上 下
9 / 9

8

しおりを挟む
3日目 放課後


「最悪……」


口をついて漏れたのはその一言だった

朝はまだ晴れていたのに夕方頃になって外はシトシトと雨が降っていた

……まだゆるいから行こうと思えば先輩の所へ行けるかもしれない


悩んでいると肩を叩かれた


「!?な、なに?」

「一ノ瀬さん、大丈夫?」

「神崎さん…」

「体調は平気そうだね。帰り、傘とか平気?」

「あー……無いけど行けると思う」


私の言葉に神崎さんは苦笑いすると、カバンから二本の折りたたみ傘を出してくれた


「片方貸してあげる」

「え、いいの?」

「私は好きな人と相合い傘するからいいの」

「ありがとう…」

「じゃあ、気をつけて帰ってね」


そう言って神崎さんは廊下へ走っていった


「神崎さん…好きな人いたんだ……」


あまり人と関わらない神崎ほろびさん。
私とは日直が被るから喋ったりするけど……

好きな人の話……いつかできるといいな


そう思いながら、私も先輩の所へと向かうことにした









✗✗✗✗




校門の前についたが、先輩はまだのようだった
スマホがないから葵茨さんからの連絡も待てない


「……和紀」


ポツリと名前を呼んでみる
その声は雨の音で消し去られる

ぼんやりと道路を走る車を見る


雨の日は……を思い出してしまう










そう、あの日
あの日も今日と同じように雨が降っていた
幼い私は両親の喧嘩の声から逃げるように外に出て……公園の滑り台の下にあるドーム状の穴の中に隠れていた

そこで泣いていると、先輩が来てくれたんだ


「葉月、大丈夫?」

「うん……まだケンカの声、してる?」

「外からでも聞こえるくらいには」

「ならまだここいる」

「じゃあ俺も」


そう言って二人で遊具の中でお話をしていた

18時を告げるチャイムが鳴る
流石に帰らなくちゃ、と思って外に出たとき


そうあの時……


銀色に光る何かが……私を


ううん、先輩を



そしてあたりが赤く………

















「っ!!」


そこまで考えたところで吐きそうになり、しゃがみこむ

いや、もう終わったことだ
そう、終わったこと……


恐怖で体が震える
何年も昔の話なのに、まるで昨日のことのように思い出してしまう


「和紀……先輩……」


「葉月、来てたのか」


私の言葉に返事をした和紀先輩に私はびっくりして傘を落としかけてしまう


「せん、ぱい?」

「うん、昨日は来なかったけど……平気だった?」

「あ、えっと……」


なんて答えようか考えていると葵茨さんが私達の肩をつかむ


「まぁまぁ!お話は喫茶店とかでどう??僕おごるよー」

「葵茨のおごりならしかたねーなぁ」

「でしょでしょ??一ノ瀬ちゃんは?」

「あ、はい、いきます」


そういえば先輩って甘いものも好きだったよなぁ、なんて考えながら私は二人の後ろをついていった
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...