【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄

文字の大きさ
上 下
3 / 5

3.潮時

しおりを挟む
 掘り起こしてしまった、己の中の禁忌。
 オレは恐ろしかった。だからこの気持ちをなくそうとした。
 まあ、そうはいっても同じ家に住み、そこここに兄の気配がある。土台無理な話だと痛感し、せめて考えないようにするためにいっそう勉強に打ちこんだのだけれど……。
 結果はご覧の通り。オレの執着心が強いのか、はたまた距離が近すぎたのか……。年月を経ても慕情は消えてくれず。それどころか積み重なってゆき。
 気がつけばもう、今年で十年分くらいになるのか。

 なんでこんな想いを長く長く抱えることになってしまったのだろう……。兄が優しくて、格好いいのがいけないのだ。なんて責任転嫁か。
 一緒にテレビを見たりゲームをしたり、買い物をしたり……。勉強も教えてくれた。本の貸し借りもした。料理を作ってくれた。夢精で焦るオレに、真面目に性教育をしてくれた。
 出会わなければよかった、とは思いたくない。大切な記憶は、数えきれないほどあるのだ。兄と兄弟になれただけでも、オレは幸運だった。
 ……いつの日かは兄に。後ろめたい想いを抱かずに。真正面から顔を見て話せるようになれていたらいいけど。

 大学受験は第一志望に合格という嬉しい形で一段落し。オレはあと数日で県外へと引っ越す。別離が間近に迫る今が、兄への執着めいたそれを手放す絶好の機会、なのだろう。
 しかし今度こそ。オレはちゃんと諦めるよ、大丈夫……。などと殊勝に物わかりのいい言葉を心に浮かべてはみても。いっこうに行動に移せる気がしなかった。
 なにをすればいいのか。兄にもらった物を全て捨てる? いや、今後も家族として付き合っていくのだから困る。……本音は、思い出にとっておきたいだけ、だけど。あいだをとってあっちに着いたら、どこか目に触れない場所にしまっておこうか。
 あとできるのは。これからは極力兄のことを考えないようにして、自分から連絡をとらずにいる、くらいか……。

 そんなふうになるべく冷静を装いつらつら思考しつつも。
 だから、最後に……、なんて。相反する感情もまた、胸の奥底から芽生えてきてしまうのだった。
 そう、ありていに言ってしまえば。
 
 ――魔が、さしてしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話

雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。 樋口(27)サラリーマン。 神尾裕二(27)サラリーマン。 佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。 山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

【幼馴染DK】至って、普通。

りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

処理中です...