夜の目も寝ず見える景色は

かぷか

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インセット編 

22 アヤ ①

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 昔の話しになる。
 俺もインセットも若い時だった。

「やめろ!インセット!」

 俺の師に羽交い締めされたインセットは黒いオーラを纏っていた。その巨大な力にコールが耐えられず俺が前からインセットの腕ごと動かないように抱え抑え直した。周りはどよめきたっていた。

「な、なんだ、それは…」

「黒いオーラか……!?まさか、お前が出せるとは」

「そんな事よりそいつを早くどかせ!!」

 コールは周りに怒鳴りちらしていた。

 原因はインセットの暴走だった。インセットに想いを寄せた若い伝術士が煮詰まって刺した。ここまでなら大事にならずに済んだんだ。

 インセットがそいつが庇ったのがいけなかった。若い伝術士は辞めてしまったがそれでは治まらない年配伝術士が刑を新たにかそうとしたがインセットが必要無いといい放った。

 そして…

「あいつのようにさせる気か!」

 と言った瞬間だった。
 あいつといえばインセットの師範しかいない。

 インセットから黒いオーラがでて意図も簡単に伝術士をねじ伏せた。俺は情けない事に一瞬出遅れたがコールが先にインセットを取り押さえてくれていた。

 アイズのように嫉妬にかられた伝術士の二の舞にさせたくなくて言ってしまったんだろうがインセットは自分の深い傷を無神経に抉られたに違いない。なぜなら、インセットは今もアイズを慕っている。

「インセット、落ち着け。お前が解決したのならもうそれ以上そいつに刑を科さない」

 コールが話しかけていたが全く聞く耳を持たなかった。そんな姿を見て考えている余裕などなかった。俺はインセットに頭突きをするがびくともしない。目が黒くどこを見てるのかわからず闇と言うに相応しかった。

 手に力が入り外れそうになる。

「コール…外れ…る…」

「死ぬ気で押さえろ!」

 伝術士達はそいつを連れだした。アヤは確認するとインセットの目に布を被せ見えないようにした。と同時に別の伝術士も腕が外れないよう片腕を持ち俺の負担を軽くした。

「く…そ、何て力だ」

「アヤ!話しかけ続けろ」

「わかった」

「もし、一人でも殺す素振りを見せたら俺が斬る」

 初めて見たコールの正真正銘の本気だった。
 コールは後ろに立ち剣を構えた。
 
 俺も他の伝術士も本気で呼び掛けた。

「インセット!大丈夫だ、落ち着け!抑えろ!お前ならできる」

「インセット!誰も傷つけない。戻ってこい」

 必死で話しかけた。何を話したか覚えていない。ただただ、汗だくになりながら俺は何度も説得し懇願した。

「頼む…こんな悲しい終わりにしたくない…まだ、お前はやることがある。見つけれなかった子供を探しだすんだろ…それがまだ残ってる。終らせるな…」

 すっと力が緩くなった。

「ア…ヤ、また、お前か…」

「インセット!」

「戻ったか!?」

「悪い、迷惑をかけた。緩めてくれ」

 何がどうなったのかわからないがインセットの暴走は治まった。
 周りを見渡したインセットは自分のしでかしたことを把握しようとしていた。ゆっくり、コールは剣をしまい警戒を解いた。
 
「俺はコールに斬られるすんでだったのか」
 
「お前を斬るなら俺かアヤだ」

「ふっ、それはどーも」

 コール達にお礼を言うがオデコに激痛が走った。

「って~」

「悪い」

「お前の頭突きで生きてる俺が不思議だ」

「あはは、インセットそう言うな、こいつらはお前の恩人だ。ところでその黒オーラなんなんだ、どこで身につけた。コントロール可能か?」

「ああ、あの時に。不思議と今は中におさまって自由に使える」

 インセットはオーラを出すと皆が警戒したが、大丈夫だと言いすぐに消した。俺はこの時オーラをインセットが呑み込んだと感じた。

それからは伝術士達がインセットを取り押さえようとしたがコールも俺も大反対だったがインセットは構わないと奴らに従った。

 会議は繰り返され、結局伝術士が利用する形になった。また、あいつは利用されてしまうのかと思うと俺はこんな所さっさと辞めてしまえば良いと思ったがあいつは構わないと良い従った。

 本当に今になってだがあいつが辞めなかったのはいつか会えなかったあいつに会うために辞めなかったんじゃないかと今でも思う。最後の希望と言うか…
 
 インセットは俺がガキの頃からいて、お互い顔見知りだった。他の奴らの事は知らないがコールとアイズが仲が良かったこともありインセットの情報は少しだが知っていた。ウェザーで発見されたインセットは身寄りも無く何処の誰の子かもわからないが良い身なりの物をつけていたらしい。伝術士の中でも気難しいアイズに付けたのは手に余るアイズが少しでも変わってくれると思ったんだと俺は思う。

 あのアイズの下で修行してるとは思えないぐらい要領も良く社交的だったインセットを羨ましくも危うく感じていた。

 端から見たらアイズが育ての親に見えていたが俺には全くそうは見えなかった。元々そう言う人だったし教え方や教育はしっかりしていたが…俺は嫌いだった。

 だがインセットは自分の師を心から尊敬していた。俺もだがあいつの場合は小さな動物がそれしか知らない害の無いものについて行ってるかのように見えた。

 アイズが唯一話ができるのはコールで二人で話すときは俺達二人で待つ事も多かった。

「アヤ、お前の師はアイズと仲がいいんだな」

「……。」

「俺の師は無口だが凄い」

「……。」

「師範が無口な分俺が話せばいいよな」

「……。」

「なんだ、お前も無口か。俺、嫌いじゃないぞ。お前が話せないなら何かあれば俺が話すな。師範で馴れてるから任せろ」

「俺は大丈夫だ」

「なんだ、話せるんだな」

 インセットはアイズの為にやり易く立ち回りをしていた。師範が喜ぶ姿が見たかった、誉められたかった。愛してもらいたかった…に違いない。

 しばしば何を考えてるかわからなかったがあいつは献身的だった。

「コール…インセットだが」

「ん?あいつ上手くやってるよな。意外とアイズは弟子には優しいんだな。インセットはいろんな事を知っている」

「……。」

「アヤ?」

「何でもない」

 皆が気がついていないのか、見て見ぬふりなのか。アイズの変化や評価ばかり上がるが全てインセットが上手く立ち回っているからだ。誰もあいつを見ていないなら一人ぐらい気に掛けている奴がいてもいいだろと思った。

だから、あの尋常じゃない力がもし、また暴走すれば次は無い。俺はコールにそうなった時の一番の許可を貰った。

 せめて、何かあれば必ず俺の手で。 
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