社会人が異世界人を拾いました

かぷか

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番外編

7 クラムという男 ④

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「では、ビタさんの好きな場所を案内していただけたので今度は私が案内いたします」
「はい、お願いします」

 クラムは歩幅を合わせ案内する場所はフィグもやまとも見慣れた場所だった。こちらですと言い手を添えた先はフィグの仕事部屋だった。

「こちらは王の仕事部屋なので入らせる訳にはいきませんが通るだけなら大丈夫です」
「はい、ありがとうございます」

 やまとは身を乗り出そうとしたがフィグが止めた。

「こんな所でしょうか、私のお付き合いはいかがでしたか?」
「時間があっという間でした。仕事熱心な素敵な方だと思いました」

「そうですか、こちらこそお付き合いありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」

 お互いお礼を言ってその場を後にした。クラム的には完璧なお付き合いのようだったが皆はため息をついた。

「クラムどうだった?」

「はい、たまにはこういうのも悪くないですね。建物の破損箇所の疑いがあるのが発見できました」

「そうじゃないクラム、ビタについてだ」

「ビタさんですか?普通の方だと思いましたが」

「クラムさん!ビタさんはお茶も用意してくれたし、自分の好きな場所まで教えてくれたんだよ!」

「はい、ですから私も好きな場所を案内いたしました。お茶は気を使っていただいてありがたかったです」

「普通は、クラムさんにフラれて行けなくなるかもしれないから無難な場所を案内するのに!」

「そうですか、もし上手くいかなくても私がその場所に行かなければビタさんは使用できるので良いかと」

 なかなかクラムが相手の気持ちに寄り添わない事にやまとは納得いかなかったが松が間に入り事を進めた。

「河口君、クラムさんも仕事部屋が好きなのは事実なんだしあれはあれでね。クラムさん、ビタさんを好きになる要素はありましたか?」

「要素ですか?」

 松君さんが難しい事を仰った。
 好きになる要素は誰にでもあるんではないですかね?

「ビタさんだけでなく誰にでもあります」

「なら、良かったです。時間がかかると思いますが好きにはなれそうなんですね」

「条件にあえばですね」

 三人はため息をついたが松は違った。その夜松はやまとの部屋に行き自分の意見を皆に話した。

 松曰くクラムにそのうち好きな人が出てくると言うのだ。やまとは不思議でならなかったが少し見守る必要があると言った。そして誰でもいいから条件が合えば大丈夫ではないかと。

 ただ、条件ではなく自分が動かされる事が大事だと言った。

 難しい松の発言に理解が追い付かずとりあえずフィグと見守る事にした。

 それから暫くして進展する出来事があった。
廊下を歩きながら二人で会話をする。

「フィグ~俺バイトしよっかな~」

「ばいと」 

「仕事だよ、お金自由に使えるしさ~」

「必要無い」

「そうなんだけど、この間食堂へ行ってさ、飲み物買えなかったからさ。一人の時とかちょっと気分転換にさ~お店とかも見て何か買いたいなって。だから食堂でご飯よそう仕事とか」

「却下だ。仕事もお金も必要ない。何か欲しければクラムに頼めばもらえる」

「え、食堂は無理でしょ?」

「食堂がいいのか?俺もお金は持っていない」

 確かにどこの国でも王がお金を持っているとは聞いたことないとやまとは思った。という事は買い物等もしたことがないのではと思った。

「買い物はある」

「あるんかい!」

「小さい時なら。まだナグマの王になるまでは普通の生活をしていたからな。ただ回数は数えるほどしかない」

 やまとと買い物に行くときは必ずフィグは行くと行っていた気がするのは買い物も珍しかったからかもしれないと思った。そこで、やまとはナグマの城から出てフィグとお店に行く許可を得ようとしたが駄目だった。何故ならやまととフィグが城から出て行ったら大混乱は間違いなく危険も多いからだとクラムが言った。フィグもその意見には賛成でやまとを危険にさらすわけにはいかないといい話しは流れてしまった。

 前回の食堂騒ぎもクラムの耳に入ってしまったため、諦めるしかなかったがいつか行けたらいいなとやまとは思っていた。

 城内でしか生活できないやまととフィグは一緒なら殆どの場所は行っても良いと許可を貰えている。

 なのでやまとは前回飲めなかった有料のジュースを飲みにフィグと食堂に来ていた。二人ともお金が無いのでクラムにお願いしてお小遣いをもらった。

 パネルに皆が手をかざしていた。

「へー!こうやって買うんだ。フィグ知ってた?」

「いや」

 やまとも同じようにかざす。

「何で出てこないの?」

「魔法ででるからですよ」

「じゃあ、俺、お金もらっても一生飲めない」

「俺がいる」

 フィグは手をかざすとジュースをだしてくれた。(因みに前回のお水はわき水的なものがあるのでやまとでも飲めます)

 丁度そこにビタが食事をしに来ていた。

 やまとがコップを持ったまま手を振るとコップに手が当たり服に盛大にかかってしまった。

「ごめんなさい!」

「やまと、大丈夫だ」

 やまとは服をこれ以上汚すまいと必死にどんどん脱いでいった。下着まで滲みるかもとベルトを外しズボンを脱ごうとしてフィグが止めた。

フィグはすぐに自分の上着を脱いでやまとをくるんだ。

「フィグの服が!」
「別にいい。それより脱がなくていい。すぐ着替えを」
「でも、俺が溢したから拭かないと!」
「クラム、頼んだ」

「はい、勿論です。気になさらず」

 やまとはビタと護衛にごめんなさいと言って手を合わせてしょんぼりしながら担がれていった。

 ビタは護衛と共に後片付けをした。

「ビタさん、我々がしますから大丈夫ですよ。大事な休憩がなくなります」

「いえ。それよりやまと様は気にされてるようなのでまたご一緒できたらいいですねと伝えてもらえますか?あ、えっとおこがましいのはわかってます。そう言う意味ではなくて、本当にとは思ってませんから」

「きっとやまとさんは喜びますから伝えておきますね」

「はい、」

 この時クラムはやまとが脱ごうとしても全く反応しなかった所か気を使ってくれたビタに好感触を持ったのだ。そしてビタをよくみると意外と鎖骨が綺麗だなと思った。

 掃除を終えそそくさと自分の部屋に帰ったクラムはお見合い候補の資料を見ると落とされた中にビタの名前があった。

「ビタさんの仕事は服飾や防具のお直し専門ですか。年は私より一個上。仕事も勤勉。これといって特色は無いですね。前回私はなぜビタさんにこれを聞かなかったのでしょうか…」

 自分の条件は真面目でやまとの裸を見ても動じず王の圧力に耐えれる屈強な精神の持ち主。既に真面目とやまとの二つはクリアしていた。ただ、側近希望でもないしどちらかと言えば地味な職業で面接では確かに落ちやすいなと納得した。条件ばかり考えていて相手がどんな人柄が見ていなかったなと気が付いた。

また、フィグとやまとは常に些細な事でも会話をしていると思った。あの無口で無愛想なフィグがあんなに話すのはやまとのおかげ意外なかった。
いろいろ考えた末、少し会話をしてみようと決めた。

 もう一度食堂へ行くとビタが食堂の端で男と話していた。ビタの肩や腕に触り男は馴れ馴れしく会話していた。触られたビタは焦って困っている様子だった。何事かと思い近づこうとしたらこちらに気が付く事なくビタは手を引っ張られて行ってしまった。

 それを見たクラムは急いで走って行った。

 ドン!!

「王!ビタさんが男性と話しています!」

「それがなんだ」

 急にノックもなく業務以外でそんな事を言われフィグはあしらった。しかし、クラムは相手が誰か気になるようで背丈や年齢、服装までフィグに報告した。

「誰でしょう?」

「知らん、自分で聞いてこい」

「ビタさんが困っているようでした」

「それがなんだ」

「気になりませんか?」

「ならん」

「なぜですか?」

「誰でもいいからだ」

「王は血も涙も無いんですか!」

「何でそうなる。俺は興味がない。ビタが誰といようが何をしようが好きにすればいい」

 やまとは話しかけようとしたがフィグが手で止めた。

「王はやまとさんが同じような事が起きたら怒ってすぐ会いに行くではないですか!」

「当たり前だ。俺はやまとを愛してるからそんな奴がいたら許さん。それよりいいのか、ビタに会いに行かなくて。困っていたんだろ?こんな事をしてる暇に約束でも取り付けて他の奴と付き合ってるかもしれんな」

「王、やまとさん、急用で失礼します!」

 クラムは午後の仕事を投げ出して走っていった。半開きになったドアをやまとが閉めに行き、廊下をチラリと覗くとダッシュで廊下を去るクラムの姿が遠くに見えた。

 パタンとドアを閉める。

「フィグ、意外と意地悪だね」
「クラムにはこれぐらい焚き付ける必要がある」

「上手くいくといいね」
「ああ」

…………………………

 走って食堂に行くもビタは戻ってきていなかった。周りに聞くもわからないと言われ焦せるクラム。ではと思いあのベンチの場所へ行ってもビタの姿は何処にも無かった。

 何とも言えない不安が自分の中に居座り煽る。

 仕事に戻っているかもとビタの職場に駆け足で行き責任者を呼んでもらった。クラムの焦りに何事かと思い責任者はビタをすぐに呼びつけた。ビタが仕事の手を止め小走りに走って来る。その姿を見たクラムはすぐに駆け寄り喋りだした。

「び、ビタさん。はぁ、はぁ、」

「は、はい!あ、あの、いかがなされたんですか!?」

「はぁ…はぁ、男性、誰ですか?はぁ、はぁ、なんで、話したんで…っ…すか?」

「?」

 身に覚えがなくひたすら考えていたが食堂での出来事かと思いクラムに話す。

「えっと、この方の事ですか?」

 ビタが手を添えその隣を見るとフィグに説明した男そのものだった。良くみればさっきの馴れ馴れしい男がいて焦ったクラムはわけがわからなくなっていた。

「随分お困りのようでした。もしや、彼に無理やり誘われたり何かされたんですか?」

「あ、ち、違います!あの、仕事が急に入ったから休憩中に呼び出されただけです」

「クラム様、私ただの上司で既婚者です」

 隣の上司からそれを聞くと我に帰った。襟を正しいつものクラムに戻る。

「そうですか…急な仕事とはなんですか?」

「はい、急ぎの防具のお直しです」

「上司、悪いですがその急ぎ代わって下さい。納期が遅れても構いません。クラムが責任を持ちます。後、ビタさんの休憩の続き少し頂きます」

「え!?はい、わかりました!」

 クラムはビタの手を引っ張りあの人気の無いベンチに行った。ビタは何事かと思いクラムに言われるままベンチに座る。そして、少し待ってて欲しいと言うとお茶を持ってきてくれた。

「すみません、いきなり」

「いえ…」

 ビタは汗が滲むクラムにハンカチを差し出した。クラムは自分も持っていて必要なかったがありがとうと言って使った。

 外は相変わらず吹雪いている。

 いざ、二人になると何を話していいか全くわからなかった。あれやこれや聞きたいことがいろいろあるも何も考えれなくてパニックだった。

 何も話さないクラムにビタはどうしていいかわからずただ時間が過ぎるのを待った。しかし、ビタには時間が限られていた。

「あ、あの…休憩が終わるのでこれで失礼します」

「待ってください!!」

思わず立ち去るビタの腕をとった。

「は、はい」

「ビタさん、私には婚姻の条件があります」

「はい」

「譲れない条件です」

「はい」

 ビタの顔色は変わらなかった。自分の気持ちに整理が付かず頭で考えるのをやめて自然と口からでる言葉に任せた。

「…いや、そうじゃないです」

「?」

「ビタさん、条件とかいいんです。そんなの良かったんです。ビタさん、私とお付き合いしてもらえませんか?」

「え、え、でも、」

「私をもう想ってはいないということですか?」

「いえ、あの、お見合いを保留にして改めて開くのでは?」

「すみません、順番がごちゃごちゃになってしまいました。私としたことがこんな気持ちは初めてでして」

「はい」

「ビタさんが気になってしまいました。お付き合いしてみたいです。どうか私と婚姻前提で付き合ってもらえませんか?」

「え?あ、えっと、は、はい。わ、私で良ければお願いします」

 クラムは肩に手を添えたがすぐに両手に変えた。手を握り「宜しくお願いします」と言うと一礼した。ビタも「宜しくお願いします」と受けたのだった。

 その後は二人して仕事を投げ出した事に気がつき走って仕事場に戻った。

…………………


「と、いうことで私とビタさんはお付き合いをするようになりました」

「良かった~!!」

「つきましては、ビタさんが他の男性に言い寄られないように三日後に婚姻の手続きを四日後に挨拶を五日後に婚姻の儀式を行います。今、計画表を組みますから空けておいてください」

「え!?」
「急すぎだ」

「まだ、お付き合いして1日もたってないのに!?」

「はい、ビタさんが誰かに言い寄られたらどうするのですか?」

「「……。」」

「クラム…俺がやまとと婚姻の時は3ヶ月も待てと言ったのに何を言ってる」

「王は王ですから。私とは違います」

「お前は暫く婚姻するな」
「王!!自分は隠れて口づけしてたじゃないですか!」

 プイッっとしたフィグは仕事を放棄してやまとを担いで逃げるように部屋を出た。後ろからクラムのフィグを呼ぶ声が聞こえた。

「フィグ、良かったね!」
「ああ、やっと肩の荷が降りた」

 やっぱりフィグも何だかんだ言ってクラムさんの事いつも気に掛けてたんだと思ったら嬉しくなるやまとだった。

 松君とソルトさんにも早く報告したいな!
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