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第六章
危険な夜の散歩 (1)
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闘技場での試験を終え、アレフはリィンが運ばれた保健室に向かっていた。
道中、アレフは試合後に上級生たちから称賛されたことを思い返していた。
「一年生なのに、良く立ち向かった」とか、「木剣を飛ばされても、よく諦めなかった」などと言われては、アレフも嬉しさがこみ上げていた。
ワッカも試合に負けたのにも関わらず、アレフの元に駆け寄り褒めてくれたのは、何よりも嬉しいことだった。
アレフは上機嫌で保健室へ向かうと、保健室の方から、三人の黒いマントを羽織った生徒とすれ違った。
黒いマントを羽織った三人の生徒のうち、金髪の生徒がすれ違いざまに「ざまあみろ」と呟いていたことに、アレフは思わず耳を疑った。
アレフは立ち止まり、通り過ぎた生徒たちを見るが、特に何事もなかったように、講堂の方へ歩いて行った。
不思議に思ったアレフだったが、それよりも、試合で勝ったことをリィンに伝えたかった。
アレフが保健室に入ると、一つのベッドに対して、四、五人の医師とリーフが囲っていた。
アレフはすぐに、中心にいる人物がリィンだと察した。
駆け足でアレフが傍まで寄るとリーフに引き留められる。
「アレフ、見ない方がいい」
「先生。どうしたんですか?」
「呪いが、解けないんだ」
リーフが頭を抱えながら話した。
アレフはどういうことなのか理解ができず、リーフの背後にいるリィンの姿を覗き込んだ。
リィンの全身は青色になっていた。
比喩ではなく、青色の絵の具で塗りつぶしたような色になっていた。
アレフは目の前の惨劇に呼吸を忘れる。
「先生。リィンは」
「文字通りの青皮膚の呪いさ。水を司るアーティファクトに時々付与されている呪いでね。アーティファクトから遠ざければ消えるはずなんだが……」
リーフは悲しそうにリィンを見つめた。
「見ての通り、アーティファクトを遠ざけても呪いは消えない。何者かが故意に付与させたに違いない」
「故意にって……」
アレフはふと、先ほどすれ違った黒のマントの生徒たちを思い出した。
「ざまあみろ」と金髪の生徒が言った言葉が、今のリィンの姿に対して言っていたのかと考えてしまう。
「呪いを付与できるとなると、生徒の中にはいないだろう。考えられるとしたら……」
リーフが思い詰めた顔をしてはリィンを見ていた。
アレフの的中は外れていたようで、少なくとも、すれ違った彼らではない。
アレフは心配そうにリィンを見ていたが、リグルスニーからお使いを頼まれていたことを思い出した。
「リーフ先生。皇帝のアーティファクトを解いても大丈夫とのことです」
「ん。ああ、分かった」
リーフがポケットにしまっていた皇帝のアーティファクトを取り出すと、先ほどと同じように口元にアーティファクトを持っていった。
リーフが「〝レヴァリ(解除)〟」と唱えると、それをポケットにしまった。
一連の動きを見てアレフは疑問を口にした。
「リーフ先生。皇帝のアーティファクトを使っていたのに、リィンは呪いにかかったんですか?」
アレフの疑問にリーフは少し考えたあと答えた。
「皇帝のアーティファクトで言った内容はあくまで外的要因を排除くらいで、心の病とか、呪いとかは守るようにしてなかった。だから、リィンは今も苦しんでいるんだ」
アレフはリィンの痛々しい姿に、自分にも何かできないか考えていた。
アレフたちが見守っていると、リィンが口を開いた。
「アレフ……。試合は終わったのカ……」
「リィン」
苦しそうに唸り声を上げながらも、リィンは少しだけ笑って見せた。
その姿を見たアレフは応えるように悲しい笑顔を見せた。
「試合は……。勝ったカ……?」
「勝ったよ。頭の上から剣を振り下ろされるから、怖かったけどね」
アレフは恥ずかしそうに苦笑いをした。それに釣られて、リィンも口角を上げた。
「今は安静にして。リィン」
「……そうするヨ」
アレフは苦しそうに息をするリィンを、ただただ見守ることしかできなかった。
アレフは何も出来ない自分の不甲斐なさに心底腹が立っていた。
「先生。この呪いってどうやって解くんですか?」
「術者に解かせるか。呪いを解く薬か護符を……、ってアレフ、君は何も出来ないよ」
「でも」
アレフの強い口調に、リーフは心境を悟ったのか、諭すように話した。
そんなアレフの沸騰した頭に、誰かが手を置いた。
「決して死ぬ呪いではない。今はロストフォレストにて、グレイアロウズ先生、ベレー先生、ケテル先生の三人が薬を探しておる。お前さんが動かなくても大丈夫じゃ」
「ローレンス学院長」
アレフの頭を撫でながらローレンスが答えた。
落ち込むアレフに、ローレンスはウィンクをして見せた。
「大丈夫。我々騎士たちを侮るでない」
アレフは晩ご飯を済ませるために講堂まで来ていた。
エトナ、マーガレットと共に席に座ったがその場はとても静かだった。
いつも楽しげに話すリィンがいないことに、全員が違和感を抱いていた。
暗い雰囲気の中、進まない食事を取っていると、対面の席から、せせら笑う声が聞こえた。
アレフが笑い声の方を見ると、先ほど保健室前の廊下ですれ違った三人だった。
三人のうちの真ん中に座る金髪の少年が、アレフに聞こえるくらいの声量で、他の黒の寮の生徒に話していた。
「でさ、顔が青くって、化け物みたいでそれはそれは滑稽でさ。あんだけ偉そうなこと言っといて、今見たら弱弱しいのなんの」
金髪の少年の言葉と、周囲の生徒の笑い声。
アレフの我慢はとうに限界を超えていた。
アレフは勢い良く、テーブルの上に飛び乗ると、テーブルの上の食べ物には目もくれず、一目散に金髪の少年に向かって走っては、サッカーボールを蹴る要領で、思いっきり顔面を蹴っ飛ばした。
蹴られた少年は椅子から吹っ飛ばされ、状況を読み込めないまま、痛そうに蹴られた鼻を抑えていた。
思わぬ出来事に、講堂内が静まり返った。
だが、そんなこともお構いなしに、アレフは蹴り飛ばした少年に馬乗りになった。
「なんだよ! こいつ!」
少年が声を荒げるが、アレフは聞く耳を持たなかった。
「ああ。あの青い奴の友達か? 何ムキになってんだ?」
蹴られたにもかかわらず、少年はアレフを煽るように笑って見せた。
その態度にアレフは胸ぐらをつかみ、少年の体を強く揺さぶった。
「リィンに何をした!」
アレフの顔には表情がなかった。
エトナは今まで見たことがないアレフの激昂姿に、かける言葉が見当たらずアレフから顔を逸らした。
「何やってんだ! お前たち!」
アレフと少年を引き離すように、アレフはその場にいたガイアが羽交い絞めをされた。
「お前、リィンに何をした!」
「何もしてない! あのバカが、俺に楯突いたから、罰が当たったんだ!」
少年は主張するように大声で声を張った。
「いいか? お前! ただじゃ済まないぞ。四大貴族のオズボーン家の人間に手を出したんだからな!」
少年は立ち上がり乱れた服装を正すと、二人の取り巻きを従えて、鼻を押さえながらそそくさと講堂を後にした。
それを追おうと、アレフはガイアの羽交い絞めを振りほどこうとするが、さすがに敵わなかった。
「アレフ。お前何やってんだ」
「あいつらがリィンに呪いをかけたんだ」
悲しそうにするアレフに、ガイアは羽交い絞めを外し正面に向き直った。
「先生たちがいなくてよかったよ。談話室で話を聞こう」
ガイアはアレフの背中を支えながら、赤の寮へと連れて行った。
講堂での騒動の後、赤の寮の談話室には講堂での出来事を見ていた、赤の寮の生徒が揃っていた。
「それで、あいつらが呪いを掛けたって本当か?」
ガイアがアレフに尋ねた。
「リーフ先生が言うには、生徒が呪いを掛けるのは無理だって言ってた。だけど、保健室前の廊下ですれ違ったとき、ざまあみろって言ってたんだ。彼らがリィンの呪いのことを知るには早すぎる。事前に呪いがかかるって知っていたんだ」
「だから、彼らが呪いを掛けたと思ったのか?」
ガイアの質問にアレフはこくりと頷く。
その返事にガイアは腕を組んで少し考える。
「呪いを掛けることが出来るのは成人した者だけだ。リーフ先生の言う通り、生徒の中にはいないのは本当だ。呪いの代償は、成人した人の血と契約だからだ」
真面目に答えるガイアに、アレフは黙って聞いていた。
「だから、彼らが呪いを掛けたわけではない。それは俺が保証する」
「じゃあ、誰が呪いを掛けたんです?」
マーガレットの質問に、ガイアは「大人だろうな」としか答えなかった。
だが、何を思ったのか、エトナが「あ」と声を上げた。
「な、なんだよ」
「ジグルド・グレイアロウズ」
「グレイアロウズ先生? なんで?」
談話室が少し騒めくが、ワッカとワットが同時に指を鳴らした。
「黒の寮の寮監!」
同じ回答をしたワッカとワットは、揃ってハイタッチをしていた。
「寮監だったら、生徒のために呪いをするって? そんなことをするとは思えないが……」
ガイアは否定的であるが、他の生徒たちは、「あいつ、俺たちには厳しくするからなぁ」と反応をした。
「でも、やってもおかしくはないと思う。頼んでいるのは四大貴族の子だ。それに……」
アレフはエトナをちらりと横目で見た。
エトナは拳を震わせては唇を噛み締めていた。
「私への当てつけ、だから……」
「実は、エトナはあいつらに悪口を言われていて、その時にかばったのがリィンだったの。親の威を借りてるだけの臆病者がって、言い返してくれたの」
「いつさ?」
「あなたが学院案内で倒れたときよ」
エトナを支えるように、マーガレットはエトナの言葉に後付けした。
ガイアは何かを思い出したようにエトナに気を使った。
「エトナ。悪いのはあいつらさ。君が気を背負うことはない」
「そうだそうだ」
ワッカとワットが賛同する。
アレフはそうやってエトナを励ます生徒たちを見て、胸を撫でおろしていると、アレフは一つ気づいたことがあった。
それは今回、リィンの呪いを外すためにケテルとベレー、それにグレイアロウズの三人がロストフォレストへ出かけたことだった。
呪いを掛けた本人のグレイアロウズが、簡単に薬を持って帰ってくるとは思えない。
下手をすれば何日もの間、リィンが苦しんでしまうかもしれない。
そう考えたアレフは、ガイアにそのことを打ち明けた。
「ガイア。今薬を取りに行っているのは、ケテル先生とベレー先生、そしてグレイアロウズです。もしかしたら……」
「考えすぎだ。ケテル先生やベレー先生がいる。二対一だ、何も出来ずに帰ってくるさ」
ガイアはそのように言うが、アレフの心に何か引っかかるものがあり、落ち着いてはいられなかった。
道中、アレフは試合後に上級生たちから称賛されたことを思い返していた。
「一年生なのに、良く立ち向かった」とか、「木剣を飛ばされても、よく諦めなかった」などと言われては、アレフも嬉しさがこみ上げていた。
ワッカも試合に負けたのにも関わらず、アレフの元に駆け寄り褒めてくれたのは、何よりも嬉しいことだった。
アレフは上機嫌で保健室へ向かうと、保健室の方から、三人の黒いマントを羽織った生徒とすれ違った。
黒いマントを羽織った三人の生徒のうち、金髪の生徒がすれ違いざまに「ざまあみろ」と呟いていたことに、アレフは思わず耳を疑った。
アレフは立ち止まり、通り過ぎた生徒たちを見るが、特に何事もなかったように、講堂の方へ歩いて行った。
不思議に思ったアレフだったが、それよりも、試合で勝ったことをリィンに伝えたかった。
アレフが保健室に入ると、一つのベッドに対して、四、五人の医師とリーフが囲っていた。
アレフはすぐに、中心にいる人物がリィンだと察した。
駆け足でアレフが傍まで寄るとリーフに引き留められる。
「アレフ、見ない方がいい」
「先生。どうしたんですか?」
「呪いが、解けないんだ」
リーフが頭を抱えながら話した。
アレフはどういうことなのか理解ができず、リーフの背後にいるリィンの姿を覗き込んだ。
リィンの全身は青色になっていた。
比喩ではなく、青色の絵の具で塗りつぶしたような色になっていた。
アレフは目の前の惨劇に呼吸を忘れる。
「先生。リィンは」
「文字通りの青皮膚の呪いさ。水を司るアーティファクトに時々付与されている呪いでね。アーティファクトから遠ざければ消えるはずなんだが……」
リーフは悲しそうにリィンを見つめた。
「見ての通り、アーティファクトを遠ざけても呪いは消えない。何者かが故意に付与させたに違いない」
「故意にって……」
アレフはふと、先ほどすれ違った黒のマントの生徒たちを思い出した。
「ざまあみろ」と金髪の生徒が言った言葉が、今のリィンの姿に対して言っていたのかと考えてしまう。
「呪いを付与できるとなると、生徒の中にはいないだろう。考えられるとしたら……」
リーフが思い詰めた顔をしてはリィンを見ていた。
アレフの的中は外れていたようで、少なくとも、すれ違った彼らではない。
アレフは心配そうにリィンを見ていたが、リグルスニーからお使いを頼まれていたことを思い出した。
「リーフ先生。皇帝のアーティファクトを解いても大丈夫とのことです」
「ん。ああ、分かった」
リーフがポケットにしまっていた皇帝のアーティファクトを取り出すと、先ほどと同じように口元にアーティファクトを持っていった。
リーフが「〝レヴァリ(解除)〟」と唱えると、それをポケットにしまった。
一連の動きを見てアレフは疑問を口にした。
「リーフ先生。皇帝のアーティファクトを使っていたのに、リィンは呪いにかかったんですか?」
アレフの疑問にリーフは少し考えたあと答えた。
「皇帝のアーティファクトで言った内容はあくまで外的要因を排除くらいで、心の病とか、呪いとかは守るようにしてなかった。だから、リィンは今も苦しんでいるんだ」
アレフはリィンの痛々しい姿に、自分にも何かできないか考えていた。
アレフたちが見守っていると、リィンが口を開いた。
「アレフ……。試合は終わったのカ……」
「リィン」
苦しそうに唸り声を上げながらも、リィンは少しだけ笑って見せた。
その姿を見たアレフは応えるように悲しい笑顔を見せた。
「試合は……。勝ったカ……?」
「勝ったよ。頭の上から剣を振り下ろされるから、怖かったけどね」
アレフは恥ずかしそうに苦笑いをした。それに釣られて、リィンも口角を上げた。
「今は安静にして。リィン」
「……そうするヨ」
アレフは苦しそうに息をするリィンを、ただただ見守ることしかできなかった。
アレフは何も出来ない自分の不甲斐なさに心底腹が立っていた。
「先生。この呪いってどうやって解くんですか?」
「術者に解かせるか。呪いを解く薬か護符を……、ってアレフ、君は何も出来ないよ」
「でも」
アレフの強い口調に、リーフは心境を悟ったのか、諭すように話した。
そんなアレフの沸騰した頭に、誰かが手を置いた。
「決して死ぬ呪いではない。今はロストフォレストにて、グレイアロウズ先生、ベレー先生、ケテル先生の三人が薬を探しておる。お前さんが動かなくても大丈夫じゃ」
「ローレンス学院長」
アレフの頭を撫でながらローレンスが答えた。
落ち込むアレフに、ローレンスはウィンクをして見せた。
「大丈夫。我々騎士たちを侮るでない」
アレフは晩ご飯を済ませるために講堂まで来ていた。
エトナ、マーガレットと共に席に座ったがその場はとても静かだった。
いつも楽しげに話すリィンがいないことに、全員が違和感を抱いていた。
暗い雰囲気の中、進まない食事を取っていると、対面の席から、せせら笑う声が聞こえた。
アレフが笑い声の方を見ると、先ほど保健室前の廊下ですれ違った三人だった。
三人のうちの真ん中に座る金髪の少年が、アレフに聞こえるくらいの声量で、他の黒の寮の生徒に話していた。
「でさ、顔が青くって、化け物みたいでそれはそれは滑稽でさ。あんだけ偉そうなこと言っといて、今見たら弱弱しいのなんの」
金髪の少年の言葉と、周囲の生徒の笑い声。
アレフの我慢はとうに限界を超えていた。
アレフは勢い良く、テーブルの上に飛び乗ると、テーブルの上の食べ物には目もくれず、一目散に金髪の少年に向かって走っては、サッカーボールを蹴る要領で、思いっきり顔面を蹴っ飛ばした。
蹴られた少年は椅子から吹っ飛ばされ、状況を読み込めないまま、痛そうに蹴られた鼻を抑えていた。
思わぬ出来事に、講堂内が静まり返った。
だが、そんなこともお構いなしに、アレフは蹴り飛ばした少年に馬乗りになった。
「なんだよ! こいつ!」
少年が声を荒げるが、アレフは聞く耳を持たなかった。
「ああ。あの青い奴の友達か? 何ムキになってんだ?」
蹴られたにもかかわらず、少年はアレフを煽るように笑って見せた。
その態度にアレフは胸ぐらをつかみ、少年の体を強く揺さぶった。
「リィンに何をした!」
アレフの顔には表情がなかった。
エトナは今まで見たことがないアレフの激昂姿に、かける言葉が見当たらずアレフから顔を逸らした。
「何やってんだ! お前たち!」
アレフと少年を引き離すように、アレフはその場にいたガイアが羽交い絞めをされた。
「お前、リィンに何をした!」
「何もしてない! あのバカが、俺に楯突いたから、罰が当たったんだ!」
少年は主張するように大声で声を張った。
「いいか? お前! ただじゃ済まないぞ。四大貴族のオズボーン家の人間に手を出したんだからな!」
少年は立ち上がり乱れた服装を正すと、二人の取り巻きを従えて、鼻を押さえながらそそくさと講堂を後にした。
それを追おうと、アレフはガイアの羽交い絞めを振りほどこうとするが、さすがに敵わなかった。
「アレフ。お前何やってんだ」
「あいつらがリィンに呪いをかけたんだ」
悲しそうにするアレフに、ガイアは羽交い絞めを外し正面に向き直った。
「先生たちがいなくてよかったよ。談話室で話を聞こう」
ガイアはアレフの背中を支えながら、赤の寮へと連れて行った。
講堂での騒動の後、赤の寮の談話室には講堂での出来事を見ていた、赤の寮の生徒が揃っていた。
「それで、あいつらが呪いを掛けたって本当か?」
ガイアがアレフに尋ねた。
「リーフ先生が言うには、生徒が呪いを掛けるのは無理だって言ってた。だけど、保健室前の廊下ですれ違ったとき、ざまあみろって言ってたんだ。彼らがリィンの呪いのことを知るには早すぎる。事前に呪いがかかるって知っていたんだ」
「だから、彼らが呪いを掛けたと思ったのか?」
ガイアの質問にアレフはこくりと頷く。
その返事にガイアは腕を組んで少し考える。
「呪いを掛けることが出来るのは成人した者だけだ。リーフ先生の言う通り、生徒の中にはいないのは本当だ。呪いの代償は、成人した人の血と契約だからだ」
真面目に答えるガイアに、アレフは黙って聞いていた。
「だから、彼らが呪いを掛けたわけではない。それは俺が保証する」
「じゃあ、誰が呪いを掛けたんです?」
マーガレットの質問に、ガイアは「大人だろうな」としか答えなかった。
だが、何を思ったのか、エトナが「あ」と声を上げた。
「な、なんだよ」
「ジグルド・グレイアロウズ」
「グレイアロウズ先生? なんで?」
談話室が少し騒めくが、ワッカとワットが同時に指を鳴らした。
「黒の寮の寮監!」
同じ回答をしたワッカとワットは、揃ってハイタッチをしていた。
「寮監だったら、生徒のために呪いをするって? そんなことをするとは思えないが……」
ガイアは否定的であるが、他の生徒たちは、「あいつ、俺たちには厳しくするからなぁ」と反応をした。
「でも、やってもおかしくはないと思う。頼んでいるのは四大貴族の子だ。それに……」
アレフはエトナをちらりと横目で見た。
エトナは拳を震わせては唇を噛み締めていた。
「私への当てつけ、だから……」
「実は、エトナはあいつらに悪口を言われていて、その時にかばったのがリィンだったの。親の威を借りてるだけの臆病者がって、言い返してくれたの」
「いつさ?」
「あなたが学院案内で倒れたときよ」
エトナを支えるように、マーガレットはエトナの言葉に後付けした。
ガイアは何かを思い出したようにエトナに気を使った。
「エトナ。悪いのはあいつらさ。君が気を背負うことはない」
「そうだそうだ」
ワッカとワットが賛同する。
アレフはそうやってエトナを励ます生徒たちを見て、胸を撫でおろしていると、アレフは一つ気づいたことがあった。
それは今回、リィンの呪いを外すためにケテルとベレー、それにグレイアロウズの三人がロストフォレストへ出かけたことだった。
呪いを掛けた本人のグレイアロウズが、簡単に薬を持って帰ってくるとは思えない。
下手をすれば何日もの間、リィンが苦しんでしまうかもしれない。
そう考えたアレフは、ガイアにそのことを打ち明けた。
「ガイア。今薬を取りに行っているのは、ケテル先生とベレー先生、そしてグレイアロウズです。もしかしたら……」
「考えすぎだ。ケテル先生やベレー先生がいる。二対一だ、何も出来ずに帰ってくるさ」
ガイアはそのように言うが、アレフの心に何か引っかかるものがあり、落ち着いてはいられなかった。
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