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2学期までの1週間
三話
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次の日、姫川は朝から風紀委員室を訪れた。
2学期は文化祭と体育祭があり、1年を通しても1番忙しい時期になる。
始業式が始まる前に、出来る準備はちょとでも進めておきたかった。
昨日は柏木の事を考えていて、あまり眠れなかった。
祭りで牧瀬を襲った男たちは、まず間違いなく柏木が用意したのだと確信できた。そして、あの柏木の口ぶりから、姫川は三田が風紀の予定を漏らしたのではないかと推測していた。勿論故意ではない。友達の多い三田が、風紀のメンバーと祭りに行くことが楽しみで特に悪気なく色々な人物に話したのだろうと思っていた。
それが回り回って柏木の耳に届いたか・・・
昨日の夜から考えている事が何度も何度も姫川の頭を回る。三田を利用し、男達に風紀のメンバーを襲わせた柏木を姫川は到底許すことなど出来なかった。それと同時に柏木の事を他の風紀委員に話すと思うと、途端に気が重くなった。
きっと三田は感じなくていい責任を感じるだろうな•••
柏木は以前こそ空気の読めない馬鹿でおかしな男だったが、最近は姫川の前でだけその仮面を脱ぐようになっていた。その事がより姫川を嫌な気持ちにさせた。
風紀委員室に着くと、鍵をあけてゆっくりと扉を開いた。
夏の終わりも近いからか、部屋に入るとヒヤッと冷たい空気を感じる。その空気を感じたからか、睡眠不足のボーッとした頭が少しずつ冴えていく感覚がした。
1人だとやけに広く感じる風紀委員室の1番奥に姫川の席はある。そこにゆっくり腰を下ろすと姫川は深い溜息を吐いた。
今日は佐々木に柏木の事を聞こうと思っていた。昨日した会話も佐々木の耳に入れておくべきだとも思っていた。
姫川はそんなことを思いながら、目の前のパソコンを立ち上げていると、不意に風紀委員室のドアが開いた。
姫川自身、朝早くから此処に来ている自覚はあったし、他のメンバーが来るには早すぎる気がした。
少し警戒心を抱いて、姫川は扉を見る。
「失礼します。」
硬い声と共に男が1人風紀委員室に入ってきた。
その男は姫川を見るなり興奮したように近寄ってきた。
「姫川先輩!帰って来られてたんですね。僕はずっと先輩に憧れてました。いつも冷静で落ち着いていて、生徒たちの不正を絶対に見逃さない。そんな無慈悲な態度が僕は堪らなく好きなんです。うわっこれからずっと一緒にいられるなんて、正に感動です。」
硬そうな黒髪をかっちり七三分けにして、丸メガネをかけた絵に描いたように真面目な生徒が姫川を見てうっとりしていた。
「お前誰だ?」
姫川の声を聞いて、その男が目を輝かせる。
「近くで聞くと低くていい声ですね。下半身にきます。」
その言葉に姫川の表情が強張る。
カシャっ
その瞬間、その男が持つスマホから音がした。写真を撮られたと気づいて目を見開く。
カシャカシャ
姫川が表情を変えるたびにシャッター音が室内に響く。
「おい、部屋から放り出すぞ。早く要件を言え。」
若干の恐怖を感じながら、しかしそれを悟られないよう言えば、目の前の男が綺麗な姿勢で頭を下げた。
「自己紹介が遅れました。僕は清木正と言います。1学期のテストで学年順位が2位だったため、研修として2学期から風紀委員でお世話になることになりました。」
清木と名乗ったその男は、頭を上げると姫川の顔を真っ直ぐに見ていた。
2学期は文化祭と体育祭があり、1年を通しても1番忙しい時期になる。
始業式が始まる前に、出来る準備はちょとでも進めておきたかった。
昨日は柏木の事を考えていて、あまり眠れなかった。
祭りで牧瀬を襲った男たちは、まず間違いなく柏木が用意したのだと確信できた。そして、あの柏木の口ぶりから、姫川は三田が風紀の予定を漏らしたのではないかと推測していた。勿論故意ではない。友達の多い三田が、風紀のメンバーと祭りに行くことが楽しみで特に悪気なく色々な人物に話したのだろうと思っていた。
それが回り回って柏木の耳に届いたか・・・
昨日の夜から考えている事が何度も何度も姫川の頭を回る。三田を利用し、男達に風紀のメンバーを襲わせた柏木を姫川は到底許すことなど出来なかった。それと同時に柏木の事を他の風紀委員に話すと思うと、途端に気が重くなった。
きっと三田は感じなくていい責任を感じるだろうな•••
柏木は以前こそ空気の読めない馬鹿でおかしな男だったが、最近は姫川の前でだけその仮面を脱ぐようになっていた。その事がより姫川を嫌な気持ちにさせた。
風紀委員室に着くと、鍵をあけてゆっくりと扉を開いた。
夏の終わりも近いからか、部屋に入るとヒヤッと冷たい空気を感じる。その空気を感じたからか、睡眠不足のボーッとした頭が少しずつ冴えていく感覚がした。
1人だとやけに広く感じる風紀委員室の1番奥に姫川の席はある。そこにゆっくり腰を下ろすと姫川は深い溜息を吐いた。
今日は佐々木に柏木の事を聞こうと思っていた。昨日した会話も佐々木の耳に入れておくべきだとも思っていた。
姫川はそんなことを思いながら、目の前のパソコンを立ち上げていると、不意に風紀委員室のドアが開いた。
姫川自身、朝早くから此処に来ている自覚はあったし、他のメンバーが来るには早すぎる気がした。
少し警戒心を抱いて、姫川は扉を見る。
「失礼します。」
硬い声と共に男が1人風紀委員室に入ってきた。
その男は姫川を見るなり興奮したように近寄ってきた。
「姫川先輩!帰って来られてたんですね。僕はずっと先輩に憧れてました。いつも冷静で落ち着いていて、生徒たちの不正を絶対に見逃さない。そんな無慈悲な態度が僕は堪らなく好きなんです。うわっこれからずっと一緒にいられるなんて、正に感動です。」
硬そうな黒髪をかっちり七三分けにして、丸メガネをかけた絵に描いたように真面目な生徒が姫川を見てうっとりしていた。
「お前誰だ?」
姫川の声を聞いて、その男が目を輝かせる。
「近くで聞くと低くていい声ですね。下半身にきます。」
その言葉に姫川の表情が強張る。
カシャっ
その瞬間、その男が持つスマホから音がした。写真を撮られたと気づいて目を見開く。
カシャカシャ
姫川が表情を変えるたびにシャッター音が室内に響く。
「おい、部屋から放り出すぞ。早く要件を言え。」
若干の恐怖を感じながら、しかしそれを悟られないよう言えば、目の前の男が綺麗な姿勢で頭を下げた。
「自己紹介が遅れました。僕は清木正と言います。1学期のテストで学年順位が2位だったため、研修として2学期から風紀委員でお世話になることになりました。」
清木と名乗ったその男は、頭を上げると姫川の顔を真っ直ぐに見ていた。
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