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22:嘘のかけら
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言えない事もあるし、伝えないといけない事もある、でも、時に嘘を付く事も愛情だって思ってほしい。
嘘のかけらを散りばめて私は彼氏である楓を優しい嘘で包み込む。
大好きで、大事で、それでいて将来を約束し合った存在の楓とはもう10年の付き合い。
お互いに若い頃からお付き合いをしていたけれど、途中で別れた事もある。
お互いが全てではない、それは大人になった今なら理解出来るし受け入れる事も出来る事だ。
私の嘘は楓には言えない事ではない、ただ、タイミングが取れないだけ。
でも、その時が来たら私はまた苦しむ事になるんだろうなと思う。
嘘のかけらに込められた静かな嘘、それが楓を苦しめる事や傷付ける事に繋がるのであれば、かけらを散りばめる必要はないのだと思うけれども、これも楓を大事に想っているから付く嘘であって。
「弥生、今日も行くの?」
「今日で終わりだから待ってて。22時までには帰るから」
「分かった……待っている……」
「行ってきます」
私は仕事をしている、楓には事務員と言っているが本当はホステスの仕事。
これが私の嘘であるけれども、きちんと理由はある。
楓の為に万年筆を買いたいのだがお値段的に普通に仕事をしているだけでは買う余裕は生まれない。
そこで一時的とは言え短時間でもいいのでホステスで稼いだお金で万年筆を買う予算まで貯めたのだ。
楓は今頑張って小説家になろうと色々と執筆しているアマチュア小説家。
応援したいのである私は。
大好きな彼氏の夢を応援したいと思うのは普通だと思うが、この嘘を知った時に楓は傷付くだろうな、とは薄々気付いているけれどそれでも私は万年筆を送りたかった。
彼の書く小説は本当に面白いし世界観が凄くて気付けば世界に飲み込まれている事がある作品だと思っている。
小説家として本を出版出来さえすれば、きっとファンが多く付く。
私はそう信じているし、きっと叶うとも思っているからホステスの仕事も頑張れた。
「ありがとうございました~……これで終わりっと」
「弥生さん、オーナーからお給料の受け渡しがありますのでオーナールームまでお願いします」
「はーい」
ボーイの人に言われてオーナールームに向かうと、中年の男性がスーツ姿で封筒を持って待っていた。
お給料を貰えば今日でこの仕事とはお別れである。
オーナーは私に封筒を差し出してニッコリと笑顔で社交辞令だろう言葉を述べる。
「今までご苦労様でした。また時間が合ったらお願いします」
「はい、こちらこそ短期ではありましたがありがとうございました。失礼します」
封筒を受け取り荷物を持ってお店を出ると急いで文具店に駆け込むと、狙っていた万年筆を買い込むとプレゼント用に包装してもらうと、それを大事に胸元に抱えて家路へつく。
家に帰ると楓が大量の原稿用紙をリビングで推敲している姿が目に入って私はそっと目の前に万年筆を置くと、カレンダーをチラ見して静かに告げる。
「お誕生日おめでとう楓」
「……覚えててくれたの?」
「大好きで大事な人の誕生日だもの、覚えているに決まっているじゃない」
「そっか……それは嬉しいな。でも本当にいいの?」
「いいよ。でも値段は聞かないでね」
万年筆を取り出した楓は驚きで目をパチパチさせている、それが見たいから買ったんじゃないけれど意外な反応ではあったので、私がそっと万年筆を手の平で握らせて囁く。
「楓の小説が認められる様に願って買ってきたの。どうか夢を諦めないで?」
「弥生……ありがとう」
「着替えてくるね。推敲頑張って」
「うん。食事も用意しとく」
「ありがとー」
私のサプライズプレゼントは大成功、でも嘘のかけらを回収する為にも楓にはこれから徐々に話をしていこうと思う。
本当に大事な人だからこれ以上の嘘を付くのは心苦しい。
私の嘘のかけらはどんな輝きを放ちながら楓を包み込んでいたのか、それはまだ私にも分からないのである。
嘘のかけらを散りばめて私は彼氏である楓を優しい嘘で包み込む。
大好きで、大事で、それでいて将来を約束し合った存在の楓とはもう10年の付き合い。
お互いに若い頃からお付き合いをしていたけれど、途中で別れた事もある。
お互いが全てではない、それは大人になった今なら理解出来るし受け入れる事も出来る事だ。
私の嘘は楓には言えない事ではない、ただ、タイミングが取れないだけ。
でも、その時が来たら私はまた苦しむ事になるんだろうなと思う。
嘘のかけらに込められた静かな嘘、それが楓を苦しめる事や傷付ける事に繋がるのであれば、かけらを散りばめる必要はないのだと思うけれども、これも楓を大事に想っているから付く嘘であって。
「弥生、今日も行くの?」
「今日で終わりだから待ってて。22時までには帰るから」
「分かった……待っている……」
「行ってきます」
私は仕事をしている、楓には事務員と言っているが本当はホステスの仕事。
これが私の嘘であるけれども、きちんと理由はある。
楓の為に万年筆を買いたいのだがお値段的に普通に仕事をしているだけでは買う余裕は生まれない。
そこで一時的とは言え短時間でもいいのでホステスで稼いだお金で万年筆を買う予算まで貯めたのだ。
楓は今頑張って小説家になろうと色々と執筆しているアマチュア小説家。
応援したいのである私は。
大好きな彼氏の夢を応援したいと思うのは普通だと思うが、この嘘を知った時に楓は傷付くだろうな、とは薄々気付いているけれどそれでも私は万年筆を送りたかった。
彼の書く小説は本当に面白いし世界観が凄くて気付けば世界に飲み込まれている事がある作品だと思っている。
小説家として本を出版出来さえすれば、きっとファンが多く付く。
私はそう信じているし、きっと叶うとも思っているからホステスの仕事も頑張れた。
「ありがとうございました~……これで終わりっと」
「弥生さん、オーナーからお給料の受け渡しがありますのでオーナールームまでお願いします」
「はーい」
ボーイの人に言われてオーナールームに向かうと、中年の男性がスーツ姿で封筒を持って待っていた。
お給料を貰えば今日でこの仕事とはお別れである。
オーナーは私に封筒を差し出してニッコリと笑顔で社交辞令だろう言葉を述べる。
「今までご苦労様でした。また時間が合ったらお願いします」
「はい、こちらこそ短期ではありましたがありがとうございました。失礼します」
封筒を受け取り荷物を持ってお店を出ると急いで文具店に駆け込むと、狙っていた万年筆を買い込むとプレゼント用に包装してもらうと、それを大事に胸元に抱えて家路へつく。
家に帰ると楓が大量の原稿用紙をリビングで推敲している姿が目に入って私はそっと目の前に万年筆を置くと、カレンダーをチラ見して静かに告げる。
「お誕生日おめでとう楓」
「……覚えててくれたの?」
「大好きで大事な人の誕生日だもの、覚えているに決まっているじゃない」
「そっか……それは嬉しいな。でも本当にいいの?」
「いいよ。でも値段は聞かないでね」
万年筆を取り出した楓は驚きで目をパチパチさせている、それが見たいから買ったんじゃないけれど意外な反応ではあったので、私がそっと万年筆を手の平で握らせて囁く。
「楓の小説が認められる様に願って買ってきたの。どうか夢を諦めないで?」
「弥生……ありがとう」
「着替えてくるね。推敲頑張って」
「うん。食事も用意しとく」
「ありがとー」
私のサプライズプレゼントは大成功、でも嘘のかけらを回収する為にも楓にはこれから徐々に話をしていこうと思う。
本当に大事な人だからこれ以上の嘘を付くのは心苦しい。
私の嘘のかけらはどんな輝きを放ちながら楓を包み込んでいたのか、それはまだ私にも分からないのである。
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