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12:線香花火

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「ねぇ楓、これしない?」
「……線香花火?」
「うん! たまたまコンビニで売られているの見付けてね。どう?」
「いいよ。それじゃベランダでしよ。水バケツ用意してくる」
「ありがとー」

 楓が水バケツを用意してくれている内にビールやつまみを乗せたミニテーブルをベランダに広げて配置してから、空を見上げる……星空が綺麗な夜だ。
 とてもじゃないけれど星は掴めないし捕まえる事も出来ない、でも、見上げる事は出来るから私は星空がとても好きである。
 ガラッと音がして振り向くと水バケツを持って楓がベランダに出て来ていた、私が受け取ろうとしたら手を出されて大丈夫だと言われてそのまま水バケツがテーブルから少し離れた位置に置かれる。
 私が風も無く灯りもないベランダでコケない様に注意しながら蝋燭の準備をする、楓が部屋の灯りをリモコンで消してくれたので完全にベランダには蝋燭の灯りしかない。
 お互いに寄り添って蝋燭傍にしゃがむと袋から線香花火を取り出す、楓にも袋を差し出すと楓も袋から線香花火を取り出して手に持った。

「それじゃやろー」
「落とさないようにね」
「うん。おーやっぱりこの時期の線香花火は風情がありますねー」
「無風で良かった。簡単に落ちちゃうとつまらないから」
「だね。なんか……思い出すね」
「うん?」
「楓と初めて出逢ったのは地元の小さなお祭りだったから、その時も線香花火をしたの覚えている?」
「……あぁ、あれね。でも、あれは……計画的な出逢いだったんだよ?」
「へっ?」
「弥生の事、本気で彼女にしたかったから友達に頼んで偶然の出逢いを演出してもらったんだ。でなかったらあんな気合い入れた浴衣なんて着ないよ」
「……あっ! 落ちちゃった……。やっぱり運命じゃないのか~」
「でも、初めて弥生を見たのは運命だと思っている」
「どんな運命?」
「赤い糸の運命」
「んっ」

 楓は水バケツに線香花火を入れて私の両頬を包み込み、そっと唇を重ねてきた。
 楓の事を誰よりも好きになったのはあのお祭りの日に2人だけでした線香花火。
 あの時の楓は本当にカッコいいと思わせてくれる程の横顔をしていたから、見惚れてしまったんだ。
 私の恋の始まりは「線香花火」であったのを楓が知るのは何時の事になるやら。
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