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23:降り注ぐ雨

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 いつからだろう……私の世界は常に降り注ぐ雨の光景が彩りを見せていて晴れ間なんて数年間も見てないのは。
 気付けば雨が私の世界を彩り、決して止む事のない世界として私を包み込む。
 雨はいつだって私の心を癒して、満たしてくれていた、優しい降り注ぐ雨。
 でも、いつからかこの雨が止む時は私の世界は崩壊していく……そんな恐れを抱くようになってしまった。
 自分でもどうしてそんな事になっているのかは不明で、気付けば本当に怖さを覚えていたのを思い出せる。
 自然と雨は私の世界には無くてはならない存在になっていた、まるでずっと共にこの世界を生きていく為の相棒のように。
 雨が降れば必ずあの人が傘を差して私を包み込んでくれるようになっていたから、雨が降ればあの人は必ず私を抱き締めてくれる、包み込んでくれる。
 私の心はずっと降り注ぐ雨で覆われている、それが嫌だとかは思わないし考えない。

「弥生」
「……楓」
「今日も雨かな?」
「止まないよ、止む事になるのは死ぬ時しかない」
「そんなに雨が好き?」
「えぇ、大好き。楓がこうして抱き締めてくれるから」
「それなら俺も雨が止まない事を願う」
「どうして?」
「弥生をこうして腕の中に閉じ込めてしまえるから」
「お互いに雨のお陰で傍に入れる、それはなんだか素敵な事ね」
「素敵だし、綺麗だなって思うよ」
「綺麗?」
「シトシト降る雨粒に飾られた弥生はとても綺麗で素敵さ」
「キザね……でも、そんな楓も私は好き」
「キザでもいいじゃないか。弥生の心も世界も雨に彩られているけれど、お互いの存在がこうもハッキリ感じ取れる事は大事だ」

 恋人の楓、彼は雨を嫌ったりしない。
 むしろこうして私を抱き締めれると言って喜んでくれる。
 私の大事な人である楓を包み込む雨だって大好きだ。
 それでも大事なのはこの雨が私の世界にだけ降るって事。
 私の視界にはいつだって雨粒に彩られた世界しかない。
 ……私が一年の間に起きてられるのが雨の季節である「梅雨」の間だけなのが仕方ない理由。
 私の病気は特殊で、雨の降らない時期には眠り続けてしまう事が確認されている奇病。
 雨が朝から降りしきるこの時期しか目覚めないと言う変わった奇病の持ち主である私を、楓は愛してくれた、それが奇跡だと誰でも言うだろう。
 ……私は楓を愛して後悔している、私に縛り付けていい人じゃないのに。

「楓」
「どうしたの?」
「別れてもいいんだよ」
「どうして?」
「こんな一年で一カ月弱しか会えない、話せない女なんてつまらないし、愛せないでしょ?」
「そんな事ないよ。知っている? 寝ている時の弥生は本当にお姫様なんだよ」
「お姫様?」
「眠れる森の美女って感じで、いつもその寝顔を見て安心している。あぁ、生きているって」
「……そんな事考えていたの?」
「うん、だって浮気の心配もないし、俺には勿体ない女性だよ弥生は」
「楓……私は、んんっ」
「少し黙って……愛しているよ弥生」

 唇を重ねられて触れ合う温もりに心が満たされていく。
 身体も心も楓に染め上げられていく、それが嫌じゃないし染めて欲しくて。
 本当はこの降り注ぐ雨には感謝しかない。
 彼を、楓を私に導いてくれるから。
 どうか止まないで、私の世界でずっと降り注いで。
 私の世界に降り注ぐ雨、それは運命を越えて二人の赤い糸をしっかり濡らして固めていく雨でもあっうた。
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