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第一章※本編

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ハシントと何度か話を重ねた。

「見世物は出来ん。」

「残念がってたけど想定内だよ。」

「話はなしか?」

「いや、まだ。」

「へえ。」

「ムスタファの条件のまま、ショーはなしで構わないそうだよ。」

「あ?」

「体の提供以外ならリトグリ公爵への仲立ち。」

首を振った。

俺に権限はない。

「残念ながら場を設ける力はない。」

「あれもダメこれもダメ。ふう。」

「悪いな。」

医術や薬の提供の方が出来ると伝えた。

「こっちにも医者はいるから必要ないよ。」

「だよな。」

色事の方が望みと言われて思案する。

「ケツを出すのは嫌だ。」

「趣味じゃないから大丈夫だよ。」

昔のハシントが好みらしい。

「僕も成長して男らしくなったからそんなに夜の相手はしないんだ。あ、色も好みがあるから手を出す心配はないよ。男色家だけど異人に対しての偏見もないし、子供に対しては健全な感覚の方たちだ。」

「そうか。」

「預けて悪くないとは思うよ。」

「ああ。だが、条件がな。」

色事で何か満足させろと。

「お前との絡みを見せるだけなら構わんが。」

「なら、それで話を勧めるよ。」

ふっと笑って手招きをされる。

「なんだ?」

対面のソファーから身を乗り出して顔を寄せる。 

ぐいっと襟首を掴んで引き寄せられて唇を舐められた。

「ん、んふ、あん、」

「ん、」

久々のハシントの唇は柔らかかった。

舌を出して隙間に差し込む。

しばらくそのまま。

目を見るととろんと惚けて頬が赤く染まっていた。

「久々にムスタファと出来るなら楽しみ。ん、ん。ふ、」

少し離した唇から小さく呟いている。

また押し付けて粘っこいキスを。

「ああ、悪くない。ん、」

ハシントはテーブルをよけて俺の膝にまたがった。

手を取られて股間へ。

固くなった竿を服の上から握る。

ぎゅっぎゅっと押さえつけると震わせて喜んだ。

「あとは、当日だな。」

「ああ、待ちきれない。ん、あん。」

「嫉妬深い旦那様はいいのか?」

「大旦那様には逆らえないよ。はは。」

どうやら身請けの金が足らずに大旦那が出したらしい。

条件としてハシントの所有権はあちらにあると。

「なるほど。」

「大旦那様も僕の客だったからね。ああ、もっとしてよ。ムスタファ。」

「今はダメだ。」

唇を舐める。
  
「意地悪、ああ、あん。好きぃ。あん、」

ぺちゃぺちゃとお互いの舌を舐めた。

「今日は旦那様がいないからさ、ちょっとくらい。」

ねだられたが断る。

価値があるなら出し惜しみする。

残念がってたが納得していた。

「またね、ムスタファ。」

「世話になる。」

そう言って店を出た。

少し気楽になれた。

宛のなかったあの子の行き先が固まりそうなこととハシントと久々に楽しめるのは嫌ではない。

ハシントが側にいるなら信用できる。

一度、ハシントを連れて役所に預けた子供と会わせた。

ひどい怪我に驚いて優しく声をかけて親切にしていた。

子供もなついて喜んでいたから、二人の相性も良さそうだった。

帰り際には客に乱暴にされて辛かったことがあるとポツリと呟き、悪くないようにすると約束してくれた。

以前の店でも新入りの面倒をよく見ていたので、あの年齢の扱いも上手い。

引き取り手のない子供だ。

これ以上の縁を探すことが難しいのも理解している。

体を張らねばどうにもできないことがモヤモヤしただけだった。

寮に戻ると客が来ていると言われて待合室に向かう。

誰か患者かと思った。

時折、こうして患者が訪ねてくる。

お礼だったり急患だったり。

「大所帯で来てるぞ。年寄りと子供だ。」

大所帯?

外にほろ馬車に乗って団体で来たそうだ

今まで関わった患者を思い浮かべて扉を開けた。

開けるといきなり顔を殴られた。

「あれ?腕が鈍ったか?」

頬と鼻を押さえてうずくまった。

こんなことをするのは一人だ。

涙目で見上げると領地にいるはずのドルが立っていた。

「い、てぇよ!」

殴り返すが、ぱしんと軽く下に弾かれて前のめりに倒れかける後頭部を殴られた

しかも足をかけられて転ばされた。

がらがらと部屋の椅子を倒して転がった。

「あーあ、腕が鈍ってる。」

「くそっ!なんでいるんだよ!」

倒れた椅子に体を乗せてどんっと床を殴った。

「鍛え直しだな。これならお前も勝てるぞ、マックス。」

「あ?マックス?」

部屋を見渡すと俺くらいデカイ男が立っていた。

ヘーゼルの瞳。

穏やかな笑みを浮かべてこちらを見てる。

「ムスタファ、久しぶりです。」

手を出すので掴んで立ち上がる。

「マックスか?本当に?」

「大きくなったでしょう?同じくらいですかね。」

「あはは!お前ら並べ、並べ!」

「はい!ムスタファ!早く!」

はしゃぐマックスに引っ張られた。

力も強くなっている。

本当に負けるかもしれん。

二人で背中を合わせてドルが見定める。

「まだムスタファがデカイな。少しだけだがな。」

「えー!まだ大きいんですかぁ?」

眉を下げてがっかりする。

「は、は!もうすぐだ。ムスタファはもう伸びん!」

「確かにさすがに伸びんなぁ。」

負けるのは癪だが仕方ない。

「追い越せますかね?」

ヘーゼルの瞳がキラキラしてる。

「かもな。」

「よし!やったー!」

デカイなりだが、まだ幼い。

昔のままだ。

「変わらないな。」

眩しくて目を細めて見つめると、二人とも満面の笑みで笑っていた。

どんと、腰の辺りに衝撃を感じて下を見るとローブを着た小柄な子がいた。

「あ?」

ドルとマックスを見るとニコニコ笑って黙っていた。

誰かわからん。

抱きつく子供のフードを下ろすと長い黒髪が落ちた。

「あ、」

緊張で声が震えた。

「まだ顔見ちゃダメだよ!だれかわかる?当てて!」

可愛らしい女の子の声。

「わかんない?ヒント!私はチョコレートが好きです!」

「お、お嬢様?」

ぱっと顔をあげて変わらない緑の宝石が輝いていた。

「あはは!わかった?びっくりしたぁ?あはは!やったぁ!」

はしゃぐお嬢様に驚いてると、笑顔のマックスのもとへ走って手をぱちんと合わせて跳び跳ねた。

「なぜ?お嬢様まで、なぜここへ?」

膝まずいてお嬢様の小さな手を優しく握る。

「びっくりした?」

「はい、とても。」

ニコニコ笑う顔を微笑み返した。

頬にキスを受ける。
 
「相変わらずですか?」

「うん!」

もう一度。

「お嬢様直属だけのご褒美だよ。」

ドルが笑っていた。
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