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11:愛せない

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 人は全ての人達が誰かを愛する事で歴史を紡いできた生き物だと思うだろう。
 でも、俺はその歴史に逆らう存在である……誰も愛せないのだ。
 愛おしいとか感じる事の出来ないこの心はまるで愛を知らない心のようで、物に対しての愛情も、誰かを想う愛情も、動物に対する愛情も、どれも感じない。
 一生誰も愛せないままで過ごして行き朽ちていくんだろう、そう考えて生きていた。
 その俺の心に衝撃を与えた存在、それが……弥生だった。
 最初は他の人と同じ存在で、愛なんて感じなかった。
 それが、気付いたら彼女の存在を愛おしいと思う様になっていて。
 自分に愛情がある、なんて思わなくて最初は戸惑いを覚えていたけれど、弥生がそっと俺の手を握りながら伝えてくれた言葉に心に愛が生まれた瞬間だと覚えている。

「楓の傍にいたい」
「弥生……」
「楓に愛情を捧げたいの。愛を知れば君がもっと変われると思う、その傍にいたい、いさせてほしいの」
「俺で、いいのか……? 愛を知らない俺で」
「愛をこれから知って行けばいい。2人で愛を学んでいきましょう?」

 弥生の言葉に俺は小さく頷いて彼女を抱き締める、その腕に包まれている小さな女性の身体を俺は「守りたい」と感じたのだった。
 それから恋人になった俺に弥生はひたすらに健気に愛情を注いでくれた。
 励ましてくれたり、献身的に支えてくれたり、時には叱ってくれたり。
 それが当たり前とは思わない俺に弥生は微笑みながらも寄り添ってくれている。
 愛を知らないに近かった俺に弥生が教えてくれた愛、それを大事にしたいなと思った俺は弥生にある物を贈ろうとショップでそれを買い込んだ。
 綺麗にラッピングされたその箱を持って俺は弥生の元に向かう。
 弥生の家に着くとチャイムを鳴らして来訪を伝えると、弥生は嬉しそうに微笑みながら玄関を開けてくれた。

「楓、なに持っているの?」
「これ弥生にプレゼント」
「私に? ありがとう! 開けてもいい?」
「もちろん」

 弥生が開けた箱に入っていたのはダイヤのネックレス、それを見た弥生は驚きながらも箱からネックレスを取り出すと手の上に置いて眺める。
 俺はそのネックレスを手に取り弥生の首に付けてそっと首筋に顔を埋めて抱き締める。

「楓……」
「好きだ。だからこれからも俺の隣にいて……俺に愛を教えて……」
「ずっと傍にいてもいいの? ずっと隣にいていい?」
「いいよ、っていうかいてくれないと辛い」
「ふふっ、それじゃ生涯掛けて君を支えていきます」
「ありがとう弥生……」

 重なる唇に感じるのは愛。
 愛せない男は愛する女に救われて愛を知ったのであった――――。
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