアと勉強した際に使用していた資料の事を思い出していた。
「ユカリが、何故〝光の神〟と呼ばれているか解るかい?世界には、ユカリと同等の力を持つ人が〝二人〟存在するからだよ」
「ユカリと同じ強さの奴が、二人もいたのか……ん?それだと変じゃないか?ユウトには悪いが、ユカリよりはまだ弱い筈だろ?なのに日本では最強と呼ばれてる……ユカリだって日本国内なら最強の筈だろ?」
そう言って首を傾げるラクトに向けて、レンは説明を続けた。
「国内では光の導き手で定着していたからね……隕石に対しても臆する事なく立ち向かい打ち勝ったユウトの姿が、人々からそう見えたから最強と呼ばれる様になったんだと思うよ?」
「成る程な……確かにユカリには、敬称がいろいろあるもんな」
レンからの説明を聞いたラクトは、納得する様に頷いていた。
(光の悪魔と呼ばれていた時は、辛かったけど)
レンの横で嫌な記憶を思い出したユウトは、微かに表情を曇らせていた。
「ユカリが光の神と呼ばれているのは、神様と呼ばれる程の貢献と信頼があるからだね。それから国内ではあまり呼ばれていないけど、ユカリ自身も世界最強の一人だよ」
「そうだったのか……でも、なんで〝刻絕の姫君〟って呼ばれているんだ?」
「ごめん……それは、僕にも解らない。一説には、彼女の持つ〝属性〟が関わっているらしいよ」
ラクトに対する説明を終えたレンは、周囲の隊員達に挨拶をしていたアレンに視線を向けた。
「アレン……どうしてリエルは、彼女の元へ?」
「……災禍領域の所為ですよ」
アレンは苦い表情を浮かべながら、レンの質問に応えた。
「ロシアにいる世界最強と、あの天災に何か関係があるのか?」
サイガが不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げると、それを聞いていたナグスも同様に首を傾げていた。
「災禍領域は、徐々にこのシエラに近づいて来ているんです。出現自体は不定期ですが……確実に、イタリア北部から」
「なんだって!災禍領域の接近を察知していながら、なんで避難しないんだ!!」
ラクトは天災による危機が迫っている中、依然として変わらぬ日常を送っている人々を見て怒りを露わにした。
「ラクト……私達にはもう、ここしか無いんですよ。命を落とした数多くの仲間達、そして我が国の希望として戦ったあの五人の帰る場所は。それに、リエルは災禍領域に対処する為にロシアに向かったんです。リエルの帰還を待たずに、我々だけがこの地を去る訳には行かないんですよ」
「だけど…………」
アレンの瞳から強い意志を感じたラクトは、口から出かけた言葉を飲み込み視線を逸らした。
「……さぁ、こんな暗い話をする為に来て貰った訳ではありませんから……立ち話はこれくらいにして、詳しい内容は拠点内でしましょうか」
「……そうだね」
レンの返答と共に、六人は暗い雰囲気に包まれたまま、シエラに向けて歩き始めた。
そんな時、ユウトは背後に聳えている山の向こう側から異様な雰囲気を感じ取った。
「っ!」
ユウトは咄嗟に振り向いたが、背後に見える〝景色〟に変化は見られなかった。
「どうかしたのかい?ユウト」
「いや……レン、今周囲の空気が変わった事に気付いたか?」
「え?そんな感じは無いよ。僕は君が言う事なら全て信じるけど、何をすれば良いか教えてくれるかい?」
緊張感の無い笑みを向けるレンとは裏腹に、ユウトは辺りを見渡し周囲を呑み込まんとする〝悍ましい気配〟に意識を集中させた。
「これは一体……」
ユウトが声を発した瞬間、視界の先に見えた山の頂上から赤黒く渦巻いた〝領域〟が、空間全てを呑み込むように広がり始めた。
「レンっ!!」
咄嗟に隣に立っていたレンの手を掴んだユウトは、自身の纏っていた障壁を共有し、迫り来る〝何か〟を間一髪の所で防いだ。
その瞬間、二人の視界に広がっていた美しいイタリアの景色は、シエラにいた〝全ての人々〟の鮮血によって紅く染め上げられた。
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